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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
南大陸―始まりの街
524/681

二週間二十四

がつん!!!


と、剣が大地を噛む音が、虚しく僕らの耳に届き、

「なにしてるんだよ!?レグルス!!!もっと慎重に行くべきだろうが!?」

「そうは言っても、だったらどうしろと言うのだ!?魔法で殺すのか!?どんな魔法で!?もし一発で殺せなかったらどうしているつもりだったんだ!?音だけじゃなく、魔法も感知する敵だったら結果は同じことだったろう!?」

「やって見なければ分からなかったろう!?」

「だとしたら、剣で斬りかかるのだってやって見なければ分からなかっただろうが!?」


・・・・まあ、確かにお互いの言い分は理解できるけれども・・・・。


「今は言い争っている場合じゃないでしょ!?来るよ!!!」

「ちいっ!!!」

地中の中から、どんな攻撃が襲い掛かって来るかと思えば、ざばり!!!と僕ら目がけて、あの鋭い爪が、まるで断頭台のギロチンのように、閃く!!!

「退け!!!私が抑える!!!」

言い争っていたアイクとレグルスめがけて、振るわれたその爪を、レグルスが、全身で受け止め、抑えようとするが・・・・。

「くそっ!?」

切り裂けない、と分かった瞬間に、再び地の底へ・・・・!!!

「これでは埒が明かないぞ!!」

「また静まって引きずり出すか!?」

「いや!!もう僕らの位置は把握しているはず!!!それに、いちいち静まっていたら、意思疎通ができないでしょ!!」

「だったらどうするのだ!?」

「こうするのさ!!!!」

何か策があるのだろうか??

先ほどから、それだけの言葉を交わしているうちにも、執拗に何度も攻撃を受けるレグルス。

恐らく、一人で無謀にも斬りかかって来たレグルスに、驚いたか何かで、怒ったのだろう。それで狙っているんだと思うけれども、正直に言えば・・・・・・幸運だ!!

もし、レグルス以外が狙われていれば、躱す以外に方法はない・・・・。

あれだけの速度、威力、そして、襲ってくる方位も分からないのでは、防ぐのはシャウラとスバルの二人にとっても容易いものではないはず・・・・!!

けれども、その均衡が一体どこまで続くかなんて、分かったものではない・・・・!!!

だから・・・・!!もし何か策があるのなら早く!!!


レグルスを狙って振るわれる、爪が、引っ込んで言った瞬間に、スバルはすかさず、その砂が崩れて塞がる前の穴ぼこ目がけて、何発も、何発も、塞がるその瞬間までに十発近い火球を投入し続ける!!!

「効き目があるのか!?」

「さあね!!!ただ、土の魔法でも、無意味だろうし、水の魔法は、泥を作るだけ、木の魔法は使えない、風の魔法も効果が薄そう、となれば、あとは火の魔法だけかな??と思ったんだけど・・・・」


ぎょえええええええええええ!!!!!!!?????


まるで、尻に火が付いた猿のように。

地中から、慌てて飛び出して来た、というよりは、もはや、飛び上がって悶えるその魔物に、若干の同情心は芽生えてしまったけれども・・・・・。

腕に比してあまりにも短い二本の足。

丸っこい体。

毛先から炎を噴き上げながら、燃えるその姿は、滑稽と言えば、滑稽。


「可愛い・・・・!!」


・・・・少しわかってしまうこの複雑な気持ちよ!!


「こうなったらあとは、簡単だな」

剣を上段に構え、さっきまでの仕返しとばかりに、つかつか、つかつかと何の躊躇いもなく歩みを進めていくレグルスが、一刀のもとに斬り殺して、呆気なく溶けるように消えていく魔物。


「今回ばかりは、スバルとシリウスの二人の閃きに救われたな」


手放しに誉められるのは、悪い気はしないんだけれども、スバルに比べれば、僕はまだまだだ、と、やはり落ち込んでしまうのは事実だ。

そこと比べても落ち込むだけなんだろうけれどもね・・・・。




(三十五階層)


「くそが!!!どうすればこいつに勝てるんだよ!?」


ぜえ、ぜえ、と何度も息を吐き出し、肩を上下させるレグルス。

こんなにも消耗したレグルスを見るのは久しいんじゃないだろうか・・・・??

脇腹を執拗に気にするかのように、剣を持たない片腕で抑えるのは、怪我でも負ったからなのだろうか??


