迷宮九
お互いに睨みあったまま、見つめ合うことしばし、振り上げたはいいが、この怒りをどうしようか・・・・、と悩んでいると、次の瞬間―――。
ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!
今まで感じたことが無いほどの地面の揺れに、思わずぱっと離れる。
それはまるで大地が怒っているかのように・・・・。
それはまるで、魔物の怒りの咆哮のようで・・・・。
不気味な地鳴りとともに繰り返される大きな地面の揺れは、重く、重く腹に響く。
ぐらぐら、ぐらぐらと、一体どれくらいの時間揺れていただろう?
しまいには立っていられなくなり、地面に片膝をつくようにしゃがみ込む。
ぱらぱら、と洞窟の天井から、石礫が落ちてきて・・・・。
みしみし、みしみし、と壁が音を立てる。
嫌な予感がする。
とてつもなく嫌な予感が―――。
ようやく揺れが収まると、僕達は、先ほどまでの諍いなどなかったように、呆然と顔を見合わせていた。
三人とも地面にしゃがみ込み、段々と我を取り戻していくにしたがって、気まずげに視線をそっと背け合う。
「とにかく出よう」
アイクが誰にともなく告げる。もはや争う気も起らなかったので、僕らは無言でそれに従い、急いで身支度すると、逃げるように迷宮を後にした。
迷宮から出ると、外は大騒ぎだった。
兵士たちが慌てたように叫び合い、迷宮から出てくる傭兵達の避難を進めている。
話を聞くと、街にも揺れがあったようで、そちらの騒ぎが大きくならないように、兵たちを派遣したようだ。
「よかった!!三人が無事で!!」
僕らの姿を見つけ慌てて駆けつけてきたマシューは、一瞬いぶかしげな視線を向けるが、すぐに表情を改める。
「一体迷宮で何があったのですか!?それにこの揺れは何ですか!?」
答えられない。
答えを求めての問いでもないだろう。
だから、僕らはゆっくりと首を横に振った。
「分からない・・・・。とにかく父さんに・・・・領主に報告しに戻る」
屋敷に着くと、そこには多くの領民が詰めかけてきている。
「何が起こったの!?」「迷宮に異変があったのか!?」「ねえ!!答えてよ!!」
押し寄せた人々が口々に喚き散らしているが、陣頭に立つアベルは難しい顔をしたままで、一向に口を開かない。
その周りを守るように固めている兵士たちが逆に困惑したように、詰めかける人波を必死に押し戻す。
「領主様!早く屋敷の中にお戻りください!!」
いくら兵士たちが説得しても、アベルはそこから一歩も動かない。
どうしたと言うのだろう?
その人波を、一番後方から押し退け、かき分けるようにアイクが進む。それに僕ら二人もぴったりと付き従って行く。
人々もアイクに気付いたのだろう、ゆっくりと、しかしどんどん、人波が左右に分かれていき、ついには、屋敷の入り口まで一本の道ができた。
気付けば、騒ぎも随分収まっている。
「帰ったか・・・」
ここに来て、ようやくアベルが口を開いた。
「ただいま・・・」
「随分ひどい顔をしている・・・・。何があった・・・?」
僕ら三人の表情を見て、訝し気に尋ねてくるが、誰も答えない、いや、答えられない。
無言で立ち尽くす僕ら三人を見て、アベルが口を開いた。
「屋敷の中に入って待っていろ」
そうして、すぐに居並ぶ街の人々に再び向き直った。
アイクは、疲れているのだろうか、そのまま、何も言わずに、屋敷の中に入って行ってしまう。
―――どうしよう・・・?
途方に暮れていたら、フレイアが、僕の腕をそっと遠慮がちにつかむので、引かれるままに屋敷の中に入って行く。
それからほとんど間をおかずにアベルが戻ってきた。
窓から外の様子を見てみたが、そこにはまだまばらに人の気配はあるが、それでも集まって来ていた人たちのほとんどが、いなくなっていた。
「さて・・・何があった・・・・?」
問われるままに、迷宮であったことをぽつり、ぽつり、とアイクを筆頭に話していく。
上位個体のオークに襲われたこと。
上位個体の魔物たちが徒党を組んで戦闘を仕掛けてきたこと。
そして、あの迷宮内で感じた地響き・・・・。
勿論、と言うか、僕とアイクがあわやつかみ合いの喧嘩をしそうになった話は黙っている。アイクもあまり蒸し返したくない話のようだ。
あらまし説明は終わった。話を聞き終わったアベルはひどく難しい顔をしている。
「それだけ・・・か・・・?」
ゆっくりとアイクを見て、フレイアを見て、そして僕を見る。
その険しい瞳に射すくめられ、思わず、全てを見通されているんじゃないか?と言う恐怖、そして何より恥ずかしさがこみあげてきた。
「それだけ・・・だ・・・」
アイクがゆっくりとうつむく。
フレイアが自嘲気味に笑っている。
僕は、この時一体どういう顔をしていたのだろうか?困ったような表情を浮かべていたのかもしれない・・・。
「そうか・・・。正直に言うと、今回のことで街の人々はひどく不安に思っている。あの地鳴りの原因を調査しない限り、納得しないだろう・・・・」
思わず顔をあげてしまった。
―――でも、あの迷宮に今入るのは・・・・。
「危険だ!父さん!迷宮が変質している!だからこそ、今調査するのかもしれないが・・・、危険すぎる!!」
アイクも同じことを考えていたようだ。
いや、もしかしたら、この街で生まれ育ったアイクには、僕以上に迷宮の危険性が嫌と言うほどわかっているのかもしれない。
その言葉を受けて、アベルはゆっくりと目を閉じ、俯いている。
両腕を腕の前で組んで、何かを思案しているようだ。
「そうだな・・・・。正直、今回のことは、この街に住む誰も経験が無いことだ・・・。調査と言っても、お前たちの話を聞いた後では半端な数では逆に返り討ちにあうだけと分かってしまう・・・・」
「・・・・・なら!」
「だから、お前ら三人には、旅の準備をしてもらう」
―――え?・・・・どういうこと?
急に話が飛躍しすぎてよく分からない。
しかし、二人は、アベルの言葉に納得することがあったのか、黙り込んでしまった。
「帰ってきてすぐに申し訳ない話だ・・・。特にアイクには、カレンもいるのにすまないと思っている・・・。兵士たちを派遣しようかとも考えた・・・。しかし、もし迷宮で問題があれば、守護隊が一人でも欠けるのは容認できない・・・。これは、この街の大事かもしれない。だからお願いしたい。行ってくれないか・・・?」
アベルが頭を下げた。
二人は、ゆっくりと、うなずく。未だに話についていけていない僕だけが、取り残されたようにぽかんと口を開け、ただ、成り行きを見守ることしかできない。
「ありがとう・・・!!では、草原の民のもとへ、その長老、【卜士】にお話を伺いに行ってきてくれ・・・!!」
―――お願いだから、誰か説明して!
かなり長くなって申し訳ありません・・・。二章ももうあと一部で終わりますのでもう少しお付き合いください・・・。本当はこの半分くらいで終わるつもりだったのですが・・・・。中だるみしてしまいましたね・・・。
その上、更新も不定期になってしまい申し訳ありません・・・・。言い訳のしようもなく・・・・、って言い訳してますよね。とにかく!!もうすぐなので頑張ります!!
実は第三章がずうっと書きたかったお話です。
是非第三章まで読んでください!!




