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9 帰還者の情報と切迫する世界情勢

国防軍に入隊した主人公たちは、ひとまずはお勉強の時間です。前回に続いて今回も説明回になりました。世界各地に散る帰還者たちと日本を取り巻く周辺の国々の状況が中心になります。



「さて、異世界に召喚された疑いのある失踪者は世界各地にほぼ満遍なく存在しているが、帰還者が確認された場所がこちらだ」


 八代大尉がスクリーンの画像を切り替えると、今度は世界地図上に青い点が表示される。現在まで確認されている帰還者の分布が一目でわかる。それにしても召喚された人数に比べるとグッと数は減るんだな。



「帰還者は非常に偏った分布をしているのがわかるかね? 南半球にはまだ1人も確認されておらず、全員が北半球の特定の場所に集まっているんだ。中華連合やインドといった人口が多い国家でも一ケタ台しか確認されていないし、国土面積が広いロシアでもわずか3人に止まっている」


 確かに大尉が言う通りだな。日本の人口の10倍以上の人がいるなら、比率からいってもっと帰還者の数が多くてもよさそうだ。



「それに対して国土が小さくて人口が少なくても複数の帰還者が確認されている国家もある。イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、イスラエル、そして我が国日本だ。アメリカはこの場合は例外扱いだろうね」


 大尉の指摘通りそれらの国には複数の青い点が表示されている。イギリスで10人、アメリカなんか軽く30人を超えているぞ! 核兵器を含む現代兵器の戦力でも超大国なのに帰還者数まで超大国かよ!



「これらの国に帰還者が多い理由に君たちは何か心当たりはあるかね?」


 うん、全然心当たりがない! 強いて言えば先進国ってことくらいかな?



「教官、宗教や伝説、その国の文化などに関係がありませんか?」


「西川訓練生、もう少し詳しく話してくれ」


「はい、たとえばイタリアでは帰還者の分布がローマ近郊に集中しています。これはカトリックの総本山のバチカンに関わりがあるのではないでしょうか。イスラエルもユダヤ教の国家です。それからイギリスは『アーサー王』や『ハイランダー』の伝説が残る場所です。フランス、ドイツも魔女狩りが過去に行われたように魔術の伝承が多い場所ですし、アメリカにはハリウッドがあって国民全体にヒーロー願望があります」


 さすが優等生の美鈴さんは何でもよく知っている。俺もどこかで聞きかじった程度で頭の片隅に点在していたフレーズを、よくこれだけの短時間できれいにまとめられるよ! 



「私の経験でお話しすると、古くから伝承されてきた知識と現代の科学技術の知識を総動員しないと異世界では生き残っていけません。特に一番役立ったのがファンタジー小説や映画で見た知識でした。このような知識を毎日の生活と戦いに生かせる基本ベースを持った人だけが、異世界を生き抜いて戻ってこれるのだと考えます」


「パーフェクトな回答だね! もちろん西川訓練生の経験がこのような回答を引き出したのだろうね」


「俺もそう思います」


 ここは尻馬に乗っておくしかないぞ。だが俺も漠然と葉感じていたが、言葉にすると美鈴が言う通りだった。異世界では何度も死線を潜り抜けたが、一番役に立ったのはRPGの知識だった。召喚された始めのうちはどうやって魔物を倒すかという時に大いに参考になったな。もちろん力任せに妹が殴り倒す場合が一番多かったけど。



「私には想像もつかないが、厳しい世界での毎日を生き残っていくためには、その世界に如何に早く適応するかが問われるのだと考えられる。したがってこれらの国の召喚者は異世界での適応力があったのだろうね」


 うん、教官が言う通りだ。俺の妹なんか召喚された初日から、生まれ育った場所みたいな感じで毎日ハツラツとしていたぞ。出された食事も遠慮しないでバクバク食っていたし。適応力に関しては妹の右に出る者は居ないだろうな。



「教官、ひとつだけ気になることがあります」


「西川訓練生、なにかね?」


「その地図にある中部ヨーロッパにかなりの数の帰還者を示す青い点がありますが、そこはもしかしてトランシルバニア地方ではないですか?」


「その通りだよ」


 トランシルバニアか・・・・・・ 聞いたことがあるぞ、あのドラキュラの吸血鬼伝説が残っている地域だ。これは嫌な予感がするな。



「まさかとは思いますが、現代世界に吸血鬼が蘇った可能性が指摘できるのではないですか?」


「その点は今のところ何とも言えないのだよ。ルーマニア政府からは何の発表もないし、被害が発生したという報告がない」


 待て待て! 異世界に行って〔吸血鬼〕の称号なんか得てしまったら、それは誰の手にも負えないだろう! そんな物騒な帰還者はさすがにご免蒙りたい。ただし、吸血鬼伝説が残っている地域に不自然な程多くの帰還者が報告されているのも事実で、その数は13人。できれば関わり合いにはなりたくないぞ!





「それでは帰還者についての話はここまでにしておこうか。もし何か思いついたことがあれば、いつでも質問してほしい。我々も帰還者に関する調査の参考になるから、君たちの意見は決して軽くは扱わないよ」


 そういえば八代大尉は国防軍の将校にしてはなんだかとっても穏やかな人物だ。まるで高校の物分りがいい先生みたいな雰囲気で俺たちに色々と教えてくれる。この特殊主能力部隊全体がそうなんだけど、言葉遣いとか礼儀とか全然細かいことを言われないんだよな。もっともそんな細かい部分に拘っていたら、一癖も二癖もある能力者たちを束ねていけないんだろうな。



