98 海南島攻略戦 5
皆さんの応援のおかげで執筆のペースが上がって早く完成しました。予定よりも早く投稿します。
今回は久しぶりに主人公たちがメインとなります。果たして何が起こるのか・・・・・・
輸送艦〔ひゅうが〕のCICで、俺は相変わらずレーダーが映し出されているモニターを見つめつつ、オペレーターの報告に耳をそばだてている。
「海州基地を飛び立った敵の攻撃機は本艦の300マイルまで接近しつつあります」
「下地島からもF-3、12機が発進! 直接敵の攻撃機に向かっています」
「いずもから発進した僚機はまもなく対空ミサイルの射程圏内に入ります」
そうか、下地島からもF-3が発進したのか。これで数の上ではほぼ互角にはなったけど、地図を見ると下地島から空戦域までは台湾をぐるりと回らないといけないから相当な距離になるな。フルスピードで飛ばさないと間に合わないかもしれないぞ。これはどうやら時間との戦いだな。
「いずもから発進した僚機、25式空対空ミサイル発射しました」
ついに日英で共同開発した新型ミサイルが実戦で使用されたのか。このミサイルはヨーロッパの各国が共同開発したミーティアミサイルをイギリスがF-35Bのウエポンベイに収まるように改良して、更に日本製のレーダーを搭載した代物だ。マッハ4で飛翔して、航続距離は100キロ以上という究極の空対空ミサイルと呼ばれている。
イギリスというと軍事マニアの間では『英国面に堕ちる』というフレーズがあるくらいに使い物にならない珍兵器を開発することで有名だ。『どうしてこうなった?』と誰もが首を捻るオモシロ兵器を開発してきた前科が多数がある。だがこのミサイルだけは誰が見ても本当に優秀だ。たぶんイギリスだけではなくてフランスやドイツ、それに日本までが開発に関わっているからだろうな。
その頃、海州航空基地を飛び立った中華大陸連合海州第24航空隊のJ-20戦闘機では・・・・・・
「何だと! 敵はこの距離からミサイルを発射したというのか!」
コックピット内にはロックオンアラームとミサイルの警報が響く。それ以上にパイロットを驚愕させたのはステルス機でレーダーには映らないと信じていた自らが搭乗する機体があっさりとロックオンされてしまったという事実であった。
「小日本はステルス機も無効にするレーダーを開発していたのか!」
だがこれはパイロットの単なる思い込みであった。中華大陸連合が有する戦闘機J-20は確かに外側だけ見ればステルス機らしい形状をしている。だが真の技術というものはガワだけ真似てもその効果を発揮するものではない。表面塗装や細部の造りまで徹底しなければレーダー波を完全には吸収出来ないのである。
レーダーにはっきりと機影が映るJ-20は最初から日本製の優れたアビオニクスを搭載したF-35の敵ではなかった。しかもJ-20に搭載されている空対空ミサイルはカタログ上のスペックこそ航続距離100キロと記されているものの、実際にはその半分の距離しか飛ばない。現代の航空戦では先に相手を見つけて足の長いミサイルを放った方が圧倒的に優位に立つ。このパイロットはいずもの艦載機に先手を取られて、回避行動に専念するしか残された道はなかった。
「高度をギリギリまで下げて回避するしかない」
パイロットは操縦桿を思いっきり下げて、コントロールを失わない限界の速度で急降下に移る。そして真っ青な海面が見る見る近づく中、今度は操縦桿を引き上げて上昇する。
「振り切ったか?」
彼がレーダーに目をやった瞬間・・・・・・ その目が絶望に閉ざされた。新たなミサイルが自分の機体目掛けて飛んでくるのだ。絶望に駆られながらも再び急降下を試みる。だが焦りのあまりに彼は降下していく角度を僅かに間違えていた。何とか下降する機体を立て直そうとするが、海面があっというに間に接近してくる。
「緊急脱出!」
キャノピーが開いて猛烈な風圧が体に掛かる中、彼は高度300メートルでシートごと空中に放り出される。パラシュートが開いて減速しながらそのまま海上に落下して、SOSを発信するしかなかった。
