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93 南の島での出来事

1日遅れました、どうもすみません。引き続き南国の楽園でくつろぐ2人のお話が中心です。でもその前に・・・・・・

 聡史と美鈴が南大東島でくつろいでいる頃、富士駐屯地では・・・・・・



「いいか、軌道計算は綿密に行うんだぞ。可能な限り短時間で全ての衛星を打ち落とすんだ!」


 特殊能力者部隊の技官が総掛かりでパソコンを操作して、中華大陸連合が宇宙空間に展開している人工衛星の軌道計算に当たっている。防衛省管轄のスーパーコンピューターに接続して、200個以上の人工衛星の軌道を解析するのは、それだけでもかなりの労力を消費する大仕事であった。


 現在先進国に住む人々の生活の相当な部分はこの人工衛星を活用することで成り立っている。GPSや通信分野はもちろんのこと、気象予報やテレビ放送の中継などには欠かせなくなっているのだ。だがこの技術は大元を正すと全て軍事技術の転用から派生している。軍事用に開発された技術を民間転用した恩恵を現在に生きる我々は活用しているのだ。


 ではこの人工衛星がもたらす恩恵がなくなるとどうなるか・・・・・・ 衛星による海外からのテレビ中継が不可能となる。当然遠距離の通信にも支障が生じるだろう。もちろんカーナビは使用できないし、自動車の運転アシストもGPSの使用が前提となっている。


 民生面でこのような支障が出るだけでなくて、こと軍事面に関して言えば影響は更に大きくなっていく。敵国のミサイルの発射や航空機の侵入を一番先に発見するのは衛星が監視している宇宙からの目である。現在地上に配備されているレーダー網は衛星監視システムを補足して、より精度の高い情報を得るのが目的として設計されているのである。


 つまり衛星によるこの早期警戒システムを破壊されると、その国の早期警戒システムの大前提が崩れ去ることを示す。ミサイルや戦闘機の姿を地上のレーダー網が発見する間に至近距離まで接近を許しているのである。そのタイミングで迎撃機を飛ばしたり迎撃システムを作動させても、時間的な余裕が大幅に削られる。いや現在の攻撃兵器の発展から考えると、時間の余裕はないとさえ言えるであろう。


 そしてこの富士駐屯地の特殊能力者部隊には宇宙を周回する人工衛星を破壊するシステムが存在している。並列式魔力バッテリーの完成によって、ついに帰還者の魔力をその場で補充しなくても使用可能となった完成形とも呼べる魔力砲が、その莫大なエネルギーを砲口から撃ち出す瞬間を待っているのであった。



「いいか、衛星の異常を察知されるのは日米連合の攻撃があると教えるようなものだぞ! 相手に感ずかれないように慎重に順番をプログラミングするんだ!」


 一口に衛星を落とすといってもその数は100基を超える。そのうちの現在は殆ど活用されていない物から順に手をつけて、重要な物に関してはなるべく後回しにする。だが例外として通信に関する衛星は優先する。等々様々な条件を組み込んで中華大陸連合が運用する衛星網を木っ端微塵にするプログラミングだ。


 一口に衛星といっても地球軌道を赤道と平行に周回している物もあれば、赤道から30度、40度の角度を持たせて周回する物もある。中には静止衛星といって地上から見ると一定の場所に静止して見える軌道を描いている衛星もあるので、プログラムは複雑を極める。更に地上からの高度は低軌道衛星と高軌道衛星では数百キロ~千キロ程も違うので照準の合わせ方も当然変化する。いちいち人の手で行っていては時間がいくらあっても足りないので、コンピューターに全てのデータを落とし込んで自動で照準を設定して効率よく撃ち落す方法を追及しているのだった。



「西田技術少佐、朗報です! 魔力砲の2号機が部分的に運用可能となりました!」


「本当か! それは大幅に助かるな」


「まだ右側の砲口しか使用できませんが、試験データと照合しても衛星撃ち落し程度でしたら十分な性能です!」


「よし、すでに十分なデータが取れている初号機をメインに使用して、2号機は撃ち漏らしが発生した時の予備として手動で操作するぞ! 我々の準備が整ったらいよいよ海南島の攻略作戦が開始されるから、全員気を引き締めろよ!」


「了解しました!」


 こうして5日以内に迫った日米連合の攻撃開始に何とか間に合わせようと、技術課技官たちの不眠不休の戦いは続くのであった。

  









 そんな出来事はまったく知らない南大東島では・・・・・・



「聡史君、水着の下にもローションを塗ってくれる? 一応紫外線カットの生地らしいんだけど、日焼けでヒリヒリすると嫌だから」


 なんですと! み、水着の下まで塗れだと! よろしい、受けて立とうじゃないか! 美鈴がまとっている鮮やかなブルーのビキニの胸を隠している部分、その背中の薄い生地の下に手を突っ込んで日焼け止めローションを塗りたくる。こ、これはなんだか物凄く興奮してくるぞ! 背中とはいえ水着の下に手を突っ込むというのは、とてもドキドキする行為なんだな。



「美鈴、横の方が塗り難いから背中のホックを外していいか?」


「わかったけど、なんだか目がイヤラしく感じるのは気のせいかしら?」


 ヨッシャー! 男としての夢がこれでひとつ実現したぞ! 美鈴から許可を得たので俺は両手で優しく背中のホックを外す。美鈴が両手で胸を押さえているので、前の方は何も見えないのは残念でならないな。だがこれでローションを塗り易くなったから、俺は遠慮なく背中の右横に手を伸ばす。



「聡史君、くすぐったいから!」


「そんなに体をくねらせると塗り難いぞ!」


 体の側面は美鈴が一番くすぐったがる箇所だ。子供の頃はしょっちゅうくすぐってからかっていた。あっ! そんなに動くんじゃないって!


