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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
南大陸―始まりの街
521/681

二週間二十一

「アイクの弓でも無理??」

「どうだろうなあ・・・・・一匹か、もしくは二匹くらいなら風の魔法で後押しすれば何とかなるかもしれないが・・・・・」

「それであの、大型のボスみたいなのを倒せばいいのではないか??」

「この階層は、ボスモンスターというのは存在しない。出てくる魔物を全て倒し切って、次の階層へ進めるようになるらしい」

「では無理か・・・・」

もし、こんな相手無視してもいいならそうしたい。

何ならここが迷宮でなければ、相手にすらしなかっただろう。

でも、生憎とここは迷宮の中で、奴らを倒さなければ次の階層へは進むことすらできない。

もし、アイクが、無理をしてでも一、二匹仕留めてしまったら??

そうしたら、もっと警戒されて、ここを突破するのに、とんでもない時間がかかってしまうのは間違いない。

今ですら、もう半刻近い時間は、追いかけっこを繰り返したんだから。


届かなかった。

あと一歩のところまでは行けたんだ。

アイクとスバルが風の魔法で、速度を上げて、そこにシャウラも重ね掛けして・・・・。それでも、敵の持久力の前に、あえなく徒労に終わってしまった・・・・。


だからこそ、何とか、あいつらをこちらへ誘き寄せなければいけないんだけれども・・・・・。


「疲れたふりでもしてみる??」

ふり、というよりも前に、肩で息をして、もう十分疲れているだろうシャウラが、そんなことを言いだしたけれども・・・・。

「それで、上手く行ったら儲けものだが・・・・。恐らく無理だろうな」

先ほどから、一向に縮まる気配のない彼我の距離が、向こうの警戒心を十分に表していはしないだろうか??

いまさら、動けなくなった振りをみんなでしてみたところで、向こうの警戒が溶けるとは到底思えない。


「と、なれば後は・・・・・」

どかっと、腰を下ろしたシャウラが、僕を仰ぎ見てくる。


・・・・えっ!?なに!!??急にどうしたの!?


「そうだねえ・・・・。もとより、それ以外の方法はないんじゃないかと僕も思っていたんだよね」

スバルすらも、こちらに視線を向けて来て、

「ああ、それはそうだ。だが、一種の賭けだぞ??もしシリウスが通用しなかったら??そうしたらあとはどうするんだ??」

「なに。そしたら、そうしたで、あとは、我慢比べ。ここに二日でも、三日でも居座ってやるさ」


・・・・え!?なになに!?どういうことなの!?皆で納得していないで僕にも教えてよ!!!


「と、言う訳で」


「「「「敵よりも速く動ける可能性があるシリウス、お前が、全力で魔法を使って殲滅してくるんだ(のよ)!!!」」」」

「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!?????ぼ、僕があああああぁぁぁぁぁ!!!!????」

「僕が!?じゃないわよ!!あなた以外誰にできるって言うのよ!?」

「え・・・??いや・・・・それは・・・・・」

あれ??褒められている・・・のか??それとも怒られている・・・のか??

「そもそも、この迷宮の中では、体力とか魔力が段々奪われて行くんだろ??それって魔物にも有効なのか??」

「さあね。私たちに分かる訳が無いでしょ」

「と、言う訳で、レグルスが言ったような我慢比べは確実に分が悪い!!悪すぎる、と言っても過言ではない!!!そこで!!お前の出番だ!!!ほら!!頑張って来い!!!」

「そ、え!?そんな急に言われても・・・・・!!!」

そもそも、近づいたらそれだけ離れちゃうんだよ??

そんな敵に、どうやって、この距離から近づけるって言うんだよ!?

「スバルうー!!助けてー!!」

こんな時のスバル!!スバルなら!!スバルなら何とかしてくれるはず!!!


「大丈夫。一人で近づいて行けば、きっと、逃げないと思うし」

「そういう問題じゃないし!!!??」

「それに、一人だけ、何の攻撃も、ましてや行動もしていないから、もしかしたら敵の目には、一番弱い奴、って映っていて、警戒はされるけれども油断してもらえるかも!!」

「確かにそうだけど!!??確かにそうだけれどもさあ!!??」

接敵早々に、シャウラとスバルが魔法で遠距離攻撃を図った。

その時に、レグルスも、一緒に大地を揺らして、足場を崩したり、不安定にしていたけれども、そんな悪路をものともせず、一瞬で逃げられてしまったんだ。

その上、スバルとアイクが、風の魔法で飛ぶように追いかけ、一瞬捕らえそうになったりしたから・・・・・。


僕だけは何もしていないんだけどもさ!!!いいよ!!!いいさ!!!そこまで言うならやってやるよ!!!!


「でも、もし僕が近づいて、それで逃げるようだったら・・・・??」

「その時は、その時さ!!別にまた案を考えればいいだけの話。だから思い切りやって来い!!!」

アイクがそう言ってくれるんであれば・・・・・。

まあ、もはや、高みの見物を決め込んだのか、四人で車座になって座って、水筒の中から水をがぶがぶと飲みながらだと、あんまり様にならないんだけれどもね・・・・。


「ちくしょう!!!やってやるさ!!!やってやるから僕の分も残しておいてよね!?」

「分かった、分かった」

「頑張ってー」


どいつもこいつも・・・・!!!いいさ!!やってやるさ!!!でも、所詮、僕が、近づけば、近づいただけ逃げるに決まっている!!!


