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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
奴隷時代
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戦争七

まずい!誰もがひやりとし、動きを止めたが、リックが叱咤する。

「皆腰を落として盾を構えろ!その身を隠して、全身で抑えろ!先頭の俺たちは衝撃に備え、後ろは俺たちを支えろ!」

皆の体が強張り、衝撃に備えた瞬間、どーん!と力任せに殴り飛ばされるような強い衝撃を感じた。

思わず体が吹っ飛びそうになったが、後ろで背中を支える仲間が必死に抑えてくれたので吹き飛ばずに済んだ。

しかし次に感じたのは肌を焼くような熱さだ。盾越しであるにもかかわらず、周辺一帯の温度が異常に上がったように感じられた。

もちろん爆心地に近い僕たちはただではすまず、盾の表面が真っ赤に赤熱し、持ち手の部分まで熱が伝わり、思わず盾を取り落としそうになる。

間をおかず弓矢が飛来するが、後列の人たちが、すぐに盾を構えたまま最前列に入り、僕らを守る。その間、最前列で攻撃魔法を受け止め、耐えきって見せた僕たちは最後尾に連れていかれ、そこで軽く火傷した手の応急処置をする。

「ほら、これを手首に塗っておけ」

そう言ってアイクがみんなに渡してきたのは、どろりとしたきつい匂いのする小さな革袋だった。

赤く焼けただれた手に塗ると、ひんやりとした感触が心地よかった。

しかし、それでも痛みを持った手はずきんずきんと鈍い痛みと熱を持ち、すぐには盾を構えることができないだろう。

しかし、そのすぐ後ろに新たに川を渡った奴隷たちが追従する。

攻撃魔法で狙い撃ちにされないように一定の間隔を置きながら、僕らは皆で守りを固め、必死に城壁まで向かう。

城壁に近づけば近づくほど、攻勢が強く、激しくなっていく。

今までは弓と攻撃魔法だったのが、そこに投石が加わり、盾にぶち当たった勢いの付いた石は容易に大人を吹き飛ばす。

そこに狙いすましたかのように、弓矢が飛んできて、わずかに開いた隙間を縫うように矢が飛来し、味方の体を傷つけていく。

傷つき、それでも必死で前進する者もいれば、運悪く致命的なけがを負い、後ろに運ばれて行く者、さらに運悪く、そのまま死んでしまう者まで出てきた。

更に、攻撃魔法が一定の間隔を置いて飛来し、隊列が乱れたばかりに火炎の餌食になり、生きながら炎にのまれ、息絶える者も出てきた。

「あと少しが遠い・・・」

誰もがそう思ったことだろう。

じりじりと飛来する特大の火球により、戦場の温度が急激に上がるような錯覚を覚える。皆上半身は裸になっているが、額から、胸元から、大粒の汗がしたたり落ちる。

必死に前進する皆の表情は苦痛にゆがんでおり、後ろから供給される味方の増援が未だ枯れぬ士気を保っているが、これが破たんするのはそう遠くない未来のことに思えた。

まだか・・・。まだ着かないのか・・・。

不安と焦りと恐怖から駆け出しそうになる足を必死に抑える。

頬を流れ落ちる汗が、顎を伝い、地に落ち点々と、進んできた道に跡を残していく。

皆が皆、前を向き、上を見上げ、強大な敵に立ち向かう。

そんな中、ふと、左側から歓声と怒号が響き渡った。

思わず、意識がそちらに向く。

まずい!と思ったが、それは敵も同じようで、一瞬弓兵も、投石部隊も、魔法使い達も皆、左側に視線を向けていた。

それは、装備の差か、はたまた、連度の差か、そこには城壁に張り付き、梯子や縄をかけ、歩哨の上に登らんとする帝国兵たちの姿があった。

途端に歩哨の上があわただしくなる。

意識も兵力も、今まさに、侵略しようとする兵に気を取られた隙に、数泊の空白の間に、リックが叫ぶ。

「進めええええ!」

その一瞬を逃すまいと僕らはいっせいに駆け出した。

それは、右手側も同じだったようで、慌てて、中央に陣取る敵兵が、こちらを向くが、中央に加え右手側も城壁にたどり着いた帝国兵、そして僕たち奴隷が懸命に城壁に取りつき、侵略が始まる。

