表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
傭兵時代
110/681

迷宮二

「それは・・・なんだか厄介なだけだね。迷宮って・・・」

言いようのない恐怖だろう。僕はここで生きたことが無いから分からないが、それでも厄介なことに変わりはない。

「いや、そんなことはない」

だが、間髪入れずにアイクに否定されて、思わず戸惑ってしまう。その意図を探るようにじいっとアイクを見つめると、すぐに笑いながら説明してくれた。

「迷宮っていうところは、どうしてそうなっているのか、どうしてできたのか、誰にもわからない。中には必死に研究している者たちもいるが、それでも誰もその成り立ち、そして性質を理解はしていない。そして、推測の話だからどうして?って聞かれてもそれ以上説明できないっていう前提で話を聞いてくれよ?」

一つ前置きされた。そんなに僕は質問ばかりしているだろうか?・・・・しているかもしれない。少し控えよう・・・。

「この迷宮で言うなら、鉱山がいくつかある。普通であれば鉱山と言う物は採掘され尽くされれば無くなってしまう物だが、ここにある鉱山は変質した魔力の影響か分からないが枯れることが無い、とされている。そして、驚くべきことに、魔法鉱石、と呼ばれる、魔力伝導率の高い鉱石がよく採れる」

「どうして枯れないって分かったの?」

「なんでも、実験のため大規模に採掘を行った翌日には、まるで生き物のように、それこそほとんど気付かないくらいゆっくりと、壁がせり出してきて元の位置に戻ろうとしていたらしい・・・・どうして?とは聞くなよ!!これ以上は全く説明できないんだからな!!」

・・・出鼻をくじかれた・・・。

どうして?という疑問が喉元までせりあがってきたが、必死で飲み込み、そう言う物なんだ、と思うことにした。


不意に、数メートル先の曲がり角から、じゃり、じゃり、と何かが歩いてくる音がした。

一斉に身構える僕ら。

灯を腰に差し、アイクとフレイアはゆっくりと弓を構え、矢をつがえる。

僕はそろりと剣を抜き、構えた。


そして、近づいてくる物が、ゆっくりと正体をさらした。


それは、子供の背丈ほどの生き物だった。

ところどころ変色し、ほつれたぼろぼろの布切れを纏い、手には鉄の棒のような、ひどく刃こぼれのした、それこそもしかしたらただ殴るために設えたような剣のようなものを持った何かが現れた。


「ぎゃ!ぎゃ!」

「ぐぎゃ!!」


そいつらは、耳障りな甲高い、声とも呼べない鳴き声を口から吐き出しながら、光の中に踊りこんできた。

異様に痩せ細り、あばらがむき出しになった胸元、木の枝のように細長い手足、血色の悪い肌、それでいて、目ばかりぎょろりと大きく、にやりと笑み歪んだ醜悪な顔付き、そこから覗く汚く黄ばんだ鋭くとがったぼろぼろの歯。

全てに嫌悪感を抱くような生き物だった。

そして奴らは、光の先に僕達を見つけると、ひどく興奮したように指差し、しきりに仲間内で笑いあっている。


ひゅん!ひゅん!


するとそこに、僕の隣に立つ二人から、間髪入れずに弓矢が放たれ、それは狙い過たず吸い込まれるように二匹の魔物の瞳に突き刺さり、一瞬で二匹の魔物が絶命した。

ぽかん、と最初は何が起こったのかわからなかったのだろう、残された魔物たちは、呆けたように後ろ向きに倒れた仲間を見ていたが、それが僕らの仕業と分かると、急ににやけ顔を引っ込め、怒ったように顔を歪め、残った三匹が、一斉にこちらに向かって駆け出してきた。

―――思ったより素早い・・・!

しかし、十分に準備する時間があったからだろう、駆け出したと思うや否や、すぐにアイクとフレイアの手元から第二矢が射られ、さらに二匹、一瞬で命を散らした。

隣で一緒に駆けていた仲間が死んだことを知っているのだろうか?知らないのだろうか?たった一匹で必死にこちらめがけて駆けてくる様は、どこかひどく滑稽で、それでいてひどく物悲しい・・・。

そんな感慨を持っていると、ようやくたどり着いた一匹が剣を振り上げて斬りかかってきたので、剣を構えた僕がするすると一歩前に出て、相対する。


びゅん!!


思いのほか、見かけ以上に鋭い斬撃に、少し驚いてしまったが、それでも、その剣筋はめちゃくちゃで素人だと一目でわかる。

力に任せて、思い切り振りぬいている分、ふとした怖さがあるが、それでもひどく大振りで、切りつける瞬間に、致命的な「ため」があるせいで、初動が読めるし、軌道も読める。

余裕をもって剣を躱し、体が流れた隙を狙ってその首筋に正確無比な一閃を放つ。


ざん!


