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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
傭兵時代
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迷宮七

力を失って倒れるゴブリン。

激怒するゴブリン魔術師(シャーマン)

それ以上の攻撃を許さないとばかりに体を寄せ合い、壁を作るオーク。

音もなく、するりと突撃してくるコボルト。

弓を引き絞り、僕らめがけて一斉に射掛けてくるコボルトとゴブリン。

そして、両手に嵌めた籠手を振り回し、飛来する弓を弾くアイク。

それらすべては一瞬の出来事だった。

全てが同時に動き出す。


その世界の中で、僕だけが異質だ。


それらすべてを観測しながら、止まった世界の中を駆け抜ける。

色を失い、音を失い、力を失った世界の中で、僕だけが唯一、生き生きと躍動している。


ものすごい勢いで飛来していたはずの矢が、僕らの中間で一列に並んでゆっくりと、本当にゆっくりと前に飛んでいこうとするので、全て一列に切り落とした。


盾を目の高さまで掲げ、前進してきているはずのコボルト達は、まるで断罪を待つ罪人のようにその動きを止めている。


一匹、二匹、三匹・・・・。数えるのが馬鹿らしくなってくる。


己の心臓の脈が十を打つときには、すでに目の前で悠々と武器を構え、間抜け面をさらすコボルトの六匹すべてを、一太刀のもとに切り捨てていた。


きん!


剣を鞘にしまうと同時に魔法を解除する。


「はあ・・・・はあ・・・・はあ・・・・」

全力で駆け抜けた後のように、心臓が早鐘を打っている。必死に乱れた息を整えるが、胸が苦しい。

脚の、腕の筋肉が悲鳴を上げるようにきしんでいるのがわかる。


しかし、僕の背後で、ばたばた、と魔物たちが倒れていく音を聞いた。

ゆっくりと振り向き、視線を向けると、そこには、喉元を掻き切られ、胴体を真っ二つに泣き別れにされ、脳天を叩き割られ、絶命するコボルト達の姿がある。

弓を掲げていたコボルト達の放った矢羽が、三本ともすべて、真っ二つに断ち切られ、力を失ったように地面へと落ちていく。


「すごい・・・・!」


援護するのも忘れてフレイアが嘆息を漏らしている。


だが、まだ危機は去ったわけではない。アイクが闘っている。

全身をごうごうとうなりをあげる風、いやもはや暴風と言っても過言ではないだろう、それを鎧のように身にまとい、駆け抜ける。

その振り上げた腕が、脚が、空気を切り裂く、ごう!と言う音が聞こえる。

籠手に、足環に取り付けられたブレードが、オークの体に触れたとたん、まるですべてを蹂躙するようにずたずたに肉を穿ち、切り裂いていく。

ゴブリン魔術師(シャーマン)が手のひらをアイクに向け、魔力を高めていくと、その手に荒れ狂う炎が集まり出す。それは轟轟と燃え盛りながら、球状に形を整えていき、ついには、その小さな体を包み込んでしまうのではないかと思うほどに大きな火球へと変貌する。

火球を放った。

ぼん!!

アイクは避けることもせず、火球の直撃を受けた。


「アイク!!」


思わず叫んでしまったが、すぐに我が目を疑った。

炎の中、何事もないように闘うアイクとオークの影が見える。

轟轟と燃え盛る炎がだんだんと晴れてきた。

二人の影の動きに鈍るような様子はみじんもない。

炎が完全に晴れた時、そこには相も変わらず二人の姿があった。

オークはその肉体の強靭さからだろう、多少の火傷はあっても、ダメージはほとんどない様だ。

アイクはと言うと―――こちらも全くダメージが無い。どころか、火傷の一つも負っていない。

どうやら身にまとう暴風の鎧が、炎からアイクを守ってくれたようだ。

攻・防一体の恐ろしい魔法だ。

「すごいな・・・・」

どうして、水竜の洞窟であれを使わなかったんだろう・・・?

そう思ってすぐに気づく。

あの魔法は、数を頼りに向かってきた水蛇には逆に適さなかっただろう。オークのような強靭な肉体、タフネスを持つ敵には有効だが、水蛇のような群れに頼った飽和攻撃では、いずれ魔法効果が切れた時に、やられていたはずだ。むしろ魔法を使わずに戦うほうが体力の消耗を抑えられる、という意図があったのだろう。


ついにアイクは二匹のオークを葬った。

そのまま空を飛ぶように躍りかかると、逃げ腰になっていた後方のゴブリンたちを蹂躙していく。

ばたばたと倒れていくゴブリンたち、最後には魔法を使うゴブリン魔術師(シャーマン)が、何も抵抗できずに頭を、ぐしゃりと潰され息絶える。


「ふうーーーー・・・」

アイクが魔法を解きながらゆっくりと息を吐き出した。

くるりとこちらを振り返ると、わずかに無理をしているのだろう、少しばかり息が上がっているが、それでも僕らの前では安心させたいのか、何事もなかったように居住まいをただす。

