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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
奴隷時代
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奴隷一

【第一章】奴隷時代

うっそうとした木々が生い茂り、多くの魔獣や魔物がひしめく広大な森が、大陸西部に広がっている。

その森を、原住民は生物が生まれたままの、ありのままの姿で生きる「原始の森」と呼び習わし、また大陸の国々からは、危険な魔獣や魔物が跋扈し、森深く分け入り、生きて帰ってきた者がいないとされることから「暗黒森林」と呼ぶ。

その大森林はその日、平時とはまるで異なる夜を迎えた。

大陸と大森林の境界近く、森を入ってすぐの原住民が暮らす集落に向け、揃いの鎧を身にまとった兵士が歩を進める。

集落で寝ずの番をしていた遠見の村人が真っ先に気付いた。

火急を知らせる物見の鐘が鳴らされ、多くの村人が起きだしてきた。

そこに彼らが目にしたのは、赤々と燃える無数の灯火である。

おどろおどろしく鳴り響く太鼓の音。

地に鳴動する兵士たちの軍靴。

天にこだまする開戦の雄叫び。

村人たちはただ、どこか非現実的な光景に我を忘れ、見下ろす村の端々から聞こえる戦端の音に心臓をつかまれたような言い知れぬ恐怖と不安を感じながら、誰かが泣き崩れる声も耳に届かず、ただ茫然と戦火に沈む村々を眺めていた。

その日、僕らの村はこの世界からなくなった。


「今回の遠征はあんまりうまみがないですね隊長。」

下卑た笑顔を顔に張り付けた兵士の一人が、彼らより一段上等な甲冑をまとう精悍な男性に話しかける。

「無駄話をする暇があるなら手を、足を動かせ。今回の遠征は下等な原住民族どもをこの暗黒森林から追放し、われらが帝国の版図を広げるための足場を作るためのものだ。決して失敗するわけにはいかないということをゆめゆめ忘れるな。」

隊長と呼ばれた男の顔には、逃げ惑う人々に対する隠しようのない嫌悪と侮蔑の感情が張り付いている。

「へいへい。隊長様はお堅いことで。どんなに相手が野蛮で頑強な原住民族だったとしてもこの兵数なら多勢に無勢でさあ。ほら、もう大勢は決してますぜ。」

その男の言葉は正しく、村々はすでに炎に包まれ、通路は切り殺された人々の死体で埋まっている。

「だとしてもだ。野蛮人共め、夜中の奇襲作戦だというのに思いのほか強い抵抗があり、兵士の消耗が激しい。最後まで気を抜くな。」

「もう村の男どもはほとんど残ってませんぜ。逃げたのは戦えない女と動けない老人共でさあ。ガキ共も手に手に武器もって襲ってきやがりましたからね。」

「だからこそ最後まで決して気を抜くな。」

「へいへい。」

逃げた人々を追う兵士の列に加わる彼の背に、隊長と呼ばれる男は声をかける。

「ただし、捕まえた女どもはお前らの好きにしていいぞ」

その言葉にあたりから歓声が沸き起こる。

この遠征は帝国の大勝利に終わり、捕らえられた女たちは帝国の奴隷として売りさばかれ、老人たちは全員殺された。

あまりにも幼かったため戦闘に参加せず生き残ることができた唯一の男である二人の兄弟は帝都の南西に位置する「暗黒森林」の近く、剣闘の町「スパーダ」に連れていかれ、奴隷剣闘士として生きることとなった。しかしそこは死んでしまったほうがましだと思えるほど苦しく辛い地獄のような場所だった。


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