違い
展開が早い気がしますが間にこれ以上入れてしまうと中だるみになりそうなのでごめんなさい。
次の日の朝、いつものように現世が村を眺めていると山を登る者が見えた。現世はクスリと笑い山を登る者をじっと見つめていた。
「現世!来たよ!」
「ふふっ、昨日今日で来るとは思わんかったわぁ。おはようさん」
「おはよう、もしかして駄目だった?」
「ちゃうよ、ただホンマに来るとは思わんかっただけや。だから別に来てええよ。わっちはずっとここにおるから」
「わかった」
萌芽は木の下に座り他愛もない話を現世と話し、日が天頂に昇ると帰っていった。
「ふふっ、かいらしなぁ。坊くらいの年の者がわっちと楽しそうに話すなんて不思議な時代やわぁ」
現世は一人呟くと村に戻った萌芽を目で追う。村の端にある家が萌芽の家だ。萌芽が家に入る時見えた者に現世は見覚えがあった気がしたが、萌芽が入ると扉は閉じてしまった。
「そろそろわっちがいない方が良い時代なんやろねぇ。寂しいわぁ」
そう言う現世の声はちっともそんなことは思っていないように面白がるような声だった。
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その日萌芽が山を登ってくることはなく現世はふわあっと退屈そうに欠伸をした。
「今までは眺めるだけでおもろかったんやけどなぁ、坊と話したら眺めるん飽きてきたわぁ。坊早う来んかなぁ」
現世はじっと萌芽の家を見つめる。すると扉が開いた、萌芽だ。もう少ししたら来るかと現世は喜ぶが山に向かう道中で萌芽は数人の子供達に連れて行かれてしまった。
「ああ、あれが………ふふっ」
現世は微笑し目を瞑り欠伸をした。
気がつくと木の下で啜り泣く声がして現世は木の下を覗く。そこに声の主はいた。
「まぁたどないしたん?」
「なんでもない」
「なんでもないわけないやろ。そないにぎょうさん泣いてたら」
現世は知っている。知っているが言わない。そうすれば来ると分かっているから。声は優しげで慈しむような笑みを浮かべていそうなものだが、やっていることは褒められることではない。だが現世にとって別にそれで罪悪感を抱くことはない。現世は眺める者で傍観者。神でもなければ人でもない。ただ眺めているだけの存在。だからこそ興味があればその対象がどうなろうが構わないし、残酷なことをしても笑っていられる。それが現世だ。現世は萌芽がいじめられていることを知っていながら目を瞑り欠伸をした。来ることを確信して微笑を浮かべて。
「ほぉら話してみぃ。聞くだけならわっちでもできるんやから」
現世は言う。知っていながら聞く。
「………またいじめられた。山に登ったって言っても信じてくれなくて……嘘つくなって殴られた」
現世は顔を上げた萌芽の顔を見て青あざが何個もできているのに気がついた。
「痛そうやねぇ。坊はほんまのこと言ってるのに酷いわぁ」
「くそうっ。おいらがもっと強ければ!あんな奴等!」
「どうするん?坊が強かったら、いじめてたん全員殺すん?」
萌芽はいきなり物騒な事を言った現世にぎょっとする。
「どうしたん?そない驚くことやないよ?だって憎いんやろ?」
「それはそうだけど……」
言い淀む萌芽に現世はたたみかけるように言う。
「殺る殺らないで葛藤なんてしてたら逆に殺されてまうよ?それでもええの?」
「良くない」
「じゃあ殺らなあかんね?」
優しげな声はいつしか残酷な声音に変わりするすると萌芽の耳に毒を流し込む。
「殺らな殺られるよ?」
「………」
沈黙する萌芽に更に毒を流し込もうと現世が口を開くと萌芽ががばっと立ち上がり木の上を、現世の声が聞こえる場所を見て睨む。
「現世は悪いやつなの?」
「?」
「さっきから怖いことばっかり言ってる。やっぱり現世は怖くて悪いやつなの?」
現世はこの時焦った。面白がって焚きつけてあわよくば面白いことになるかも、と思っていたのにこれでは萌芽がもう来なくなってしまう。
「ちゃうよ、わっちはただ………」
いい言葉が見つからず現世は口を閉じる。
「やっぱり現世は悪いやつなんだ!おいらをたぶらかして最後に喰おうとしてたんだ!」
「そないなことせえへんよ」
「嘘だ!………綺麗な手だと思ったのに、おいらの味方でいてくれると思ったのに」
そう言って萌芽は駆けていってしまった。現世は山を駆け下りる萌芽を見てズキッと胸の中心に痛みが走る。
「綺麗な手か……わっちは何してるんやろなぁ」
笑いともため息ともつかない息を吐いて現世は目を瞑る。いつもならずっと萌芽が帰るまで見ている現世だったがこの時は見ることができなかった。胸の内の痛みが酷くなりそうで現世は意識をさっさと手放した。
案外10話いかないで1章終わるような?気がします。