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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
傭兵時代
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豊穣祭三

こうして、一対一ではあるが、アイク対三人の勝ち上がってきた男たちの闘いが幕をあげた。

いつの間にか舞台の上には丸い木でできた、上に布のようなものを被せた筒のような物を抱えた数人の男女が座り込み、その胸に抱えた筒のような物の上の布を叩きだした。

すると、ぽん、ぽん、と言う張りのある、自然と体が動き出すような軽快な音が響きだす。

そこからどんどん、軽快な音は次第に激しく、そして重厚になっていき、気付けば熱く、興奮するような音へと変わっていく。

それに合わせるように、闘いはどんどん熾烈になっていく。

改めて思うことがある。

―――アイクはすごいなあ・・・・。

轟く歓声も、胸に響く鼓の音も、至近に感じる人の熱も、むせかえるような体臭も、何も気にならない。

そんな些細なことなどまるで感じない。

ただ、ただ無心に、我を忘れたように、アイクの一挙手一投足に惹きつけられて止まない。

三人の特性をすべて無視するかのように、その攻撃ほとんどを触れさせない。

するり、するりと滑るように躱し切り、そして要所、要所で、攻撃を放っていく。

そしてその攻撃が、相手の意識の間隙を縫うのか、それとも反撃できない絶妙なタイミングで放たれるのか分からないが、面白いように当たっていく。

気付けば観客は誰もが魅了され、そして、しん、と黙り込む。


日も暮れようかと言う夕刻の時間。

真っ赤に燃えるような日の光を浴び、アイクが佇む。

急に吹き込んできた、冷え込んだ風に頬を撫でられ。

ゆっくりと勝ち名乗りをあげるように拳を突き上げた。

天高く上げられた拳に陽光が影を作り、どこまでも伸びた影はその先を知らず。


歓声が爆発した。


いつまでも、いつまでも枯れることなく叫び続ける人々の熱気に当てられ、我知らず僕も、声を限りに叫んでいた。

フレイアも興奮したように叫んでいる。


そこに、ゆっくりとアベルが台上に上がってきた。

「皆の者!!静まれ!!」

朗々と轟く張りのある声は、染み込むように広場に響き渡り、波のようにゆっくりと中心から奥にかけて静まっていく。

そしてついには、しんと静まった広場を一望してアベルは満足そうに一つ頷いた。

「皆の者聞いてくれ!!ついに我が息子アイクが!!我らのもとに、この街に帰ってきた!!思えばこの十年・・・・どれだけの辛い思いをしてきただろうか・・・・。それでも今日この時に!!まさに証明して見せた!!この十年は全く無駄ではなかったと!!!わが息子アイクは!!!この十年を失意の中、無為に過ごすのではなく・・・・。必死に己を鍛え上げ、一回りも二回りも成長して見せた!!!私はとても誇らしい気持ちでいっぱいだ!!!」

ここでちらりとアイクを振り向いたアベルは少し逡巡するかのような素振りを見せた後言葉を続ける。

「そして・・・この十年・・・・我が息子は帝国の奴隷として見世物の剣闘士をさせられていたそうだ・・・・」

食い入るようにアベルとアイクを見つめる人々が息をのむ気配がした。数秒、怒号が飛ぶ。

すぐにアベルが手を挙げて止める。再び波のように静まっていく広場にアベルの声が、怒号が轟く。

「こんなに頭に来たことはない!!!わが息子を奴隷としたなど・・・・言語同断だ!!!・・・だが、今日話したいのはそのことではない。アイクを、そして仲間を命がけで救い出してくれた英雄たちの話だ!!!彼らがいなければ、今こうしてここに我が息子はいなかっただろう!!!今日この時ばかりは!!!彼らの冥福を祈って黙祷をささげよう!!皆の者も、一緒に彼らのために祈ってはくれないか?」


涙が零れ落ちそうだった。

アベルが両手を合わせ、祈りを捧げるように真摯に瞳を瞑る。

それに習うようにアイクが、フレイアが、そして人々が、祈りをささげる。

僕もゆっくりと瞳を閉じ、祈りをささげた。

―――兄さん。リック。ありがとう。

ゆっくりと瞳を開けると、アベルが両手を挙げ、万歳のような格好をしている。

「よし!!しんみりするのはここまでだ!!ここからはみんなで楽しんでいこう!!」

地平の果てに日が沈み、ゆっくりとあたりは薄暗くなっていく。

広場の中央に建てられた篝火に火がつけられ、轟轟と炎が燃え立つ。

勢いよく燃え上がった炎があたりを優しい朱色に染め上げていく。

先ほど鼓を打ち鳴らしていた数人の男女が先ほどと同じようにリズムよく音を奏でる。

それに合わせて、数人の踊り子が篝火の周りでくるくると飛ぶように踊り始め。

それに合わせるように、居合わせた人々が、好き勝手に踊り始めた。

僕はと言えば、フレイアに導かれるままに、手を引かれたままくるくると踊る。

こんな風に誰かと踊るなんて初めてだ。

轟轟と燃え盛る炎が熱い。

人々の熱気が熱い。

至近で楽しそうに踊るフレイアの熱い体温を感じる。

頬が熱い。体が熱い。握りあった手のひらが、燃えるように熱い・・・。

くるくると導かれるままに体を動かしていると、すぐにぽかぽかと温まってきて、うっすらと汗をかいていく。


楽しい。


フレイアも同じ思いなのだろう、一つ回るたびに、底抜けに明るい笑顔を振りまいている。

どうしてだろう?触れている手が熱を持ったようにこんなにも熱いのは・・・。

周囲で踊る人たちに押されて近づくたびに、フレイアが恥じらうように顔を背ける。

なんだかそれが、もどかしいような、くすぐったいような不思議な気持ちだ。けれどもなぜだろう?嫌ではない。


どれくらい踊っていたろうか?

