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97 海南島攻略戦 4

敵の艦隊を攻撃するために出撃した第7飛行隊、果たして彼らは・・・・・・


誤字報告ありがとうございました。本当に助かります。

 海面上のギリギリの高度で3機編隊のF-2が標的目指して突き進む。レーダー波を探知されるリスクを考えて機体のレーダーはまだ封鎖したままだ。その代わりに上空にあらかじめ待機しているAWACSからリアルタイムでデータを送ってもらいながら様々な状況に対処している。



「AWACSから第7飛行隊、間もなく目標までの距離50マイル。攻撃を開始せよ」


「了解、レーダーを稼動する。ロックオン完了、戦術コンピューターの割り振りにしたがってミサイルを発射せよ」


「ゼロ-2、了解」


「ゼロ-3、了解」


 機体搭載の戦術コンピューターは重複しないようにミサイル個々の標的を適切に配分していく。その割り振りにしたがってパイロットは発射ボタンを押していく。



「「「発射!」」」


 機体の下部に取り付けられているX-SAM対艦ミサイルは日本が独自に開発した対艦誘導弾で、全長5メートル強というF-2の全長の半分近くに及ぶ大型のミサイルだ。ラムジェットエンジンを採用してマッハ3以上の速度で標的に向かって海面ギリギリの高度を飛翔し、航続距離は度重なる改良で500キロ近くに達する。発射初期の段階ではGPS慣性誘導で目標に向かい、標的に接近してからはミサイルに搭載されたセンサーでアクティブ誘導される。発射の際にプログラムされた内容に従って識別された艦に正確に命中するだけでなく、標的艦の指定箇所に着弾することも可能となっている。


 制空戦闘機の役割を与えられたF-35には搭載されていないが、新型国産機のF-3にも同様に搭載可能で、このミサイルが存在するからこそF-2並びにF-3が『対艦番長』と称される所以でもある。広大な領海を有する日本にとってはこのF-2戦闘機と後継のF-3戦闘機に優秀な対艦ミサイルという組み合わせは必要不可欠なのである。





 同時刻の中華大陸連合第一南洋艦隊では・・・・・・



「レーダーがロックオンシグナルを捉えました! 敵の位置は本艦の南西50マイルの至近距離!」


「なぜそんな近くまで接近を許したんだ! レーダー要員は居眠りをしていたのか!」


「レーダーに発見されないように海面直上を飛行していたものと思われます」


「小癪な連中だ! 総員ミサイルの襲撃に備えよ!」


 この時点ではいまだX-SAMミサイルの姿は艦隊のレーダーでは確認出来ていなかった。中華大陸連合は衛星による監視網が日本によって次々に破壊されていったのが深刻なダメージとなっている模様だ。それでもこの艦隊の指揮官は常識的な判断でミサイルの襲来を予期して迎撃態勢を固めるように指示を出した。



「敵ミサイル、いまだに機影を捉えられません!」


「絶対に何処かにいるはずだ! 見張り員、南西の方角に集中しろ!」


 X-SAMミサイルは改良型に移行してその表面をステルス処理している。只でさえレーダーに映り難いミサイルが海面ギリギリを飛翔しているのだから、艦隊のレーダー要員が発見できないのも無理からぬ話であった。その時、甲板で双眼鏡を手にして監視していた見張り員が声をあげる。



「海面ギリギリをこちらに向かってくるミサイル発見! 9時の方向! 猛スピードで向かってきます!」


「対ミサイル機銃、撃ち方始め!」


 巡洋艦の側舷に据え付けられている機銃が唸りを上げて薬莢を吐き出す。だが日米が所有するイージス艦とは違って、この機銃はレーダーに連動はしていなかった。肉眼で狙いをつけても、マッハ3以上で飛翔するミサイルにそう簡単には着弾しない。現実的にはこの距離までミサイルに接近を許すと状況はすでに詰んでいたともいえよう。


 海面ギリギリを飛翔していたX-SAMは標的に接近すると突然後尾からアフターバーナーの炎を噴きながら急上昇する。1基のミサイルに続いて後続が次々に急上昇すると、目標艦に向かって今度は急降下する。超音速で飛翔するミサイルが空気を切り裂く衝撃波を響かせる。



 キーーン! ズドドドーン!


 腹に響く轟音を立ててミサイル巡洋艦〔南昌〕の艦橋に火柱が上がる。甲板にいた乗組員を吹き飛ばしながら濛々と煙を上げる南昌、だがこれは悲劇の始まりに過ぎなかった。次弾のX-SAMはミサイル発射筒が並んでいる船体後部に着弾する。これが船内に格納されているミサイルに誘爆して巨大な火柱が上がる。それは船体後部の甲板と側舷の外装が同時に消えてなくなる規模の大爆発だった。こうして南昌は船体後部を剥き出しにしたまま火を噴いて船尾が下がっていく。あっという間に海水が船内に流れ込んで、乗員諸共その姿は波間に消えていくのであった。


