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68 魔法アカデミー

体調を崩して投稿が遅れました。待っていた皆さん、本当にゴメンナサイ。

 バンパイアを食べちゃった天狐が巨体を揺らしながら私たちの所に戻ってきます。あんな光景を見てしまった後なのでちょっと怖いんですけど、飼い主のさくらちゃんは全くの平常運転です。



「ポチは中々いい感じで戦っていたよ! さすがは私のペットだね!」


「主殿、ありがたきお言葉でございます。これで我の腹の虫も多少なりとも収まりましたぞ」


 アイシャは絶対に近付きたくないですが、さくらちゃんは平気な顔で大木のような天狐の足元に寄り添って前足をポンポンしています。そんなことよりも早く元の人型に戻ってくれないでしょうか。



「さくらちゃん、天狐を早く元の姿に戻してもらえないかしら。このままの大きさだと建物に入りきれないわ」


「ああ、そうだね! ポチは元の姿に戻っていいよ!」


「主殿、大きさは変えられまするが人型に戻るには丸一日程時間が必要となりまするぞ」


 美鈴が私の引き攣った表情を察してさくらちゃんに話を切り出してくれましたが、どうやら普段の姿にはすぐに戻れないらしいです。でもこのままでは大きすぎて、地下の祠に戻るにしてもさくらちゃんの部屋に行くにしても、入り口を絶対に通りません。



「うーん、私としてはこの姿でもいいと思うんだけど、中に入りきれないからもっと小さくなってよ!」


「承知いたしました」


 そう返事してから天狐は光に包まれます。そしてその光の中から現れたのは普通の大きさのキツネでした。金色の艶やかで見事な毛並みと尻尾が7本ある光り輝くキツネです。



「これなら良いんじゃないのかしら。問題なく建物に入れるサイズだし」


「許可が出たからポチはこのまま私の部屋に行くよ! 眠くなってきたから朝までもう一回寝るからね!」


 体が小さくなった天狐は頭の上から圧し掛かってくるような威圧感は影を潜めて、急に愛くるしい姿になっています。毛並みがとっても見事で触るとすごく気持ち良さそうです。ちょっと触れてみましょうか・・・・・・



「これ、そこなる娘よ! 我の体に気安く触れるでないぞ! 我に触れて良いのは主殿だけなり!」


「ごめんなさい」


 手を伸ばし掛けた私の様子を目敏く見咎めた天狐が厳しい声で警告を発してきました。すいませんでした、ついその毛並みに心を奪われて触れたい衝動に駆られてしまいました。私ではとても敵わない大妖怪だというのをついウッカリ見過ごしていました。



「あら、そんなケチなことを言ってはダメでしょう。この大魔王が今からモフってあげるから観念しなさい」


 美鈴は天狐に有無を言わせない表情で首筋に右手を伸ばしていきます。美鈴の行為に対して天狐は拒否権を持っていないようです。さすがの大妖怪も美鈴の眼光に射竦められて身動きが取れなくなっています。それにしても美鈴は大魔王の威光を振り翳してでも天狐をモフりたかったようです。その気持ちはよーくわかりますよ! ついでに私も手を伸ばしたいくらいですから。



「こ、これ! いくら大魔王だからといってそう気安く我の体に触れるでない! や、止めるのだ! 尻尾に触れるでない!」


 天狐は金色の毛を逆立てて抗議をしていますが、美鈴は一向に構う様子もなく気が済むまで天狐をモフり続けています。手触りの良さに夢中になって時間を忘れてその感触を楽しんでいます。本当に羨ましいです。私の順番は来ないのでしょうか?



