プロローグ
【プロローグ】
世にあまた、後世の人々に英雄や勇者と呼び語り継がれる者たちがいるだろう。
彼らは常に、手に汗握る冒険の中で、もしくは絶望的な状況の中で、時として常人には及びもつかない活躍をし、人々の心に深い感銘を与える。
後世に語り継がれる彼らは、時に快活で、時に寡黙で、その人柄に差異はあれど、決して変わらないことがある。
彼らは常に大衆を導き、誰よりも強く、そしてどんな困難であろうが、どんな大きな壁であろうが颯爽と乗り越えて見せるだろう。
しかし、本当の彼らは常人と変わらぬ只人である。語り継がれる中で尾ひれがつき、大いに誇張され多くの人に勇気を与えるきれいな物語となってしまっていく。
今から語られる英雄の話は、決して誰よりも強いわけではなく、必死で生にしがみつきながら、さりとて人並みに多くのことに苦悩し、過酷な運命に翻弄され、わずかな光明を求めて這いずり回った男の話である。
そこは現代の地球とは全く異なり、魔法が存在し、魔力を有した魔物や魔獣といった異形の存在が跳梁跋扈している世界。
人々は寄り集まって街を作り、国を作り、強い指導者の下に魔物の生息域と人々の生活圏を高く頑丈な壁で分断し、さらには食料や資源を求めて国々に戦乱が広がる危険な世界。
そこにその男は生を受けた。