 この場に遊弋していた大小7隻の艦船はもれなく南昌と同様の運命を辿る。海面には船体から流れ出した重油と夥しい浮遊物が波間に漂うだけであった。



 こうして南洋艦隊を全滅させたダナン第7飛行隊は踵を返して無事に基地へと帰投するのであった。









 さて、ここで南シナ海に展開されている日米の軍事力を紹介しておこう。


 日本は今回の日米合同作戦に当たって空母に改装された〔いずも〕を旗艦とする第1艦隊をこの海域に送っている。〔いずも〕は蒸気圧力を用いたカタパルトを擁する本格的な空母に改装されて、垂直離発着も可能なF-35Bを16機を搭載している。2万トンを超える大型の船体ではあるが、これでも分類上は軽空母に相当する。


 その他にはヘリコプター搭載型輸送艦〔ひゅうが〕とそれを取り巻く対空防衛艦5隻に駆逐艦が4隻という布陣となっている。本作戦はあくまでもアメリカが主導する形となっているので、日本が送り出した艦隊は規模としてはこじんまりとした内容に感じられるかもしれない。だがこれでも、国内の領海や領空監視のために必要な艦船を何とかやりくりして送り出した虎の子の艦隊でもあった。何しろ細々とした予算で辛うじて形になる国防軍を維持しているので、これ以上の艦船を遠征用に揃えるのは無理であった。


 その分第1潜水艦艦隊の4隻とベトナムに駐屯しているダナン航空隊が補う形で参加しているのであった。そして更に極めつけとして特殊能力者部隊がスタンバイしている。中でも本作戦に参加している3人の帰還者は、たとえば大魔王である西川美鈴1人を取り上げてもその能力は陸上兵力一個師団すらも凌駕する。そこに以ってきて〔破壊神〕と〔神殺し〕が居るとなったら、その戦闘力は一体どれだけになるのか想像もつかないのであった。




 日本の国防軍が量よりも質を重視してこの海域に軍を派遣しているのに対して、アメリカはというと、これはもうその規模で圧倒される物量をこの海域に送り付けているといえよう。


 その筆頭に挙げられるのが2つの空母打撃艦隊だ。片やニミッツ級原子力空母ロナルド・レーガン率いる第7艦隊所属の第5空母打撃群、これは横須賀を母港としており国防軍の第1艦隊よりも1日早く出港していた。ロナルド・レーガンは10万トンを越える超大型の船体であるが、加圧水型原子炉を2基搭載して最高速度は30ノット以上の快速を誇っている。艦載機は最大で90機、以前はF-18スーパーホーネットを載せていたが、順次最新型のF-35B若しくはCへと変更がなされている。この空母が率いる艦隊はイージスシステム搭載アーレーバーグ級ミサイル駆逐艦6隻とタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦3隻に補給艦と水中を監視する原子力潜水艦という豪華な構成だ。


 これだけでも日本の艦隊が霞んでしまう陣容であるが、米軍は更にインド洋を監視していた原子力空母カールビンソンを旗艦とする第2空母打撃群もこの海域に動員している。現在は補給で立ち寄ったフィリピンのスービック海軍基地を出港したという情報を得ている。


 これだけでももうお腹いっぱいの所だが、米軍の物量作戦はこれだけでは終わらない。佐世保に待機していたワスプ級強襲揚陸艦〔ワスプ〕とグアムに待機していた同型の〔エセックス〕を旗艦とする海兵隊を乗せた艦隊も送っている。


 強襲揚陸艦と聞いてピンと来る人は少ないと思われるが、写真で確認するとワスプ級の同型船は完全な空母である。両艦ともF-35Bを20機と輸送ヘリ6機を運用できる飛行甲板を備えている。排水量は4万トンを超えて、並ぶと〔いずも〕が子供に見えてしまう巨大な艦なのだ。これだけでなく、海兵隊の将兵と上陸用の水陸両用車両をはじめとした戦闘車両を満載したドッグ型揚陸艦や、この揚陸艦を守る多数の艦船が参加しているのだった。


 クラーク空軍基地には陸上配備用のF-35Aだけでなく、門外不出のF-22〔ラプター〕まで展開するという念の入れようだ。これだけの陣容を投入可能な国家はアメリカしかないと嫌でも実感させられる。空母と航空基地に配備される戦闘機だけでも300機近くに及び、その他にも偵察機や爆撃機がずらりと並んでいるのだった。




 さて、日本国防海軍の第1艦隊は台湾とフィリピンの間に横たわるバシー海峡を現在航行している。すでに南シナ海に突入している米国空母群と比べると一歩遅れた位置を航行しているといえよう。だがこれにはれっきとした理由があるのだった。日米間で作戦の刷り合わせが行われた際に『双方の艦隊のエアカバーは互いの国で責任を持つ』という確認が交わされていたのがその理由であった。


 米軍はフィリピンにあるクラーク空軍基地が南シナ海の殆どをカバー可能なので大きな問題とはならなかったが、日本側はそう簡単にはいかなかったのである。ベトナムにあるダナン航空基地は現在地から距離にすると1000キロ以上離れている。現在は宮古島に隣接する下地島航空基地が艦隊防衛のための航空機を派遣しているが、航続距離の関係でここから先は難しくなってくるのだ。現実に下地島を発った戦闘機が片道30分かけてこの場に到着して、上空に留まっていられるのは1時間という状況だった。


