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7 各国の対応

前回大使館の建物を崩壊させるというとんでもない事件を仕出かした3人ですが、その影響で日本政府だけでなくて、中華大陸連合やアメリカ政府まで巻き込んで対応に追われます。今回は主人公たちではなくて、彼らを取り巻く周辺の動きが中心のお話になります。

「臨時ニュースをお伝えします。本日午後3時頃、東京都港区にあります中華大陸連合の大使館が突如崩壊しました。原因は今のところ不明で、警察や消防並びに国防軍が救助に当たっていますが、死傷者が多数出ているとの情報です」


 またもやテレビからニュースが流れてきた。今日は俺たちが大使館を襲撃してから3日後に当たる。男性アナウンサーは深刻な表情をしながら詳細をしゃべって、画面は瓦礫に変わった大使館を遠目から映し出している。


 美鈴が張り巡らした結界が、この日効力を失って姿を消したおかげで、あの惨事の模様がようやく明るみに出た結果だ。周囲は警察によって規制線が張られて、大騒ぎになっているみたいだ。


 ちなみに俺たちは、今日も残り少ない学校生活を楽しもうと高校に登校して、期末試験などを受けていたりする。結界を維持することで事件の発覚を遅らせたのは、言ってみればアリバイ作りも兼ねている。



 おや、携帯から着信音が鳴っている。誰からの通話だろうと画面を見ると、心当たりがない番号だった。



「もしもし、楢崎です」


「お前たちの仕業かぁぁぁぁ!!」


 耳に当てた瞬間に大音響が響き渡って、ゴトンという音を立てながら俺は思わず手からスマホを落としてしまった。いくら帰還者でも鼓膜までは鍛えられないらしい。



「ああ、すいません。その声はもしかして司令官さんですか? 大声に驚いてスマホを落としましたよ」


「驚いたのはこっちの方だぁぁ! 大使館を襲撃したのはお前たちだろうがぁぁぁぁぁ!」


「何のお話かわかりません。今ニュースで聞いたばっかりですよ」


「ほう、惚けるつもりだな! 3日前に大使館周辺をうろついているお前たちの姿が、監視カメラにしっかりと映っているぞ」


「黙秘権を行使します」


「まあいい、起きてしまったものは仕方がない。あとはこの事件をどれだけこちらに有利に利用するかだ。幸いお前たちがミサイルと白い粉を残していったのは、一応手柄として褒めておく。動かない証拠の品として利用させてもらうとしよう。この件に関しては入隊してから詳しい事情聴取を行う。それまでは誰にも言うな!」


「はい、わかりました」


 どうやらバレバレらしいから、一応事情聴取には応じると返事をしておく。じゃないとあの司令官さんはおっかないからな。帰還者とかそういう枠組みを越える危ない気配をプンプン漂わせているんだよ。




 司令官さんの電話が終わると、再びテレビに目をやる。



「こちらは首相官邸です。ただいまから大使館崩壊の件について、官房長官が会見します」


 レポーターの話に続いてカメラが政府の公式会見場に切り替わると、そこに疲れ切った表情の官房長官が姿を表す。一斉にカメラのフラッシュを浴びながら、一礼して政府の公式見解をしゃべりだす。



「中華大陸連合の大使館については、先般の国連制裁決議以降わが国からの退去を求めていたところでありますが、それが本日が突如崩壊した姿で発見されました。原因に付きましては現在調査中でありますが、館内から多数のミサイルと覚せい剤と思しき大量の粉が発見されました。この件に関して中華大陸連合は、我が国の平和を脅かす敵対国家と断定して、相手国に厳重な抗議を行います」


 引き続き記者たちから質問が行われている。普段から腰が引けている政府にしたら、この声明はかなり頑張ったんじゃないかな。首都のど真ん中にあんな危険なブツを隠していたら、そりゃー敵対行動になっちゃうよね。いつもの遺憾砲が火を噴くのかと思っていたけど、これなら俺たちもやった甲斐があるという物だ。やり過ぎという側面は否定できないけどね!










