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70 魔法アカデミー 3

本当は2話くらいで終わらせる予定だった魔法アカデミーのお話がなんだか長引いています。ということで続きをどうぞ!

 さくらが潜入調査を命じられた翌日・・・・・・



「さくらちゃん、知り合いってどんな感じの人なんですか?」


「フランスから来た留学生だよ。私の家にホームステイしているんだ」


 今日も魔法アカデミーに一緒に行く約束をしている明日香ちゃんと2人で最寄の駅でフィオちゃんの到着を待っているんだよ。


 昨日の兄ちゃんとの電話にあったように今日からフィオちゃんも一緒に魔法アカデミーの調査をすることになっているんだ。打ち合わせどおりにフランスから来た留学生っていう設定にしてあるからね。もうすぐ到着するっていう連絡があったから次の電車から降りてくるのかな?

 

 おやおや、たぶんあそこに見えるブロンドの髪がフィオちゃんだね。こうして人混みに取り囲まれていてもあの髪の色は結構目立つよね。私の姿を見つけてこっちに歩いてくるよ。



「さくらちゃん、お待たせしました」


「そんなに待っていないから大丈夫だよ。この子は私のお友達の明日香ちゃんだよ」


「はじめまして、さくらちゃんのおうちにホームステイをしているフィオレーヌです。フィオと呼んでくださいね」


「は、はじめまして! 明日香です。あんまりきれいな人だからビックリしちゃいました」


「そうだね、フィオちゃんはこのさくらちゃんの次くらいに美人だからね」


「さくらちゃんのその自信がどこから湧いて来るのか不思議でしょうがないわ」


 なんだかフィオちゃんと明日香ちゃんがジトーっとした視線を私に向けているよ。2人とも何を疑っているんだろうね。今の私の発言のどこに問題があるのかサッパリわからないよ。ともあれ3人揃ったから張り切って魔法アカデミーに向かいましょう!



「フィオさんも魔法に興味があるんですか?」


「ええ、私は日本のアニメ文化に憧れて留学してきたの。だからさくらちゃんから魔法が学べると聞いて面白そうな話しだって飛び付いてしまったのよ」


「ええ! ということはフィオさんも厨2病なんですか?」


「そ、そうね・・・・・・ 私は立派な厨2病を患っていると思うわ」


 明日香ちゃんはさすがだね! 大賢者を掴まえて厨2病扱いだよ。フィオちゃんは『心の底から不本意だ』という目をしながらなんともいえない表情で答えているね。私も同じように厨2扱いされているから、フィオちゃんもこの程度の屈辱は我慢するんだよ。何しろ潜入調査なんだからね。身分を隠したスパイみたいになる必要があるから、厨2病と呼ばれても否定する訳にはいかないんだよ!



「フィオさんが私と同類で安心しました。でも魔法が使えるなんて本当に素晴らしいですよね! 私の夢は魔法少女になって皆さんの役に立つことなんです。まだ魔法は使えませんが、いつか使えるようになったらこの3人でチームを組んで悪の組織を退治しましょう!」


「そうね、それは面白いかもしれないわね」


 明日香ちゃん! 繰り返すようだけど、どう考えても明日香ちゃんが一番の厨2ということで間違いないよ。このさくらちゃんが責任を持って認定してあげようじゃないか! そんなに厨2仲間がほしいのかね? 言っておくけど私たちは任務で魔法アカデミーに潜入するんだからね。そこの所は勘違いしてほしくないよ。でも昔から思い込みの激しい子だったから、この誤解を解くには相当の努力が必要かもしれないね。



「フィオさん、あの建物が魔法アカデミーですよ」


「まあ、まるで教会のようね」


 フィオちゃん、さっきからセリフが棒読みになっているよ。でも明日香ちゃんは全然気がついていないね。一緒に活動する仲間が増えたのが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべているよ。この子の天然ぶりはしばらく会わないうちに著しく進行しているようだね。さすがの私ももうすでに手に負えないかもしれない。