「美鈴ちゃん、そろそろお仕舞いにしてもらえるかな。このままじゃあ夜が明けるまで天狐がモフられそうだよ」


「はっ、ごめんなさい! あんまり手触りが良いからすっかり夢中になっていたわ」


 しゃがみこんだ姿勢で天狐に伸ばしていた両手を引っ込めた美鈴が我に返ったような表情で立ち上がります。ようやく美鈴の魔の手から解放された天狐は明らかにホッとした表情を浮かべています。心行くまであの毛並みの感触を楽しんだ美鈴が本当に羨ましいです。この次の機会があればさくらちゃんに頼み込んで私もモフらせてもらいましょう。 


 そうこうしていると私たちの居る場所にバサバサと羽音を立ててカラスが降り立ってきました。



「アッチニ居タ別ノあやかしハ帰ッタ! 遠クニ飛ンデイッタ!」


「ふむふむ、ここにやって来た3体の吸血鬼とは別に様子を監視しているやつが居たんだね」


「モウイナイ! 焼キ魚ニ目玉焼キモ付ケル!」


「カラスも見回りを頑張ってくれたから、明日の朝ご飯は好きな物を食べていいよ!」


 なんだかとっても頭の良いカラスですね。さくらちゃんと会話をしていますよ! それにしてもきちんと対価を要求するとは中々侮り難いカラスですね。さくらちゃんに付き従っているということは、天狐同様にきっと只者ではないのでしょうね。確か『八咫烏ヤタガラス』とかいっていましたよね。私には日本の神話は良くわかりませんが、空を飛んで周辺をパトロールしてくれるなんて有能なカラスですよね。



「やっぱり監視要員が居たのね。でもこれで今夜の襲撃はもうないと判断してよさそうね。それじゃあ私は司令官に事の成り行きを報告してくるわ。それじゃあお先に、おやすみなさい」


 美鈴が建物に向かうのに合わせて私たちも自分の部屋に向かって戻っていくのでした。








 その頃、宿舎の最も奥の部屋では・・・・・・



 深夜のバンパイアの襲撃に備えて俺たちは依然としてこの場に待機している。ナディアがぐっすりと眠っているベッドの横では姉のリディアが椅子に腰掛けて首をコックリコックリしている。きっと昼間の疲れが出ているのだろうな。バチカンの連中と相当派手に遣り合ったようだから無理もないだろう。彼女はバンパイアの血を受け継ぐだけあって、守護聖人との戦いで体に受けた傷はすでに完全に再生している。俺の回復速度をはるかに上回る驚異的な能力だ。



「聡史さん、バンパイアとの戦いはまだ続いているのでしょうか?」


「カレン、安心しろ。美鈴とフィオが居れば問題ない。それにさっき連絡があって俺の妹も目を覚まして行動を開始したらしいぞ」


「まあ、それは頼もしいですね! でもこんな肝心な時に何も役に立てない私は情けないです」


「気にするな、カレンはまだ天使の力を自在に使いこなせないから無理をする必要はない」


 そんな話をしている時に俺のスマホが着信を知らせる。美鈴からの連絡だ。



「聡史君、バンパイアは片付いたわ。今司令官に報告を終えたところよ。駐屯地に発せられていた警戒警報は只今の時刻を以って解除されたわ」



「そうか、了解した」


「ちょっと凝った術式を使用したけどそれ程大した相手ではなかったわね。それよりももう自分の部屋に戻ってちょうだいね。こんな遅い時間に理由もなく私以外の子と一緒に居るのはダメよ」


 なんだか美鈴の言い方が気になるな。まあ幼馴染だから遅くまで一緒に居ても構わないということだろう。それ以上は考えるのを止めて美鈴に労いの言葉を掛ける。



「ご苦労だったな、詳しい話は明日の朝聞かせてくれ」


「ええ、わかったわ。それよりもバンパイアの騒動ですっかり忘れ去られたキスの件は別の日にしっかりと果たしてもらいますからね」


「確かにすっかり忘れていたな。大丈夫だ、次の休みを楽しみに待っていてくれ」


「楽しみにしているわね。それじゃああ休みなさい」


「ああ、おやすみ」


 そうだったよ! ナディアを助ける前までは俺と美鈴は休暇を満喫しようと買い物に出掛けてちょっとしたデート気分だったんだ。そこから一気にバチカンやらバンパイアやらが登場して、美鈴に指摘されるまでこの重大なことをすっかり忘れていたぞ。俺も昼間あんなにドキドキしていたのに、なんだかこんな騒動のせいですっかりどこかに飛んで行っていたな。よし、美鈴! 次の休みを楽しみに待っているがいい!



