負け組
https://estar.jp/_novel_view?w=24999910のサイトでも記載していましたが、他のサイトにも少し手を加えて載せることにしました。ぜひ読んでみてください。
まずこの物語を進める上で一つ言っておきたいことがある。誰しもが忘れてしまいたい記憶というものを何かしら持っているもので、それが小さなことか、大きなことか、はそれぞれ人によって違いはあるが、封じ込めたその記憶を思い出すことが良いことであるのか、良くないことであるのか。それを思い出すことがどんな結果をもたらすのかも各人によって大きく違うのである。
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負け組。そんな風に呼ばれるようになったのはいつからだったであろうか。私は地元の公立高校を落ちて仕方なく私立高校に通った。高校時代はロクに勉強もせず、特に部活というものもやらず、なんとなく過ごし、学校のコネで大学に進学した。私の通う大学自体はそれほど低い大学ではないが、私のいる学部はどうやら大学の足を引っ張っているらしい。大学に入ってからは。などと意気込んだ時期もあったが今やダラダラと講義に出たり出なかったりの日々。つくづく思う、いつからだったであろうかカラの破り方を忘れた蛹のようになってしまったのは。
そして残酷にもシャンと背筋を立てまっとうな人生を送っている人間にも私のような堕落した人間にも時間だけは平等にすぎるもので、先ほど駅でスマホを見た時に気づいたのだが、どうやら今日は私の誕生日らしい。今日をもってして私は20歳となり大人の仲間入りをするようだが、大丈夫であるのかそうでないのかは自分が1番分かっているつもりだ。
押し出されるように電車から降りた私は人波に流されるように帰路をたどる。駅の階段を降り足早に家へと向かおうした時、私は薄汚れた看板に目を奪われた。
[バー.マトリョシカ]
私は磁石のようにその古びた看板に吸い寄せられた。今日20歳になったばかりの私がバーなどに行っても大丈夫なのだろうか。しかしその看板と木のドアからはなぜか懐かしさを感じる。気まぐれに私はそのドアに潜ってみることにした。