仲直りの仕方
ちょっと短いです。
それから数日、萌芽は山に来なくなった。現世は家から出てくる萌芽を目で追うが時折胸にズキッと痛みが走るたび目を瞑り見ないようにしていた。そして毎度子供達に連れて行かれる時も目を瞑った。まるで見てしまったら何かが起きそうで。
「なんやろなぁ。この頃わっち変やわぁ。それに坊来んなぁ。からかいすぎたわぁ」
じーっと萌芽を目で追い来ないか来ないかと現世は待っていた。でもその日もその次の日も来ることはなかった。
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扉を開けると驚いた顔でおいらに母が駆け寄ってきた。
「どうしたの!?青あざに口も切って!」
母は家の裏庭にある水桶まで布を濡らしに行くと戻ってきておいらの顔を拭う。
「何があったの?」
「別になんでもない」
そう、おいらにとっては今はそんなことどうだってよかった。それよりも現世と喧嘩してしまった。片手しか見ていない、顔も分からない人ではない者を友人と呼ぶのかは分からなかったが萌芽は友人と思っていた。
「ねえ母、友達と喧嘩したんだけど、でもおいらは悪くない時はどうすれば仲直りできる?」
「ええ?難しいことを言うわねえ」
母は悩み顔でおいらの顔を拭く。おいらの父はおいらが幼い頃に死んでしまった。それからは母が女手ひとつでここまでおいらを育ててきた。きっと今も忙しいのにおいらの相談に乗ってくれる。おいらはそんな母が大好きだ。
「萌芽は仲直りしたいの?」
「うん、でも本当に悪いやつだったら仲直りしない方がいいのかもしれない」
「でも仲直りしたいんでしょ?」
母の言葉に萌芽は頷く。
「なら何が嫌だったのか言ってどうしてほしいか言えばいいんじゃない?きっとその子も仲直りしたいなら直そうと努力するはずよ。はい、拭いたから後は薬塗るからこっち来なさい」
そうか、それなら。でもそれで直してくれなかったら?嫌な事を考えてしまって慌ててその考えを振り払う。現世なら直してくれる……はず。おいらは淡い期待を胸に抱きながら明日は現世に会いに行く事を決めた。
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「ぐあっ」
「おら、行ってこいよ!」
「げほっげほっやめてよ」
萌芽は腹を蹴られて咳き込みながら地面にうずくまる。会いに行こうと決意してから数日、山に行こうとすると、こうやって腹や顔を殴られたり蹴られたりして行くことができないでいた。いつもなら痛くても登るがこの頃はとてもじゃないが行こうと思う気力すら削がれるくらいにボコボコにされ、気がつくとあざだらけの泥まみれ、加えて気を失うせいで目が覚めると空が赤くて直ぐに日が沈んでしまう。酷い時は空が暗いこともあった。今日もボコボコにされいじめっ子達がいなくってから、なんとか起き上がろうとしたが腕に力が入らずそのまま顔から地面に突っ伏した。けど痛くない。息苦しくて手をパタパタさせると誰かが息ができるように顔を横に向けてくれた。途切れゆく意識の中で髪を撫でられた気がするがどんどんと意識は沈んでいき気を失っていた。気がつくと自分は家で寝ていた。起きると母が鬼の形相で腕を組んでいた。いつも泥だらけのあざだらけで帰ってくるから元気に遊んでいるんだろうと思っていたが、昨日は夜になっても帰ってくることがなく心配して村中を探したそうだ。それで子供達が毎度萌芽をいじめていた事を初めて知り慌ててその場所に行くと1人気を失っていたそうだ。でも萌芽は1人ということに首を傾げた。
「え、おいら1人だった?他に人は?」
「いなかったよ」
「そう」
確かに倒れる直前誰かいた気がしたのに。気のせいだったのだろうか?
「友達と喧嘩したって言ってたのにまさかいじめられてたなんて。なんで言わなかったの?」
母の心配そうな表情にちくりと胸が痛む。いじめていた人達と現世は別だからと言おうとしたが口をついて出た言葉は全く違うものだった。
「母が心配するから」
「充分今回で心配したけど」
「うっ」
「まあいいわ。これからはいじめないようにきつく言っておいたから。もしそれでもいじめられたらこの村で一番大きな山に行きなさい」
大きな山とは現世がいる山だろうか?
「?なんで?」
母に聞くと
「きっと助けてくれるはずよ」
そう言って母は朝食の準備で台所に行ってしまった。
「ん?もしこれでいじめられなかったら今日は山に行けるぞ!」
そう小躍りしているのも束の間、母に今日は外に出るなと言われ萌芽は肩を落としたのだった。