表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/229

88 妖怪出現!

大変お久しぶりでございます。投稿を再開しますのでどうぞよろしくお願いします。

 久しぶりに登場のアイシャです! 私たちは今からヘリに乗って岡山に向かうところです。私とタンクさんはこの前の奈良であわやという場面があっただけに、今回こそとリベンジに燃えています。良い所を見せて名誉挽回の機会としたいですね。


 でもなんだか私たちの出番は今回はなさそうです。それは私たち以上に張り切っているあの人がいるせいです・・・・・・



「うほほほほー! どんな妖怪が出てきてもこのさくらちゃんがバンバン片付けちゃうからドカンと安心していいよ!」


 さくらちゃんはヘリに乗り込む前からテンションマックスで、妖怪討伐を心から楽しみにしているようです。彼女がこうして絶好調でスタンバイしているからには、他の人たちはオマケ同然ですよね。逆に、下手に戦いに手を出そうとすると巻き込まれて大怪我をしそうです。今回の遠征はどれだけさくらちゃんと距離を置いて、あの嵐のような戦いぶりを遠巻きに眺める位置を取れるかが、本当の課題のような気がしてきます。


 でもそれは何も戦いだけとは限りません! あらゆる場面でさくらちゃんとは距離をとった方が良いというのは特殊能力者たちの間の共通認識です。皆さん恥ずかしい思いはしたくないですから。特に今回はお目付け役の聡史と美鈴が居ないから、さくらちゃんのやりたい放題という悪夢の予感がしてきます。


 ヘリの小さな窓から外を見ると、留守を守る役割を仰せつかったフィオさんが不安な眼差しで手を振っています。フィオさん、その気持ちは私も一緒ですよ! むしろさくらちゃんと同行する分だけ余計に不安が募ります。私では絶対にさくらちゃんを止めるのは無理ですから!



ヘリは離陸して岡山に向かって高度2000メートルを飛行しています。そしてその機内でお約束のアクシデントが発生しました。



「さくらちゃん、そういえば明日香ちゃんは出撃メンバーに入っていましたっけ?」


「選んでいないよ。大人しく駐屯地に残っているはずだよ」


「でも私の隣に座っていますよ」


「おやおや、明日香ちゃんはいつの間にヘリに乗り込んだのかな?」


「なんとなく流れで乗っちゃいました」


 さすがは明日香ちゃんです。自分がメンバーに入っていようがいまいが関係なくどこでも付いてくるんですね。誰が何と言おうとも一切ブレないこの子の神経はさくらちゃんと双璧だと思います。部隊の命令とか彼女には全く関係ないんですね。



「まあいいか、誰が居ようと最終的にはこのさくらちゃんがバッチリ片付けちゃうからね。明日香ちゃん1人居てもどうってことないよ」


「そうですよ、私1人くらい気にしなくっても大丈夫ですから」


 さくらちゃんがいつもの調子で気にしないのは当然ですけど、明日香ちゃんが自分で気にしなくていいと言うのは軍事組織的にはどうなんでしょうか? 聡史が明日香ちゃんのやらかしを心配していましたけど、本人には自覚が全くないようですね。これは中々手強い相手だと言えるでしょう。さくらちゃん1人に気を取られていましたが、意外な所に恐ろしい伏兵が潜んでいました。



「少尉ちゃん! 明日香ちゃんの件を駐屯地に連絡しておいてよ」


「少尉さん! 適当に誤魔化しておけばきっと大丈夫ですから!」


 さくらちゃんと明日香ちゃんから指名された真壁少尉は頭を抱えていますね。まだ私自身直接被害を食らった訳ではありませんが、なんだかこの先が思い遣られます。真壁少尉は背嚢から取り出した胃薬を飲んでいるようですよ。心からお気の毒です。



「さくら訓練生、明日香訓練生の件に関して駐屯地の副官から了承する連絡が入った。ただし明日香訓練生は戻ったら始末書だぞ」


「えっ、私が始末書を書くんですか! さくらちゃん、今まで始末書なんて書いたことありますか?」


「うん? 始末書? それは一体何かな?」


 さくらちゃんの所業を一々咎めていたら始末書の山が出来上がります! 司令官をはじめとする駐屯地中の幹部がさくらちゃんの行いに関してはとっくに諦めています。そのおかげもあって、さくらちゃんは今まで始末書を書いたことがないんです。おそらく副官は明日香ちゃんをまともな隊員だと見誤っているんでしょう。そうでなければ始末書の提出を求めたりはしませんから。



