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英雄伝説ー奴隷シリウスの冒険ー  作者: 高橋はるか
傭兵時代
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勉学四

「シリウスはどんな魔法を使うの?」

フレイアに聞かれたが、すぐには答えられなかった。雷の魔法もあの水竜の洞窟で使って以降、何となく使い方が分かったがそれでもまだまだ制御が難しい上に何よりよほど集中していないとできない。

「アイク・・・。僕が使う魔法って風の上位魔法なんだよね?なら僕も風の魔法が使えるの?」

「え!?シリウス雷が使えるの!?」

フレイアが驚いているが、アイクは少し渋い顔をしている。

「うーん・・・。適性があるとは思うから使えるとは思うが・・・。そもそもどうして雷が使えるんだ?雷などほとんど目にしたことはないだろう?」

どうしてか?と聞かれると答えることができない。ただ、どうしてか分からないが、ニコライと闘ったあの夜に、直感的に同じ魔法を使うことできると思って、試してみた。そして実際にできたのだ。

しかし逆に風の魔法が使えそうかと聞かれると正直に使えるとは思えない。

「ねえってば!」

「うお!?」

耳元で急に聞こえた大声に僕は驚いて振り返る。

フレイアが少し怒った表情で立っている。

「ごめん・・・。どうしたの?」

「だーかーらー!使って見せてよ!雷の魔法を!!見てみたい!!」

「いや・・・それは・・・・」

上手く制御できる自信が無い。ちらりとアイクを見ると諦めたようにため息をつく。

「しょうがないから見せてやれ」

「分かったよ・・・・」

渋々頷き、ゆっくりと息を整える。大きく息を吸い込み、するすると息を吐き出す。

瞳を閉じて肌をそよぐ風を感じながら、ゆっくりと体の中に存在する魔力を高めていく。

「こっちに来い」

アイクがフレイアを連れて庭の隅のほうに向かっていった。フレイアは渋々だったが、僕は少しホッとしている。これで少し制御がおろそかになってしまっても被害は少なくなるだろう。

体内を駆け巡る魔力をぐるぐる、ぐるぐると循環させ、雷をイメージする。

ゴロゴロと轟く雷光。

闇を切り裂き、瞳を灼く稲光。

千里を一瞬で駆け巡る淡い輝き。

そしてすべてを焦がし貫く剣のような鋭さ。

イメージは固まった。

ゆっくりと吸い込んだ息を鋭く一瞬で吐き出す。

「はあ!!」

瞬間、全身を蒼い稲光が包み込む。

バチバチと周囲を威嚇するように鞘走る稲妻が地面を穿ち、宙を叩き、その威容を轟かせる。

―――くそ!

しかし、僕の顔色は優れない。なぜなら出力を抑えることも、解放することも全くできないからだ。体の周囲を漂い、数メートル離れると制御を失い虚空に散り、バチバチと放電される雷は、たとえ仲間であっても何人も近寄ることを許さない。

何より最大出力で吹き荒れる高威力の稲妻は、僕の魔力を一瞬で使い果たす勢いだ。恐らくすぐにでも立っていられなくなってしまうだろう・・・。

「すごい・・・!!」

フレイアが感極まったようにつぶやくが、アイクは厳しい表情のままだ。

「おーい!!もういいぞ!!」

アイクに言われたのでようやく全身から力を抜き、雷を抑える。

ふうー、と長い息を吐き出し、ようやく魔法の行使を終えた僕は息も絶え絶えで、何より全身汗びっしょりだ。

そんな僕の様子にお構いなく興奮した様子のフレイアが駆け寄ってきた。

「すごいじゃん!すごい!!すごい!!初めて見たからびっくりしたわ!!雷ってあんなに綺麗なのね・・・!」

瞳を輝かせながらうっとりとした表情でつぶやくように話すフレイアを見て言えると、大変な思いも報われると言う物だ。

「大丈夫か?」

アイクが心配そうにこちらを見ているが、僕はこくこくと無言でうなずく。

「さて、本題からずれてしまったが、これから魔法陣を使った魔法と、そしてルーン文字を使った魔法を実演しよう」

そう言うやなや、懐から一本の木の棒と一枚の巻紙を取り出した。

「今日は見やすいようにこの巻紙の上に魔法陣を書く」

地面に置くとさらさらとペン先を魔力水の入った瓶に浸し図形を書き上げていく。

綺麗な図形だった。大きく全てを包みこむ円は、歪み一つなく、正確で、中に描かれた複雑な文様は上下左右対称でいて、緻密だった。

こんな文様書ける気がしない・・・。ぼうっと見つめていると書き終わったのだろう、すっくとアイクが立ち上がった。

「よし!できた!これが初歩の魔法陣だ!久方ぶりにやってみたが上手くできたようだ」

アイクも自信がなかったのか少し安堵しているように見える。

その上に手をかざすと、わずかに魔力を込めた。

すると紙の上で魔法陣が光り輝き、ぼう!と大きな音がしたかと思うとめらめらと炎が立ち上がった。

炎の大きさはそれほどでもなく、焚き火程度のものだが、すごいのは消える気配がないことだ。アイクが魔力を供給している様子もない。

魔力の流れを見てみると、魔法陣が周囲に漂っている魔力をゆっくりと吸収して魔法を行使している。

「これどれくらい保つの?」

「これか?これはそんなに長時間続かないぞ。魔法陣に描く文様の数、質、そして複雑さによって効果時間、威力、質が変わってくる。これはそうだな・・・。もうすぐ消えると思うぞ。まあ、魔法陣を正しく知ってもらうために、待つんじゃなくて消してしまうがな」

