第一話・異能考査
遅れて申し訳ありません。第一話です。
「――――であるからして、私達は平和を守るために異能力を有効活用せねばならん。決して悪用なぞしてはならないということを肝に銘じておくように」
授業の終わりのチャイムが鳴る。
異能学担当の北村教諭がそれに気づき言った。
「む?もうこんな時間か、それでは今日はここまで!」
授業終わりの挨拶もせずに慌ただしく教室から教師が出て行く。
「あー、やっと終わった」
「よっ、瀬那」
不意に大きく伸びをしていた俺の肩が叩かれた。
振り向くとそこには悪友・涼宮司のニヤケ顔。
「なんだよ、司」
「なんだよって、次の時間はアレじゃん」
「アレ? ああ、異能考査か。そういや今日だったな」
異能考査――それは生徒自身の異能力の実力を考査するための試験であり、生徒にとっては高校三年間での校内格差の順位を決める最も重要な試験といっても差し支えない。
「お前、高校に入って初の異能考査だよ? もっとほら、ワクワクとかドキドキとかしないのかよ」
「あんまりしないな。だってほら、俺そういうタチじゃないし」
「そうだけどさあ? もっと何かあってもいいじゃないか。ちなみに僕は物凄くドキドキしてる」
知らんわ、そんなの。
俺に言うなよ。
「そういや、アレは使うの?」
「アレアレ言うな。まあ使わないとだめだろう。学校の試験なんだから、出し惜しみはしてられんし。それに学校側は把握しているはずだしな」
「あ、そっか」
おっと、もうこんな時間だ。集合時間まであと十分しかない。
体操服に着替える時間も考えるとギリギリだろう。
「おい司、時間だ。もう行くぞ」
「あっ! 待ってよ瀬那!」
喚く司を尻目に俺は更衣室に向かって歩きだした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それでは只今より、2028年度第一回異能考査を開始する! まず初めに、我が校の生徒会長からの挨拶だ」
異能考査担当教師が声を張り上げた。
どうやら次は生徒会長の挨拶のようだ。
すると突然、右の脇腹に衝撃が走った。
「瀬那、生徒会長って誰だっけ?」
「ばっかお前、入学式の時話してただろうが。相原優弥先輩だ。それに、冒険者序列第一位の天才高校生って有名だろ」
まったく。コイツは人の話を聞くということを知らんのか。
そんなことを考えていると、相原先輩が前に出てきた。
「どうも、生徒会長の相原優弥です。緊張で話を聞けるような状況じゃない人もいるようなので、僕からは一言だけ。皆さん、今日は存分に実力を発揮してください。以上です」
驚いた。本当に一言じゃないか。
相原先輩はにこやかな笑みを浮かびながら席に戻った。
するとまた異能考査担当教師が立ち上がり、声を張り上げる。
「それでは、番号を呼ばれた生徒からこのゲートをくぐって試験会場へ移動してもらう! ”ゲート・オープン”」
教師が紫色の結晶を持って呪文を唱えると教師の目の前の空間が裂け、ゲートが開いた。
「へえ、あれが魔術か。本当に異能力とは違うんだな」
「そりゃあね。異能力が何もなくとも保持者の意思通りに使えるのに、魔術は魔道具が必要なんだよね?」
「よく覚えていたな。バカのくせに」
「なんだと!?」
「ほら、モニターを見るぞ」
喚く司にモニターを見るように促す。
異能考査はほかの生徒の試験の様子がモニターで確認できるようになっているのだ。
試験内容は制限時間内に、教師が魔術で作成した異空間に二人一組で入り、モンスターを討伐するといった内容らしい。
司がバカ騒ぎをしている間にもう一組の生徒は全員異空間へ入ったようだ。
モニターに目をやると、一組の生徒が次々とモンスターを討伐していく映像が流れている。
その生徒たちの異能力は雷を降らしたり、鎌鼬を飛ばしたりなど様々だ。
異能力とは、勇者と名乗る男が地球に侵略を開始した十年前に未成年だった人間全てに与えられた能力である。そのバリエーションは多種多様で、一人一種類が原則なのだ。
「次、一年二組一番から十番の生徒は前に来い!」
おっと、もうすぐ俺たちの番が来そうだ。
俺は出席番号十一番だから、相方は十二番の司だ。
ふと右隣を見ると、司が少し青ざめた顔をしていた。
……柄にもなく緊張しているのか。
珍しいこともあるものだ。
ここは相方の俺が頑張らなければいけないところだろう。
ん、あれは小桜か?
なんか物凄く緊張しているような気がするが、大丈夫なのか?
