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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
群雄時代
145/681

会談五

「貴様ら!!!!」

びりびりと体が、広間全体が震える。

「この期に及んで酒を飲み、このような会談の席で、人様に迷惑を及ぼし、挙句怪我を負わせるなど一体どんな愚か者だ!!!」

仁王立ちし、一言一言叩き付けるように投げかけられた問いは、全てドネア王国の兵たちに対してのもの。

「もしかして・・・・?」

だから、僕は隣に立つアイクに聞いてみた。いや、聞こうとしたら、その先を遮るように、先回りして告げられる。

「そうだ。あれが【ドネア王国】で海と陸最強の男、と呼ばれているルクノバ将軍だ」

ルクノバの迫力に、しんと静まり返る広場の中で、ドネア王国の外交官、ラルフの言葉だけが響く。

「そこをどけ。よもや貴様はそこにいる者共の肩を持とうと言うのか?」

それはひどく静かな声だった。あまりにも冷たく、静かな声に、熱気がこもった室内にあって、自然、震えがこみあげてくる。

「貴様こそ!!国を代表するはずの外交官たる男が何たる無様をさらしている!?血迷ったか?この馬鹿者が!!ここをどこと心得る!?我らが国ではないぞ!!いかな傲慢に身の内を支配されようとも、己を律しろ!!!さもなくばこの場で私が貴様らを止めるため対峙せねばならん!!」

それでも一歩も引かぬルクノバ。そして、睨みあうことしばし、ラルフは、それでもルクノバが引かぬと分かると、ゆっくりと背を向け、踵を返し、広間から姿を消した。

ルクノバはその後姿をしばし見つめ、その姿が消えて見えなくなるまで見送り、そろそろと息を吐き出した。そうして、緊張を解くと、くるりと振り返り、バルフ王国の兵士たちに向きなおった。

思わず身を固めた兵たちに、ゆっくりとルクノバは頭を下げる。

「我が国の者共が無礼をしました。お許しください」

それに慌てたのはバルフ王国の兵たちだ。いつまでも頭を上げないルクノバに何とか頭をあげてもらうと、ルクノバは次いで、怪我をした兵士の容態を気にし始めた。

しげしげとその額の傷跡を確認していたが、しばらくすると、視線を上げる。

「うむ。この傷であれば、それほど深くはないから、すぐに塞がるだろう。どうにも酔っぱらって前後不覚になったようだな。一体どうしたのだ?」

ルクノバの問いかけに、バルフ王国の兵士は困惑したような表情を浮かべている。

「それが・・・・」

わずかに言いよどんだ彼らにその先を促す。

「それがですね。こいつが酒に弱いにもかかわらず、こうして飲んでしまって・・・、酔っぱらって、自分の体を支えきれなくなって倒れそうになり、思わず、手を伸ばした先に・・・・」

今度は、ルクノバが渋い顔をする。

「その手を伸ばした先に我が国のラルフ外交官が立っていて、運悪くぶつかってしまった、と言うところか?」

恥ずかしそうにうつむく、バルフ王国の兵たちは、しかし、すぐに顔を上げると、少し言い訳するように言葉を並べ始めた。

「そうです・・・。ですけれども!すぐに謝りましたし!!何より、ぶつかった、とは言っても、何かがあったわけではなく、ほんの少しラルフ殿がつんのめるように体勢を崩した程度なのですよ!?それなのに!!彼と来たら、倒れかかってきたこいつを突き飛ばしたと思ったら、腰に佩いていた剣の柄で思い切り頭を叩き付けたんです!!あまりにも短気とは思いませんか!?」

今更ながら、悔しさと怒りがこみあげてきたのだろう、声高に言葉を並べる彼らの口調にも、表情にも納得いかない、という不満はありありと見て取れた。

そして、その話に耳を傾けていた僕らは、もちろん、彼らの肩を持つ者が大半だった。

それにはルクノバも同様に感じることがあったのだろう。

再びゆっくりと頭を下げた。

「重ね重ね申し訳ない。我が同胞が、宴の席に水を差した。今後の関係に傷を付けたくはないから、どうにか許してはもらえないだろうか?」

真摯に頭を下げるルクノバに、僕らは、称賛を禁じえなかったが、どこか腑に落ちない心持がした。

そしてそれはバルフ王国の兵たちも同じだったのだろう、不承不承ながらも、ルクノバ殿が頭を下げるのでは、と言って、今回の件はこれ以上追求しないこととその場で約束していた。

それを最後まで見ていた僕らは、いや、僕は、正直、ほっ、と安堵した部分が大きかったが、それでも、どこか、不吉な感じがした。それは、うまく説明できない物だったが、それでも言葉にするとするなら、最初から最後まで見せたラルフ外交官の冷たい冷めきった表情には、酔いなど一切感じなかったということと、何より、必死に激情を抑えている、と言うのだろうか?そんな感覚を受ける彼の態度に、わずかに恐怖を禁じえない。

―――いったい彼が浮かべていたのはどういう感情なのだろう―――?

