表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/229

66 バンパイアの襲撃 ~ さくら編

予定通り(強調)に66話をお届けします。

 結界の入り口と建物の中間地点では・・・・・・



 どうもアイシャです。今勇者さんとタンクさんの3人で力を合わせてバンパイアと戦っている最中ですが、結果はどうも思わしくありません。タンクさんが大型の盾で足止めをしている間に私と勇者さんが斬り掛かったり魔法で攻撃しているのですが、ダメージを受けてもすぐに再生するバンパイアの特殊能力は本当に厄介です。


 何しろ相手は損害を完全に無視して突進しならが長く伸びた爪を振るって攻撃してきます。美鈴さんに強化してもらった私の剣ですら互角以上に弾き飛ばすので、よほど上手く隙を突かないと効果的なダメージを与えられません。その上凄く力が強くてタンクさんが全力で受け止めようとしても、1歩、2歩後退するんです。勇者さんの神聖魔法は相変わらず効果を発揮していますが、受けたダメージはすぐに回復して再び立ち上がってきます。これはやはり容易ならざる敵と言えるでしょう。



「やはり切り札を試すしかないか。タンク、アイシャ! 少しだけ時間を作ってくれ!」


 勇者さんはどうやら必殺技の使用に踏み切るようです。私とタンクさんは勇者さんを庇うように前に出てバンパイアの攻撃を防ごうとします。


 ですがその時、私の背筋を走る嫌な予感が・・・・・・ これは絶対に間違いありません! 正真正銘本当の危険が自分たちに迫っています!



”キーーン! ドドーン!”


 慌ててタンクさんの盾の裏に身を潜めた私でしたが、目の前に突如起こった途方もない衝撃に耐え切れずに2人して吹き飛ばされます。タンクさんの大柄な体が私を庇うように圧し掛かって・・・・・・ 重たいけどなんか嬉しいような・・・・・・(ポッ!)


 もうしばらくタンクさんを身近に感じていたかったのですが、戦いの最中にこんな姿で隙を晒すのは不味いと思って2人して起き上がります。先に立ち上がったタンクさんが起き上がろうとする私に手を貸してくれました。寡黙というイメージが強いですが、結構優しい人なんですよ。そんな所がまた素敵で・・・・・・


 私たちの真後ろには勇者さんが地面に転がって気を失っています。きっと魔法を放つタメの体勢だったので、まともに衝撃を食らって目を回したのでしょう。早く意識を取り戻してくださいね。


 そして、私の視線の先には・・・・・・



「いやー、悪かったね! つい勢い余って景気良くやり過ぎちゃったよ!」


 頭を掻いているさくらちゃんと、その後ろには天狐の姿がありました。たぶんちょっと離れた場所でさくらちゃんの拳から放たれた衝撃波がこの場で戦っていた全員を吹き飛ばしたんだと思います。ああ、バンパイアも20メートル先で寝転んでいたのがようやく立ち上がろうとしていますね。手も触れないで帰還者3人とバンパイアを吹き飛ばすなんて芸当が出来るのはさくらちゃん以外に有り得ません! 


 普段の訓練で感じたその危険な気配を私が本能的に読み取って何とかタンクさんの陰に待避できたからこうしてまた立ち上がっていますが、まともに食らったら1発でノックアウトです!



 その時、ヘルメットに仕込んである魔力通信機から着信の合図が鳴りました。



「アイシャ、そちらにさくらちゃんが向かったからなるべく離れて!」


「美鈴、一足遅かったです! この場に居合わせた敵味方全員が吹き飛ばされて、タイミングが悪かった勇者さんは気を失っています」


「やっぱり遅かったのね。話も聞かないままに飛び出していっちゃったから・・・・・・」


 美鈴が申し訳なさそうな声を出しています。この場の指揮者として安全を確保できなかった責任を感じているのかもしれません。



「大丈夫ですから気にしないでください。この場はさくらちゃんに引き継ぎます」


「何も言わなくてもさくらちゃんが勝手に戦闘の中心に飛び込んでいくから、アイシャたちは安全確保に専念してね」


「了解しました。通信終了」


 私たちはその場から気を失っている勇者の体を2人掛りで引き摺りながら距離を取ります。タンクさんの大盾の後ろに身を隠しながら戦いの行方を見守りましょう。さくらちゃんが登場した以上はもう私たちの出番はないのですから。