 一方その頃、北京にある中華大陸連合の外交部には衝撃が走っていた。東アジア地区担当の職員が情報を求めて右往左往している。



「在日本大使館が倒壊しただと! どうなっているのだ?!」


「まだ日本政府の公式見解しか出ていません!」


「すぐに近辺の政府系施設から人員を派遣して、情報収集と証拠隠滅を図れ!」


「政府系施設も領事館も全ての職員が日本政府によって外出を禁止されています!」


「不味い、実に不味いぞ! 他の施設に秘匿されている武器類を早急に移送せよ!」



 外交部の職員が日本のテレビ局が報じる内容を食い入るように見つめている。その他にも政府系の職員とは別に、日本に派遣している工作員から寄せられた情報を1つ1つ集めている部署もある。彼らの懸命の努力でようやく報告書がまとまって、外交部の事務方のトップが外交委員に書類を提出する。その書類を見た委員は表情を歪める。



「これを私が国家主席に報告しなければならないのかね? こんな物を報告したら、私の首だけでは済まないよ」


「ですが今回の事件に関して、現状最大限の努力をして集めた情報です」


「そうか…… うん? この部分を詳しく説明してくれないか?」


「はい、大使館の諜報部は、帰還者の疑いがある人物を調査していた模様です」


「そうか、帰還者か…… これを利用すれば、うまい具合に主席に説明ができるな」


 外交委員の苦し紛れの言い訳が、実は今回の事件の本質を偶然にも言い当てているのだった。彼は報告書にもう一度目を通してから、主席の秘書室にアポを取る。その返事は『すぐに来い』というものだった。



「失礼いたします。在日本大使館崩壊の事件について、報告書を持参いたしました」


「うむ、そこに掛けたまえ」


 外交委員は緊張した表情をして、小脇に抱えた書類入りの封筒が小刻みに震えている。目の前に居るこの独裁者・劉健耀りゅうけんようの胸先三寸で、下手をすると自分が粛清の対象になるからだ。



「まだ確実な情報は集まっていませんが、突如崩壊した大使館のビルについて原因と思わしき情報がありました」


「我が国に敵対する勢力のテロとか日本政府の工作かね? あそこは対日政策の重要な拠点だった。それを失うのは大きな痛手だと感じている」


 主席の言葉を聞いて額に冷や汗を浮かべる外交委員、今口にされた程度の分析では『責任を取らせるぞ』という言外の意味が込められているのだった。



「この件が発生する直前に、大使館の諜報部は新たに日本に現れた可能性がある帰還者について調査をしておりました。報告が遅れましたのは、正体が判然としなかったためです。ですが今回の件が帰還者の仕業であるならば、話の辻褄が合います。彼らは我々が想像もできない途方もない力を所持しており、その力を報復に使用したならば、大使館が崩壊した理由になります」


「なるほど、それは興味深い話だ。日本にはあの〔神殺し〕以外にも、強力な力を持つ帰還者が現れたというのかね?」


「もしこの事件を引き起こしたのが帰還者だとするならば、主席のおっしゃる通りです。〔神殺し〕は基地から全く動いた形跡がありません」


 2人の話題に出てきた〔神殺し〕とは、例の神崎真奈美司令官のコードネームだ。国防軍の能力者を束ねる司令官でありながら、その双肩に国防の大きな責任が圧し掛かる国家の守護神を長きに渡って務めてきた。その名声は敵味方を超えて世界中に広がっており、政府や軍関係者で知らぬ者はいない。



「そうか、新たな帰還者が現れたとなると、我々の対日戦略は見直しを迫られるな。君は引き続き情報収集に当たってくれ」


「承知いたしました」


 外交委員はホッと胸を撫で下ろす。自分の首がなんとか皮一枚で繋がったと確信できる瞬間だった。帰還者の存在に言及するという咄嗟に閃いたアイデアが、こうも上手くいくとは思っても見なかった。



