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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
傭兵時代
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逃亡―暗黒森林三

命を助けられた四人の剣闘士たちが、途端に騒ぎ出し、口々にローグを褒めるが、当の本人は仏頂面だ。

 「命を助けられた。改めて感謝する。俺はこの班のリーダーでガルフだ!そして吹き飛ばされた二人が・・・」

 「カイトだ。よろしく」

 「ネルだ。ありがとう」

 紹介された二人が交互に僕らに手を差し出し握手を求めてきた。

「そんで、もう一人が・・・、ハスタ!」

 呼ばれてローグの後ろからその体を支えていた青年がひょっこりと顔をのぞかせる。

 「どうも!助けていただいてありがとうございます!」

 一番年若い彼は、僕よりも背丈が低く、幼く見えた。

 「あれ?僕が初めて暗黒森林に狩猟に来たとき「海」の話を聞いた?」

 途端にガルフの表情がぱっと明るくなった。

「おう!覚えてくれていたか!いや、あの時は頼りないほんとに小さなガキだったのが、今ではこんなに立派に大きくなってなあ・・・」

 しみじみと語るガルフに僕は気恥ずかしくなる。

 「ガルフ、それじゃあ親戚のおじいちゃんみたいだよ」

 「ガルフさんも年を取りましたね・・・」

 「お前ら・・・」

 なんだかひどく懐かしいと思って笑ってしまった。

 「ところでハスタはいくつなの?」

 急に話を振られたハスタは少し驚いた表情を浮かべる。

 「僕ですか?僕は今年で十八歳ですよ」

 「なんだ・・・。じゃあ僕より年上なんだね」

 「そうですね」

 ハスタが神妙な顔で頷く。

「じゃあそんな丁寧な話方しなくてもいいよ」

 その瞬間、ぶんぶんと頭を横に振りながら必死で否定してきた。

 「いえいえ!そんなことできませんよ!命の恩人である上に、シリウスさん?にはずっと前から憧れていましたから!」

 え?その言葉に思わず僕は目を見開いてしまった。

 「え?僕にあこがれてるの?」

 戸惑う僕にぐっと顔を近づけてくる。

 「そりゃそうですよ!年若い剣闘士たちでシリウスさんに憧れない剣闘士はいませんよ!あんなに強くて・・・、そしてとても優しくて・・・」

 なんだか自分のことじゃないようなむずむずする気持ちがした。

 「とにかく!僕ら剣闘士にとってあなたは憧れなんですよ!」

 複雑な表情を浮かべる僕の背中をばしん!と力強くガルフが叩いた。

 うっ、と息が詰まるほどの強さで叩かれ、思わず咳き込む。

 「よかったな坊主!俺が初めて会ったときは兄貴の後ろに隠れてびくびくしているようなガキだったのに・・・。こんなにも強く、立派になってな!」

 「ちょっと!ガルフさん!シリウスさんが苦しんでいるじゃないですか!そんなに強く叩かないで下さいよ!」

 僕の様子に目の色を変えてハスタがガルフに詰め寄っていく。

 興奮するハスタを何とか宥めながら、今だに地面に横たわるビックフットをまじまじと観察しているアイクに話しかける。

 「何か気になる物でも見つかった?」

 アイクはしばし沈黙したのち、ふるふると頭を横に振る。

 「いや、なんでもない」

 ガルフが死体を見下ろす。

「しかし、こいつは・・・。どうする?」

 「こいつの角と骨は頑丈でしなやかなうえ、下手な金属よりも固い。毛皮は寒さに強く、刃物による斬撃で傷つきにくいから防具としても重宝する。なにより角は魔力を蓄える性質をもっているから武器に加工できるぞ。もちろんすべて高値で取引されている」

 アイクの説明に皆が一瞬目を輝かせるが、ゆっくりと落胆の色が深くなる。

 「そうは言ってもなあ・・・」

 「この大きさじゃあなあ・・・」

 「下手に持ち歩いたら荷物になるからなあ・・・」

 僕らは、力づくで自由になっただけで、恐らく帝国に追われる身だ。できるだけ手荷物を少なくして、身軽なほうが逃げやすい。とは言っても未だ追手がくる気配はみじんもない。もちろん気を抜くつもりはないが、それでもここまで順調に逃げ切ってしまえばよほどのことがない限り捕えられないだろう、と少し油断してしまっている。

 だからこそ、荷物が増えることと、身軽でいることの葛藤が心の中でせめぎ合う。

 だが、その葛藤も、アイクの一言で、一瞬で無くなった。

 「うちの取り分は毛皮を人数分の上衣にするだけの量と、片方の角と、そして魔石だけでいい」

 そう言うと、一瞬で心臓近くにナイフで切り込みを入れ、手を差し込むと、拳大の大きさの鈍色に輝く魔石を抜き取った。

 「もちろん俺たちが倒したんだから、魔石の所有権は俺たちでいいよな?」

 ガルフたちは気にしている風もなく、にこりと笑みを浮かべる。

 「ああ!命を助けてもらったんだ!そんなの安いもんだ!」

 「それよりガルフさん、俺たちは残ったこいつをどうします?」

 「うむ・・・」

 ガルフは一つ考え込むと、指示を出す。

 「よし!うちもアイクと同じように、片方の角と毛皮を人数分の上衣にするだけの量でいいだろう?」

 「あの、アイクさん」

 ネルが角の剥ぎ取りをしているアイクに近づく。

 「どうした?」

 「この魔物の肉は食べられるんですか?」

 アイクはナイフを動かす手を止めない。

「いや、食べられない」

 少し残念そうなネルをしり目に、アイクの手はすらすらと頭部と角を切り離していく。その動きには淀みがない。一見簡単そうに見えて、非常に難しいことを僕は知っている。

 僕も、毛皮を剥ぎ取ろうとナイフを当てているが、非常に固く、厚い皮が刃物の侵入を容易に許さない。

 それでも何とかナイフの刃先を突き入れても、血で滑ってなかなかうまく刃先を通すことができない。

 僕と同じようにセルバも苦心しているが、ローグが思いのほか手際よく毛皮を切り取っている。それがただ怪力によるものなのか、手慣れているからなのかは分からないが・・・。

