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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
南大陸―始まりの街
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二週間五十二

(四十七階層)

黒々と、分厚い雲が覆う天蓋。

閉塞感漂う洞窟から一転。

空へ、濛々と黒煙を噴き上げる、見上げるほどの険しい山の頂きを見上げ、何を思う??

真っ黒の分厚い雲が目の前まで迫るこの空は、洞窟よりも自由に見えるか??

いや・・・・・。どうだろうか・・・・??

僅かに灰交じりの風が吹き荒れ、溶岩がドロドロ、ドロドロと山頂から流れ出てくる。

天蓋を覆う分厚い雲も、もしかしたら、天に吹き上がる黒煙と、灰なのかもしれない。


「ここが四十七階層・・・・!!」

「向こうのパーティーでは決して越えられない階層、か・・・・」

その理由は、昨日、散々説明された。

その説明を聞いて、僕らも、少し、いや、かなり厳しい戦いになると、そう思ったから、サニア達には、聞いたんだけれども・・・・。


・・・・・あれだけの覚悟をもって、挑む、と言い切られれば、止めることはできないだろうな・・・・。


一度言いだしたら止まらない人だ。

それは、短い付き合いだけれども、よく理解できる。

それでも・・・・。


「あとはエドガーがどこまでやってくれるか、だけれども・・・・」

「こっちの心配をしなさいよ。こっちもこっちで、私とスバルと、レグルス以外のあなたたち二人は、最後の最後まで、ほとんど何もすることが無いのだから」

シャウラの言う通りだな・・・・・。

思わず笑ってしまったけれども。本当にその通りでもあるんだ。


「来るぞ」


きいいいいえええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!


空に木霊するその雄叫びを聞いた瞬間、一気にみんなの体に緊張が走る。

そして、そいつは姿を現した。

轟々と燃える火を纏って。

硬い岩すらも、触れるだけでドロドロに溶かしてしまうほどの熱量を抱え。

ぐるぐると円環する炎の渦。羽毛の一枚一枚に至るまで、どこからどう見ても、燃え盛る炎にしか見えない、その魔物。


「・・・・・っ!?これが・・・・!!これが、炎より生まれし凶鳥・・・・!!炎鳥『スザク』・・・・!!!」


空を舞う、燃える巨鳥。

砂漠で闘った巨鳥『ルフ』と似て非なるその鳥は、あまりにも禍々しく、そして、魔物とは思えないほどに神々しい・・・・。


きいいぃぃぃえええええぇぇぇぇぇえぇぇ!!!!!!!


風に乗って、襲い掛かってくる・・・・!!!

轟々と燃え盛る炎が、間近まで迫って、昨日のシェダルの言葉が、まるで走馬灯のように蘇ってくる・・・・!!


・・・・・いいかい??炎鳥『スザク』も、火竜も、全身を覆う炎をまず鎮火しなければ、攻撃なんて通じやしないからね??


炎が、目の前まで、迫ってくるのは、なかなかの恐怖だ・・・・!!!

それも、中途半端な大きさでは決してない・・・・!!!

でかい・・・・!!!とにかくでかい・・・・!!!

そして、これが、魔法で造られた火球とかではなく、生きた魔物だからこそ、避けることも、躱すことも意味なんてありはしない。

いくら直線的に襲い掛かってきているとはいえ、意思を持つんだから、それは当然のことだろう??


「レグルス!!!準備は!?」

「任せろ!!!」

開幕、一撃は、レグルスに任せている。これは、事前の相談通り!!!

もう間もなく、接敵する!!!あと数メートルの距離・・・・!!!大地近くへ、その翼をはためかせ、襲い掛かって来たスザク目がけて、大量の土砂が、降り積もる!!!


きえええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!????


寸でのところで、直撃を躱そうと、必死に翼をばたつかせるけれども、それでも逃げることできず。

滝のように降りしきる土砂の中、その姿が一切見えなくなっていく。

濛々と立ち上がる土煙の中から、それでも、まだ、耐えがたいほどの熱を、その存在を感じながら、その時を、今か、今かと待っていると・・・・・!!!


「来るぞ!!!!スバル!!!シャウラ!!!!」

土砂の壁を突き破って、怒りに瞳を燃え上がらせたスザクが、嘴をカチカチと鳴らし、威嚇しながら飛び出して来た・・・・!!!


・・・・・火を消すなら、何の属性がいいかって??そんなの簡単だろう??土の属性、それも、岩石なんかじゃあない、砂漠の流砂のように、サラサラの土を、滝みたいに振りかけるしかないねえ。

・・・・・あとは、一番効果的で、一番手っ取り早いのは、水の魔法だよ。その上位の氷魔法だったら、敵さん必死に逃げるから、まず大量の土砂で目くらまししながら、攻撃するのさね。


スザクは、さぞ驚いたに違いない。

それが証拠に、目の前に、何本も、何本も、連なり、自らを狙う槍のような、いや、杭のような氷の礫が見えた瞬間に、急旋回をして、僕らの、目と鼻の先、逃れようと、さっきよりもよほど必死に羽ばたこうとするけれども。


「「遅い!!!!!」」


矢のように、風を切り裂き、襲い掛かる。

逃げ切れないと悟るや否や、


くえええええええええええええ!!!!!!!