それほど踊っていたつもりはない。

いや、そう思うだけで、もしかしたら随分と長いこと踊っていたのではないだろうか?

その証拠にお互い息を切らして汗びっしょりだ。

何より、心地よい疲労が体を包み込んでいる。どちらからともなく、お互い言い合わせたようにゆっくりと中心から離れていき、気付けば二人は広場の外れまで来ていた。

「少し疲れたね?」

フレイアが笑顔を向けながら振り返ってくる。

「そうだね・・・・」

少し、どころか、かなり疲れていたためおざなりの返事しか返すことができない。それでもフレイアはどこか嬉しそうににこにこと笑っている。

手近の屋台で売っていた、あっさりとした甘い果物でできた飲み物を飲んでみた。

ひんやりとした冷たさが、火照った体に心地いい。喉を通り抜ける瞬間のさわやかな甘さが癖になりそうだった。それでいて全くしつこくなく、いくらでも飲めそうだ。

「少し歩かない?」

僕と同じように飲み物を飲んだフレイアが思い立ったように立ち上がる。


導かれるままにフレイアの後姿を追いかけ、街を通り抜け気付けば人気が全くない街の外まで歩いてきていた。


「どこまで行くの?」

先を歩くフレイアの姿以外は、もうすでに見えなくなってきた。すでに辺りは真っ暗で、月明かりが優しく二人の行く先を照らす。

「うーん・・・・もうちょっと行った先まで」

くるりと振り返ったフレイアがぺろりと舌を少し出しながら悪戯っぽくそんなことを言ってきた。

「もうちょっとって・・・・。どこまで行くの?もう街の外まで来ちゃったよ?」

危ないよ?と言外に告げようと思ったが、思いのほか心細い。

気付けば、道は緩やかな上り坂になり、ゆったりだがフレイアの歩く速度が落ちてきた。

「もうちょっとだから」

先ほどからこの調子だ。いくら聞いても行き先を教えてくれない。ぼんやりとした月明かりが照らす道は、木の根や草の葉が地面を覆い、思わず足を取られてしまうような悪路だ。何より木が生い茂り、天辺を覆う暗闇に閉ざされた視界は、その寸分先すら見通せないほど暗くなってきている。

それでも、不思議なことにフレイアの姿だけはしっかりと見えた。

ぼんやりと、ではなく、無明の暗闇の中にはっきりと浮かび上がるその姿が、まるで夢か幻でも見ているかのように現実味がない。

僕の手を握る柔らかく温かい白い手が、煌々と光を放っているように美しい。


随分と歩いてきた気がする。もう少し、もう少しと言われてついてきたが、その足が緩まる様子は一向にない。

だから仕方なく、並んで歩くために少し速度を速めた。すぐに肩を並べて歩くことができた。

そんな僕をフレイアは少し不思議に思ったようで、小首をかしげながら見上げてきた。

その様子にどきりとしてしまう。

ふと、昨年まではいったい誰と一緒に豊穣祭に参加していたのかな?と思ったら胸がずきりと痛んだ。そしてそれだけなのになぜか隣を歩くフレイアの顔をまともに見られなくなってしまう。

「どうしたの?」

どうしてそう思ったのかは分からない。それでも何となく、今抱いた疑問は口に出しちゃいけないんじゃないか?と思いながらも、我慢できずに尋ねてしまった。

「昨年までは誰と一緒に豊穣祭に来てたの?」

問われて数瞬、ぱちぱちと面食らったように瞬きを繰り返したフレイアは、すぐに弾けるように笑いだした。

―――なんだか嫌な感じだ・・・。どうしてこんなに心がざわつくんだろう?

「なに?知りたいの?」

にんまりと笑顔を浮かべるフレイアに一瞬むっとしてしまったが、それでも正直に答える。

「うん。知りたい。気になったんだ」


今度は逆にフレイアが顔をそらす番だった。驚いたように目を見開き、ふいっと視線を外されてしまった。

「えっと・・・・。そんなにはっきり言われても・・・・」

一体どうしたのだろう?急に恥ずかしそうにしだしたフレイアの心境が分からずに、まじまじと見つめていると、堪えきれなくなったのか、叫び出す。

「ああーーー!!もう!!言うわよ!!女の子の友達と一緒に来てたのよ!!その子が今年の春に結婚しちゃったから、どうしようかな?って今年は少し憂鬱だったのよ!!」

「その前の年は?」

「毎年その子と来てましたー。これで満足ですかー?」

思いのほか僕はホッとしていた。それにしてもどうしてフレイアは急に自棄になったのだろうか?


「うん。満足だ」


無言で肩を叩かれた。思いのほか痛い。なんなのだろう?祭りの興奮で情緒不安定になってしまったのかな?

そのまま無言で歩いていたら急にフレイアがわき道にそれていく。


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