そして、この場から立ち去って行ったラルフ外交官の後を、追うように消えていったドネア王国の兵士の数は少なくない数おり、彼らは事の騒動が起こってから終結するまで終始、辺りを見下すような、それでいて憤怒の表情を浮かべていて、それが意味するところを僕は、いや、僕らはまだこの時、知らずにいた。


―――そしてついにその意味を知る時が来る―――。


それは、いつものように会談が行われていた時の話だった。

もうすでに一週間以上たち、明後日には当初の取り決め通り二週間、という時期で、ようよう会談は終わりに近づいていたはずだった。

僕らは誰もが、今回の会談はつつがなく終わることを疑ってはいなかった。


―――それを仕掛けた、彼ら以外は、誰も、全く疑ってはいなかった―――。


そして、それは突然訪れる。


昼を少し過ぎた頃合いの話だっただろうか?突然、王城の外があわただしくなった。

何事か?と思い僕ら全員が、視線を入り口の扉に彷徨わせていると、最初はくぐもった声だったのが、次第に時間を経つにつれ、焦ったような怒鳴り声に変わっていく。

そしてその互いの怒鳴り声は、次第に大きくなり、もはや、最後には、僕らのいる広間に筒抜けになった。

「会談が行われている!!!??そんなことどうでもいいんだ!!!!兎に角領主様に!!!領主様に会わせてくれ!!!!」

「ならん!!!何があったか分からぬが、今は五国の方々全員が集まって会談が執り行われている!!!とても重要な会談で東の五国の今後を占うものなのだ!!!!何人もその侵入と、そして邪魔をされないように厳命されている!!!!」

「我が国の大事なんだ!!!!いや、もしかしたら他の三国も巻き込まれるかもしれない!!!!兎に角ここを通してくれ!!!!」

もはや、僕らは、入り口の問答に誰もが耳を傾けていた。

広間はぴたりと静まり返り、もしかしたら、上の会談が執り行われている部屋にもこの声は届いているんじゃないだろうか?

「ええい!!!!ならん!!!兎に角終わるまで待つのだ!!!!それにその体、立っているのも辛いのではないか!!??応急手当てをしたほうがいい!!!」

門衛の言葉に僕らはさらに困惑する。

と言うことは、今、ここに駆け付け、城門の前で目通りを願っている兵士は傷だらけ、と言うことか?

しかし、その傷だらけであると思われる兵士が次に放った一言に、もはや、それどころではいられなくなる。


「そんなことどうだっていいんだ!!!!!ここで、五国が会談を行っている、と言うのなら、一刻も早くしなければいけないんだ!!!!!裏切り者が!!!!裏切りの国が!!!!出たぞ!!!!!」


ぴたり、とすべての人間の動きが止まった。それは、門衛もそうなのだろう。今の今まで、大声で口論を繰り広げていたにもかかわらず、二の句が継げないのか、返答が全くなくなった。

そしてそれを好機と見たのか、火急を知らせに来た兵は、その場で、この王城全てに轟くような大声で、喚き散らす。


「今ここにいると言うのなら!!!!恥を知れ!!!!!この東の【海賊】共!!!!!貴様らごとき犯罪者共が!!!!貴様ら全員ここで殺してやる!!!!帝国と・・・・・。帝国と内通しやがったな・・・・!!!!!!」


 ―――今、彼は何と言った・・・・?

ひやりとした何かが、体の中を駆け巡る。

ゆっくりと、そう、ゆっくりと視線をたどると、そこには、僕と同じような、問うような、刺すような、無数の視線にさらされ、その中にあって、無表情の【ドネア王国】の兵士達。

しかし、そんな彼らとは逆に、戸惑い、狼狽える兵たちもいた。その中の筆頭は、誰あろう、ルクノバ将軍だった。

その、戸惑い、狼狽えていたドネア王国の兵たちは、この場の重圧に耐えかね何か口を開こうとした、その時、かつ、かつ、と広場に階段の上から靴が地面を踏む音が聞こえてきて、皆、視線を向ける。


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