87 のんびりと焼き芋タイム
ようやく投稿が出来ました。久しぶりの87話をお届けします。大変ゆる~いお話になっています。
舞台は富士駐屯地に戻る・・・・・・
「ポチ、やっぱり暇だねぇ。私も一緒に出撃したかったよ」
「主殿、今回ばかりはご自重くだされ。新たなご出陣の命が必ずや下りますぞ」
「そうだね、それにしても早く焼き芋が焼けないかな」
「良き香りが漂ってきますれば、もう間もなくかと存じまする」
私は毎度お馴染みのさくらちゃんだよ。今朝早くに司令官ちゃんと勇者がヘリに乗ってどっかの島の攻略のために出掛けていって、私はこうしてポチと留守番をしているんだよ。親衛隊の5人がランニングの最中だから、暇な私は落ち葉を集めて焼き芋を焼いているんだよ。秋といえばやっぱり食欲の秋だからね、最近食べ物が美味しくってさくらちゃんの胃袋はどうにも止まらない勢いなんだよ。
「さくらちゃん、お芋はそろそろ焼けましたか?」
「おやおや、明日香ちゃん! 君は落ち葉集めの手伝いもしないで焼き芋だけはしっかり食べようと甘く考えているのかな?」
「さくらちゃんだって全部親衛隊に任せて何もしていなかったじゃないですか!」
「私はあの子達のボスだからね。軽く命令を下すのが仕事なんだよ!」
「そうやって踏ん反り返っていると嫌な人間になりますからね!」
「何をー! このさくらちゃんはとってもいい人だっていう評判なんだよ! 私に対して本当に失礼だよ!」
「失礼が服を着て歩いているようなさくらちゃんにそんな発言をする権利はありません!」
「お二方とも、間もなく良き具合に焼けますぞ」
「「早く焼けないかなぁ!」」
おっと、ついついヨダレが垂れそうになったよ。明日香ちゃんも私と同じように食い入らんばかりの表情で焚火を見つめているね。しょうがないから友達として美味しい焼き芋を分けてあげようかな。このとおりさくらちゃんはとっても心が広いのだ!
「ところで明日香ちゃんは今日の訓練はどうしたのかな?」
「それが西川先輩は出撃中で、フィオさんはリディアさんたちの魔法の練習に付き合っているので何もできないんです」
「そうなんだ・・・・・・ ポチ、ちょっとその辺に狐火を出してよ。全部消し去ったら明日香ちゃんにも焼き芋をご馳走するからね」
私はいいアイデアを思いついたんだよ! 明日香ちゃんをこのままサボらせておいてもダメな子になるばかりだから、焼き芋を餌にここで訓練をするのだ。さすがは天才さくらちゃんだね! タダでは焼き芋はあげないよ!
「任せてください! 天狐さん、景気良く火を出してください!」
「良かろう、こんな物でどうであるか?」
ポチが出した狐火はどれもが1メートルくらいの大きさで、青い光を放って煌々と燃えているね。火を見た明日香ちゃんの視線が挙動不審な感じに宙を彷徨っているよ。普段美鈴ちゃんが出している炎の3倍くらいの大きさだからね。その大きな火が1.5メートルくらいの高さに全部で8つ並んでいるよ。これは面白いことになったね。
「さ、さくらちゃん! この火を消すのはちょっと私にはハードルが高いんじゃないかと」
「明日香ちゃんが景気良く出せって言ったからポチが頑張ったんだよ! 責任もってちゃんと消しておいてね」
明日香ちゃんはすっかり涙目になっているね。ちょっと薬が効きすぎたかな? でもここでポチの狐火を消せればきっと自信がつくと思うんだよね。むむ、ちょうどランニングを終えた親衛隊の子達も戻ってきたね。
「ボス、焚火を囲んで何をしているんですか?」
「焼き芋が焼けるまでの間暇だから明日香ちゃんの能力の訓練をしているんだよ!」
「ああ、それは聞いています。なんでも魔力を消してしまう恐ろしい能力だそうですね。見るのは初めてなのでどんなものかすごく楽しみです!」
ギャラリーが増えて引くに引けなくなった明日香ちゃんの額から一筋の汗が流れているよ。もうだいぶ寒くなっているこの時期に寒がりの明日香ちゃんが汗を流すなんて、相当追い込まれている証拠だね。
「明日香ちゃん、頑張って!」
「そんな火ぐらいチャチャッと消してみてよ!」
「すごい能力だから楽しみだな!」
親衛隊の期待が重圧になって明日香ちゃんに圧し掛かっているね。これは益々面白いことになってきたよ! おやおや、そんなところにまたギャラリーが現れたね。
「みんな揃って何をしているのかしら?」
「フィオさん、この火を消すんですけど、ちょっと大きくないですか?」
「ああ、明日香ちゃんの能力に火の大きさは関係ないから大丈夫よ」
ふふふ、やって来たフィオちゃんに明日香ちゃんは完全に退路を断たれたよ。さて、ここから一体どうするのか見ものだね。
「明日香ちゃん、ファイトです!」
「明日香お姉ちゃん、頑張ってね!」
フィオちゃんと一緒に来たリディアとナディアの姉妹も事情を知らずに無邪気に声援を送っているね。さあ、明日香ちゃん! 小さな子供の期待を裏切らないよね。
「明日香ちゃん、死なない限り私がしっかり治して見せますから安心してください」
いつの間にかやって来たカレンちゃんまで声を掛けているよ。そうだね、カレンちゃんがいれば多少の火傷は大丈夫だね。さあ、明日香ちゃん! 周囲の期待に応える番だよ。
「「「「「「「「明日香ちゃん頑張って!」」」」」」」」
みんなが声を揃えて応援しているよ。明日香ちゃんの顔は引き攣り捲くっているけどね。ビビリでヘタレな明日香ちゃんだけどきっとやってくれると、このさくらちゃんもお友達として信じているよ!