「さて、あそこで立ち上がろうとしているのがバンパイアだね。軽く仕留めてあげようかな」


「アッチデモ戦ッテイル! アヤカシガモウ1人イル!」


「主殿、あちらの妖魔は我にお任せを。無断で我の縄張りに踏み込んできた不埒者には少々業腹なのでございます」


「そうだね! 一度に相手にするにはちょっと離れすぎだから、あっちはポチに任せようかな。カラスは空を飛んで様子を教えてよ」


「主殿、我にお任せあれ。あれしきの妖魔など片手で封じ込めてまいりますぞ」


「朝ゴ飯ハ焼キ魚食ベタイ!」


「よし、焼き魚でもキツネうどんでも食べ放題だよ! それ、出撃だー!」


 ポチとカラスはこの場を離れていったね。まあポチはそこそこ強いからこの程度のバンパイアなら負けないでしょう。さて、ひと暴れしようかな!



「貴様がバチカンのの守護聖人たちを一蹴した日本軍の帰還者か?!」


 おやおや、ようやく立ち上がったバンパイアが私に指を突きつけながら偉そうに聞いているね。美鈴ちゃんから『バチカンはローマにあるカトリックの本拠地』と教えてもらったから、もうバカチンと聞き間違いはしないよ! それはそうとして、私のポリシーからするとここはしっかりと自己紹介をしておこうかな。



「ふふふ、どうやら私を知っているみたいだね。何を隠そう私こそが対人戦最強の存在のさくらちゃんだー!」


 いつものようにビシッとⅤサインを決めたポーズで自己紹介をしてあげようか。ほら、私の華麗なポーズにバンパイアも見とれているよ! 敵すらも魅了してしまうこのチャーミングさこそがさくらちゃんだよ!



「お前が本当に守護聖人を倒したのか? 何かの間違いだろう!」


 おかしいなぁ? このさくらちゃんの華麗なポーズを見てもどうやらまだ疑ってかかっているね。こうなったら新しいポーズを考えようかな。でもそれよりも実力を示してやるのが手っ取り早いね。考えるのは面倒だし。



「タンクさん、またさくらちゃんのアホな芸風が炸裂していますよ。あれじゃあ本当に強いのか誰が見ても疑わしいですよね」


「俺はノーコメントを貫く」


 おやおや、離れた場所からアイシャちゃんの声が聞こえてくるね。面倒だからこの際外野の声は一切無視しようかな。それじゃあこちらから軽く挨拶代わりの一撃だよ!



”ゴー”


 私が軽く地面を蹴ると、ダッシュする体が風を切る音が唸りを上げているね。バンパイアは私の姿を見失って周囲をキョロキョロしているよ。真っ直ぐに突っ込んでいるだけなのに速度が早すぎて目が追いつかないんだね。最後の一歩をグッと深く踏み込んで足腰に力を溜め込むと、あとは伸び上がるようにグーに握った右手を真上に突き上げていくよ。



「それ、天国に近づくと見せ掛けて地獄に突き落とすアッパー!」


 この技の欠点は無駄に名前が長い点にあるね。時々噛んじゃって名前を全部言わないうちに相手がどこかに消えていることがあるんだよ! その点では非常に高度な技なんだけど、でも今回は上手くいったね! 真上に撃ち上がったバンパイアは結界の高さギリギリまで上昇してから地面に向かって落ちてくるよ。



”グシャ”


 あーあ、たった一撃で体が潰れて動かなくなったよ。これでもうお仕舞いなんてなんだか呆気ないね。おやおや、グシャグシャになった体が少しずつ元通りになっていくね。どうなるのか面白いからちょっと観察してみようかな。



「タンクさん、やっぱりさくらちゃんは格が違いすぎますね」


「そうだな、あの小さな体のどこにあれ程のパワーを秘めているのか不思議だ」


「その不思議さこそがさくらちゃんなんですよ!」


「ちょっとトレーニング方法を聞いてみたいな」


「軽く5回くらい死に掛けますけど大丈夫ですか?」


「そのくらい自分を追い込まないと強くはなれないだろう」


「タンクさん、こうなったら私たちは一蓮托生です! 2人でさくらちゃんが与える試練を乗り越えましょう!」


 なんだかアイシャちゃんがタンクの手を取っているね。嬉しそうな表情をしているのは何でだろう? まあいいかな、タンクも中々良い心掛けをしているみたいだから、明日からアイシャちゃんと一緒に鍛錬してあげようか。おお! そんなことを言っている間にバンパイアの体が元通りになったよ!