そう言うや否や、アイクは魔法陣のほんの一部、外側の円を足で踏みつけ、歪めてしまった。

すると、どんどんと光が失せ、ほんの瞬きの間に炎は霞のように消えてしまう。

「こんな風に魔法陣の一部に干渉すれば消すこともできる。ただし、作り方と同じように消し方を間違えると術者ではなく消した相手に向かって暴発してしまう。だからこそ、作り方を知ることが一番重要なんだ」

「なるほど・・・。でもよくよく考えれば相手が書いた魔法陣を消すことなんてあるの?」

戦闘中に相手が大規模魔法の魔法陣を書く時間を待つとは思えない。この技術はとても目を瞠る物があったが、それでも戦闘前の準備の段階の物であって、戦闘中の柔軟性はないように思えた。

「それがな、稀に、本当に稀にだが、己の魔力を使って一瞬で魔法陣を作り上げてしまう者がいる。体内魔法【プラーナ】を行使できる者のことを【魔法使い】と呼び、ルーン文字を使う者のことを【魔言士】と呼ぶ。そして、魔法陣を戦闘中に組み立てる者のことを【魔術師】、と呼ぶ。すべてを使う者のことを【魔導士】と呼ぶそうだ」

「そんな人がいるの・・・?」

己の魔力を用いていったいどうやって魔法陣を描くのだろうか?僕には全く理解できなかったが、そんなことができる人間がいるのだろうか?

「ああ、いるぞ。ちなみに俺とフレイア、そして父さんは一応全部できるが、それでも戦闘に使えるほどの完成度ではないから魔法使いだな。とりわけ魔法陣、そしてルーン文字による魔法の行使は使用魔力が少なくて済むから、覚えておいて損はない。だからこそ魔言士、魔術師、そして魔導士を相手に闘う時には、魔法を行使される前に接近戦で倒さなければならない、とされているが、まあ、そうそう簡単にできるもんじゃない」

その口ぶりはどうもそういう相手と闘ったことがあるような口調だ。

聞こうかどうか迷っているとアイクは話し出してしまった。

「次に教えるのがルーン文字だ。これは正直十単語も覚えていないから、ほとんど教えることができない・・・。まあ、やって見せるのが早いか・・・」

そう言うと、急にアイクは口をつぐみ呼吸を整え始めた。


『火よ!燃えよ!』


アイクが何かを叫ぶ。それは、なんと言っているのか僕には全くわからない言葉だった。僕らが話す言葉とは全く異なり、口を開いたまま、鼻から空気を抜くような、それでいて舌を全く動かさないように発音するために、とても聞き取り辛い。何より、恐らく大きな声で叫んだのだろうが、僕には空気が抜ける音しかほとんど聞こえなかった。

―――失敗したのかな?

そう思った瞬間、アイクの目の前でぼう!と、拳大ほどの大きさの火が灯った。

「おお・・・!」

思わず手を叩いて拍手してしまう。アイクがほっとしたように息を吐き出す。

「今なんて言ったの?」

「火よ付け、燃えよ!みたいなことを言ったんだよ」

「全部あんな空気が漏れるような発音をするの?」

少し真似しながら尋ねてみた。なかなかに難しい。もしそうであれば僕にはできそうもない。

「いや、違う、と思う。確か、それこそ魔法の属性によって違う発音をするはずだ。ただ、何せ発音が難しいから、どれもこれも覚えるのに苦労すると聞いたことがある」

「じゃあこれから僕が勉強するのは魔法陣の書き方と、ルーン文字?」

「いや、正直に言うと、魔法陣は多少できるが、さっきも言ったようにルーン文字はほとんど話せない。だから、お前には体内魔力【プラーナ】の制御を中心に覚えてもらい、その上で、魔力切れをしたときに魔法陣を教えながら、ルーン文字を少し教えようと思う」

「分かった」


この日、僕は体内魔力の制御ができるわけもなく、すぐに魔力が底をつき、魔法陣とルーン文字を教わった。

しかしそれすらも、ほとんど覚えることができず、魔法陣に至っては見よう見まねで描いたにもかかわらず、全く発動の予兆はなかった。

何が悪かったのかもわからない。正直泣きそうだ。アイクに聞いたら、円が少し歪んでいる、中に描いたルーン文字が歪だ、等々指摘を受けたが、ただの言いがかりにしか思えない。

ルーン文字に至ってはさっぱりだ。アイクと同じように発音しているつもりだが、全く違う様で、何度もダメ出しを受け、ついには諦められてしまった。

今日はここまでにしよう、と困った顔で言われたときには僕もひどく申し訳ない気持ちになった。

明日からの魔法の勉強が、気が重い・・・。


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