3話 クイーツ村へ 1
菜摘は両手で籠を抱え、クイーツ村に向かって歩き出した。
森の中ほどから少し歩くと、遠くの方まで続いている街道が前方に見えてきた。
クイーツ村には、街道に沿って東へ道なりに進んで行けば辿り着く。
街道沿いには、名前は分からないが、秋には色づく落葉樹が生い茂っていた。
秋になれば一段と綺麗な景色が見れるだろう。
あちこちから鳥のさえずりが聞こえてくる。
時折、柔らかくもどこか甘い香りを含んだ風が、頬を撫でて吹き抜ける。
「んーやっぱ気持ちいいなー 天気はいいし、空気も美味し、のどかで最高」
ついつい口をついて言葉が出てしまう。
菜摘の住んでいる場所も、都心からはだいぶ離れているためそこそこ田舎と呼べる部類に入るが、この国の自然の豊かさなどの足元にも及ばない。
自然とスキップしたくなる衝動に駆られたが、ぐっと堪えた。
村まで残り半分の距離に差し掛かった頃、前方右手の草むらがザワザワと動いているのが見えた。
「何かしら」
この世界についてはまだまだ情報不足だった。危険なものかも知れない。菜摘は距離を取りつつ、遠巻きに草むらの横を足早に通り過ぎる事にした。
「クーン、クーン……」
「んん? 」
明らかに動物の鳴き声が聞こえた。それも仔犬のように小さな者特有の鳴き声だった。
菜摘は持っていた籠を道端に置き、声のした方へ草むらを掻き分けながら近付いて行った。
「クゥーン クゥーン」
草を掻き分けて近づいていくと、草むらの中で一匹の仔犬が丸くなって鳴いているのが見えた。
「あっ かわいい! 」
仔犬は見ためコロコロしていて、やつれているようには見えなかった。
親犬から餌を与えてもらえているのだろう。でもなんとなく腹が空いているように感じた。
菜摘は、手を出して仔犬を撫で回したくなったが、人間の匂いが付いてしまったら、親犬に見放されてしまうような気がして諦めた。
鞄に何か入ってないかとガサゴソ漁る。
ちょうど間食用にと買っておいた、ラン○○ックのブルーベリー味があった。
どれだけあげればいいか見当がつかなかったが、とりあえず半分を仔犬の傍らに置いた。
匂いで気が付いたのか、丸くなっていた仔犬はくんくんしながら、ラン○○ックに近寄った。
そのまま見守っているとガツガツ食べ出した。
あまりの喰いっぷりに、残り半分も仔犬にあげる事にした。
「もう無いからね。ゆっくり食べるんだよ」
かぶりついている仔犬の背中に一声掛け、菜摘はクイーツ村に向かう事にした。
それからしばらく歩き続けると、前方に上り坂が見えてきた。
上り坂を下りきれば、もう村に着いたも同じだ。
そろそろ籠を抱えているのも限界だった。
菜摘は籠を何度も持ち換えつつ、村に着いた後の事を考えることで気を紛らわせた。
上り坂の頂上に到着すると、抱えていた籠をとりあえず下ろす。
腰と腕が痛くなっていた。とりあえず両腕を上げて思いっきり身体を伸ばす。
日頃の運動不足のせいもあって、大して使われていない筋肉が僅かに悲鳴をあげている。
日常生活の中で、重い荷物を手に携え移動することは滅多にない。
重い場合は自転車に載せるか宅配で頼むか、車を当てにしていたから当然だった。
せめてチャリンコが欲しい……と菜摘は思う。
この国にチャリンコを持ち込んだら、一体どうなるかしら?
思いっきり金持ちになってしまうかもしれないわね!なんてことを、思わずお金持ちになった自分を想像して、ニマニマしてしまう菜摘であった。
そんなたわいもないことに思いを馳せながら歩き続け、やっと村の入り口に到着した。