そして追い詰められた明日香ちゃんは決意した表情で狐火に向かっていくよ。煌々と燃える青い炎の近くに立つだけで相当熱そうな表情だね。さあ、ここからどうする。
「えいっ!」
明日香ちゃんが思い切って右手を伸ばすと、その手が触れた瞬間狐火が消え去ったよ。これはお見事だね!
「ほう、本当に消えた!」
「いい物を見ました!」
「お姉ちゃんすごい!」
ギャラリーからは明日香ちゃんに向けてお褒めの言葉が投げかけられているよ。そしてここから調子に乗るのが明日香ちゃんだね。次々に手を翳して全ての狐火を消してしまったよ。
パチパチパチパチパチ・・・・・・ 拍手で出迎えられる明日香ちゃんはちょっとだけ誇らしそうな顔をしているね。この子は私以上に褒められて伸びる子だから、これはいい経験になったかもしれないね。
どれどれ、ちょっと焼き芋の具合を確かめてみようかな。おお! 表面はちょっと焦げているけど中はホクホクしていていい焼き加減だよ!
「それじゃあこれから焼き芋タイムだよ! 2箱仕入れてきたから好きなだけ食べていいよ!」
「ボス、さすがに我々はそこまで食べ切れません」
「うん、そうだろうね。でも心配は要らないよ! このさくらちゃんが全て食べ尽くすからね!」
「さすがはボスだ、芋を箱買いするなんてスケールが違うな」
「どおりで焚火が大きいと思ったわ。ダンボール2箱丸々焼き芋にしたのね」
「主殿、我も芋を食した覚えはありまするが、これは中々の味わいでございますぞ」
「焼キ芋食ベタイ! 熱イカラ冷マシテ食ベル!」
みんなには好評でよかったよ! いつの間にかカラスまで参加しているね。こういうタイミングを見計らったかのように飛んでくるんだから、本当にちゃっかりしたやつだよ! さあて、私も食べようかな。ふむふむ、美味しいよ! やっぱりこの季節は焼き芋に限るね!
こうして楽しい焼き芋大会は好評のうちに終了を迎えて、私はお昼ご飯を食べに食堂に来ているんだよ。火の後始末はフィオちゃんが魔法でチャチャッと済ませてくれたから安心だよね。さあて、今日のお昼は何かな?
「さくらちゃんは焼き芋を30個くらい食べていましたけど、まだお昼ご飯が入るんですか?」
「明日香ちゃん、焼き芋は焼き芋でお昼はお昼だよ! しっかりと区別しないとダメだよ!」
「そういう問題じゃなくって、私はもうお昼が入らないんです!」
「まだまだ修行が足りないね。でもさすがに私もあんまりお腹が空いていないから5人前くらいしか入らなさそうだね」
「それだけ食べれば十分です!」
こうしてお昼ご飯が終わると昼礼の時間だね。いつものように副官ちゃんが全員の前に立っているよ。
「帰還者と特殊能力者は全員図面演習室に集まってくれ」
うほほー! これはもしかして事件なのかな? あの部屋に私たちが集合する時は必ず何かの事件が発生しているんだよ。これは楽しみになってきたよー!
