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85 爆弾投下に注意!

何とか一話出来上がりました。短めでマッタリした内容です。

 魔力バズーカに術式を埋め込む作業は美鈴とフィオが2人掛りで取り組んだ。素人目には魔力砲を小型にしただけなので、同じような術式でいいのだろうと思うが、実際の所は細部の詰めで相当苦労したようだ。でもそこはさすが大魔王と大賢者のコンビだけある。約1週間でついに完成に漕ぎ着けていた。


 休みなしで術式の構築を行った2人は休暇をもらって、昨夜から美鈴は実家にフィオは俺の家に戻っている。フィオの休日を過ごす場所はどうやら俺の家と決定した模様だ。両親ともに新たな娘ができたように大喜びして歓迎している。まあ実の娘があんな具合だから、両親からするとフィオは天使のように映るんだろうな。本当の天使は別に居るけど。




 という訳で、今日は魔法担当の2人を除いたメンバーで訓練が始まる。妹は天狐と2人掛りで親衛隊のメンバーをシゴキ倒している。限界まで追い詰められて足腰が立たなくなったら、カレン特製の回復の水を飲んで再び地獄の猛特訓に飛び込んでいくという無茶をチェリークラッシャーの子たちは繰り返しているのだった。



「ボス、もう一度お願いします!」


「いい心掛けだね。何度でもふっ飛ばしてあげるよ!」


 容赦なく5人を千切っては投げている妹、その嵐のような猛威に対して臆することなく彼女たちは向かっていく。簡単に10メートルほど体を飛ばされて再び立ち上がる彼女たちだが、そこには全く悲壮感はない。むしろ一歩一歩強くなっている手応えを感じてその瞳はキラキラと輝いているのだった。


 すまないな、俺の妹の洗脳をまともに受けて修羅の道に飛び込んだせいで・・・・・・ 確か元々は魔法少女を目指していたはずだが、今はそんな面影は跡形もなく、どこに出しても恥ずかしくない脳筋が出来上がっている。実力的にはまだまだヒヨッ子だけど性格的には妹のコピーのような女の子が5人出来上がっているのだった。


 アイシャは最近タンクと一緒に訓練している姿をよく見かける。妹が親衛隊に手を取られているからなのかな? 以前と比べてめっきり妹と一緒に訓練する機会が減っている。遠くから見ているだけなんだけどなんだか生き生きとした表情でタンクと話をしながら剣と盾て打ち合っているぞ。そう言えばこの所2人が一緒に居る場面をしょっちゅう目撃するけど、きっと気が合うんだろうな。うん、そういうことにしておこうか。



 妹やアイシャたちとは別の場所に俺は居る。カレンと一緒に明日香ちゃんの訓練を見守っている最中だ。今日は美鈴が不在なので魔公爵・レイフェンが相手を務めている。レイフェンが撃ち出す炎を明日香ちゃんが不思議な能力が宿るその手で消し去っているのだ。臆病でヘタレの明日香ちゃんだけど連日の訓練で飛んでくる魔法の迎撃に成功していた。もっとも今レイフェンが飛ばしているのは全然熱くないファイアーボールだけど。それでも明日香ちゃんにしては大きな進歩だよな。



「聡史様、私もそろそろ天使の魂が体に馴染んで来ましたので、天界の呪法の練習をしておこうかと思います」


「カレン、駐屯地を更地にするつもりか?」


 カレンの天界の呪法は天使が悪しき民に裁きを下す天地が引っ繰り返るレベルの強大な威力を秘めている。聖書にある『ノアの箱舟』に描かれている大洪水規模の災害を簡単に引き起こせるらしい。その他にも空から巨大な隕石を落としたり、大量のイナゴを召喚して疫病を撒き散らしたりする大変物騒な術式の数々となっている。こんなものをウッカリ駐屯地で試そうものなら、周辺一帯にとんでもない被害が及んでしまうだろう。だから今の所カレンは回復系の術以外は封印されている。



「でも1回くらい試しておかないといざという時に不安が残ります」


「天使の魂にお願いすればどんな術でも思いのままなんだろう」


「それはもう正確無比に望む場所に裁きを下せます」


「それならぶっつけ本番で我慢してくれ」


「はい、聡史様の仰せのままに」


 強力すぎて使い辛い力というのは俺もお互い様だからよくわかっている。それにしても良くもまあこんな天使なんていう存在を俺の魔力で目覚めさせたものだな。あの時はカレンの命が懸っているから必死だったけど、今考えるととんでもないことを仕出かしたよな。うん、俺もしっかりと自覚しておこう。『破壊神』とは言っても神様の端くれなんだと・・・・・・



