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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
群雄時代
130/681

和平三

「・・・・して?その方に兵を貸し、我に何か利はあるのか?」

―――確信した。王は望んでいる。ただし、きっかけが無いのだ。ともすれば、あとはその背中を押すだけ。彼が望む言葉を―――――。

「戦争の終結を」

「それだけか?」

「それ以上に何が要りますでしょうか?何もいりますまい?」

「ふむ・・・・」

しばし沈考した王は重々しく口を開く。

「では、そなたに協力した際にどんな不利益を被るか・・・。そなたは考えているか?」

そんなことすでに想定済みだ。だからこそ、勝ち目があると思ったからこそ、ここに、闘いに来たのだ。

「ええ」

「申してみよ」

「何もありません」

瞬間、再び王の顔が憤怒に歪む。

「何もないとな!!??この痴れ者が!!この期に及んで何もないと申すか!?その方に協力した、というその事実だけで、十分すぎる不利益を被るのだぞ!?それを何もない、と申すのか!?」

ざわざわ、と周囲がわめきたてる。しかし、目の前に立つ王に集中しているため、何を言っているか、までは分からない。

それでも、俺に不利なことを言っているのは確かだ。

ひやり、と何か喉元に突きつけられた。

ふっ、と視線を向けてみれば、それは抜き身の剣だった。横にはその剣を俺の喉元に突きつけた親衛隊長が冷たい視線を向けながら立っている。

じわり、と血がにじんだ。

ひりひりと喉元が焼け付くように痛い。しかし、そんなことなど、全く関係ない。

「王よ。よくお考えください。恐らく今日私めに面会いただいたのには大きな理由があると思います。あの国境付近に野営しております傭兵は、わたくしと志を同じくする者達です。戦争を厭い、争いのない世界を作りたい、その一心で集めました。まだまだあれは一部で、央国にはさらに多くの同志たちがいるはずでしょう。であれば、何を恐れる必要がありますでしょうか?確かに、北の【ミダス王国】、南の【アストラン王国】とは国境を隣接しておりますので、この協力を受け、危機感を募らせた二国の攻撃を受ける可能性があります。それでも我ら央国が助けに入れば、二対二の闘いになります。いったい今までと何が変わりますでしょうか?ましてや、東の【ドネア】の海賊共など、我らの国境を通過せねば、この国に来ることすらかないません。それを我らが許すでしょうか?そして、あの【海賊の国ドネア】のならず者共が、背中の守りを捨てた【ミダス】【アストラン】の両国に攻め込まぬはずがありません!!その可能性がある限り、【ミダス】【アストラン】の両国は決して本腰を入れて攻勢に出ること叶わないでしょう!!それでもなお!!私の話を聞いてもなお!!あなた様には不利益があるように思えますでしょうか!?」

ゆっくりと、しかし、確実に静けさを取り戻していく謁見の間に、俺の話を聞き黙ったままだった王がついに口を開く。

「静まれ」

それは、広間中に響き渡り、その場に並ぶ側近たちの間に木霊する。

「剣を退けよ」

ブレスは問うような視線を王に向けるが、王は俺を見つめたままで、全くその視線を一顧だにしない。

「剣を退けよ!!」

ゆっくりと喉元から冷たい鋼の剣身が退けられた。

わずかに切られた皮膚は、ひりひりと痛むが、今はそれどころではない。

王が口を開くのを今か今かと待ち続けると、王はゆっくりと一つ息を吐く。

「貴様の大法螺に乗ってやることにする」

「それは・・・・?」

「ただし、我が求めるのは完璧な結果のみ!!もし途中で投げ出そうものなら、地の果てまで追いかけ、殺してやる!!覚えておけ!!」

身の内から震えがこみあげてきた。

ついに・・・・、ついに、四国の王のうち一人を説得することが叶ったのだ!!

「ありがたき幸せ・・・!」

深々と頭を下げる俺に、頭上から声がかけられる。

「十と言わず、協力することにしたのだから二十でも、五十でも貸してやろう。ただし、百は貸せんぞ?」

とても嬉しい申し出だった。それでも、そんな大軍は今の俺には全くいらない。だから辞退することにした。

「十で結構です」



こうして、騎士の国【バルフ王国】を発った俺たち一行は、バルフの若い兵、十数名と、そして央国の傭兵数人を引き連れ、次なる国を目指す。


この、【バルフ王国】の兵団の中に、将来、国防を担うことになる有望な若者たちが集められ、旅の道中でジェンナの言動をまとめた手記が見聞録として残され、帝王学の教本として、のちの世に伝えられることとなるが、それはまた別の話。


「次に向かうのはどちらの国なのですか?」

【バルフ王国】から付き従ってきた兵たちに行き先を問われる。

彼らは、まだ年若く、柔軟な発想を持っている。その経験不足も、充実した気力、体力で補えるだろう。

何より、ほとんど同じ年ぐらいの青年たちとともに旅をするのは精神的にも楽だ。これもあの王の気づかいなのだろうか―――?そう思うのは、さすがに考えすぎだろうか?