更に間をおかず、必死で川を渡った破城槌が十数メートル手前からその勢いを増し、どーん、と正面城門に突撃した。

一瞬わずかにたわんだ城門は、しかし、すぐに元に戻るとまるで何事もなかったかのように、小動もせずに、存在し続けた。

「よし!梯子と縄をかけろ!弓に自信がある人間は、今から援護射撃をしろ!こちらを射貫こうと身を乗り出した敵兵を確実に射殺せ!」

そう言うとリックは、アイクと一緒に地面に片膝をつき、弓を構えた。

「弓使えるの?」

兄が困惑しながらリックの前に立つ。

「当たり前だろうが!リオンとシリウスは俺とアイクの前に立って盾で守ってくれ!」

「分かった!」

アイクは僕が前に立ったことなどお構いなく、弓を構えると、常と変わらぬ神速の早打ちを三連続上空にはなった。

そこには破城槌に向かって今まさに火矢を射掛けようと身を乗り出した弓兵三人の姿があり、狙い違わず眉間を一矢にて打ち抜かれた彼らは、その高い歩哨から、力をなくしたように、地面へと向かって落ちてきた。

「破城槌を守れ!狙われているぞ!」

少なくない数の仲間が、破城槌の周りを囲み、守りに徹する。

「登れ!援護する!」

弓を叩きながら請け負うリックと、アイクに、今まさに梯子や縄をかけ、登らんと躊躇う奴隷たちは一つ頷くと、盾を放り投げ、剣を手に手に登っていく。

十メートル近く見上げるばかりの高さを誇る城門を一息に昇りきる奴隷たちに向け、身を乗り出し、弓を射掛けようとする敵兵は、リックやアイク、そして弓を得意とする奴隷たちに一瞬で射貫かれ、絶命してく。

弓を操る奴隷たちの中にはセルバも含まれていたが、彼らは総じて弓の扱いにたけていた。平時から狩猟を行う僕らは、弓の得意な人間になると、ほとんど一矢も打ち漏らすことなく、獲物を弓で仕留めることができる。

それはこの場においても強みとなり、歩哨への侵攻は左右も含め、中央の奴隷たちが最も早く天辺にたどり着いた。

中央は弓の連度の差で、左右は人数差で一気に戦線を押し上げようとしている。

しかし、梯子を、縄を、昇りきった奴隷たちは、歩哨の上で待機していた槍兵に袋叩きに叩かれ、突かれ、ほとんど何もすることができないまま、その身を貫かれて宙に身を投げ、地面にたたきつけられる。