「聡史さん、何の連絡ですか?」


「ああ、カレン! 話し込んでしまって悪かったな」


 そうだった、この部屋にはカレンとリディア姉妹が居るのをすっかり忘れていたよ。彼女たちにはキスの件は何も気取られていないよな。うん、美鈴との約束が他人に漏れるような危険なフレーズは口にしてはいないはずだ。



「バンパイアは全て排除されたらしい。警戒警報は解除されたから自分の部屋に戻って構わないそうだ。すまないがリディアを起こしてくれないか」


「はい、わかりました」


 カレンがリディアの肩を揺するとはっとした表情で彼女は目を開く。ついウトウトしてしまったのが恥ずかしいようで頬が真っ赤に染まっている。色白だから目立つよな。



「何から何まで本当にありがとうございました。おかげでナディアがこうして久しぶりにぐっすりと寝ています。こんな安心した表情の寝顔を見るのは母がまだ生きていた頃以来です」


「そうなのか、色々と大変だったな。もう自分の部屋に戻っていいそうだから、ナディアは俺が抱えて運んでやるよ」


「ありがとうございます。お願いします」


 リディアが薄手の毛布を捲り上げると、俺はナディアの体の下のそっと手を差し入れて起こさないようにゆっくりと抱え上げる。艶やかなプラチナ色の髪を照明に煌かせながらあどけない表情で眠っているナディアの体をしっかりと抱えて廊下に出ると、そのまま姉妹の部屋に入りそっとベッドに寝かせる。『良い夢を見るんだぞ』と小さな声を掛けると、あとはリディアに任せて自分の部屋に戻っていくのだった。








 河口湖畔の別荘地の一角では・・・・・・・



「ふむ、予想以上にあっさりとバンパイアたちを消し去られてしまったか」


 私はサン・ジェルマン、監視用に日本軍の基地に送り込んだバンパイアの目を通して事の成り行きを全て見ていたが、予想以上に日本軍の帰還者たちが強力な力を持っているという由々しき事態に頭を悩ませている。私の主の偉大なる魔女様から命を受けて天使を取り戻すためにこうして日本に赴いてきたものの、その難易度の高さにどうしたものかと考え込んでいるのだ。



「バチカンの守護聖人をまとめて倒した者以外にも強力な魔法使いを擁しているようだな。あの術式は私にとっても未知なる魔法であった。まさか600年も生きるこの期に及んで初めて目にする術式に出会うとは思ってもみなかった」


 そう、あの魔法使いが召喚した暗黒の炎は並みの術者には到底操る術のない深淵を宿す恐るべきものであった。そのような魔法使いが居る場にうかうかと入り込んでは、いくらこの私でも命がいくつあっても足りないであろう。その上今回は『神殺し』は登場せぬままであった。背後に偉大なる魔女様すら圧倒した存在が控えている以上は、こちらも相当なる準備をせねば太刀打ちできないであろう。



「仕方があるまい、我が最強の秘術を以って臨むとしよう。とはいえ、あの術は星の位置に左右されるためしばらくは日を待たねばならない。ちょうど6週間後に適した星の並びがやって来る故、その日に向かって明日から準備に取り掛かるとしよう」


 この家屋も敵の基地に近すぎるようだ。万一日本軍に感付かれたら不味いであろうな。一旦ここは撤退して別の場所で準備をするのが良かろうぞ。だとするとかねてより日本に拠点を築いていた東京近郊の教団施設が良さそうであるな。よろしい、一旦あちらに落ち着こう。



「皆の者よ、この場は一旦引き払い教団施設に向かう!」


「サン・ジェルマン様の仰せの通りに」


 深夜の別荘地から車に乗り込み、私は残ったバンパイアを引き連れてとある場所にある拠点に向かうのだった。







 



 バンパイアの襲撃から1週間後、首都圏の私鉄駅の近くでは・・・・・・



 はじめまして、私は二宮にのみや 明日香あすか、不思議な現象とか異世界召喚に憧れる高校2年の女の子です。今日は友達に教えてもらった『魔法アカデミー』に通うために学校を休んでこうして駅に来ています。