 昼食を挟んで午後も同じ内容で訓練は続いていく。こうして毎日地道な訓練の積み重ねがいざ戦闘が始まった時には物を言うんだ。俺たちは異世界でも必ず定期的に訓練に集中する期間を設けていた。自分たちの戦闘力アップに大いに役立ったのは言うまでもない。街中では中々思い切って体を動かせなかった妹は、瞳を輝かせながら広い森や邪魔する物が何もない草原で走り回っていたよな。



 3時頃になると日もそろそろ西に傾き始めてくる。一日中訓練を続けていた明日香ちゃんにも疲労の色がその表情に現れてくる。そんな所に親衛隊を相手にした訓練を終えた妹がやって来た。



「兄ちゃん、明日香ちゃんの様子が気になって見に来たよ」


「ファイアーボールの迎撃がずいぶん上達しているぞ」


 2人でその様子を話をしながら見ていると、妹が居るのに気がついた明日香ちゃんが俺たちの所にやって来る。



「さくらちゃんも来ていたんですね。私がだいぶ上達した姿を見てくれましたか?」


 今日は5連発で飛んでくるファイアーボールを全てその手で霧散させるのに成功していた明日香ちゃんは相当自信たっぷりの様子だ。



「そうだね、最初の頃と比べたらだいぶマシにはなってきたけど、まだ実戦では使えないかな」


「そんなことはないです! 私は5連発で飛んでくる魔法を消せるんですよ!」


「明日香ちゃんがそんな話をするんだったら、私は飛んでくるマシンガンの弾を全部掴み取れるよ!」


 明日香ちゃんは自分が進歩したのを認めてもらいたいのに対して、妹はその程度ではまだまだという態度を崩さない。実際明日香ちゃんに向かって飛んでくるファイアーボールは全然熱くないレイフェンの特製だしな。現実的には妹の主張の方に分があるのだが、そこは友達としてちょっとは褒めてやるべきじゃないだろうか? ほら見ろ、明日香ちゃんが頬を膨らませてご機嫌斜めだぞ。



「さくらちゃんは自分が凄いから他人のちょっとした進歩に気がつかないんです。勉強だったら私がずっと上なのに! さくらちゃんは全科目追試の常連ですからね」


「なにをー! 明日香ちゃんは走り幅跳びでジャンプしても砂場まで届かないじゃないか! おまけに砂場の縁に躓いて顔から砂にダイブしていたくせに!」


「失礼ですね! 他人の忘れたい過去をそうやって抉るなんてさくらちゃんは人でなしです! 本物のバカの癖に」


「ダイブちゃんに何を言われても悔しくないからね」


「追試が終わるまで教室で待っていてあげた恩を忘れたとは言わせませんよ!」


 なんだか口喧嘩のようになっているけど、俺は敢えて横から口を挟まないようにしている。俺の隣に立っているカレンはこの様子を見てオロオロとした表情で俺を見ているが、黙って成り行きを見守る。



「さくらちゃんのお兄さん、今は何時ですか?」


「3時を回った頃だな」


「さくらちゃん! 大変です! 今日の3時のおやつは食堂のクリームあんみつにしましょう! 一杯だけ私のおごりです!」


「うほほー! 明日香ちゃんはとっても良い人だよ! 私の一番のお友達だね」


 こうして2人は仲良く手を繋いで食堂に向かう。急に仲直りした2人をカレンは狐に摘まれたような表情で見送っている。仕方がないから俺からカレンに説明してやろうか。



「カレン、あれが2人の日常だから気にしたら負けだ」


「どういうことなんでしょうか?」


「2人とも少々喧嘩をしてもコロッと忘れる性格なんだ。いちいち相手にしていたらこちらが疲れるだけだぞ」


「そうだったんですか。本当に仲が良いお友達なんですね」


「学校に通っていた頃からずっとあんな調子だからな。家でもよく喧嘩をしてその直後に仲良くアイスを食べていた」


 だからこそ妹と仲良くできるのは明日香ちゃんだけなんだよな。攻撃的な妹とヘタレな明日香ちゃんだけど、それでもこうして仲良くできるんだから良い友達なんだろうな。妹よ、友達は大切にするんだぞ。


 こうして俺は妹に続いてレイフェンや遅れてやって来た天狐を引き連れて食堂に向かうのだった。気がつくと回復を終えた親衛隊の5人も俺たちの後ろをゾロゾロとついてきている。





「訓練のあとのおやつは最高だね!」


「さくらちゃん、食堂のクリームあんみつは私の一番のお気に入りですよ」


 人気ひとけのない食堂には妹と明日香ちゃんが並んで座っている。明日香ちゃんの前には1杯、妹の前には3杯のクリームあんみつのガラス製の器が置かれている。妹のおやつからすれば、まだこの程度はほんの前哨戦に過ぎないな。ここからあやつの真価が発揮されるんだ。