「それじゃあ私たちは初心者の訓練課程で待っていますから、ガイダンスが終わったら合流してください」


「フィオちゃん、先に行ってるよ」


「ええ、それではまた後でね」


 こうして私と明日香ちゃんは受付でフィオちゃんと別れて、魔法の講習をする部屋に先に入っていくのでした。






 さくらたちと別れたフィオは・・・・・・



 受付が終わった私は応接室に連れてこられたわ。初めてここにやって来た人はこの場で簡単なガイダンスを受けるらしいの。さて、どうしましょうか・・・・・・ 私の魔力は隠そうと思っても隠しきれるものではないし、見る人が見ればすぐにわかってしまうのよね。魔力を持っている方向で話しを進めていくしかないわね。そんなことを考えていると、ドアがガチャリという音を立てて30代くらいの男性が室内に入ってくる。その人は私の顔を見るなり『おや?』という表情で首を傾げているわね。やはり魔力の存在に気がついているようだと確信したわ。



「ようこそ魔法アカデミーにいらっしゃいました。私はこの施設の責任者のアランと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


「はじめまして、フィオレーヌ=デ=ルードラインと申します」


「日本の方には見えないようですが、お国はどちらですか?」


「フランスから来ました。日本の高校に留学中です」


「そうですか。失礼ですがあなたから魔力を感じますが、どのような経緯でこのアカデミーに参加をご希望するのですか?」


 ほら、やっぱり気がついているわね。仕方がないから用意してある模範的な回答をしておきましょうか。



「私の家系は古くはローゼンタールの血を引いております」


「なるほど、それはお見逸れいたしました。ヨーロッパの魔術や錬金術の名門のご家系の方ですか。それならば魔力をお持ちなのも納得いたします。それで、このアカデミーにローゼンタール家の方がどのようなご用なのですか? 魔法でしたらご本家に伝わっていると思われますが?」


「ローゼンタールとは言っても私の家は傍流に過ぎませんわ。本家が所持している魔法書などの閲覧を許されておりませんの。せっかく魔力を持って生まれても、肝心の術を覚えないことには宝の持ち腐れですわ」


 さて、この出任せが果たして通用するかしらね? こんなこともあろうかと思って昨日のうちに想定問答集を作っておいて良かったけど、何しろ一夜漬けに過ぎないからこれ以上深く突っ込まれるとボロが出るかもしれないわね。



「そうですか、そのようなご事情があるとは全く知りませんでした。確かにお言葉のとおり魔法書、特に効力が高い原書は門外不出の物、いくら血の繋がりがあるとしてもおいそれと見せるわけにはいかないでしょうな。よろしい、あなたのような方が当アカデミーに参加していただければこちらとしても大いに箔が付きます。ぜひこの施設で神秘の秘術に触れてください」


「楽しみにしています」


 どうやらこのガイダンスは参加を許可するかどうかの簡単な面接のようなものかもしれないわね。無事に第1関門をクリアできたようで、ちょっとホッとしたわ。


 

「フィオレーヌさんはすでに魔力を持っていらっしゃるので、実際に術式を学んでいる皆さんの部屋に案内いたします。私についてきてください」


 アランという男性の後について私はある部屋に通されたわ。そこには5人の女の子が魔法書に目を通したり、ブツブツと小声で呪文を唱えたりしているわね。これがヨーロッパに残された魔法の術式なのね。どんな内容か目にするのがちょっと楽しみよ。



「皆さん、新しい仲間を紹介しますよ。こちらはフィオレーヌさんです。ヨーロッパの魔法の名門の家柄のご出身で、当アカデミーでしばらく魔法を学ぶことになりました」


「フィオレーヌです。どうぞよろしくお願いします。フィオと呼んでくださって結構です」


 私を出迎える5人の目が好奇心でキラキラに輝いているわね。『ヨーロッパの魔法の名門』というフレーズが彼女たちの好奇心をいたく刺激しているみたい。本当はその程度のちっぽけな肩書きなど恥ずかしくて裸足で逃げ出す異世界の大賢者だけど、しばらくは自分の力は封印して魔法の初心者を演じないとね。