試験に影響しないか心配だ。
「次、一年二組十一番から二十番の生徒は前へ来い!」
ついに俺たちの番のようだ。
俺は隣の親友に声をかける。
「司、行くぞ」
「う、うん。ついに俺たちの番か……」
「落ち着け、俺達ならこんな試験余裕だ。そうだろ?」
「あ、ああ。そうだね。余裕だ」
さて、行こうか。
俺達は前に出て教師の前に立つ。
すると担任の北村教諭が俺に声をかけた。
「おい、城内、もうひとつは使うのか?」
「はい、出し惜しみはしていられませんから」
「……そうか」
北村教諭は俺の返答を確認すると、異能考査担当の教師に合図を送った。
すると担当の教師が厳かに告げた。
「一年二組十一番城内瀬那、十二番涼宮司開始する。制限時間内に戻ってくるように」
俺達はその合図を聞いてからゲートに足を踏み出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここが試験場か」
「本当に凄いよね。俺も魔術使ってみたいよ」
雑談をしながら試験場を散策する。
すると目の前で一ッ目鬼が湧出した。
「早速10ポイント級かよ!?」
と司。
そう、この試験で湧出するモンスターは危険度に応じてポイントが設定されている。
そのポイントの総量と個人の実力に応じて成績が決定されるのだ。
つまり、ペアに任せきりでもいい成績は取れないということだ。
「グオアアアアアッ!!!!」
サイクロプスの咆哮。
その音圧は凄まじいものである。
「ここは俺が行く」
「わかった、任せたよ。瀬那」
俺は頷くと、異能力を発動する。
すると、俺の右手が炎に包まれた。
そのまま駆け出し、サイクロプスを殴り飛ばすと同時に、サイクロプスが炎上する。
そう、俺の異能力は”炎操作”。
その名の通り、己の体を媒介として炎を生み出し、操る能力である。
炎上したサイクロプスはそのまま燃え尽きて灰になった。
「よし、一丁上がり」
「お前ホント異能力の扱いうまいよね」
「そうか? そんなことないと思うけどな」
とまたすぐに新たなサイクロプスが湧出する。
「今度は僕が行くよ」
「ああ、暴れてこい」
司は日本刀を抜いて水を纏わせる。
司の能力は”水操作”。
俺の炎操作と似たような感じの異能力で、水を生み出すことは出来ないが、操ることが出来る能力だ。
大気中の水蒸気を水に変えることはできるのだが、司は固体にすることは苦手らしい。
「セイヤッ!」
気合と共に刀を振るう。
司は、能力によって高速振動する水流で切れ味を増した日本刀でサイクロプスを容易く切断した。
能力を解除し、刀を収める司。
「ふぃー。終わったー」
「いや、気を抜くには早いぞ」
俺は司に警告を送る。
「え? うわあ!?」
司が振り向いた先、俺たちの周りには大量のモンスターがいた。
これは都合がいい。
どちらにせよこちらから出向こうと思っていたところだ。
「司、準備はいいか?」
「大丈夫だよ。それよりカインを起こさなくていいの?」
それもそうか。どうせ起こそうと思っていたし、起こしておこう。
「カイン、起きてくれ」
『なんだ、瀬那。我は今、情報収集で忙しいのだが……』
「悪いが、演算補助を頼む」
『むう……まあ良いが』
カインが演算補助を開始した途端に、俺の右腕に纏わる炎の出力が上がった。
おっと、もうひとつも使うんだった。
「”竜化”」
キーワードを唱えるとピシ……ピシッ……と音を立てながら、左腕が竜の甲殻に覆われていく。
これが俺の二つ目の異能力、”竜化”だ。
『戦いは久しぶりだな。……ごほん、我が名はカインであるッ! 我が力の下にひれ伏すが良いわッ!!』
「カイン、うるさい。どうせ俺にしか聞こえないんだから黙ってろ」
『む、むう……』
ハイになっているカインに文句を言ってから俺は炎を撒き散らす。
司は日本刀を振り回してモンスターを斬る。
『瀬那、左に牛頭鬼だ』
「了解」
カインの警告を聞き、左手で腰のホルスターから拳銃を抜いてそのまま左側を撃つ。
放たれた弾丸は吸い込まれるように俺の左側で棍棒を振り上げていたミノタウロスの眉間に突き刺さった。
実は俺が放った弾丸は普通の物ではない。
魔鉱石という鉱石で作られた魔導合金という特殊な金属の銃弾に妖精族が古代文字で術式を施した所謂魔弾と呼ばれるものだ。
今のはその中でも”炸裂”の術式が彫られた弾丸、炸裂弾である。
”炸裂”という単語を聞けば、余程のバカじゃない限り察することができるだろう。
――閃光と爆音が響いた。
炸裂弾がその本領を発揮したのだ。
当然そんな物騒なものが突き刺さっていたミノタウロスの頭部は石榴のように爆発四散した。
「うへっ……気持ち悪」
「……少しやり過ぎたか?」
『頭部に炸裂弾を撃ち込むなど、人間のやることではないな』
そうだよな……。反省はしてる。
でも後悔まではしてる暇がない。
なぜならこうしている間にもモンスターが追加で襲いかかってくるからだ。
「司、まだいけるな?」
「もちのろんだよ」
『ふむ。我もまだまだ暴れ足りぬのう』
三者三様の台詞を吐き、俺と司は得物を握った。
戦闘が、再び始まった。