 俺たちもめいめいがカウンターで飲み物や軽食を受け取って妹たちが並んでいる周囲の席に着く。天狐はもちろん稲荷ずしを注文して目がハートマークになっているよ。レイフェンはブラックコーヒーが気に入っているらしい。執事姿でこうしてコーヒーを嗜んでいると、ついこの前まで大妖怪だったなんてすっかり忘れてしまいそうになるな。ダンディーなオジサンが優雅に休憩時間を過ごしているかのようだ。


 親衛隊たちは席に着くなり俺の方向に顔を向けて深呼吸を繰り返している。ちょっとでも俺の魔力を体に取り入れようとしているんだ。あのスルトの事件の時に彼女たちはドサクサに紛れて魔力を吸収していた。今では毎日隙あらば俺の魔力を体に取り込もうと、こうして近付いた時に深呼吸を繰り返しているんだ。危険だからと言って最初のうちは止めていたけど、今はもう好きにさせている。おかげで日々魔力量が上昇しているらしい。そのうちにアイシャを追い越すんじゃないか? 脳筋は自分が強くなるためには少々のリスクなど全く省みないからな。



「明日香ちゃん、聡史様たちが学校に居た頃の話を聞かせてよ」


 カレンがクリームあんみつを食べ終わった明日香ちゃんに話し掛けている。その隣に座っていた妹は『今度はパンケーキが食べたくなった』と言って現在カウンターに向かっている最中だ。程々にしておくんだぞ!


 それにしても俺たちの学校時代の話か・・・・・・ ついこの間まで高校生だったけど、なんだかずいぶん前の話のように感じるな。それに下級生から見て俺たちがどんな風にその目に映っていたのかちょっと気になるぞ。



「それはもう男女を問わずに凄い人気でした!」


「そうだったの!」


 なんだって! 男女を問わずにって、俺は男子生徒からの人気なんてこれっぽちもほしくはないぞ! でも下級生の女子から注目されていたのはちょっと嬉しいかも。カレンもその話を聞いてかなり興味をそそられているようで、目を輝かせながら話の続きを待っている。



「はい、とっても人気があったんですよ。西川先輩は」


「美鈴かよ!」


 しまった、ついつい大きな声で明日香ちゃんにツッコミを入れてしまった。俺の隣でカレンがプッと吹き出している。親衛隊たちは話には加わらずに相変わらず真剣な表情で深呼吸の最中だ。こいつらはいつまでも好きにさせておこう。



「さすがは我が敬愛するマムですな。どこに居られていらしても常に人望を集めるのは当然のこと」


 レイフェン、お前も執事姿こそしているものの、天狐同様に相当に飼い犬になっているぞ。天狐のように尻尾があれば振り切れるかの如くに左右に揺れているんだろうな。ドヤ顔をしているレイフェンはこの際放置しておくに限るな。



「明日香ちゃん、聡史様はどうだったの?」


「ああ、さくらちゃんのお兄さんですか。そうですね・・・・・・ 西川先輩の周囲にいつも居る寄生虫とかゴキ扱いでしたね」


 明日香ちゃん、歯に絹を着せぬ辛辣なご意見本当にありがとう。俺は今ちょっと眼から汗が出てきそうだよ。どうやら下級生から見るとあくまでも美鈴が主役で、俺はその付属物以下の存在だったんだな。うん、わかったよ。大海のように広い心で受け止めようじゃないか。



「ところでさくらちゃんのお兄さんは西川先輩と付き合っているんですか? 私たち2年生の間では一番の興味の的だったんですよ」


 はい? 何ですって! 明日香ちゃんが思いっきりやらかしてくれました。何もこんな場所に特大の爆弾を放り込むことはないだろう。さて、一体どう答えてよいやら・・・・・・ 取り敢えずは無難な線で答えておこう。



「美鈴とは幼馴染的な関係だな」


「あら、幼馴染的な関係というのを具体的にもっと聞きたいわね」


 俺の背後から普段から聞き慣れている声が耳に響く。ギギギと音がするようにその方向に首を向けると、満面の笑顔をしながらも目だけが笑っていない美鈴と、真剣な表情で『早くその先を聞かせろ!』と目で訴えるフィオの姿があるのだった。




次回は舞台がとある場所に移ります。どこかはまだ秘密にしておきます。話の流れからいって聡史と美鈴の関係に何かしらの変化が・・・・・・


投稿は週の中頃の予定です。どうぞお楽しみに!



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