 アランさんが姿を消すと、待ってましたとばかりに彼女たちから質問攻めに会うわ。



「フィオさんは魔法が使えるんですか?」


 はい、使えます! 何しろ大賢者ですからどんな高等魔法も自由自在です。



「ヨーロッパの名門ということはもしかして貴族のお姫様とかですか?」


 はい、異世界で最大の国『マハティール帝国』の軍務大臣の孫娘で伯爵令嬢です。



「魔法が使えるんだったら、ぜひ何か見せてください!」


 機会があればお望みの魔法を見せて差し上げますわ。



「なんだか気品に溢れていて、別世界の人みたい!」


 転生する前は日本人だったけど、今の私は異世界生まれですよ。



「なんだか大きな魔力を感じます。もしかしたら大魔法使いとかじゃないんですか?」


 私の魔力を感じるなんて中々いいセンスをしていますね。大魔法使いじゃなくて大賢者ですから、そこの所は間違わないでくださいね。


 とまあこんな具合に一斉に質問が押し寄せてきたけど、心の中で返事をしてあとは笑顔で誤魔化したわ。潜入調査ですからいきなり真実をぶちまける訳には行きませんよね。それに国防軍の服務規程で、おいそれと秘密を明かせませんし。



「皆さんから興味を持ってもらえるのは嬉しいですが、魔力はあっても使い方がわからない初心者ですよ。それから魔法の名門とは言っても、今はごく普通の家ですから変に期待しないでくださいね」


 5人の女の子たちがあからさまにガッカリした表情に変わっているわね。ごめんなさいね、真実を打ち明けられなくて。その代わりに慣れてきたらちょっとだけ大賢者が魔法のレッスンをしてあげるから待っていてね。それまではできるだけ目立たないように普通の留学生として接してもらえるとありがたいわ。


 彼女たちからそれぞれ自己紹介をしてもらう。5人は『真美まみ』『美晴みはる』『なぎさ』『ほのか』『絵美えみ』という名前で、今はチームを組んで魔法少女として活動を始めているそうよ。どんな活動をしているのかはおいおいに聞いていきましょう。



「これが魔法書なのね。ちょっと見せてもらえるかしら」


「はい、フィオさんどうぞ。術式の構築方法や魔法の原理が詳しく書いてあってとっても参考になります」


 受け取った魔法書の表紙を開いて目次に目を通してみる。ふんふん、日本語訳になっているから難しい専門用語も理解し易いわね。ラテン語の原本とかだとさすがに読む気がしなくなってくるところだったわ。でも日本語に訳している時点で微妙な言葉のニュアンスとかが変わっている可能性も否定できないわね。


 しばらく魔法書を読んでいくうちに次第にあることに気が付くわ。これって絶対に帰還者が残した物よね。私が新たな生を受けた世界の魔法呪文と表現は違っているものの、内容はほぼ同一の記述になっているじゃないの。たぶん別の世界から戻ってきた帰還者が書いたものよね。著者名は・・・・・・ 『アレイスター・クロウリー』でタイトルは『法の書』ね。19世紀から20世紀初頭の物だから年代は比較的新しいわね。



「なるほどねぇ、術式の構築をこんな具合にしているのね。ちょっと興味深いわね」


「フィオさん、さらっと目を通しただけでわかるんですか?」


「ええ、この程度の簡単な魔法書なら5歳の頃に読んでいたわ」


「さすがは魔法の名門ですね!」


 おっといけない! ついあちらの世界で過ごした幼少期の話をしてしまったじゃないの。ここにいる私は表向きはフランスから来た留学生なんだから尻尾を出さないように気をつけないとね。なんだかまたキラキラした視線が私に集まっているわね。ここはひとつ話題を変えましょうか。



「皆さんはどんな感じの魔法を操れるのですか?」


「まだ初級の魔法を1つか2つしか操れません」


「私は火の魔法を2種類できますよ!」


 なるほど、どうやら魔法を覚えたての初心者ばかりという感じなのね。ちょっと見せてもらいましょうか。



「ここで実演できますか?」


「小さな火を出すくらいなら大丈夫ですよ。やってみましょうか」


 ほのかさんが実演を申し出てくれたわね。それどれ、どんな魔法か楽しみね。そのまま彼女は体の中の魔力を循環させながら精神を集中し始める。



「小さき炎よ、我が願いに答えてこの指先に燈るがよい!」


 魔力を指先に集めて呪文を唱えるとポッという感じでロウソクの炎くらいの小さな火が生まれてきたわ。精神集中から始まって実際に炎が燈るまで約10秒くらい掛かっているわね。敵を目の前にしてこんなに時間が掛かっていては致命的な隙を晒すのも同然よ。でもそれ以外の魔力の集め方とかはまあまあいい感じかな。



