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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
傭兵時代
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豊穣祭二

「君も参加するのかい?」

落ち着いてきたところで、急にそんな質問を投げかけられたが何のことか分からなかったのでぽかんとしてしまう。

「あれ?分からない?聞いてないの?」

「何が?何を?」

「あ、知らないんだ・・・・まあ、今年はアイク様のお披露目でもあるから参加を控えてほしかったのかな?」

「だから何が?」

先ほどからいったい何の話しをしているのだろう?一向に分からない。

「うーん・・・。まあマシュー隊長に勝ったと言うくらいだから、恐らくそうなんじゃないか?なにせ三人しかいない迷宮守護隊隊長の一人なんだからな」

そのまま二人でしたり顔で話をし始めてしまう始末だ。

「おお!?ごめん、ごめん!君は知らないんだったか・・・」

ようやく気付いたのか、と不満顔で見つめると、謝罪交じりに教えてくれた。

「毎年【豊穣祭】になると俺たち兵士が己の強さを競い合う【拳闘大会】が催されるんだ」

「剣闘大会?」

嫌な言葉だ。思わず顔をしかめてしまう。

「剣じゃなくて拳のほうだ。剣を使わずに己の手足で闘いあい、勝ち抜き戦で戦い抜いていく。まあ、ルールが決まっていて、倒した方が勝ち、とか、あとは特設の試合場を作ってその場外に落とされたら負け、とか、いろいろ怪我しないように考えられているんだ」

「ふーん・・・」

まあ、おめでたいお祭りの日に本気で闘いあって怪我してしまったんじゃあ悲しいだろうな。

「そんで、今年の優勝候補筆頭はアイク様。あの人は十代からもう誰も叶わないほど強かったから当然だ。その次に強いのが迷宮守護隊っていう部隊の隊長三人だ。この三人の一人が、君が勝ったマシュー隊長だ」

あれ?あのとき見たのはマシュー隊長だけだったが、他の二人はいったいどこにいたのだろうか?

僕の疑問を感じ取ったのだろう、もう一人が説明してくれる。

「ああ、迷宮守護隊は三部隊構成で、三交代制なんだよ。ずうっと一つの部隊が守っているわけじゃない。二日おきに交代していくんだ。それで、マシュー隊長の他に、エドワルド隊長、ターナー隊長がいるんだ」

「なるほど・・・」

「まあ、そういう訳で、もしかしたらマシュー隊長に勝った君の実力を警戒して参加の声がかからなかったのかもしれないな」

そう締めくくった僕らに、ようやく女性たちから声がかけられる。

「ほら!行くわよ!」

三人がそれぞれの女性に腕を引かれ、まるで、僕たちが長話していたため仕方なく、と言ったような咎める視線を受けながら、話を打ち切られる。

なんだか少し納得できない心情だ・・・。

「何を話してたの?」

僕の腕を引きながら、ぐんぐん歩き出したフレイアが不意に振り返りながら聞いてきた。

「いや、拳闘大会について聞いたんだ」

「そうなの・・・」

すると少し居心地が悪そうにうつむく。

一体どうしたのだろうか?何か言ったほうがいいのだろうか?そう思った矢先に、再びくるりと振り返ったフレイアが、突然謝ってきた。

「ごめんなさい!別にあなたを除け者にしたんじゃなくて、今までも街の人しか参加してこなかったし、何よりあなたが闘いから身を置きたがっているんじゃないかって父さんたちが・・・・」

どうなんだろうか?言われて僕自身複雑な思いだった。ただし、拳闘大会のことは何とも思っていない。

「僕は別に気にしていないよ。ただ少し興味があるから見てみたいな」

その言葉にフレイアがぱあっと顔を輝かせる。

「本当に!?私も見たかったんだけれど・・・・。シリウスがいるからどうしようかなって思っていて・・・・。でも、それなら見に行きましょうよ!!」

言うや否や、僕の腕をさっきよりも強く引っ張ってぐいぐいと歩き始めた。そんなフレイアの背中に質問をぶつけてみる。

「そう言えば・・・」

「どうしたの?」

「フレイアたちは何を話していたの?」

ピタッと、フレイアの足が急に止まった。

どうしたんだろう?

しかし、振り返ることはない。

「絶対に教えない!!」

強く言い切ると、そのままずんずんと歩き出してしまう。

ええーー?と思ってフレイアを見てみると、どうしてか耳が真っ赤に染まっている。


大広場に着いた。多くの人々が身動きできないほどの人混みで、少しげんなりしてくる。

遠くに木枠で組まれた高台が遠望できる。そしてその上では二人の兵士が上半身裸で闘いあっている。

その下には多くの人々が集まって、体がぶつかり合うのを気にすることもなく、叫ぶように盛り上がっていた。

ヤジを飛ばしながら特設の高台にかじりつくように見つめる人々はみんな楽しそうだ。

女性も黄色い歓声をあげながら興奮したように盛り上がっているのが驚きだ。

フレイアが人波をかき分けるように近づいていく。

人並みを押しのけるのをものともしないフレイアに僕は逆に周りの人たちに申し訳ない気持ちになってペコペコ頭を下げながらその後ろを見失わないように必死に追いかけて行く。