 つまりここから先は飛来してくる中華大陸連合の攻撃機に対しては〔いずも〕の艦載機だけで対処しなくてはならなくなる。僅か16機しかない艦載機で飛来する攻撃機を迎撃するのはさすがに心許ない。したがってこの海域の制空権と制海権を確保するまでは慎重に行動しようという意図で、わざと速度を落として南シナ海に入り込もうとしているのだった。








 ちょうどその頃、福建省の海州空軍基地を飛び立った中華大陸連合の早期警戒機KJ-2000の機内では・・・・・・



「地上管制へ、現在高雄の西方100マイルの地点、海上を哨戒中です」


「日本の攻撃で衛星からのデータが取得できなくなった。地上レーダーと哨戒機だけが頼りだから、しっかり監視してくれ」


「了解、現在天候は晴れ、レーダーには特に何も映りません」


「そのままフィリピン北部をレーダーの範囲内に納める空域まで飛行せよ」


「了解しました」


 KJ-2000は安定した気流の大空を悠然と哨戒する。だが彼らが気楽な気分で飛行出来たのは僅か20分間であった。



「地上管制へ、こちらKJ-2000哨戒機!」


「どうした?」


「バシー海峡から南シナ海に入り込む多数の艦影あり! 日本かアメリカの艦隊である可能性があります!」


「近づいて確認は可能か?」


「これ以上は無理です! あっ! 対空ミサイルのロックオンシグナルを感知しました! 回避した後に基地へ戻ります」


「了解した、戦闘機をスクランブルさせる」


 こうして国防海軍第1艦隊は偶然にも中華大陸連合にその位置を発見されることとなった。一方の第1艦隊旗艦〔いずも〕の艦橋では・・・・・・





「中華大陸連合の哨戒機のレーダー波をキャッチしました。我々の位置を発見されたようです」


「下地島のエアカバーはギリギリの範囲か。なんとも嫌な場所で敵に見つかったものだな。対空ミサイルの発射を〔みょうこう〕に命じろ。全艦対空戦用意にかかれ。艦載機は全機発進準備」


 艦内には警報音が響き非常事態が告げられる。レーダー要員は衛星から送られてくるデータと目の前のモニターを照合しながら、目を皿のようにして敵の攻撃機が発進する気配を探る。当然この情報は艦隊の全艦で共有されて、即座に臨戦態勢へと移行する。




 同時刻、輸送艦〔ひゅうが〕のCICでは・・・・・・



「ほほう、敵も満更馬鹿ではないようだな。南シナ海に侵入する手前で我々を発見したのか」


「司令、そんなのんきな話ではないような気がしますが」


 俺たちは特にすることもなくこうして艦橋にある戦闘指揮所に詰めている。〔神殺し〕こと俺たち特殊能力者部隊の司令官さんがのんきなことを言う傍らで〔大魔王〕こと美鈴がその意見に異を述べている。2人から少し離れた場所で、俺はモニターに映し出されているレーダーに変化がないか食い入るように見つめているのだった。



「敵の哨戒機はミサイルを回避して逃げ出しました」


 モニターに映っているミサイルは姿を消して、反転して基地に逃げ込む哨戒機の機影だけが映っている。フレアを宙に撒いて対空ミサイルを引き付けて誘爆させたのだろう。それよりもこの艦隊の情報を得た中華大陸連合がどのような反撃に出てくるのかが一番の興味だな。これは俺の軍オタとしての純粋かつ個人的な興味だ。そしてしばらくすると・・・・・・



「衛星データが海州基地から2個飛行隊のスクランブルを確認しました! 真っ直ぐこちらに向かってきます」


「様子見のつもりか? 後続はないのか」


「更に2個小隊発進しました! どうやら敵もやる気のようです」


 俺は黙ってモニターを見ている。その間にもレーダー担当からは次々と敵攻撃機の発進が告げられる。



「どうやら全力出撃に踏み切ったようです。敵攻撃機、総数31機がこちらに向かってきます」


「いずもに動きはあるか?」


「飛行甲板に次々と艦載機が並んでいます。今1機目が発進しました」


 創設間もない国防海軍飛行隊だけど、いずもの甲板から発進する様子は一糸乱れていないな。整然と次々に宙に舞っていくぞ。ただし数の上では敵が2倍近く上回っているから、この戦力差をどうやって埋めるのかはまだ判然としない。こうして俺はまだ何も出来ないままに、これから行われる日中の空戦の様子をモニターで監視するのだった。



次回、中華大陸連合の空襲を受ける国防海軍第1艦隊、その運命は・・・・・・ 投稿は週末の予定です。


相変わらずローファンタジーランキングに留まっているおかげで、閲覧数が凄いことになっています。ブックマークもこの2週間ほどで100以上増えました。皆様の応援心から感謝しております。ありがとうございました。引き続き皆様の応援をお待ちしています。投稿ペースがなかなか上がりませんが、どうぞ暖かい目で見てください。

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