「ほのかさんは火の魔法が得意なのかしら?」


「はい、もっと大きな火も出せますし、的に向かって飛ばせますよ」


「そうなの、ところでこの魔法を利用してどんな活動をしているのかしら?」


「はい、妖魔を倒す訓練をしています」


 驚いたわね! こんな稚拙な魔法で妖魔を相手にしているですって! これじゃあ命がいくつあっても足りないじゃないのよ! あちらの世界の初級の冒険者だって今の半分の時間で魔法を撃ち出しているわ。そうじゃないと突然現れたゴブリンとかに対処できないでしょう。それにしてもこんな初心者を妖魔と対決させているというのはこの魔法アカデミーの方針なのかしら? どうやらこの辺に何か目的を探るヒントが隠されていそうね。



「よかったら私もその妖魔を倒す訓練に参加していいかしら? 先々のために見学しておきたいんだけど」


「とっても危険ですよ。大丈夫ですか?」


「ええ、心配は要らないわ。それに心強い警護役も同行するし」


「それってもしかしたらさくらちゃんですか? あの人の不思議な力は魔法アカデミー全体で話題になっています」


「まあ、そうなのね。その話題のさくらちゃんを連れて行くから心配は要らないでしょう」


「それじゃあ6時になったらここを出発します」


「ええ、わかったわ。ちょっとさくらちゃんに話をしてくるから席を外すわね」


 そのまま部屋を出て、教えてもらった初心者たちが魔力を得る訓練をしているスペースに向かうと、そこでは待ち合わせの時に出会った明日香ちゃんが目敏く私の姿を発見して近寄ってくるわ。



「フィオさん、どこに行っていたんですか? ずっと待っていたのに」


「ごめんなさいね、真美さんたちの部屋に連れて行かれて、そこで魔法の初歩を勉強していたの」


「そうなんですか! もしかしてフィオさんは魔力を持っているんですか?」


「ええ、少しあるみたいね。それよりもさくらちゃんはどうしているかしら?」


「あそこに居ます」


 明日香ちゃんが指を指す先には床に毛布を敷いて丸くなってグッスリと寝込んでいるさくらちゃんの姿があるわ。きっと魔法の練習に飽きて限界を迎えてしまったのね。一緒に練習している人たちは敢えてさくらちゃんが眠っている方を見ないようにしているわね。きっと巻き添えを食いたくないんでしょうね。さて、話をするためには起こさないといけないけど、正面きってさくらちゃんを起こす度胸は私にはないからどうしましょうか?


 マジックバッグの中には今回の潜入に備えて準備をしていた食事があるわね。これは私の分だけじゃなくて主にさくらちゃんのための食事よ。肝心な時にお腹が空いて動かなくなったら大変ですからね。カツカレーとサラダのセットにヨーグルトが載ったトレーをさくらちゃんの顔の近くにそっと置くと、誰にも気付かれないように魔法を使って僅かな風を起こしてさくらちゃんの鼻にカレーの香りが届くようにする。そしてしばらく待っていると、カレーの香りを嗅ぎ付けたさくらちゃんの鼻がピクッと反応するわ。



「うーん、なんだろう? この美味しそうな香りは・・・・・・」


 夢うつつでさくらちゃんが呟いているわね。あともう一息で目を覚ましそうね。ちょっとだけ風の勢いを強くしましょうか。そして風が届ける香りにつられて、ついにさくらちゃんの目がクワッと見開かれるなりガバッとその体を起こす。



「おお! こんなところに偶然カツカレーが落ちているよ! いい匂いがすると思ったら正体はこれだったんだね! それではいただきまーす!」


 周囲の目を全く気にしないでパクパクと食べ始めているわね。さくらちゃん、お願いだからよく考えてね! こんな所にカレーが落ちているわけないでしょう! それから落ちている物を食べるのは絶対に止めてね!


 こうして何とかさくらちゃんを起こすのに成功するのでした。さて、これで魔法少女たちがどのような活動をしているのか判明するわね。良い報告ができるといいんだけど・・・・・・



結論から申し上げまして、今回も魔法アカデミー編を終わらせることができませんでした。次回こそは何とか話の区切りをつけたいと思っています。投稿は週末の予定です、どうぞお楽しみに!

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