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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
傭兵時代
111/681

迷宮三

「これが【コボルト】だ。先ほどの【ゴブリン】よりも厄介なのが、今闘って分かったと思うがかなり俊敏なところだ。そして何より、奴らは犬と同じ性質を併せ持っているからか、鼻が利く。獲物を見つけるのがうまいから、奇襲されないようにしなければならない」

そう言いながらアイクがゆっくりと取り出した魔石は先ほどのゴブリンのそれよりも一回りほど大きな魔石だった。

まあ、ゴブリンから手に入れた魔石はとても小さく小指の爪ほどの大きさだったから、一回り大きくなったところで、親指の爪くらいの大きさだが・・・。

色は全く同じで少しくすんだ半透明だ。

ここに来る前にいろいろと教えてもらったが、魔石は、その魔物の強さで質も変わってくるそうだ。

魔石が小さければ小さいほど、質は低く、また属性によって色が変わり、恐らくゴブリンのもコボルトの魔石もどちらも無属性の魔石の中で低品質の魔石だろう。

魔石は転じて様々なものに利用されている。

アイクの家で冬場に使われる暖房にも炎の魔石が利用されており、この地域ではなかなか手に入らない炎の魔石も、迷宮の中では鉱山資源として産出されるそうだ。

だからこそ、人々は迷宮に価値を見出し、そしてその迷宮から産出される富に時の権力者たちは目がくらむ・・・。

そうして、外からの敵と、中に抱えた迷宮という敵に対して備えを厚くしているうちにどんどん強くなっていったのが、この「ガルガロス」と言う街だそうだ。


それから僕らはさらに慎重にゆっくりと進んだが、入り口の近くの浅いところだと、ゴブリンとコボルトしか出てこないそうだ。

その言葉通り、何度かゴブリン、コボルトの集団、そしてその混成部隊と闘ってきたが、ほとんど危なげなく倒してしまう。

相手の弱さもさることながら、見かけに惑わされず、ゴブリンは大振りでめちゃくちゃな剣筋に気を付け、余裕をもって相対すれば決して危うくなることはないし、コボルトはその速さに慣れてしまえば、むしろ単調な動きのため簡単に対処できる。

何より、この狭い洞窟内で魔物たちが集団で現れても、なかなか数の利を生かせていないところが助かっている。

こちらは三人で、確かに相手にしてみれば少ない数だろう。

対して向こうは、平均的に四匹から六匹、多い時では十二匹の集団で現れたが、向かい合って相対することができる人数はおおよそ三組ほどのこの場所では、後ろからフレイアに弓を射ってもらい、僕とアイクで前に出て闘う。

それだけで、傷一つ負うことなく進んでいく。

危うげない探索にむしろ事前に心構えしていたこちらが拍子抜けしてしまうくらいだ。


どれくらい進んだだろうか?

先頭を歩くアイクの足取りには全く疲労の色はなく、ここまで十近い戦闘をこなしてきたが、僕自身も今のところわずかな疲労感を感じるだけで、それでも戦闘に支障はない。

僕らに挟まれたフレイアが少し心配だったが、むしろ不安になるくらい、変わりがない。

―――無理をしていないだろうか・・・?

―――僕らに合わせて疲れたと言えないのではないだろうか・・・?

不安が鎌首をもたげてきたころ、アイクの足がぴたりと止まった。

「この先に泉がある」

はっきりと断言するアイクに言われ、耳を澄ましてみれば、確かに、ぴちょん、ぴちょん、と水音が聞こえる。

それでも泉など本当にあるのだろうか?ただ岩肌から水が湧き出してきて、それが地面に落ちる音ではないだろうか?