・・・・なんて思って、恐る恐る一歩を踏み出したのに。


「なんで!?なんで逃げないのさ!?」

ゆっくり、ゆっくり。

しかし、着実に近づいて行っていると言うのに、未だにその場にとどまったままで、後退する気配は一切ない。

「ちっきしょう!!頭に来たぞ!!僕はこんな骨と皮だけの魔物にまで舐められるのか!?」

どんどん、どんどん。

敢えて足を速めてみても、ぴくり!!と一瞬動く気配を見せたが、それでも、何だこいつ??みたいな胡乱な目でこちらを見つめるだけで、動く気配は、まだ、ない。

「ふっざけやがってえええ!!!!!」

声を限りに、叫べば叫ぶほど、あれ??なんだろう??哀しいかな、小物臭がしてくるのは僕だけなのかな・・・・??

ついに動いたか!?と思ったのに・・・・。

地面にうつ伏せに横になっていた敵が、立ち上がっただけで、逃げる構え、何かが起こったら一瞬でそそくさと逃げ出せる体勢になっているだけで、未だに動きはない!?


彼我の距離が段々、段々と縮まっていく・・・・・。

否が応にも高まっていく緊張感。

 どこまで近づける!?と全身の神経を集中する僕と、逃げ出すか!?それとも迎え撃つか!?悩みに悩む敵。


・・・・それにしても歩きづらい土地だ!!きめの細かい砂に足がとられて、思うように動かない。何なら、体がぶれて、まっすぐに走れる気がしない!!

・・・・こんな中でよくもまあ、軽快に、飛ぶように動き回れるものだ。


心中で敵を称賛してしまうその間にも、どんどん、どんどんと近づいて行き・・・・。

彼我の距離が、あと二十メートルを切っただろうか??

 

・・・・あと少しが遠い・・・・!!!平地だったら、こんな距離、一瞬なのに・・・・!!あとちょっとが・・・・!!!


息は上がるし、熱い空気は呼吸するたびに、胸に痛い。

何なら、ぜえ、ぜえ、と今すぐにでも倒れそうな子供が近づいてくるから、敵も、逃げ出さないのかもしれないが・・・・・。

額から、滝のようにだらだらと流れ落ちる汗が、目に入って、視界を歪めるし。唾すらも、もう乾ききって本当に不愉快だ!!!


・・・・・あと十メートル!!!ほんのちょっとだ!!!ほんのちょっとなんだ!!!!


しかし、その時。

敵にようやく動きがみられた。

立ち向かって来てくれればいいものを。

まさか、僕にくるりと背を向けて、逃げ出したではないか!?

あとほんのちょっとだったのに・・・・!!!あと少しで届いたのに・・・・・!!!それはそれでむかつくけれども、せめて向かって来て欲しかった・・・・・!!!


・・・・・そしたら、魔法なんて使わなくても済んだのにさ!!!


溜めに、溜めた鬱屈を払うように。

ここまで走ってきていく間に、必死に集中し続けて、し続けて・・・・。練り上げて、練り上げて・・・・。もう目の前、あと少しというところで逃げ出した敵を、殲滅するための、追いつくための魔法が、解き放たれる。


嫌に明確になった視界の中で、躍動するように、空中に制止した敵の、無駄と言う物を極限まで一切そぎ落とした体が露わになる。

これに勝とうとしていたなんて・・・・・。

無茶にも程がある・・・・・。そもそも体の造りからして違いすぎたんだ・・・・。速度で、持久力で、どう足掻いても敵う相手ではないことは一目に分かる。

それでも・・・・!!!

勝てる!!!

確信を持って言える!!!

僕と敵の距離は、およそ十二メートルくらいか??

あの一瞬で、僕が魔法を発動させると意識する一瞬の時間で、すでに五メートル以上離されていることの恐ろしさよ!!

でも、そんな一切合切をすべて無視してねじ伏せることができる魔法の恐ろしさよ・・・・!!


まるで、その瞬間だけを切り取って、固定してしまったかのような、不気味な世界の中で、僕だけが、歩く。

いや、僕としては走っているつもりだ。

それでも、僕が体を動かすよりも、世界を意識し、認識する方が、圧倒的に速いから。だから、自分の体ですらも、思う通りに動かないこのもどかしさよ!!!

それでも。そんな中でも、一歩、一歩と確実に近づいて行き。


最初の一匹。

逃げ遅れたのか??気の毒に・・・・・。一番後ろを駆けていた一匹を、斬り殺す。

その瞬間のあまりの手応えのなさに、僅かに驚いたのもつかの間。

流れる剣は、そのまま、ほんの一足前を走っていた二匹をまとめて斬り殺す。

やっぱりそうだ!!

あまりにも弱い・・・・・!!いや、弱いなんてものではない!!弱すぎる・・・・!!!捕まえてしまえばなんてことはない。

手応え、とか、そう言う物が希薄すぎて、絹、衣を裂くように、よりも軽い。

まるで・・・・。

そう!!まるで、素振りでもしているみたい!!!何もない空気を斬っている、そんな感触だ!!!


・・・・だからこそ、本当に斬り殺せているのか不安になるところだけれども・・・・。


次は、五匹が並んでいる。

その時からか??

違和感を、ほんの僅かな違和感を覚えたのは・・・・・。


・・・・・動いて・・・いる??


ゆっくり、ゆっくり過ぎて分からなかったが。

思うように動かない体を、必死に動かして、それでももどかしい僕なんかよりも、よほど、遅くて、気付くのに時間がかかってしまったけれども・・・・・。

ほんの少し、ほんの少しずつ。

敵の肢体が、わずかに、ほんの僅かに、大地を蹴り、空を駆け、前へ、前へと力強く、動いている!?



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