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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
傭兵時代
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故郷三

その不吉と思える沈黙に、手足が冷えるような怒りを覚えた瞬間、歓声が爆発した。

「うおおおおおおお!!!!!」

「アイク様が!!?アイク様が、戻られたぞ!!!!!」

「ああ・・・、まさか・・・・。お戻りになられるとは・・・・!!」

「アイク様だ!!本当に、アイク様が、お戻りになられている!!!」

そこら中の人々を巻き込んで上へ下への大騒ぎとなっていく。そして、あたりを囲む人々の中には涙を流している者までいた。

何人かの人間が、興奮そのままに街に向かって駆け出し、大声で「アイク様が、アイク様がお戻りになられたぞーーーーー!!!!」と叫んで行く。

真っ先にアイクに気付いた数人の年嵩の衛士がアイクに歩み寄り、跪く。

「ああ・・・。アイク様・・・。感激で言葉もありません・・・」

涙に震え、声がとぎれとぎれだが、その心意気は隣に立つ僕にも伝わってくる。

アイクは少しうろたえたようで、必死にしゃがみ込み、肩に手を置き宥めている。しかし、全く効果はなく、しまいには、皆がアイクの近くにしゃがみ込み頭を下げ始める始末だ。

「ああ・・・。あの時、窮地に立つ我々を逃がすために殿を進んで引き受けてくださったあなた様に、ついぞ言えなかった言葉を今更ですが言わせてください。ありがとうございました・・・!」

「止してください。俺が好きでやったことです」

アイクが必死に止めるが、頭をあげないばかりか、泣き止むこともない。

「アイク様!!俺の親父の命を救ってくださって本当にありがとうございました!!!」

年若い青年の衛士までも感激に瞳を潤ませ頭を下げている。

「あなた様を置いてきてしまったあの時の後悔は・・・今になっても忘れておりません・・・」

悔しそうにギリギリと歯を噛み合わせ、吐き出す言葉はまるで痛みをこらえている様で、胸に迫る。

「あなた様がいてくださったから、今私たちは生きています・・・!本当に、生きていて頂いて・・・・」

その先の言葉は嗚咽に消され、続かなかった。

「親父を、家族を、友人を、そして、皆を助けていただいて、本当にありがとうございます・・・!」

―――よかった。

珍しくあたふたとするアイクをしり目に、僕はひどく温かい気持ちになった。

アイクは、皆から尊敬を一身に集め、これほどまでに帰還を喜ばれている。それだけで僕はここまで旅をしてきてよかったと思った。

そうして、僕らは、いや、アイクは街の人々から口々に感謝の言葉と賛辞を受け、困ったように、それでいて少し嬉しそうにゆっくりと街を歩いていく。

どこまでも続く人並み必死でかき分け進む僕ら三人に、押しつぶすように人々が迫り、最後には、アベルが、たまりかねたように口を開く。

「皆の者!!よく聞いてほしい!!」

その大音声は、ひどく騒がしい街並みの中でも朗々と響いていく。

その言葉が届いた瞬間、しん―――、と静まった人波をぐるりと見渡しながら、アベルはさらに言葉をつづける。

「今日、ついに長の歳月を経てようやく我が息子のアイクが、この街に帰ってきた!!とても喜ばしいことだ!!!そして、ここに集まってともに喜びを分かち合ってくれる皆に頭の下がる思いがする!!!だが!!!」

ひどく申し訳なさそうに、それでいて切実に、その先の願いを口にした。

「今日だけは!!!今日だけは、家族水入らずで、過ごさせてはもらえないだろうか?ゆっくりと語り合わせてはもらえないだろうか!!??」

ゆっくりと頭を下げたアベルに、集まっていた街の人々も気まずそうに顔を見合わせる。

その中を、衛士たちが人波をかき分けて進み出てきた。

「アベル様。アイク様、おっしゃる通りでございます。それでも、一つ言わせてください。あなた様の帰還をお待ちしておりました!是非私たちにアイク様のご帰還を祝う機会をお与えください!!」