全身の炎を更に滾らせて、目を焼く程の熱量を放ち、全てを溶かしてしまおうと益々魔力を行使するけれども。

すでに、大量の土砂によって、僅かに炎を弱められていたあとのこと。

すぐに、火力を上げる事なんかできなかったみたいで、半分ほどは見事に溶かして見せたけれども、間近に迫る冷気に耐え切れず、そのまま何本も、何本も、十数本近くか??それだけの数の氷礫の直撃を受ける。


きいいぃぃええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!?????


ぶすぶす、ぶすぶすと。

黒煙を噴き上げて、次第に弱まっていく炎。

苦悶の雄たけびを上げ、大地へ、ばさりと降り立ったスザクは、翼を、体をハチャメチャに振るい、体に突き刺さった氷礫を抜こうともがき苦しんでいる。

炎が消えたところからは、真っ赤に染まった血が滲み、赤、というよりは、黄に近い橙色の鮮やかな体毛がうっすらと垣間見ることができるけれども・・・・。


「行けるか!?」

「・・・・・っ!?」

翼をめちゃくちゃに振るわせてのたうつ敵は、近づけばこちらがやられかねない危険な状態。

そして、体表を覆う炎も、一部は消えかかっているとはいえ、それでもまだ、半分以上は残っている・・・・!!!

あの中に飛び込む、というのは、想像以上の勇気がいる!!!

事前に決めていたこととはいえ、流石の僕も躊躇してしまうけれども・・・・!!!


「危険だと思えば、攻めなくてもいいんだぞ!?行けそうなときに・・・・!!!!」

「大丈夫!!!!」

アイクの言葉を遮ってまで、僕は、自分を奮い立たせるように、剣の柄に手をかけ、足に力を籠める!!!

蹴り足を意識しろ・・・・!!!

じっとりと汗ばんだ手は、剣を抜くときに、柄が滑るかもしれないけれども、意識すればするだけ、汗をかくだけだ・・・・!!だったら、今は、目の前だけに集中しろ・・・・・!!!

翼は、二本!!!

鉤爪も、二本!!!

嘴は一本なんだから・・・・!!!

前後左右に体をばたつかせていると言っても、きちんと観察して!!!予測をすれば、読み切れないことなんて無いんだ・・・・!!!



・・・・・第二パーティーは、厳しいだろうねえ。なぜかって??そんなの簡単さね。土魔法の使い手はいるけれども、一人だけだろう??水魔法の使い手は??居るかい??居ないだろう??影??影の魔法なんて、そんな燃費の悪いもんで、どうやって、火を消し続けるって言うんだい!?馬鹿にしちゃあいけないよ!!!炎の中から生まれし凶鳥、魔力が続く限りは、いくらだって、燃え続けることができるのさね!!



もう一つのパーティーはそう言われてもなお、諦めることなく、今日も挑む。

絶望的だから、止めて置け、と言われてもなお。

時間の無駄だから、行くな、と言われてもなお。

だったら!!!

だったら、僕が諦めていい理由なんて一つも無いだろう!?


・・・・・第一パーティーの役割分担は簡単さね。レグルス、あんたが開幕、大量の土砂で目くらまししながら、火を消すんだ。それでも突っ込んでくるからね。そうしたら、スバル、シャウラ、あんたら二人が、全力で氷の魔法を行使して、攻撃するしかないさね。

・・・・・俺はどうすればいいのだ??

・・・・アイク、あんたは、もしもの時の防御だ。風の魔法で、敵の突進も、魔法攻撃も、全てを受け止めきって見せるしかない。なぜなら、他の三人は、スザクの火を消すために、ほんの爪先ほどの魔力ですらも無駄にできないからねえ。

・・・・・僕は・・・・??僕はどうすればいいの・・・・・??

・・・・・あんたは、最後の最後。大地へと引きずり落としたスザクを、両断するのさね。大丈夫。その剣と防具なら、きっとできるだろうさ。だから、何も恐れることはない。ただ、ただ、皆を信じて、突き進めばいい。



・・・・・だから!!!僕の役割は、ただ、ただ突き進むだけだから!!!!

迷いなんて、振り払え!!!

躊躇いなんて、置き去りにしてしまえ!!!!

転がる先を予測して!!!のたうち回った後の大地にくすぶる炎を避けるようにジグザグに!!!

もう少し・・・・!!!もう少しだ・・・・!!!



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