 そろそろこの辺にしておかないと、あとが怖いからな。俺は美鈴の水着から断腸の思いで手を引き抜く。



「聡史君、すごくくすぐったかったじゃないの!」


「ふふふ、これはあくまでもローションを塗る行為だったから、下心なんてどこにもないぞ!」


「どう考えても怪しいでしょう! 今度こんなことをしたら、電撃を飛ばすわよ!」


「いや、そこは寛大なる大魔王様の慈悲を以ってお許しいただきたい」


「本当に調子が良いんだから!」


「調子の良さだけが俺の取り柄だから」


「もういいわよ、それよりもプールに入りましょうか」


「そうしようか。せっかく来たんだからな」


 なんという心の広さであろうか! さすがは偉大なる大魔王様だな。くすぐられてもられても全然怒っていないぞ。『電撃を飛ばす』と言いながらも、目は笑っているからな。なんだか子供の頃に戻って、ふざけあっていた日々に戻ったような気がしてくる。やはり持つべきものは幼馴染だな。



 それから俺と美鈴はプ-ルに入って泳いだ。水はちょっと冷たく感じたが、足元に小魚が寄ってきてチョンチョン突っついたりしてその感触が心地いい。



「聡史君みたいな魚がいるのよ! 私の胸を突っついてくるの」


「なんの話だ? 俺は美鈴の胸に手を触れたりしていないぞ! 冤罪だ!」


 いっそのこと魚になりたい。美鈴は自分の胸をしっかりとガードしているが、もし俺が魚だったら、あの谷間に潜り込んでやるのに。いかんいかん、妄想がダダ漏れになっているじゃないか!



「聡史君は何を考えているのかしら?」


「べ、別に何も考えていないぞ」


「なんだか怪しいんだけど」



 俺は素早く美鈴の胸から視線をそらす。なんで女というのはこうまで勘が鋭いのだろうか? でも南国の海というのは人を解放的にしてくれる。口では色々言いながらも、美鈴は泳ぎながらさりげなく体を寄せてきたりしてくれる。時には自分から抱きついたりして、精一杯はしゃいでいるんだろうな。


 こうして2人で泳いでいるとなんだか子供の頃を思い出してくるぞ。お互いの家の庭でビニールプールの水に浸かりながら、キャーキャー騒いでいたあの頃が目蓋の裏に浮かんでくる。そうだったな、俺は美鈴と一緒にずっと育ってきたんだな。異世界にも一緒に行って、そして日本に戻ってきた。俺の隣にはいつでも美鈴がいてくれたんだな。





 童心に帰った楽しい時間を過ごして、俺と美鈴はプールの縁に腰を下ろして足だけを水に浸けてながら、太平洋の波が打ち寄せては返す光景をぼんやりと眺めている。すでに日は大きく西に傾いて、夕日のオレンジ色が俺たちを照らしている。



「美鈴、今日は楽しかったな」


「ええ、聡君と2人で本当に楽しかった。まるで夢のような時間ね。今日という日がずっと続くといいのに・・・・・・」


「俺もそう思う。今日が終わればまたあの殺伐とした日々に戻るんだからな」


「今はその話はしないでおきましょう。明日になったらまた考えればいいことだから」


「それもそうだな」


 俺と美鈴の間に沈黙が流れる。聞こえてくるのは打ち寄せる波の音、目に映るのは沈みいく夕日だけだ。他には何もないこの場だけに存在する豊かな自然が2人を包み込むような気がしてくる。そして俺は自分からこの沈黙を破った。



「美鈴、俺たちは本当に小さな頃から一緒だったんだな」


「そうね、もう15年以上になるわね」


「俺には美鈴と別々の生活なんて全然考えられないんだ。俺の隣に美鈴がいるのが当たり前すぎて、もう家族同様に欠かせない存在だと思っている」


「私も一緒」


「きっと子供の頃からずっと美鈴に対する想いが俺の中で少しずつ育まれてきたんだろうな。そしてやっと今俺はその想いを口に出せる。美鈴は俺にとって特別な存在だ。だからずっと隣にいて欲しい。俺は美鈴が好きだし、将来は本当の家族になりたいと思っている」


「やっと聡史君の口からその言葉を聞けた・・・・・・ 聡君が言ってくれるのをもう何年待ったかわからなくなってきていたわ」


 美鈴の瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。そして両腕を伸ばしてゆっくりと俺に抱きついてくる。俺は美鈴の体をそっと支えて、その唇に自分の口を重ねていく。そのまま俺と美鈴は日が暮れるまで長いキスを交わすのだった。




次回、ついに日米連合と中華大陸連合の一大決戦が火蓋を切ります。投稿は週末を予定していますので、どうぞお楽しみに!


この小説に興味のある方はぜひ感想、評価、ブックマークをお寄せいただけるようにお願いします。作者にとって一番の励ましになりますので、奮ってお寄せください。いっぱい欲しいお!

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