「考えている!!!それでも分からないからこうしているんじゃないか!!!兎に角!!!兎に角もう少し!!!もう少しだけでいいから耐えてくれ!!!」

猛攻に晒されているレグルスが、誰よりもつらいのは十分に理解している。

アイクだけじゃあない。

僕も、スバルも、シャウラも、現状を何とかしようと、必死になって策を模索しているけれども、それでも何ともなっていないから、ここまでの危地に陥っているんだ・・・・。

もう少しだけ、と言葉で言うのは簡単だ。

それでも終わりが見えない、先が見えない中でそれを願うことの、どれだけ難しいことか・・・・。

そして、それでも、立ち向かうことの、どれだけ勇敢なことか・・・・・。


「姉ちゃん!!!もう残っている魔法はあれだけだ!!!!あれで足止めしてみよう!!」

「足止め!?そんなこと言ったって・・・・!!!・・・ああ!!もう分かったわよ!!!分かったから!!!兎に角二人で合わせないといくら何でも無理があるわよ!!!」

「分かってる!!!だから・・・・・行くよ!!!!」


どうして、僕らはこんなに窮地に陥っているのか・・・・??


思い返せしてみれば、ここに来たとき。遠く、地平のかなたから、ものすごい速度で迫ってくる何か、を見かけて、ああ、ここの魔物は、逃げも隠れもしないから助かったなあ・・・・、なんて、油断してしまったのが始まりだ・・・・。



「アイク。あっちからものすごい速度で向かってくるあれが、この階層の魔物なの??」

「そうみたいだな・・・・、えっと・・・・『ストーンリザード』。トカゲ型の魔物で、背中を固い鱗が覆っており、丸くなることで大地を転がってくる・・・・・」

そこで、アイクの言葉は途切れてしまった・・・・・。

図らずも、尋常ではない速度で転がる、車輪のような物体が、すぐ目の前まで迫ってきていたことによって・・・・・!!


「散開!!!レグルス!!!抑え込めるか!?」

そこからの動きは早かった。

しかし、それでも・・・・・。

ずどおおおおん!!!!!と。

岩戸岩がぶつかり合うようなものすごい音が響き。

「・・・・かはっ!?」

絞り出したような呼気を吐き出し吹き飛ばされたレグルスに巻き込まれるように、

「きゃあ!?」

「姉ちゃん!!!」

スバルとシャウラの二人が吹き飛ばされた!?

否!!!逃げ遅れたシャウラを助けようと、スバルが間に入って二人纏めて吹き飛ばされてしまった!?

「大丈夫か!?」

そのままもの凄い速度で回転していった魔物を見送りながら、吹き飛ばされた三人に駆け寄ってみれば、何とか怪我はなく無事みたいだけれども・・・・。


「柔らかい土で助かった・・・・。もし下に岩なんかあったら、無事じゃなかったろうね・・・・」

「・・・・いや、そもそも、この土だけの変わり映えしない光景のせいで、遠近感が上手くつかめなかった・・・・!!すまない・・・・!!!ほんの一歩対応が出遅れた!!」

それは僕らとて同じことなのに。

律儀に頭を下げながら立ち上がったレグルスだったが・・・・、

「痛っ!?」

僅かに顔色を歪めたのを僕らは見逃さない。

「どうした!?大丈夫か!?怪我でもしたのか!?」

遠く、地平のかなたまで転がった魔物は、僕らの視界の端で、急激なカーブを描き、そのまま再び僕らに向かって進路を切る。

悠長に対応していたら、さっきの二の舞になってしまう・・・・!!!

そんな焦りの中、まるで何事もなかったかのように、

「大丈夫だ!!!とにかく散開してくれ!!!また私が前線で抑えるから!!!皆は攻撃を加えてくれ!!!!」

「本当に大丈夫なんだろうな!?」

「大丈夫だから!!!任せろ!!!」

言い合っている暇はない!!もう目の前まで敵は迫ってきている!!

 少なくとも、敵の動線上に居座れば、最悪の場合巻き添えを食らってしまう可能性は無きにしも非ずなんだ・・・・!!!