「さくらちゃん、始末書なんてどうやって書けばいいんでしょうね?」


「そんなの知らないよ! ああ、ポチ! そこのお茶を取ってもらえるかな」


「主殿、どうぞお飲みください」


「ポテチを食べると喉が渇くからね。時々こうやってお茶を飲むとガンガン食べられるんだよ! ポチはいつものように稲荷ずしなんだね」


「主殿、下界を見下ろしながら食す稲荷ずしの味も真に格別なるものがございますな」


 これから妖怪討伐が待っているというのに、さくらちゃんと天狐の主従は全くの平常運転ですね。さくらちゃんなんか離陸してからもう3袋目を開けていますよ。天狐は美味しそうに稲荷ずしを食べているし・・・・・・ この主従は人智を超える力を宿しているから妖怪討伐くらいどうということないんでしょうね。


 それに比べて初の実践に臨むさくらちゃんの親衛隊の子たちは緊張・・・・・・ なんか全然していないじゃないですか!



「やっと腕を試せる時が来たぜ!」


「下っ端の妖怪くらいだったら、この手でぶちのめしてやるぞ!」


「早く新しい装備をテストしたいもんだな!」


「楽しみで仕方がないぞ!」


「ZZZ・・・・・・」


 さくらちゃんから実戦用の新装備を受け取ったとあって、親衛隊のテンションはいまや天井知らずですね。自分の腕を試したいだなんて、私にも異世界にいた頃そう思っていた時期がありました。まだまだ怖い物知らずなんですね。実戦は一歩間違えると大変な目に遭うんだと知る良い機会かもしれないです。カレンさんが用意してくれた天界の呪法で作られた水がある限り、大抵の怪我は一瞬で治ってしまうのでそれ程恐れる必要はないですけど。

 


 多少のトラブルはあったものの、ヘリは無事に岡山にある駐屯地に着陸しました。空を飛ぶだけあって新幹線よりも早いですね。時間はそろそろ夕方の5時といったところです。駐屯地からは装甲車に分乗して鬼火が確認されている現場に向かいます。



 現場の中心にあるお寺の半径1キロ以内は避難区域に指定されているので、付近の住民は最寄の学校や公共施設に避難しています。すっかり無人になった小さな町を装甲車は進んでいきます。時折パトロールをしている国防陸軍の兵士や警官の姿があるだけですね。


 そして対策本部が設置してある小学校に到着します。案内されて体育館に入ってみると、そこでは駐屯地から派遣された兵士が慌しく動いていました。およそ100人くらいが近隣のパトロールや鬼火の監視に当たっているそうです。当然皆さんは私たちとは違って一般兵なので妖怪討伐などは出来ません。だから私たち特殊能力者部隊が到着すると一様にホッとした表情を浮かべています。


 でも本当の恐怖はこれから始まるのだということに皆さんは気が付いていませんね。今回の出撃で一番恐ろしいのはさくらちゃんの戦闘に巻き込まれることなんですから。皆さんは絶対に現場から離れていないとダメですよ! 好奇心で様子を見てみようなんて考えたら、即座に生命の危険に繋がりますからね。



 本部がある体育館の前には野外炊具1号が設置されて、隊員の夕食を作り始めていますね。用意されている食材から予想するとどうやらトン汁を作るようです。もちろんご飯も炊いていますよ。梅干とか海苔が準備されているからおにぎりも用意されるんでしょう。私はこの程度の食事でも十分なんですが、この人はそうは行きませんよね。さくらちゃんは椅子とテーブルをアイテムボックスから取り出して、富士から持ち込んだ食事をパクパク食べています。



「やっぱり夕ご飯はしっかりと食べておかないと、元気が出ないからね」


「主殿、我は夕餉はキツネうどんと決めておりますが、此処では食せぬのが残念でなりませぬぞ」


「今日は我慢するんだよ! その代わり稲荷ずしはたくさん用意してあるからね!」


「主殿の心遣い、真にかたじけなく存知まする。それではご相伴に預かります」


 さくらちゃんは1人でトレーを積み重ねて、天狐さんはその隣でまたもや稲荷ずしを食べていますね。ヘリの中でも食べていたはずなのに本当によく飽きないです。親衛隊の子たちは床に寝袋を広げてもう寝ていますよ。戦闘の前に十分休養を取れと日頃からさくらちゃんに言われているのを実践していますね。本当に素直な子たちです。


 陰陽師の皆さんは一足先にお寺に向かうそうです。状況に変化がなければ、監視要員を残して戻ってくると言っていました。私とタンクさんはまだ変化がないという報告を聞いてから、レーションで手早く夕食を済ませて寝袋に入ります。それではおやすみなさい。ZZZZZZZZ・・・・・・








「多数の鬼火を確認! 特殊能力者部隊は出動の準備を整えろ!」


 監視要員からの連絡で体育館内に真壁少尉の大声が飛びます。私はすでに目が覚めていたので、寝袋から跳ね起きて装備の確認をしてから立ち上がります。タンクさんや親衛隊の子たちもすでに準備を整えて整列していますね。さすがは毎日厳しい訓練を繰り返しているだけのことはあります。ですが・・・・・・