「凄まじい攻撃ではあったがバンパイアは倒せぬぞ! 100回死んでも必ず蘇るのが我々バンパイアだからな」


「うほほー! これは面白いことになったよ! いくらぶっ飛ばしても大丈夫なんだね! 良いサンドバッグを見つけたよ! 100回死んでも蘇るんだったら101回ぶっ飛ばせばいいしね! 久しぶりに全力を発揮しちゃうよー!」


 これは中々面白いオモチャだね! いくらぶっ飛ばしても構わないなんて心行くまで楽しめそうだよ! わざわざ夜遅くに起き出した甲斐があるね。それじゃあ遠慮なく行くよー!



「普通は何度倒しても蘇るバンパイアの不死身の能力を恐れるのに、さくらちゃんは逆に大喜びをしていますよ。さすがにここまで非常識な人だとは思いませんでした」


「それよりも全力を発揮すると言っていたようだが、今までのは全力ではなかったのか?」


「さくらちゃんにしてみれば全力を発揮する前に敵が死んでいるから物足りなかったんでしょうね」


「どんな全力か楽しみだな」


 おやおや、またまたアイシャちゃんたちの話し声が聞こえてくるね。ギャラリーが期待しているから尚更張り切っちゃうよ! 滅多に見られないさくらちゃんの本気を目に焼き付けておくんだよ! 目標は101回ぶっ飛ばすことだね。さあて、本気の1発目いってみようか!


 今度は真っ直ぐに突っ込むと見せ掛けて華麗なステップで横に回りこむよ! バカだね、前方を警戒して両腕を前に伸ばしているよ。これじゃあ脇腹がガラ空きでしょう。



「それ、生まれ変わってもまた地獄に送ってやるパーンチ!」


「ぐわーーー!」


 長い叫び声を上げながらバンパイアはそのまま宙を飛んで、体がバラバラになって結界にぶつかってようやく止まったね。一旦結界の壁に張り付いた体のパーツがズルリと滑り落ちるように地面に落下しているよ。さて、良いポジションになったからこれからさくらちゃんのフルボッコタイムだよ!



「タンクさん、今の一撃どうなっているのかわかりましたか?」


「無理だな、とても目で終える代物ではない」


「それにたった一撃でバンパイアの体がバラバラになりましたよ!」


「とんでもない威力を体が受け止め切れなかったんだろう」


 ふふふ、このさくらちゃんの本気にアイシャちゃんたちが驚いているね。でも驚くのはこれからだよ! 何のために私が結界の壁際まで追い詰めたと思っているのかな?



 ゆっくりとバンパイアが吹っ飛んだ結界の壁際まで歩いていくと、バラバラになった体が元通りに再生して立ち上がるところだったよ。ちょうど良いタイミングだね、ここから残虐なショーの始まりだよ!


 今度は力を上手くコントロールして体が壊れない程度の威力で連打を決めていくよ! 後ろが逃げ場のない壁だから、バンパイアは私の猛攻をその体に浴び続けるしかないんだよ! 肉体的なダメージはすぐに復活するけど蓄積する痛みに果たして精神がどこまで持つかな? バンパイアは完全に棒立ちで辛うじて顔面を両手でガードしているだけで全く手出しできないね。もちろんこのさくらちゃんが相手に反撃する隙なんか与えるわけがないでしょう! 右に左にポジションを変えながら絶えず拳を打ち出していくよ。ほらほら、ボディーがガラ空きだね。10発くらいまとめてパンチを見舞ってやると、バンパイアが体をくの字に曲げて苦しんでいるね。


 パンチを1発打ち込むたびにバンパイアの体から血飛沫が飛んでいくよ。だいぶ返り血を浴びているけど気にしないでフルボッコを続けていこうかな。そろそろいい頃合でしょう、相当精神的に消耗しただろうから強力な1発を入れちゃうよ!