 この『魔法アカデミー』というのは、誰でも参加できて魔法の使い方を教えてくれる所なんです。ファンタジー好きの女の子たちの間では結構噂が広まっていて、かなりの人数の子が参加しているんですよ。私は魔力が体に宿らなくてまだ魔法は使えないんですが、通い始めて2週間しか経っていませんから仕方がないですね。毎日魔力が体に宿るように呼吸法とかしっかり練習しているんです。


 半年以上通っている子達はすっかり魔力を身に着けて、魔法を発動できる人たちがもう10人以上居るんです。羨ましいですよね、それに本当に憧れちゃいます! いつかは私も魔法を身に着けて念願の魔法少女デビューしてみたいです。


 とはいっても通い始めて間もないので、初歩の訓練をしている仲間の子達とまだまだ仲良しという所までは行っていないんですよね。あーあ、誰か顔見知りで私と一緒にアカデミーに参加してくれる人は居ないでしょうか。


 そんなことを考えながら駅の改札に向かっていると、反対方向から絶対に忘れない顔がこちらに向かって歩いてきます。あの小学生と間違ってしまいそうな小柄な体格とちょっと癖のある栗色の髪の毛は私がよーく知っている人物です! 久しぶりに出会ったその子に私は躊躇わずに駆け寄ります。



「さくらちゃんじゃないの! 急に学校を辞めてどうしているのよ?」


「うん? なんだ明日香ちゃんか。私が何をしているのかは秘密だよ。今日は休暇だからお母さんのご飯を食べに家に戻ってきたんだよ」


 さくらちゃんが学校に通っていた頃は同じクラスの仲良しでしょっちゅう色々と問題を起こして私も度々巻き込まれましたが、なぜか憎めなくて一緒に居たいキャラなんですよね。それにしても学校を辞めた理由が秘密というのはちょっと気になります。聞いた所によるとさくらちゃんのお兄さんも一緒に退学したそうですし・・・・・・


 おっと、それどころじゃありませんでした! アカデミーに急がないと・・・・・・ うん、ちょっと待ってください! ここに居るじゃないですか! 私の顔見知りで一緒に魔法の訓練に付き合ってくれそうな人が! これは是が非でも口説き落として一緒にアカデミーに連れて行くしかないでしょう!



「ねえねえ、さくらちゃん、魔法とか興味あるかな?」


「うん? 急にどうしたのかな? あんまり興味はないし私は魔法向きじゃないよ!」


 確かにさくらちゃんは運動神経抜群で体を動かすのが好きなタイプでしたね。おまけにややこしい話は全然聞いていないし、授業中がずっと熟睡している人でした。でもせっかく見つけた私と魔法少女のチームを組んでくれそうな人ですから、ここで引き下がるわけには行きません!



「さくらちゃんは確かに魔法向きの性格じゃないかもしれないけど、でもやっぱり魔法を身につけてみたくはないかな? きっと新しい世界が見られるよ!」


「そうかな? あんまり変わり映えしないような気がするけど」


 さくらちゃんはなんだか冷めた物の言い方をしていますね。ここはひとつもっと情熱的に魔法の魅力について語ってみましょうか。



「だって神秘と非日常の世界が開けるんだよ! 魔法を駆使して悪い連中を退治するんだよ! 絶対に楽しいよ!」


「うーん、たぶん私には魔法は身に着かないと思うよ。それにあんまり必要ないしね」


 どうもさくらちゃんの食いつきが悪いですね。こうなったら最後の手段です!



「今日の夕方まで私に付き合ってくれたらビッグマッ○のセットを奢っちゃう!」


「うほほー! 何処に行けばいいのかな?」


 結局さくらちゃんは食べ物には絶対に食い付くんですよね。この子の性格を熟知している仲良しの私には不可能はありませんからね。それにしてもさくらちゃん、そんなに目をキラキラさせないでいいですからね。ちゃんと改札脇のお店で奢りますから。



 こうして私はアカデミーに遅刻覚悟でお店に入って、さくらちゃんと約束しセットをカウンターで注文するのでした。


 


なんだかお話が急に飛んだ印象を持った読者の皆さんが多いかもしれません。果たして『魔法アカデミー』なる施設の正体とは・・・・・・ たぶん次回明らかになるはずです。


次回の投稿は明日を予定しています。どうぞお楽しみに!

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