 一通り剥ぎ取りが終わると、アイクが苦戦している四人に聞く。

 「この先に川があったと思うんだが、どうだ?」

 ガルフが顔をあげると、額から流れ落ちた汗がしたたり落ちた。

 「ああ、あるぞ。ただ、俺たちはそこでこのビックフット?この魔物に遭遇して、見つからないように逃げようとしたんだが、見つかってしまってな。必死に逃げてきたんだ」

 「そうなのか・・・。それ以外に魔物や魔獣はいたか?」

 「いや、それ以外には特に見当たらなかったな・・・。もしかしたら気が動転していて、気付かなかったこともあるかもしれないが、視界に入る中にはいなかったな」

 「そうか・・・。ありがとう。気を付けろよ!」

 そういうと、アイクはくるりと背を向け歩き出した。

 「なんだもう行くのか?俺たちも川に向かうから少し待ってくれよ!」

 ガルフが立ち上がって慌てたように叫ぶ。

 くるりと振り向いたアイクは苦笑いを浮かべている。

「川で休んでいるから、すぐに追いかけて来いよ。この辺に生き物の気配はないからまだもう少しなら大丈夫だと思うが、急がないと血の匂いにひかれて生き物が寄ってくるぞ」

 「そうか・・・分かった!すぐに追いかけるから!」

 その言葉を背にずんずんと歩き出したアイクを追いかけ僕らも歩き出したが、僕は後ろ髪を引かれる思いがした。

 「ねえ、アイク。手伝わなくてよかったの?」

 「ああ、そんなにいろいろ手助けしていたら、この先別れたときにあいつのためにならないからな」

 「ふーん、そんなものなの?」

 なんだか少し納得できない気がした。

 「ああ、そういうもんだ」

 ただし、アイクの返事は取り付く島もない。それに、セルバとローグを見ても、僕の考えではなく、アイクの考えに同調しているようだった。であれば僕はこれ以上何も言うことなどできない。

 少し進むと、さらさらと水が流れる音が聞こえてきた。

 木々に覆われ、時には目の前を遮る枝を切り開きながら進むと、不意に視界が開けた。

 川幅は約十メートルほどで、対岸を見渡せる大きさの川が目の前を流れている。

 「うわー!」

 ゆっくりと岸を下り、川面に近づくと、透き通った水がさらさらと南に向かって流れていっている。あまりにも透き通った水のため、水底を見通すことができるほどだ。

きらきらと頭上から差し込む日の光を反射し、煌く水面に目を細めながら、ゆっくりと覗き込むと、何かが、すうっ、と目の前を通り過ぎていく。

 小さな魚だった。よく目を凝らすと小さな魚の群れが南から北に向かって、必死に身をくねらせながら流れに逆らうように川を上っていく。

 急に喉の渇きを覚えた。すっ、と静かに、魚を驚かせないように両の手のひらを落とし、水を並々に湛えると、口元に近づけてごくごくと喉を鳴らしながら飲む。

 冷たい水が、少し熱を持ったように火照った体に心地よく染みていく。

 二度、三度と水を飲み、人心地着くと、ふと後ろを振り向く。

 後ろではセルバとアイクが手慣れた様子で木を組み、火打石を打ち種火をつけている。

 「それ僕も欲しいな」

 アイクとセルバの手元を見つめる。二人の両手には石が握られているが、片方の石は炎の色を映しこんだ様に深い赤色をしている。その石を、もう片方で握る真っ黒い石で打ち付けるだけで火花が散り、それを藁に移す。簡単に火がついている。

 「これか?」

 僕の視線を感じ取ったのか、アイクが手に握る火打石を持ち上げて見せた。

 「この真っ黒の石はそのまま黒石って呼ばれる石だな。単純に固いから皆大体これを使っている。壊れにくいからな。そしてこの深紅の石が炎の魔石だ。生活に根差しているものだから、意外と安価に買えたりするぞ。もちろん、使えば使うだけ欠けたり、中に溜まっている魔力が少なくなっていくから、永遠に使える物でもないけどな」

 「へえー。でも、魔石って魔物とか魔獣からしか取れないから高価なんじゃないの?」

「そんなことはない。魔獣や魔物から魔石は取れるが、魔石と言うのはそもそも魔力溜まりに発生する物だ。だから、魔力が濃いこの森林だったり、レッドストーン山脈の火山地帯でも魔石が採れたりするぞ。なあローグ?」

 話を振られたローグは木の枝を二本立てながらその間に棒を一本かけ、先ほど剥ぎ取った毛皮を吊るしている。

 「ん?ああ、ミラストーン王国では、火口で採掘できる火の魔石も主要な資源の一つだったな」

 「何してるの?」

 「これか?これは、毛皮をなめしているんだ。腐らないようにするんだよ。たき火に当てて煙でいぶしながら乾燥させるんだよ」

 「ふーん・・・。ローグも何気にこういうことに慣れてるね。どうして?」

 「よく暗黒森林には狩猟で来ていたのさ」

 「じゃあ僕らと一緒だね」


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