「さくらちゃん、私も行くんですか?」
「そうだね、明日香ちゃんも一応特殊能力者だから集合するんだよ。親衛隊とポチも一緒に行くよ!」
こうして私たちがゾロゾロと部屋に向かうと、そこには陰陽師の人たちが勢揃いして待っているよ。これはどうやら何事か事件が起こった予感がビンビンしてくるね! 副官ちゃんが席について会議が始まるみたいだよ。
「真壁君、全員揃ったから話を始めてくれ」
「了解しました。それでは私から今回の岡山での異変について報告します。先日首都圏上空に現れたスルト討伐のために楢崎訓練生が使用した莫大な魔力の一部が全国に広がり、各地で妖怪の動きが活発化しているとの報告が寄せられておりました。我々陰陽師はそのネットワークで各地の異変を監視しておりましたが、どうやら岡山での異変は放置できないものと申し上げます」
ふむふむ、どうやら兄ちゃんがバラ撒いた魔力で妖怪が暴れ出しているというお話だね。いくら人の話を聞いていない私でもこのくらいはちゃんとわかっているんだよ。それに妖怪退治が出来るかもしれない楽しそうな話だから、いつも以上にしっかり聞いちゃうよー!
「異変の報告が齎されたのは岡山県真庭市にあります化生寺という寺です。ここは那須にありました殺生石が割れて飛び散りここまで飛んできたという伝説が残っている場所です」
殺生石? なんだそりゃ? さくらちゃんは全然聞いた記憶がないよ。それが妖怪と何の関係があるんだろうね?
「殺生石とは日本の3大妖怪の玉藻の前が正体を見破られて封じ込められたと伝えられる石です」
「ヒッ!」
おやおや、私の後ろに立っているポチがなんか引き攣った声を上げているね。滅多なことでは動じない大妖怪なのに急にどうしたんだろうね?
「この化生寺の周辺で多数の鬼火の目撃例が相次いでおり、奈良での大嶽丸の時と同様の予兆が確認されております」
ピコーン! さくらちゃんの頭の中で話が繋がったよ! その大妖怪が現れたら討伐すればいいんだよね。これは面白そうだよ! 張り切っちゃうからねー!
「現在この化生寺周辺は立ち入り禁止に指定されており、警察が封鎖しています。我々は本格的に妖怪が出現したならば、これらの討伐に当たりたいと考えます」
「真壁少尉、報告ご苦労だった。この件の重大性を鑑みて出撃している司令とも相談の結果、当部隊の最強戦力を派遣することと決定した。さくら訓練生は陰陽師部隊とともに現地に向かってくれ。フィオ特士は守りの要として駐屯地に残るとして、彼女以外の誰を連れて行っても構わない。人選はさくら訓練生に任せる」
「うほほー! 待ってました! このさくらちゃんに任せておけば全部解決だよ!」
やっぱり司令官ちゃんはわかっているね! 私が退屈しないようにちゃんとこうして出撃の機会を用意してくれたよ!
「3時にヘリが現地に向かって飛び立つから、それまでに装備を整えてほしい。あとはさくら訓練生に任せる。以上だ」
ふんふん、3時までに集合なんだね。それじゃあこの場で誰が行くのか決めちゃおうかな。さて、拒否権はないからそのつもりでね。
「それじゃあ私と一緒に行くのはポチと親衛隊と、それからアイシャちゃんはどうしようかな?」
「さくらちゃん、私もタンクさんと一緒に行きたいです! 奈良のリベンジです!」
「それじゃあその2人も決定だね。執事のおっちゃんとフィオちゃんはここに残るんだよね」
「さくら殿、私めは大魔王様のお留守を守るのが務めと心得ております」
「さくらちゃんの監視役がいないのは物凄く不安だけど、今回は仕方がないわね」
執事のおっちゃんは良くわかっているけど、フィオちゃんはなんだか私に向かって失礼な言動だね。このさくらちゃんには不可能はないと証明してあげようじゃないか。
「それじゃあ3時にヘリの駐機所に集合してよ。はい、解散!」
こうして岡山に飛び立つ準備に取り掛かるさくらちゃんでした。
最後までありがとうございました。ここまで投稿が出来なかったのは新たに連載を開始した【担任「この中で勇者は手を上げてくれ」-俺以外の男子全員の手が上がったんだけど、こうなったら毎日ダンジョンに行って最強になるまでレベルを上げてやる!】という作品に力を注いでいたためです。そちらの作品がようやく落ち着いてきたので、やっとこの小説に取り掛かれるようになりました。
こちらの作品の読者の皆様にはお待たせしまして大変申し訳ありませんでした。この小説も大切に連載してまいりますのでどうぞご安心ください。ただしばらくの間は投稿間隔が開いてしまうかもしれないので、その点はどうかご了承ください。次回は来週末には何とか投稿したいと思っています。