「それでは現在の世界情勢について話をしておこうか。ニュースでは決して語られない話もあるから口外は厳禁だよ」


「わかりました」


「現在世界で紛争の中心に居るのは中華大陸連合とイスラエルの2国だ。中東方面で周辺のイスラムテロ組織に攻撃を仕掛けているイスラエルについては後回しにする。何しろもう1つの中華大陸連合は我が国と海を挟んだすぐ隣だからね」


 確かに八代大尉のおっしゃるとおりです。誰だよ! その大使館を襲撃して瓦礫に変えたヤツは! 200人以上死んじゃったんだぞ! でもまあいいか、あの国は人口が多いし100人単位で死んでも大した影響はないだろう・・・・・・ おっといけない! ついつい異世界流の考え方をしてしまったぞ! ここは日本だ、現代人に相応しい考えに早く切り替えないとな。



「かつて『世界の工場』と呼ばれて繁栄を誇った中華人民共和国はアメリカとの貿易摩擦の果てに経済的に破綻して共産党政権が倒れた。その後各地方の軍を率いる軍閥同士の内戦が発生したが、これを短期間に終結させて樹立されたのが現在の中華大陸連合だ。これは君たちが小学校に入学するかどうかくらいの頃の話だから知っているだろう?」


 はい、知っています。ニュースで街中を戦車が行き交う光景をよく映像で目にしていたし、授業でも習ったよね。



「中華大陸連合の喫緊の課題は多くの人口を養うための水と食料とエネルギーだった。そこで独裁者の劉建耀は東南アジアに侵攻して、ミャンマー、ラオス、カンボジアを併合した。ミャンマーの水力発電と地下資源、他の2国は食料生産力が狙いだった。おかげで食料の大半を収奪されたこの3国は住民たちが慢性的な飢餓に苦しんでいる。国際社会はこの暴挙に対して国交の凍結と貿易の途絶という厳しい制裁を課した。ここまではいいかね?」


 うん、誰でも知っている話だな。おかげで中国国内に進出していた日本、アメリカ、ヨーロッパの企業は総引き揚げで、一時的に経済が混乱した時期だ。



「さらに連合はタイとべトナムにも強い圧力を掛けているが、アメリカと日本の支援を受けた両国は現状何とか対抗している。東南アジアへの侵攻が停滞した大陸連合は現在ミャンマーからバングラディシュに手を伸ばしているが、ここはインドが派兵して激戦が繰り広げられている最中だ。そして北朝鮮と韓国は無条件で大陸連合に併合された。元々衛星国のような物だった北朝鮮と、左派政権が長く続いてアメリカと日本から見捨てられた韓国は自ら大陸連合に付く道を選んだ」


 うん、これもニュースで大々的にやっていたな。本国の方針に反対する日本にある韓国の組織がデモなどをしていたが、速攻で全員が強制送還された。敵方に付いた国の人間をのほほんと国内に滞在させる程今の日本は甘くはない。もちろんアメリカやEU、カナダ、オーストラリアも同様だ。



「ここまでが現状の説明だ。さてここからが大事な話になるが、君たちは次に大陸連合が手を伸ばすのはどこだと思うかね?」


 スクリーンの画面が切り替わって、アジアの東半分の地図が大写しになる。それにしても大陸連合が支配する地域は広大だな。日本は地図で見ると端っこに小さくへばり付いている様に見えてしまう。次に侵攻する場所か・・・・・・ 一番近いのは朝鮮半島から対馬を経由して九州というルートだけど、間にある対馬海峡を突破して上陸するのは並大抵の兵力じゃ無理だろうな。


 これは俺が学んだ戦史の知識からいってもすぐには有り得ない。相当な準備が必要だし、準備のためには部隊や物資を大量に動員する必要がある。監視衛星が空から電子の目で見ている以上、それを掻い潜ってこっそりと侵攻の準備をするのは不可能だ。だとすれば・・・・・・



「ロシア極東部ですか?」


「95点だね。埋蔵されている石油と天然ガスを手に入れようと、大陸連合の部隊が黒竜江の西側に集結しつつある」


 俺の回答はどうやら正解だったらしいが、何で5点引かれたのかその理由が知りたい。戦略的には絶対に間違っていないはずだ。



「聡君の回答は正解ですが、陽動としてモスクワ、東京、ニューヨーク、ワシントンを狙うという手があります」


 俺は美鈴の意見に完全に虚を突かれた。そうだ、帰還者を使えば大きな騒動くらい簡単に引き起こせる。それが俺の回答に足りなかった点だ。さすがは優等生、いや大魔王様だな。



「その通りだ、現状ではどこが狙われるか判明していない。だがいずれどこかで火の手が上がるだろう。それが我が国が本格的に戦争に巻き込まれる狼煙になるはずだ。その時は君たちの力を借りるかもしれないから、今から心しておいてくれ」


 マジかよ! まだ日本に戻ってきて1ヶ月だぞ! こうも早い時期にまた戦いの中に放り込まれるとは・・・・・・ はー、なんだか気が重いな。


 ここまで話が終わって、八代大尉はしばらく俺たちに考える時間を与える。いつの間にか結構な時間が経っていたんだな。その時、会議机に突っ伏して寝ている妹の体がピクリと動く。



「はー! よく寝たよ! 食後はしっかり寝るのが一番だね!」


 大きく両腕を上に上げて体を伸ばしている妹を見て八代大尉は呆れ顔だ。大尉、あなただけではありません、俺も兄としてさすがに呆れています。



「兄ちゃん、結局何の話だったの?」


「もうすぐ戦争が始まるかもしれないという話だ」


「おおーー! なんだか大暴れの予感がしてくるよ! イヤッホーーー!」


 細かい経過や理由など妹には知らせるだけムダだ。要は暴れる機会さえ目の前にぶら下がっていればそれで良いのだ。早速立ち上がって軽くシャドーボクシングを開始する妹を見て、俺もあれこれ考えるのを止めるのだった。


 


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