「すぐに迷宮を脱出するぞ!」

取る物も取りあえず、めぼしい魔石だけを回収して、すぐに来た道を戻る。


来た時よりも、なお、緊張感を強いられた。

それでも、帰りの道中は、何度かの戦闘をこなしたが、入り口に向かっている、と言うこともあって、出現した魔物の数も、質も、それほど強力な物はなく、散発的なものだった。

しかし、急いで進んできたからだろうか、もうすぐ入り口だ、と言うところまできて、フレイアが少し遅れだした。

肩で息をし、顎は上がり、さらには、時折、脚を気にするそぶりを見せている。見るからに辛そうだ。

先頭を歩くアイクもそのことに気付いたのだろう、足早だった歩調をゆっくりと緩めると、告げる。

「皆、もうすぐ出口だ。よくここまで頑張った。ここで最後の休憩としよう」

膝に手を突き、必死に息を整えるフレイアが、自分のせいだと思ったのだろう、罪悪感に顔を歪め、異を唱えた。

「でも、兄さん・・・。もうすぐ・・・・、出口なら・・・・、一息に進んだほうが・・・いいと思うわよ・・・?」

フレイアの言葉にアイクはゆっくりと首を横に振った。

「いいや・・・。もうすぐ出口だとは言っても、まだあと四半刻(三十分)ほどは歩かなければならない・・・。まあ、ここまで来れば、もう出てくる魔物はゴブリンか、稀にコボルトが現れるくらいだから、心配せずにゆっくり体を休めろ」

「でも・・・・」

まだ何か言い募ろうとするフレイアに有無を言わせない口調でアイクがその先を遮る。

「疲労から些細なミスをして命を落とした者など、今まで数え切れぬほど見てきた。いくら相手が格下だろうと、決して気を抜いてはならない」

わずかにうなだれたフレイアに、それに、と、少し穏やかな口調に戻ってアイクが続ける。

「それにな、単純に見えないようにしているだけで、俺も、シリウスも疲れたから休むんだよ」

「そうなの・・・・?」

「ああ、そうだ。なあ?シリウス?」

急に話を振られてびくっとしてしまう。くるりと振り返って僕を見てくるフレイアの瞳には懐疑的な色が浮かんでいたが、確かに言う通りだったので、ここは静かに頷いておく。

じいっ、と見つめてきていたフレイアは何かを感じ取ったのだろう、「そう」とだけつぶやくと、俯き、ゆっくりとその場に腰を下ろした。


「初めての迷宮はどうだった?」

三人で並んで腰を下ろしながらゆっくりと休憩していると、不意にアイクが口を開いた。

どうだったか、と問われても、すぐには答えられない。

うんうん、悩んでいると、ぽつり、と僕の横にいたフレイアがうつむきながら口を開いた。

「色々と想定外の出来事もあったけれど・・・・楽しかったわ・・・・・」

どんどんと声量が小さくなっていき、最後のほうは何とか聞こえたような程度だ。

―――どうしたのだろう?やはり具合でも悪いのかな・・・?

そう思いながらも、僕も答える。

「うーん・・・・。迷宮に入ったこと自体初めてだし、迷宮の話を真剣に聞いたことが無いから何とも言えないけれども・・・・闘いにくい・・・・かな・・・?」

おずおずと絞り出した答えに、アイクが興味深そうに首をかしげる。

「だってさ・・・、狭いし、逃げ場がないし、何より迷宮の中にいる全部の魔物が共闘してくるんだよ!?どうかしてるよ・・・・。それぞれが役割を持っていて・・・・」

―――そう、それはかつて経験したことがある。

―――それは、まるで・・・・。

「まるで、戦争しているみたい・・・だったよ・・・」

「面白い例えだな」

「何が面白いもんか・・・・。狭い通路に誘い込まれ、多数の敵兵を相手にしている気分だったよ・・・・。何より、弓やら魔法やら、後方から攻撃をしてくる魔物がいるとはさすがに思わないし、その上、人間とは違って腕力も、体力も、魔力も、そして強靭さも尋常じゃない・・・。常に気を張っていないといけない暗闇も、どんどん神経を削られる・・・こんなところに挑む傭兵達の気が知れないな・・・・」

確かに魔物の密度が高いから、森林で闘うよりも戦闘数は多いだろう。それは転じて魔石なんかの売買価格に繋がり、収入にはなる。

それでも、よほど食い詰めていなければ命がけの探索など、すぐに精根尽き果ててしまうだろう。

それこそ、この街を迷宮の魔物たちから守る!という明確な目標を持った鍛え上げられた兵士たちでなければ、やってられないと思うくらいには・・・。


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