「主席、調査の件につきましてお願いがあります。相手は帰還者、並の人間では歯が立ちません。ここはぜひ我が国の帰還者の力を借りたいと思います」


「よかろう、私の直属の部隊から2人貸し出そう。適任者を選抜して日本に派遣せよ。ただし帰還者を出動させるからには、今度は失敗は許されないと肝に銘じるのだ。新たな情報が入ったら最優先で報告せよ」


 再び外交委員の額から冷や汗が流れる。絶対に失敗ができない作戦になってしまったのだ。日本に現れた新たな帰還者を捕らえるか殺すかしないと成功とは呼べない、極めてハードルの高い任務が自分の肩に圧し掛かったと自覚した故の冷や汗だった。


 こうして外交委員は自分の執務室に戻ってから、帰還者を担当する部署と連絡を取るのだった。











 同じ頃、東京の首相官邸。現在合衆国大統領とのホットラインが繋がっている。



「プライムミニスター、大人しい貴国にしてはずいぶんと派手にやらかした物だな! あの国の傲慢な主席の吠え面を動画にアップしたら、1千万回再生も夢じゃないぞ!」


「マクニール大統領、冗談は辞めてください! こちらは対応で目が回るような忙しさなんですから」


 日本国首相、山本やまもと 宗太郎そうたろうが受話器を手にして苦笑している。太平洋を挟んだホワイトハウスでは、合衆国第46代大統領のマクニールが大笑いしている。日本にとっては収拾に奔走する大事件でも、アメリカ側から見ると対岸の火事で笑いのタネに過ぎなかった。



「プライムミニスター、今回の件に関しては、我々も興味を持って推移を注視している。気になるのは今後の日本と中華大陸連合の外交の行方だ。元々国交は有名無実になっているのだから、今更外交にヒビなど入らないだろう。それよりもこの件がホットな戦いの引き金になるかに興味がある」


「我が国としては戦争は可能な限り避けたいが、降りかかる火の粉は払う用意があると明言しておきましょう」


「それは中々頼もしい発言だね。君の勇気に敬意を表する。ところで私個人にはもっと興味深い話があるんだよ。今回の事件を引き起こしたのは、君の国に新たに現れた帰還者かい?」


「なにぶん調査中なので何とも言えません。新たな帰還者が現れたという話すら、まだ私の手元に届いてませんよ」


 外交とは突き詰めて言うと『すっトボケ合戦』という側面がある。何でも正直に『ハイハイ』と認めてしまっては、勝ち残れないのだ。隠すべき情報は秘匿する、これこそが重要となる。だからこそ世界各国は秘匿された情報を求めて諜報組織を活用しているのだ。



「そうか、まあいずれわかる話だからこの場はいいだろう。しばらくはプライムミニスターには激務が続くだろうが、幸運を祈っているよ」


「大統領、ありがとうございます。いくつか仕事をそちらに回す用意もありますので、どうか快く引き受けてください」


 こうして日米のホットラインは終了を迎える。





 ホワイトハウスでは、マクニール大統領が会談を終えて目を閉じて思案している。そして、彼は何かを決断した表情で秘書官を呼んだ。



「日本に我が国の誇る一線級の帰還者を送り込んでほしい。任務は新たな帰還者の調査だ。何しろ同盟国相手だから決して敵対はするなよ。どのような力の持ち主なのか調べ上げるんだ」


 こうして、アメリカ合衆国からも密命を帯びた帰還者が日本に潜入することになった。




次回は主人公たちがいよいよ国防軍特殊能力部隊に入隊するお話になりそうです。


今回のお話のように、世界情勢などもふんだんに取り入れて、リアリティーのある作品にしていきたいと考えています。現在の予定ですと、10話前後で開戦になって日本中が戦争に巻き込まれていく感じでお話は進んでいくと思います。


近未来の世界情勢に興味がある方はぜひ、感想、評価、ブックマークをお寄せください。

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