それはそこに集まった人たちみんなの総意であったのだろう。ひどく真摯な表情でアベルを見つめている。

「うむ。相分かった」

アベルが肯定した瞬間、「うおおおおおおーーーーー!!!!!」「やったあああああーーーー!!!」と歓声が再び爆発する。

「静まれ!!」

ビリビリと鼓膜を震わせるほどのアベルの一喝に、どんどんと静まっていく。

「では、あと一週間後の、【豊穣祭】にて、アイクの帰還を盛大に祝おうぞ!!!」

「おおおおおおおおおーーーーーーー!!!!!」

いつまでも歓声に包まれた街並みを背に、その場を後にした。


そのまま街中をずんずんと進んでいく。僕にはどうも中心に向かって歩いているように思えてならない。

そして、先ほどから気になっていたことを尋ねる。

「もしかして、アイクって、身分の高い人・・・、だったりするの・・・?」

恐る恐る尋ねる僕に、アイクはきょとんとした顔をする。

「なんだ?言っていなかったか?」

「聞いてない・・・」

ぶすっとした表情の僕に、アベルが、豪快に笑いだす。

「わっはっは・・・!相も変わらずお前は随分と口下手だな!!」

「余計なお世話だ・・・」

くるりと振り向いたアベルが、僕に答える。

「聞いていないと言うのなら私が教えてあげよう。私の名は、アベル・ガルガロス!この迷宮の街【ガルガロス】を治める領主だ!!」

思わず驚いてアイクの顔を見つめる。

「そして、俺は、その領主の息子だと言うわけだ。アイク・ガルガロス。それが俺の本当の名だ」

「じゃあ・・・今向かっているのって・・・・?」

思わず足がすくんでしまう。

「ああ、領主の館だぞ?」

何でもないことのように言うアイクがひどく恨めしかった。固まったままの僕を見て、アイクが付け足す。

「まあ、うちは質実剛健な家風だから、それほど気張った肩の凝るようなものではないぞ」

「しつじつ・・・・ごーけん・・・・?」

「ああ、質素で、飾らず、強さを磨いている、と言うような意味の言葉だ」

なんだかよくわからないけれども、僕が、僕ら奴隷たちが嫌悪する貴族、と言う物とは違うのだろう、ということだけは伝わってきた。

そもそも、領主や、貴族、王族、と言った身分の高そうな人間すべてに対して奴隷たちは嫌悪感を抱いているため、つい身構えてしまったが、アイクの家なのである。心配するだけ無駄と言う物だ。

僕をなだめるアイクに、アベルはくつくつと笑いだした。

「どうした・・・?」

「いや、なに。あのお前が・・・と思うとな・・・」

少し照れたようにアイクが視線をそらし、話を変えようと、口を開く。

「ところで、家には誰がいるんだ?アトラス兄さんは王都にいるようだし・・・。マイア姉さんとフレイアがいるのか・・・?」

「ああ、マイアは嫁いでいってしまった・・・」

少し寂しそうにアベルがつぶやく。しかし、アイクはアベルの言葉に驚愕したようだ。

「なに!?嫁いだ!?あのマイア姉さん・・・が・・・?」

「ああ・・・」

「そうか・・・・。待てよ・・・。まさか・・・・フレイアもどこかに嫁いでしまったのか!?」

「まさか!それはない!!あの娘はまだ十八歳で子供だ!!」

「そうだな・・・」

―――あれ?おかしいな・・・?十八歳と言えば立派な大人だ。帝国では十五歳から成人とみなされ、いっぱしの大人扱いされ始める。ましてや女性で十八歳と言えば、今まで旅してきた村では、子供を作って母親となっている女性もいたくらいだ。もしかして、帝国とは違うのかな?

と思ってみたが、今年で十六歳の僕ですら成人扱いされていたから、それは変わらないのだろう。

疑問には思ったが、アイクはそれを全く疑問に思っていないようで、何も問いただしたりはしなかった。

「しかし・・・・そうか・・・。あのマイア姉さんが嫁いでいったのか・・・」

少し寂しそうにアイクがつぶやいている。やはり自分がいなかった間に家族がいなくなるのは寂しいことなのだろう。

「よく嫁の貰い手があったな。夫となる方も気の毒に・・・」

違ったようだ。いったいどんなお姉さんだったのだろう?