こうして海州基地を飛び立ったJ-20は31機のうち8機が撃墜されて、残りは爆装していた対艦ミサイルを海上に投棄して逃げ帰った。いずもの艦載機だけならば彼らも戦意を保てたかもしれないが、遅れて空域に殺到した下地島からの増援飛行隊のミサイル発射をレーダーで発見するなり、尻尾を巻いて逃げ出したのであった。
こうして中華大陸連合の攻撃機を追い返したF-35は次々にいずもの甲板に着艦する。F-3も威嚇のミサイルを放っただけで下地島へと引き返すのだった。
エレベーターで格納庫にしまわれたF-35には担当の整備員が駆け寄ってすぐに点検と新たな空対空ミサイルの取り付けが行われる。だがその作業に全機が取り掛かったちょうどその時、新たな警報がいずも艦内に鳴り響いた。
「海州基地から攻撃機の第2波が襲来。攻撃圏内まで40分、艦載機の発進の準備を急げ」
整備員の誰もが顔を見合わせる。点検とミサイルの取り付けには最低でも90分必要なのだ。どう見積もっても時間的に間に合わない。
「点検はいいからミサイルだけでも取り付けてくれ! すぐに出るぞ!」
コックピットの中からはパイロットの声が飛ぶ。たとえ機体の点検が万全ではなくとも、艦を守るために決死で飛び立とうという気持ちをすでに固めていた。真の大和魂とはこういうものであろう。
「わかりました」
整備員は黙々とその指示に従ってミサイルだけを取り付けていく。心の中では全員が『無事に戻ってきてくれ』と祈りながら、パイロットの心意気に最敬礼をしているのだった。
輸送艦〔ひゅうが〕のCICでは・・・・・・
不味いな、第2波の攻撃がこんなに早く来るとは思っていなかったぞ。どう対応するんだろうか? 俺は頭の中で対応策を検討する。一か八かで再び艦載機を飛ばすか、それとも艦対空ミサイルだけで対応するか。どちらにしてもリスクがあるな。今度はいくらなんでも下地島の応援は間に合わないだろうし、引き返していったF-3をまた呼び戻すなんて無理だろう。増槽を取り付けていたとしても、おそらく燃料が保たない筈だ。だが俺が考え込んでいる横で司令官さんが美鈴に話し掛ける。
「西川訓練生、済州島で戦闘機を迎撃したあの方法はここでは無理か?」
「可能だと思います。あの時は魔力を節約するために小規模に展開しましたが、ここには聡史君が居るので魔力の心配は要りません。むしろより完璧に展開できます」
これは驚いたぞ! 大魔王様は前回の遠征の折に戦闘機の迎撃なんてやらかしていたのか。一体どんな術式を使用したのか見当もつかない。
「艦長、私から提案だ。ここに居る彼女の力で飛来する敵の戦闘機を迎撃可能だ。すでに済州島でその効果は実証済みだから全く問題はない」
「神埼大佐、それは本当でしょうか?」
「こんな非常事態にウソを言ってどうする! いいから艦隊司令官に取り次ぐんだ!」
うわぁぁ! 司令官さん、面倒になって殺気を滲ませているよ。あんな殺気を出されたら絶対に断れないだろうが。
「わかりました、すぐに取り次ぎます」
艦長さんは額から冷や汗を流しながら通話機を取っている。胃に穴が開かなければいいんだけど・・・・・・ 本当にお気の毒様です。
「そうですか、はいわかりました。そのように伝えます」
通話機を置くと艦長さんが真剣な表情で俺たちの司令官さんに振り返る。
「成功の確率は高いんですね」
「100パーセントだ」
「それを聞いて安心しました。それではここからは特殊能力者部隊にお任せします」
「いいだろう。西川訓練生、甲板に出るぞ」
「その前にお願いがあります。この艦隊の周囲半径100キロ以内に味方の航空機を接近させないように各方面に勧告しておいてください。何しろ無差別に撃墜してしまいますから」
「聞くだけで恐ろしい気がしてくるよ。他には何かないかね?」
「艦隊は現地点の周辺10キロの海域をゆっくりと周回してください。危険ですからその範囲から出ないようにしてください」
「了解したよ、全艦に知らせておこう」
こうして司令官さんを先頭にして俺と美鈴は〔ひゅうが〕のだだっ広い甲板に出る。テニスコートが何面取れるんだろうな? 横幅がちょっと狭いけど、サッカーも出来そうだぞ。ところでこれから何が始まるんだろうな?