「ぐがーー!」


 ボクサーがロープを背負って崩れ落ちるように、バンパイアの体はゆっくりと地面に沈んでいくね。さあまたきっちりと再生するんだよ。そして1分もしないうちにバンパイアの体は元通りになって立ち上がるね。こうでなくっちゃ面白くないよ! でもまだバンパイアの目は死んでいないね。何か打開策があるのかな?



「貴様は強いかもしれないが、バンパイアを甘く見すぎだな。貴様が浴びた私の血がその体に入り込んで、間もなく意識すら奪って私の眷属に変えていくのだ! この勝負は私の勝利だ!」


「へー、初めて聞いたよ! それじゃあもう一回フルボッコタイムを続けてみようか!」


 こうしてまたまた同じようにバンパイアを殴り続けていく。もうとっくに101発以上のパンチを打ち込んでいるよね。いい加減飽きてきたからそろそろフィニッシュを決めちゃおうかな。でもその前にもう一度復活させてから引導を渡してやろう。そうそう、兄ちゃんから教えてもらったんだよ。印籠じゃなくって引導なんだね。さくらちゃんは日々賢くなっているのだ!



 強烈な一撃を食らってダウンしたバンパイアが復活してくるのを待っていると、信じられないという表情をしているね。さっきよりもその目が不安を物語っているよ。あと一押しかな?



「なぜだ、なぜ貴様にバンパイアの血の呪縛の効果がないのだ?!」


「ふふん、聞いて驚いてもらおうかな。このさくらちゃんには状態異常完全無効化のスキルがあるんだよ! だから呪いや毒は私には全く効果がないんだよ!」


「なんだと・・・・・・」


 どうやら私にフルボッコを受けながら血の呪縛の罠を仕掛けていたようだね。でもこの程度の呪縛なんかスキルがなくても私には効果がないよ。さて、そろそろこのバンパイアに私の正体を明かそうかな。



「最初からお前には勝ち目はなかったんだよ! 私は異世界の獣人たちの王にして獣神だからね。さて、神様の力を最後に受けてもらおうかな」


「な、な、な、なんだと! 異世界の神だと・・・・・・!」


 バンパイアはこれ以上は開けないくらいに目を見開いて驚いているよ。私が神様だってどうにも信じられない様子だね。なんだか失礼しちゃうよ! 普段は全然意識していないけど気持ちを集中すると私も神様の力を発揮できるんだよ! ポチも最後にはこの力に精神的に耐えられなくなって降参したからね。



「それ、神様が本当の地獄を見せちゃうパーンチ!」


「うがーー! か、体が崩れていくーー!」


 最後の1発を食らってバンパイアは空気に溶けるようにして体が消えていったよ。最初からこのパンチを繰り出せば一撃で片が付いたんだけど、フルボッコにしたのは単なる私の趣味だよ。せっかくのサンドバッグを有効に活用しないとね。ああ、バンパイアが消えたら私の体にこびり付いていた返り血まできれいに消えちゃったよ。良かったね、これで洗濯の手間が1回減ったよ。



「さくらちゃーーん!」


 おや、アイシャちゃんがこちらにやって来るようだね。



「さくらちゃん、バンパイアを仕留めたんですか?」


「うん、消えていなくなっちゃったよ」


「もう復活しないんですか?」


「たぶん無理だろうね。最後の1発は神の拳だからね」


「そんな凄い一撃だったんですか? 普通のパンチのように見えましてけど?」


 アイシャちゃんは最後のパンチの本当の意味がわかっていないようだね。あれは本物の神様の拳だからね。まあ知らない方が良いこともあるから別に敢えて教えないけどね。



「マダアッチデ喧嘩ガ続イテイル。キツネガ押シテイル!」


 おや、カラスが戦況を教えに来たね。どうやらポチが頑張っているみたいだね。あちらはポチの顔を立てて様子を見守るとしようかな。なんだかまた眠くなってきたしね。こうしてプリティーなさくらちゃんの手によって2体目のバンパイアが葬られたのでした。


 



最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は今週末の予定です。


次は大妖怪のプライドを賭けて天狐がバンパイアと戦います。果たして勝敗の行方は・・・・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