「次に向かうのは南の強国【アストラン王国】だ。ところで、君らとはほとんど年齢が変わらないのだから、そんな丁寧な言葉など使わないでもらいたいんだが・・・・。呼び方もジェンナ、と呼んでくれて構わないぞ」

それに対して、すぐに答えが返ってきた。

「そうか。それは助かる。ところで、どうしてジェンナは次に【アストラン王国】を目指すんだ?あそこの王は一筋縄ではいかない、とよく聞くぞ?」

すぐに砕けた言葉遣いをし始めた兵たちに満足しながら、答える。

「【アストラン王国】が次に一番説得しやすいからだ!!彼らには、現在、戦争を止めることで、目に見えて増える利益と、そして、戦争を続けることで、目に見えて被る不利益があるからな。他の二国よりも説得しやすいんだ!!」

「そうなのか?他の二国も同じだと思うが・・・?」

「いいや。はっきり違う。【ミダス王国】には、戦争を止めることで受け取れる利益がまだはっきりと提示できない。その上、戦争を続けることで被る不利益すら、仮定の話でしかないからな。ましてや【ドネア王国】など、今の現状では戦争を止めれば不利益のほうが大きい・・・・。だからこそ、次に説得しやすいのは【アストラン王国】なのだ」

「そう・・・なのか・・・?」

余り納得していないのだろう。俺の言葉を受け兵たちはゆっくりと重い思いに何かを考え始めた。

そんな中、一人の兵士が、口を開く。

「でも、どうして俺たちの国を一番最初に説得しにかかったんだ?」

その言葉を受け、兵たちは賛同する。

「確かに!それはどうしても聞きたかったんだ!なんでだ?」

考えさせてもいい、と思ったが、それでも、どうせ自国のこととなると考え付かないだろうから、答えることにした。

「なに。簡単なことさ。一番四国の中で、豊かな財源が無い。要は、戦争が長引くことで、一番国力が疲弊している国だった。ということと、騎士の国、と言うだけあって、規律が厳しいから、負担を国の民衆すべてに強いている、それは短期的に見れば最も優れた政策だったが、長期的に見れば、愚策でしかないからだ」

「なんだと!?」

俺の言葉を受け、掴みかからんばかりの剣幕で詰め寄ってきた兵士たちに、宥めるように手をかざす。

「おっと!勘違いしないでくれ。俺はもちろん褒めたつもりだぞ?王侯貴族の権力が強くなってしまう現状において、もっとも自らを律し、厳しい規律を、全員で守っているからこそ、これほどの強兵たちを抱えているんだなあ、と感心しているくらいだ。だが、よく考えてみてくれ。王侯貴族が権力を乱用し、戦争にかこつけて私腹を肥やし、民に重税を課し、力を削いでしまえば、そもそも不満が上がったとしても力で押さえつけることができるだろう?だが、広くすべての階級の国民に平等であれば、いかに清廉な王侯貴族だろうと不満がたまるし、民の中にも不満の声をあげる者が出てくるだろう・・・。他の国とは、民一人一人の意識、清廉さが一段も、二段も上質だったからこそ、説得もしやすかった、と言うことだ」

「なるほど・・・・」

少し納得したのか、先ほどの勢いはなくなった。

俺は、鼻息荒く近づいてきていた兵士の一人の胸を叩く。

「俺はお前らの心意気に期待していたからこそ、一番先にこの話をしたんだ。それは嘘偽りなく、お前らの心になら、俺の言葉が響くと思ったからだ。俺が賭けたのは、間違いなくお前らの正義の心だ」

「・・・・ありがとう・・・・」

ぽつり、と気恥ずかし気につぶやかれた言葉は、小さく、聞き逃してしまうほどだったが、確かに俺の耳にははっきりと届いた。


そうこうしているうちに、【アストラン王国】の首都に入っていた。

そこは、蒼海を見渡す港の街だった。

街は活気でにぎわい、見たこともない色とりどりの食べものが並び、そして同じように色とりどりの衣服に身を包んだ異国情緒あふれる人々が様々に行きかっている。

建物のつくりも他の国とは違う様で、石畳の大通りにも、機能性とは別に、見た目の華やかさも求めたかのような造りが見受けられる。

建物の壁も、石材と木材の灰色と黄土色、茶色だけではなく、空の青を映しこんだような濃淡の薄い青色の石が使われている物もあれば、綺麗に磨き上げられたかのような真っ白な、汚れ一つない土壁もある。

「きれいな街だなあ・・・・」

「こんな活気に満ちた街があるとは・・・・」

「今が戦時下、と言うことを忘れそうだな・・・・」

「この国は、南大陸との貿易で、最も豊かな国だからな。呆けていないで行くぞ」

一声かけ、一路王城目指して歩みを進める。とは言っても、この戦争の時代だ。ましてや、俺たちの国と違って自分の国に忠誠を誓った彼らにとっては、初めて訪れる国、街、すべてが新鮮で、驚きの連続なのだろう。いちいち見たこともない食べ物を見つけてはぎゃーぎゃーと騒ぎ、香ばしい匂いが立ち込めて来たら立ち止まってものほしそうに見つめている。


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