「西川訓練生、早速始めてくれ」
「司令、了解しました。聡史君は魔力が尽きそうになったら私に補給してね」
美鈴が俺に向かってウインクしているぞ。なにやら意味深だな・・・・・・ 何を企んでいるんだろう?
「それではこの大魔王の魔法を第1艦隊の皆さんにお見せしましょう。グラビティーエクスプロージョン!」
美鈴の体から大量の魔力が湧き上がって次々と頭上に光の玉が構成されていく。それも100や200なんてものではないぞ! あっという間に何万単位に達しているんじゃないか?
「さすがに艦隊の周囲100キロを覆い尽くすにはまだ数が足りないわね。聡史君、ちょっと艦橋の陰で魔力の補給をお願いするわ」
「いいけど、どうするんだ?」
美鈴は質問には何も答えずに俺の手を引いて艦橋の陰に連れて行く。そして誰からも見られていないのを確認してから俺に告げる。
「魔力の補給をお願いするわ。急いでいるから口移しでね」
「ええ! この場でやるのか?!」
「あら? カレンにはしてあげたんでしょう。私にもお願いするわね」
ま、まあいいか。この前久しぶりにキスしたばかりだし・・・・・・ 俺は美鈴に口移しで魔力を流し込んでいく。1億ぐらいの魔力が流れたところで美鈴が体を離す。
「こんな効率のいい魔力の補給方法があったのね。聡史君、どうもご馳走様でした」
その言葉を残して美鈴は再び甲板のど真ん中に戻っていく。俺もその後を追いかけると、すでに術式の展開を再開して光の玉の大量生産を行っていた。おいおい〔ひゅうが〕の甲板の100メートル上空にはまるで雲のように光の玉が集まっているぞ。もうその数は軽く10万を超えているかもしれないな。これだけ大規模な術式をどうやって運用するのか興味があるぞ。
「聡史君、もう1回魔力の補給をして」
「わかった」
こうして都合7回美鈴に魔力の補給を行う。億単位で俺の魔力が美鈴に持っていかれたけど、すぐに元通りになっているな。カレンの時はあまりにも急速に魔力を持っていかれて俺が意識を失ったけど、今回は間隔を空けて美鈴に補給しているから、気がついたら俺の魔力は元通りになっているんだ。
「たぶんこのくらいで間に合うでしょう。さて、GPSで現在位置を確認して・・・・・」
美鈴はスマホを開いて、今自分がいる位置情報を確認している。画面に表示される地図は何もない海の上を示しているな。当たり前だけど。
「ここを中心にして半径100キロだとこのくらいの円になるわね」
美鈴は地図の縮尺を大きくしてより広い範囲を画面で確認しているな。地図の端にはフィリピンと台湾が映っている。そこにまるで台風の暴風圏のような円を指で描くと、頭の中でその範囲をイメージ化している。
「さあ、所定の位置に向かって飛び去りなさい!」
艦の上空に漂っていた光の玉は文字通り光の速さで四方八方に飛んでいく。美鈴の表情からして予定の位置に全ての光が配置されたらしい。さすがは大魔王様だよな。略して『さすマオ!』だ。
全ての光の配置を終えた美鈴に俺は話し掛ける。
「美鈴、一体どうやって敵の攻撃機を撃ち落すつもりなんだ?」
「ああそうね、聡史君は何も知らなかったのよね。私が飛ばした光は1つ1つが重力機雷になっているのよ。物体が光の1キロ以内に接近したら10Gの重力を放出するわ。戦闘機やミサイルがいきなり10Gなんていう超重力に晒されたらどうなるかしら?」
「墜落は免れないな。大魔王様、さすがです!」