アベルがくつくつと笑いだす。

「違いない。あの子は私に似てしまったからなあ・・・。だがアイクよ、そのことを本人に言うなよ。怒られるぞ」

ぶるりとアイクが体を震わせた。

「それになアイク。マイアを娶ったのは近年頭角を現してきた【エバンス男爵】だ。お互いに惹かれ合って政略婚などではなく恋愛結婚にてきちんと婚姻したのだぞ?」

「それこそ驚きだ・・・・。ん?【エバンス男爵】?聞いたことが無い・・・」

「それはそうだ。当主のエバンスという男は、史上二人目の迷いの森を越えてこの地にやってきた傭兵なのだからな。それもまだ十年もたっていない頃の話だ」

その言葉にアイクだけでなく僕も驚く。

「シェダルしか成し得ないと思っていたのだが・・・・恐ろしい・・・」

「まあ、エバンスと言う男は、シェダルとは違って何人もの傭兵と連れ立ってきたようだったがな。しかしそれでも、彼だけが、生きて超えることができたのは、やはり彼が尋常ではない証左だろう・・・」

それでもあの森を生きて抜けることができるのはすごいと素直に思えた。同じように思ったのだろう。アイクは唸るばかりだ。

「うーむ・・・。それがどうして姉さんを見初めたんだ?」

「何、簡単な話さ。迷宮でお互いに困っていたところを助け合って、どうしようもなく惹かれていったと言うだけさ」

「なるほど・・・」

アイクはようやく納得したようだったが、僕は少し疑問に思ったことがあったので、思わず尋ねてしまった。

「ただの傭兵だったのに、どうして貴族になれたの?」

アイクが少し驚いたようで僕のほうを見つめる。

「どうした?貴族にでもなりたくなったのか?」

言われて、慌てて僕は否定する。

「違うよ!!ただ、どうして貴族になったのかな?って」

「よほどの武功を立てたのだろう」

アイクの言葉にアベルが首肯する。

「ああ、南からの侵略に対して防衛の陣頭に立ち誰よりも敵兵を打ち取ったから、褒美を聞かれて貴族位を求めたそうだ」

―――そんなの褒美になるのかな?

僕にとって褒美と聞かれれば、金貨や、もしくは武具のほうが真っ先に頭に上がる。傭兵だったらなおのこと、もっと現実的な物を欲しがったはずなのではないか?と思ってしまった。

「なんだ?貴族の位はいらないか?」

そんな僕の腑に落ちない表情を見て、茶化すようにアイクが尋ねてきた。

アイクが領主の息子だった手前、否定も肯定もできないが、そんな僕にアベルが説明してくれる。

「なに、単純に娘であるマイアと家格があまりにも違いすぎて、周囲の反発が大きかったから、爵位を求めたのだ。そしてあれよあれよという間に騎士爵を飛び越え、男爵となってしまっただけだ」

アイクがこれまた茶化すように口笛を吹く。

「ヒューー!随分と姉さんも惚れこまれたものだ・・・!」

「あまり茶化すな・・・。随分と大変だったのだぞ・・・・」

げんなりした顔をしたアベルはすぐに表情を緩めると、アイクににやにやと笑いかけながら、「家に着いたらお前もそう言っていられなくなるぞ?」と謎めいた言葉を告げる。

一瞬怪訝な表情を浮かべたアイクだったが、何か思い当たることがあったのだろうか、すぐに笑いを引っ込めてしまった。

そんなアイクを見て、アベルは少しつまらなそうだったが、僕には何のことか全くわからず、ただ二人の表情を交互に見やっていたが、それ以上何も言わなかったので、僕もついには聞けずじまいになってしまった。

と言うのも、ついにアイクの家に着いてしまったからだ。


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