「主殿、目を覚ましてくだされ!」


「うーん・・・・・・ ムニャムニャムニャ・・・・・・」


 1人まだ目を覚まさない人が居ますね。こういう肝心な時にさくらちゃんが中々起き出しません。天狐さんが何とかしようと体を揺すりますが、さくらちゃんはまだ夢の中です。この調子ではしばらく時間がかかるかもしれません。その間妖怪が出てきたら何とか持ち堪えるのが私たちの役目です。さくらちゃん、あれだけ張り切っていたのに・・・・・・ 本当に残念過ぎる人です! お願いですからいい加減目を覚ましてください!



「止むを得ない、さくら訓練生は後から合流してくれ。ひとまずは我々だけで対処するぞ!」


「「「「「「了解!」」」」」


 陰陽師部隊を先頭にして私とタンクさん、そして親衛隊の子たちが後に続きます。彼女たちはさくらちゃんから渡された異世界製のミスリルソードとか風魔法が付与されている弓などを手にして颯爽と進軍していますね。私たちも負けてはいられません! 手にする魔法銃に思わず力がこもってしまいます。


 今回持ち込んでいる魔法銃は初期モデルの改良型で威力が2倍になっているんです。駐屯地の地下通路で試したら、頑丈な鬼族の胴体に大きな穴を空けていましたから期待が持てますね。


 監視をしていた陰陽師部隊の2人と合流してそのままお寺の境内に突入すると、石碑がある場所から次々と鬼火が湧き出してきます。



「予想通り百鬼夜行が始まりそうだ! 各員境内から絶対に出さないように持ち場を死守するんだ!」


 真壁少尉の指示に従って散開して出現する妖怪を待ち受けます。親衛隊の子たちは比較的石碑の近くで剣や弓を構えて、私たちは後方から魔法銃で狙い撃ちする配置です。


 ジリジリする時間が流れて緊張しながら石碑の様子を見守っているその時、ついに大量の鬼火が発生したかと思ったら、火の中から次々に妖怪が姿を現します。その数はもしかしたら奈良の時よりも多いかもしれないです。これは容易ならざる事態が発生しました。



「テヤー!」


「それっ!」


 すでに親衛隊の子たちは最初に現れた小物の妖怪を切り伏せています。今まで訓練で使用していた安物の武器とは違って、一刀で妖怪の体を真っ二つにしていますね。その切れ味の鋭さに彼女たちは逆に驚いています。


 でもいくら武器性能が向上したとはいっても、所詮彼女たちにとっては初めての本格的な戦闘です。しかもたった5人で最前線に立っているんですから、私たちの後方からの援護が欠かせません。彼女たちに当たらないように慎重に狙いを定めて引き金を引きます。


 バシュッという音とともに飛び出した魔法弾は1体の妖怪の体を突き抜けて、その後ろに居た別の個体に当たって大きな爆発音を上げました。付近に居た妖怪たちが5,6体まとめて倒れています。さすがは改良型ですね。


 しばらく小物を討伐し続けると、次々に鬼火から現れる妖怪に大鬼や土蜘蛛が混ざってきます。さすがにこのレベルになると親衛隊には荷が重いでしょう。



「前方の5人! 後方に退避しろ! 支援部隊から魔法銃を受け取ったら射撃に加われ!」


「「「「「了解しました!」」」」」


 真壁少尉の指示に従って手近な妖怪に止めを刺してから彼女たちは一旦下がっていきます。それでも1人当たり12,3体の妖怪を屠っていますから、これは中々の戦果と言えるでしょう。さあ、大型の妖怪が登場した以上は今度は私たちの本格的な出番です。


 駆け足で戻ってきた親衛隊も魔法銃を構えて、総勢12人が妖怪を相手にして一斉射撃を加えていきます。さすがは改造型の威力ですね! 大鬼だろうが土蜘蛛だろうが一撃で倒していきます。約10分間の銃撃で石碑の周囲に漂っていた鬼火はすっかり排除されて、妖怪は完全に影を潜めました。残るは百鬼夜行を率いている本体です。


 どんな妖怪が現れるのかと緊張して見守る中で、石碑が急に光り出します。そしてその内部から甲高い声が境内に響きました。



「人なる分弁えず妾の眷属討ち果たすとは真憎らしきかな。この上なるは浅ましき人の身悉く滅ぼし足らん!」


 その声とともに石碑が左右に割れて、中からは十二単に身を包んだ女性の姿をした妖怪が現れました。


 

次回、いよいよ大妖怪登場! 果たしてさくらは目を覚ますのか・・・・・・ 投稿はたぶん来週末になると思います。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