「何よその褒め方は?」
「いや、なんとなく頭に閃いた」
首尾は上々なので俺たちはCICに戻ってレーダー画面を注視している。
「艦長、念のために対空ミサイルとファランクスはいつでも発射できるように準備してくれ。まあ杞憂に終わるだろうが、あくまでも念のためだ」
「神埼大佐、すでに準備は終えています。最悪の状況を想定するのが私の仕事ですから」
うん、備えあれば憂いなしだな。さすがはこの巨大な艦を預かっている立場にある人だ。わかっていらっしゃる! その時、レーダーに反応がある。
「敵攻撃機、対艦ミサイルを発射しました! 距離100マイル、真っ直ぐこちらに向かっています!」
「敵攻撃機合計30機! 次々にミサイルを発射!」
それ、おいでなさったぞ! 間もなくミサイルが重力機雷を張り巡らした一帯に接近するな。果たして無事に撃ち落せるか一抹の不安が残るが、美鈴と司令官さんは涼しい顔でモニターを見ている。
「敵ミサイル急激に失速! 海上に落下していきます!」
「全てのミサイルの墜落を確認しました」
「「「「「「おおぉぉぉぉぉ!」」」」」」
CICに詰めている要員の口から期せずして歓声が沸き起こる。彼らは海の男として長年国防軍に勤めてはいるが、こうして魔法の効果を目の当たりにしたのは初めてだ。むしろ驚かないほうが不思議だろう。
「敵の攻撃機は無理をしないで引き返していきます」
「全機海州基地へ帰還する模様です」
「納得いかないわね」
ミサイルが次々に失速して海上に落ちるという謎の現象を確認した中華大陸連合の攻撃機は引き返していくようだ。だがこれを聞いた美鈴は険しい表情をしているぞ。
「美鈴、一体何が納得いかないんだ?」
「不遜にもこの大魔王に手を掛けようとするなど言語道断! 等しくその報いを受けねばならぬ!」
おや、ここで急に大魔王モードが発動しているぞ。美鈴さん、ミサイルは追い払ったんだからこの辺にしておいてもいいんじゃないのかな?
「聡史よ、我に付いてまいれ!」
「ど、どこに行こうというんだ?」
「よいから付いてまいるのだ!」
俺は大魔王となった美鈴に伴われて再び甲板に出る。一体何を始めるつもりなんだろう?
「この大魔王から逃げ果せると思うでないぞ! 我の僕たちよ、追いかけるのだ! そうであるな、なるべくゆるりと追うがよかろう。戦闘機が着陸してから周辺に着弾せよ」
えーと、この大魔王様は恐ろしい命令を出しているぞ。『戦闘機を追いかけて行け』って命じているけど、たぶんさっきの光の玉に言っているんだよな。数百万単位で発生させた重力機雷を敵基地に向けて移動させて、そこで爆発させるつもりか! これは聞いているだけでも身の毛がよだつな。
俺たちの頭上を夥しい光が流星のように北に向かって流れ去る。あの光の1つ1つに超重力が秘められているんだよな。着弾して爆発した先ではその場にある全てを押し潰すのだろうな。敵が反抗する気も起きないくらいに報復を徹底する大魔王様らしいやり方だよ。ぺしゃんこになる運命が待っている敵の基地に向かって短い祈りを捧げてから、俺たちは艦橋に戻るのだった。
次回は一旦舞台が日本に戻る予定です。留守番をしているさくらが大人しくしている筈もなく・・・・・・ 投稿は週末の予定です。どうぞお楽しみに!
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