2話 タペストリーの裏側
さきほど出てきた場所が靄で見えなくなった。
菜摘は最初こそ慌ててしまったが、出口が全く無くなったわけではないので、落ち着いていた。
その証拠に菜摘が近づけば、出口はちゃんと元の場所に現れる。
三回目ぐらいで、そんなもの何だろうと思えるようになっていた。
「そういえば、この国のお金に換金しなきゃ」
菜摘がいる場所は、ラミハサーガ国という国のある森の中。
近くにクイーツ村というところがあるが、この場所がクイーツ村に含まれている森なのかは不明だ。
ともかく、菜摘は換金するために先程出てきた出口へ戻った。
出口になっている大きな木の根元の中は、少し広めの部屋になっている。
部屋の広さは十畳くらいだった。簡易的なキッチンと二人用のテーブルと椅子が置いてある。
奥にもう一つ部屋があり、そちらは六畳ほどの広さとなっている。
六畳の部屋は何も置いてないがトイレと簡易シャワーのスペースがある。
トイレは試行錯誤を繰り返した結果、ちょっとオシャレなバイオトイレとなっていた。
肝心の換金方法はというと、十畳の部屋の片隅に設置されている自動両替機に、お金を投入するだけで良かった。
この世界には電気は普及していないが、両替機が自動販売機のように動いているのだ。
どんな仕組みで動いているのか謎だが、気にしても分からない事は、とりあえずほっとく事にしている。
菜摘は手持ちのお金をひとまず現地通貨に換金することにした。
ラミハサーガ国では、金貨 銀貨 銅貨 鉄貨が流通していて、日本円に換算するとおおよそ下記の通りだ。
大金貨1枚=十万円
金貨 1枚=一万円
銀貨1枚=千円
銅貨1枚 =百円
鉄貨 1枚=十円
「金貨1枚、銀貨10枚 、銅貨10枚、鉄貨10枚でしめて2万1100円也。こころもとないけどしょうがないか」
換金したお金をいつものように財布にしまおうとして手が止まった。
「いけない いけない。 巾着袋じゃなきゃ駄目じゃん」
菜摘はいつも使っている財布には入れず、別途用意した巾着袋にお金を入れた。
財布自体は珍しく無いが、使われてる金具がこの国には存在しない素材だった。
万が一の事も考え、出来る限り怪しまれないようにしなくてはいけない。
菜摘は布地で出来ている巾着袋に硬貨をしまい、鞄の内ポケットにしまった。
次にやることといえば、摘んできた野草を売るための下準備だ。
菜摘は鞄からブルーシートを取り出すと、テーブル横の空きスペースに広げた。
次に地元で摘んできた野草を鞄から取り出し、ブルーシートの上に並べていく。
それから十本ずつになるようにまとめ、百円均一ショップで買ってきた麻の紐で縛っていった。
ヤブカンゾウが十束、カラスノエンドウが五束出来上がった。
端数が出てしまった分もとりあえず持っていくつもりだ。
出来上がった野草の束を、用意して置いた取って付きの籠に入れる。
「ふーっ これ以上多い時は 台車が必要かもね」
筋力にあまり自信のない菜摘は、中腰の姿勢で固まった腰を伸ばしつつ、呟く。
持っていく野草の準備がひと段落したところで、6畳の部屋に移動して、壁のフックに引っかけていた服に手を伸ばす。
さすがにジーパンにネルシャツ姿では浮いてしまうので、村人仕様にチェンジする必要があった。
「それじゃ行きますか!」
自分に気合いを入れるつもりで声を出す。
目指すはクイーツ村。この場所から徒歩でおよそ三、四十分位はかかる小さな村だ。
先日知り合いになった村人のサマンサさんを訪ねるついでに、今回持ち込む野草を売るためだ。
籠を抱えて菜摘はクイーツ村を目指して歩き出した。