歩哨の上での徹底的な抗戦によって中央も左右も変わらずに被害が拡大していく。

「どうする?」

問われたリックは、後ろに控える奴隷たちを見据えると、意を決したように、弓をしまい、腰に佩いた鞘からすらりと剣を抜き掲げる。

「我はと思う者共は俺に付いて来い!今からわが身命を賭して、戦線をこじ開ける!」

「俺も行こう!」

セルバが名乗りを上げる。

「俺も行くよ!」

兄が名乗りを上げた。

皆の視線が兄に集まる。

リックは常と変わらぬ面差しで兄を見つめていたが、「行けるか?」と一言問うた。

「ああ!」

力強くうなずく兄の表情に気負いの色は全くなく、その表情を見て僕は何の確信もなかったが納得してしまった。

――ああ、やってのけてしまうんだろう、そして、生きて帰ってくるんだろうな、と。

それは皆も同じだったのか、どこからも反対の声は上がらなかった。

いや、リックが何も言わなかった時点で、もとより想定されていたことだったのだろう。

兄が行くなら、と何人かが名乗りを上げたが、十人は集まらなかった。

僕は名乗りを上げようかどうか悩んでいたが、そんな僕に、兄が声をかけてきた。

「お前はここでアイクを守っていてくれ!」

そう告げると、梯子に向かっていった兄の背を見つめながら、憧れと、同時に少なくない嫉妬の感情が芽生えてしまった。

複雑な心境で見守る僕の横でアイクが、彼らを上に届けようと、必死で弓の弦をはじく。

その音は、戦地を切り裂くように甲高く鳴り響き、過たず、身を乗り出し、彼らを射落とさんとする敵兵の頭を射貫いていく。

リックが歩哨の上に着いた。

彼に向かってその身を貫かんと無数の穂先が繰り出される。

危ない!と思う間もなく、その身を貫く槍の穂先を、リックはくるりと身を翻して躱すと、その脇腹に突き出されたそれらを束ねて抱え上げる。

槍兵たちが掴まれた槍の穂先を引こうと力を込めた瞬間、ぱっと腕を離すと、彼らは後ろにたたらを踏んで、リックの眼前に隙を晒した。

その隙を逃さず、一瞬で間を詰めたリックは、目の前にいた兵の鎧に覆われていない喉元を剣で撫で斬りする。

そして、右足を振り上げ、横に並ぶ兵の顔面に前蹴りを叩き込む。

鼻血を吹き出しながら倒れる兵の後を追うように突進するとくるりと体の向きを変え、近間にいるリックに向かって石突を放とうと槍をまごまごと回転させる兵たちを切り伏せていく。

セルバが歩哨の上に着いた。

突き出される無数の槍の穂先を、正面に構えた少し大ぶりの剣で器用に弾くと、人一人通れる大きさの隙間を作り、その隙間に身を投げ出す。

 正面に立つ槍兵に駆け寄り、その喉元に深々と剣を突き立てると、ぐらりと力を失い後ろ向きに倒れる兵の腰からすらりと剣を引き抜く。

ぐんっ、と喉元から引き抜いた剣と二刀をもって、横に立つ左右の兵の顔面めがけて叩き付けた。

それは、口元にあたり、少なくない出血と、欠けて、折れた歯が飛ぶ中、左手に持つ剣を思いきり正面に投げつける。

今まさにセルバの身体を貫かんと迫る兵士の下腹に深々と突き刺さり、ゆっくりと崩れ落ちる彼の手から槍を奪い取ると、左右に居並ぶ兵士たちを叩き、斬り伏せていく。

兄が歩哨の上に着いた。

兄が歩哨の上に足をかけると、その瞬間を狙うように、槍の穂先が突き出された。

しかし、いっせいに突き出された槍の穂先を見て兄は全く動じることなく、直前まで引き付けると、ふわっ、と飛び上がった。

空を切る槍の穂先の上に兄は降り立つと、今まさに手元に引き戻さんとされた槍の穂が、たわみ、ばきばき、と音を立てて折れ飛んでいく。

一瞬で間を詰めた兄が正面に立つ槍兵に当て身を食らわせ吹き飛ばすと、左右の兵士をくるりと体の回転を利用して二人同時に撫で斬りする。

セルバと同様に、ふわりと倒れる兵士の腰から剣を抜き取ると、二刀を構え、突き出される石突を、繰り出される穂先を器用に両手に持つ剣で弾き、逸らし、もう一方の剣で、もしくは蹴りをもって、兵士たちを切り倒していく。

歩哨の上に上がった力のある剣闘奴隷たちはその身をもって、血路を切り開き、続けて登る剣闘奴隷たちは混乱する戦場にどんどんと広がり、一気に混戦となる。

中央が混戦となったことで、一気に中央に守備隊が押し寄せ、それを皮切りに手薄になった左右からどんどんと帝国兵の侵攻を許していく。


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