ようやく高台の上を一望できる場所までやってきた。

丁度、今まで戦っていた二人の闘いが終わったようだ。

新たに二人の兵士が入ってくる。

「うおおおおおおお!!!!!」

入場してきた人を見て周囲の人々が一際歓声を上げた。

マシューだ。かなり人気のようで、ずんずんと歩いてきた彼は、中央まで歩み寄ると、周りを囲む人々に手を振って応じている。

ずいぶん余裕がある。引き締まった体つきに、男女問わず見惚れるように皆が注視する。

逆に対戦相手の兵士は蛇に睨まれた蛙状態で、随分と余裕がなく、怯えるように中央に立つマシューを見つめている。

人々からも注目されることなく、そのことすらも意識できていないようだ。まだ経験が浅いのだろう、若い男だ。


勝負が始まった。

マシューの相手の若い男は、緊張に身を強張らせ、必要以上に怯えるように距離を離している。

対するマシューは仁王立ちし、全身から力を抜いたままだらりと両腕を下げ、構えともいえぬ構えを取っている。

両者睨みあったまま試合開始から動きはない。

しかし、その互いの心境は全く異なるだろう。

片や、いつ手痛い攻撃を受けるか分からぬため、自分から打って出たいがそれすらも怖くてまるで動けない者、片や余裕をもってただただ相手の出方をうかがうように立ち尽くす者。


そして、ついに動き出す。

「うわああああああ!!!!!」

マシューの相手が、勇気を振り絞るように大声をあげ、まるで突進するかのように身を低くしマシューめがけて思い切り間合いを詰めていく。

「行けええええええ!!!!!!」

「きゃああああああ!!!!!!」

それに合わせて人々が一際盛り上がる。しかし僕はそれを少し冷めた目で見つめていた。

―――もう結果は見えた。

その予想通り、マシューは、ぎりぎりまで引き付け、ぶつかる!と思った瞬間に、ひらりと体を翻し、それこそほんの一歩、ほんの一歩右足を後ろに引き、体を横に回すだけで躱して見せた。

そしてそのまま相手の突進の勢いを利用し、思い切り突き飛ばすと、相手は「うわあああああ!!!!」と情けない叫び声をあげたまま高台の外に放り出されてしまった。

「そこまで!勝者マシュー隊長!!」

「うおおおおおおおおお!!!!!」

「すげえええええええええ!!!!!!」

「きゃあああああああ!!!!!!」

「素敵いいいいいいいいいい!!!!!!!」

マシューはそのまま歓声にこたえるように手を振りながらその場を後にする。

場外に吹き飛ばされた相手は、ゆっくりと立ち上がってその場を後にしていく。どうやら怪我はなかったようで、少しホッとした。


僕とフレイアは、そのまま観戦していたが、どんどん試合は進んでいき、昼を食べるために一緒に屋台を回っただけで、昼以降もそのまま拳闘大会の観戦をしている。

だんだんと勝ち抜く人が限られていき、その中でも、三人の人間が目立っている。

一人はマシューだ。一番技が際立つ戦い方をしている。

変幻自在に体を動かし、その柔軟性、そしてバランス感覚の高さは、目を瞠る物がある。

二人目は大柄な男性だ。獣のような鋭い視線に、ぼさぼさの髪、そして鋼のように鍛え上げられた体つきは、本当に野生を感じる。

フレイアに教えてもらったが、彼は迷宮守護隊の隊長の一人、エドワードだそうだ。

彼を一言で表すなら、剛腕、だろうか。ただただまっすぐで、ただただ力強いその攻撃は、一種、目を引き付ける魅力がある。

まあ、対戦相手としてはこれほど嫌な相手もいないだろうが・・・。

それでも今の今まで相手に大きな怪我をさせることなく、ほとんど一挙動で倒してきている。

三人目は手足の長い中背の男だ。

彼が最後の迷宮守護隊長、ターナー隊長だそうだ。

彼の強さを一言で表すなら、異質、だ。その長い手足をまるで鞭のようにしならせ、視界の外から攻撃を放つ。初動が早く、読みづらい攻撃、ほとんど足音を立てずに滑るように動く特別な歩法、そして何より、体を仰向けに倒したり、思い切り横っ飛びに跳びあがった状態から、恐ろしく強い打撃を放つ異常なバランス感覚の高さに驚く。

そしてその戦い方はまるで踊るように独特で、観客たちも大盛り上がりだ。

気付けば当然のように三人が勝ち上がっていた。


そこに登場した。

満を持しての、彼の登場に観客からはこれ以上ないほどの歓声があがる。

そしてその歓声をまるでそよ風のように受け止め、男はゆっくりと三人のもとに歩いていく。

三人の男たちは、その時を今か今かと待ちわびたようにギラギラと瞳を輝かせその男を見つめていた。

「マシュー以外は久方ぶりだな」

ゆっくりと男が口を開いた。

その男に三人の男は深々と頭を下げる。

「アイク様・・・・。ご挨拶が遅れて申し訳ありません・・・!よくお戻りになられました・・・!!」

アイクはゆっくりと三人を睥睨する。そしてそのまま、まるで当然のように告げる。

「さあ、闘うか」


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