だから、ばらばらに散って、すぐにレグルスのフォローに入れるように一定の距離を保っていたのだけれども・・・・・。

僕らは、やはり、油断していたのかもしれない・・・・。

重さは、力だ。

速度は、威力だ。

例え、腕力で勝ろうとも。

例え硬さで上回ろうとも。

圧倒的な速度で、遥かに重い物が、止まっている物にぶつかれば、止まっている方が吹き飛ぶのは、自然の摂理。

いまさら考えるまでもなく、分かる話だったはず・・・・。

それでも、どこかで、頭の片隅で。

レグルスならもしくは、と、信じていたのかもしれない。


「かはっ・・・・!!??」


十分に準備して、心も、体も、意識すらも、全て、全て、敵に向けたと言うのに。

さっきと全く同じ結果。さっきの二の舞。まるで、同じことの繰り返し。

吹き飛ばされ、軽々と宙を舞うレグルスと、そのまま勢い削がれることなく、転がり続け、ものすごい速で通り過ぎていく魔物。


・・・剣すらも届かない・・・・!?


剣では間に合わないと理解した瞬間に、弓を番えたアイクも。

魔法を練り上げたシャウラも、スバルも、誰も彼も・・・・。

ただ、ただ、呆けたように、魔物が通り過ぎていくのを見送ってしまった・・・・・。

「また戻って来るぞ!?どうする!?」

「・・・・大丈夫だ!!!もう一度・・・・!!!もう一度私が!!今度こそは止めて見せるから・・・・!!!」

何度も、何度も、吹き飛ばされても立ち上がるその心意気に、勇ましいとは思うけれども、どう見ても無茶だ!!

「闘い方を変えよう!!!」

「・・・・・そんなことを言っている暇は無いだろう!?ほら!!戻って来るぞ!!!」

レグルスの言う通り。

何度も、何度も。僕らが挫けるまで、向こうも、攻めの手を変えないつもりだ・・・!!!

「分かった・・・!!!確かにあの攻撃を抑えるのは、レグルス!!お前以外には無理だろう・・・・。だが!!!向こうがこちらに到着するまでの間に、魔法で迎撃しよう!!!それくらいは良いだろう!?」

「・・・・・ああ。頼んだぞ・・・・!!!」

そのまま、皆の前に。

僕だったら・・・・・。怖くて二度と立ち上がれないかもしれない・・・・・。

僕だったら・・・・・。怖くて及び腰になっていたかもしれない・・・・・・。

僕だったら・・・・・。あの自分の身長をはるかに超える魔物がものすごい速度で迫ってきているのを見て、逃げずにいられただろうか・・・・??いや、居られなかっただろうな・・・・!!!

だったら・・・・!!

勇気を出して立ち向かってくれたレグルスを、無駄だったんだと落胆させないように!!僕は、僕にできる最善を・・・・!!!


「俺は風の魔法を側面からぶつけて横倒しに倒せないかやってみる!!!」

「じゃあ僕と姉ちゃんは、真っ向から火球をぶつけて熱で殺せないかやってみよう!!!」

「分かったわ!!!」


三人の言葉通り。

びゅうびゅうと吹き込む突風が、側面から、魔物に襲い掛かり・・・・。

轟々と燃える火球が、幾重にも正面から敵を叩く・・・・・。


しかし・・・・・。

ああ!?しかし、一体どうすればいいと言うのか!?

風を受けても、なお、その速度は緩まることを知らず。

火球を受けても、なお、その陽光に鈍く輝く硬質な鱗は、煌きを失わない。

そして三度の衝突で。

同じように吹き飛ばされたレグルス。それはまるで、三人がかりの魔法など、一切効きはしないのだ、と嘲笑(あざわら)うかのようで。

剣を抜いて斬りかかった僕の横をものすごい速度で過ぎ去ろうとした魔物の動きが、瞬間、止まる。

否、ゆっくり、ゆっくりとだが、しかし、確実に動いている・・・・!!

僕よりは遅いが、それでも、間違いなく。僕の攻撃は、きっと届くだろうが、それでも、この速さで離れられたら、できて一太刀だけが精いっぱいだろう。

ずぶり、と鱗を貫くその感触に、熱で岩が溶ける感触に、確かな手ごたえを感じる・・・!!!


それなのに。

それなのに一体どういう理屈なのだ!?

世界が動き出したとき、それまでと全く変わらずに、転がり去っていく魔物。

血を吹きだすこともしなければ、苦痛に叫ぶこともせず。

ただ、ただ、無機質。

生命を感じさせない。


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