怪訝に思っていることが分かったのだろう、アイクが苦笑する。

「岩肌から水が湧き出し、それが水の溜まった、それも泉と呼んでも差し支えない大きさの水場に落ちている水音、なんだが・・・・。分からないか・・・?」

思わずフレイアを見てみるが、彼女もわからなかったようで首をかしげている。

そんな僕ら二人の様子に、少し気落ちしたようだが、すぐに気を取り直すと、警戒を強めた。

「気を付けろ、二人とも。水場と言うことは、もしかしたら【リザードマン】が出てくるかもしれない」

僕は、リザードマン、と言う魔物がいったいどういう魔物なのか分からないため気を付けようがない。

どうしようか?と悩む僕をしり目に、二人はゆっくりと音のするほうに向かって歩を進める。

たどり着いたそこは、先ほどまで歩いてきた洞窟とは違い、少し開けた場所だった。

入り口からゆっくりと顔をのぞかせたアイクはすぐに頭を引っ込める。

手ぶりで指し示され、僕とフレイアも同じように顔をのぞかせると、そこには、こんこんと透き通った水をたたえたきれいな泉があり。


そしてそこには―――いた。


魔物だ。

三匹の魔物が、泉の近くで寝そべっている。

全身を暗緑色の固そうな鱗に覆われ、その顔付きは蛇のようだが、どちらかと言うとトカゲのように口元がせり出している。

尻尾のような物を、びたん、びたん、と地面に叩き付けながら、きょろきょろとそのぎょろりと黄色い不気味な瞳であたりの様子を探っている。

その手元には、粗末な槍があった。

持ち手は節だらけの歪な木の棒でできており、穂先は、先端を尖らせた鉄のようなものを縄でぐるぐる巻きに縛り付けているだけのひどく粗末な造りだ。


「行けるか?」

ひっそりと耳打ちするようにアイクがフレイアに何かを確認している。

「任せて」

それをフレイアは当然のように肯定する。

そして二人はそろそろと弓を構え、弦を引き絞る。

あの見るからに固そうな鱗を貫けるのだろうか?心配になってしまう。

アイクはともかく、フレイアにできるとは思えなかった。

しかしフレイアには何の気負いもない。できるとその瞳が語っている。

だからこそ、アイクも何も言わずに並んで弓を引き絞っているのだろう。

ゆっくりと入り口から顔をのぞかせた二人にまだ気づく様子はない。

ぎりぎりと引き絞られた弓が、限界を迎えたのか、そこから弾けるように矢が飛び出す。

びゅん!

と風を切って進む矢は、およそフレイアの細腕から放たれたと思えないほどの豪弓で、はっきりとは分からなかったが、恐らく風の魔法を纏わせ威力をあげているのだろう。

アイクの放った弓がこちらに気付いて立ち上がった一匹のリザードマンの頭部に突き刺さり、そのまま力を失ったように倒れ伏す。

そして間髪入れずにフレイアの放った矢も、くるりと視線を向けたリザードマンの額に吸い込まれるように突き刺さり、刺さったと同時に矢羽が弾け飛び、そのことが何よりその威力を物語っている。

一瞬にして二人の仲間を失ったリザードマンは瞬時に立ち上がると、槍を構え、一気に間合いを詰めてきた。

それに釣られる様に、つつ、と僕は前に出る。

繰り出される槍先を、二度、三度弾く。

うなりをあげ耳元をかすめる槍の穂先は、その力強さを物語っているが、当たらなければ意味がない。

当たらないことに苛立ったのか、相対するリザードマンは、忌々し気な唸り声をあげ、くるりと体を回転させると、その太い尻尾を鞭のように翻らせ、ぶつけてきた。

当たれば肉は裂け、下手をすれば骨は折れるだろう。

それだけの威力があるように見える。

当たれば脅威だろう。そしてその魔物ならではの攻撃方法は十分に人間の目を眩ませることができる。

しかし、当たらなければ意味などない。

己の四肢を武器とし、その柔軟性、そしてバランス感覚の高さをもって、時に思いもかけない方向から攻撃を繰り出してくるフレイア、そしてこの街の兵士達との模擬戦や訓練で学んだ僕には、その攻撃はあくびが出るほどに遅く見える。

何より、尻尾の射程が、思った以上に短い。

よほど踏み込んでいなければ当たることはないだろう。

余裕をもって後ろにバックステップを踏み回避すると、一瞬で間合いを詰め、相対する魔物の、くるりと一回転し無防備なまま振り向いた喉元めがけて剣を突き入れる。

ずぶり、と深々と突き刺さった剣先は、相手の喉元を貫通し、一瞬でその根元近くまで突き通る。

すぐに剣を引き抜くと、呆けた表情のリザードマンが、ごぼり、と血を吐き出し、ゆっくりと前倒しに倒れてきたので横に避けた。


今、僕らは泉のほとりに腰かけ、ゆっくりと休息をとっている。

緊張を強いられたからだろうか、自分では気づかないうちに疲れていたようで、じんわりと汗をかき、衣服が少し濡れている。

強張った体と、乾いた喉に冷たい水が心地よく、手のひらで掬って何度も飲み、乾いた布を湿らせ、ゆっくりと顔と体を拭う。

「ふう」

思わず、口からため息が漏れてしまった。

しかしそれは二人も同じだったようで、二人とも僕と同じように心地よさそうに休息を取っている。

「はい」

急にフレイアから手渡された何かを受け取ってみると、それは肉やチーズが挟まったふわふわの大きなパンだった。

それを三つ取り出し、僕らに渡してくれる。

丁度お腹が減っていたところで助かった。恐らく外は昼ではないかと思われるが、何しろ太陽の明かりが届かない洞窟の中なので、正確な時間がわからない。

ゆっくりと三人で昼食をとっていると、アイクが口を開く。

「この先はおそらくオークが出てくるだろう。さらに厄介なことに、ゴブリンが弓をもって出てくるかもしれない。コボルトの武器がより上質なものになるかもしれない。とにかく気を抜かないことだ」

言われなくても、ここまで全く油断はしていないつもりだ。

「シリウスとフレイアは初めての迷宮で、知らず知らずのうちに疲労を蓄積しているかもしれない。少しでも違和感を感じるようなら気にせず言ってくれ。逆に我慢を重ねて戦闘中に動きが鈍くなったりしたら、それだけで命を落とす要因になる」

言われなくてもわかっているつもりだったが、それでも改めて言うということは、この先は今まで以上に魔物が強力になっていくと言うことだろう。


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