剣が肉を断ち、骨を切る鈍い感触とともに、首がぼとりと地面に落ち、力を失った最後の魔物がゆっくりと地面に前倒しに倒れ伏す。

返り血を浴びないように横に躱し、後ろを振り返ると、アイクとフレイアがゆっくりと近づいてきていた。

「危なげが無いな」

「流石ね!」

口々に褒めてくれるが二人のほうがすごいだろう。

「いや、剣のおかげだよ・・・。それよりも二人のほうがすごいよ。だって正確に急所を打ち抜くんだもん」

「それは、私たちが弓の扱いに慣れているからよ」

「ああ。それに遠距離の攻撃と違って、奴らの見た目に騙され、意外と力が強かったり、俊敏だったりするあの魔物に痛い目を見させられる初心者はかなりの数いるんだぞ?」

確かに言われて見れば、栄養失調の子供みたいな体つきなのに驚くほど力が強かったように思う。

「奴らはいったい何なの?」

「この迷宮で出てくる魔物の中で一番弱い魔物、【ゴブリン】だ」

あれがゴブリンか・・・。噂には聞いていたが、あんなに醜悪な見た目をしているのか・・・。

「それ以外には、【コボルト】【オーク】そして水場には【リザードマン】、あと深い所まで行くと【トロル】と呼ばれる巨人が出てくる。この迷宮には、亜人種、と呼ばれ、二足歩行をし、人と似通った外見をしているが、それでも他の生物と似た性質を併せ持つ、知恵ある魔物たちが住み着いている、とされている」

「そう言う魔物しかいないの?」

「そうだな。奴らは何より、知恵も持っているから厄介だ。上位種になると魔法を使ってきたり、弓矢のような飛び道具を駆使してきたり、さらには、部隊のような編成を行ってくる魔物もいると言うから警戒と注意が必要だ」

魔物なのに、部隊を編成する・・・?弓矢のような道具を使う・・・?

想像できなかったが、よくよく考えてみれば、先ほど襲い掛かってきたゴブリンたちも、剣のようなものを持っていた。

要は、武器を持ち、そしてそれを扱うだけの知恵を持っているということだろう。それはひどく厄介だ。


「行くぞ。気を引き締めろ」

それから慎重に曲がり角を曲がり、ゆっくりと進んでいく。

先ほどのゴブリンからは、心臓近くにあった魔石を抜き取っただけで、死体はそのまま放置してきた。

驚いたことにフレイアが全く文句を言わずに魔石の抜き取りをしていたので、恐らく獣や魔獣、魔物の解体には慣れているのかもしれない。

素人でないことは確かだ。弓の扱いから見ても、相当に腕が立つ。酔狂で迷宮に挑みたいわけではないらしい。


最初の曲がり角を曲がって、数分、緊張しながら進んでいくと、今度はペタ、ペタ、と先ほどよりも軽快な足音が奥から聞こえてくる。

そろそろとアイクとフレイアが再び弓を掲げた。

ぐるるるるる!

と言う唸り声が闇から聞こえてくる。そうして、急に先ほどまで聞こえていた足取りが緩やかになり、ゆっくりとした足取りになる。

先ほどから獣のような唸り声が聞こえてくる。どうやら向こうも警戒しているようだ。

緊張からだろうか、そろりと構えた剣の柄に手のひらからじんわりと汗が伝い、嫌に滑る。

背中を、つうっ、と一筋の冷たい物が伝い落ちていったがそれすらも気にならない。

隣に立つ二人も緊張しているのだろうか、ぎりぎりと弓の弦を引き絞る二人の腕が心なしか震えているように見える。

瞬間、むわっとした熱気が立ち込めたかと思ったと同時に、アイクが弾かれたように引き絞っていた弓矢を射掛ける。

―――緊張で失敗したのか!?

思わず、焦りの気持ちが芽生えたが、それは、目で追えないほどの速度で飛んでいき、次の瞬間には、その暗闇の先、わずかな間も置かずに「ぎゃん!!」と言う悲鳴が聞こえ、それを予期したいたかのように数匹の魔物が光の中に飛び込んできた。


それはやはり醜悪な外見をしている。

ぼさぼさの毛、ひょろりと皮ばかりで骨が浮き出たやせ細った体つき。

ぼろぼろの腰布と、胸に気持ちばかりの皮当てを纏い。

犬のような頭部を怒りに歪めながら、こちらも黄ばんだ犬歯をむき出しにしている。

手に掲げた不格好な剣を上段に構え。

二足歩行でありながら、驚くべき速さで駆け寄ってくる。


フレイアが弓を射かけた。

それは真ん中、先頭を走るその魔物の胸当てを貫き、そのまま絶命させる。

そして、二矢をつがえる間もなく到着した残りの三匹の魔物を、僕とアイクが剣と武具を構え相手取る。

アイクは得意の、剣が付いた籠手と足環を閃かせ、僕は剣先で相手の刺突を受け流しながら、俊敏な奴らをそれでも一太刀のもとで切り捨てる。

アイクの振りぬいた右籠手の剣先が相手の頭を貫通させ。

振り上げた蹴り足で放たれた斬撃が二匹目の胴体を泣き別れにした。

そしてそれとほぼ同時に、僕も目の前に突きこんできた魔物の犬面めがけて上段から剣を振り下ろし、面を割って絶命させる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