65 バンパイアの襲撃 2
お待たせしました、バンパイア編の続きです。
バンパイアの1人、イシスを相手に奮闘する陰陽師たちの陣地付近では・・・・・・
「絶対にバンパイアの接近を許すな! 近付いてきたら陣形を固めて押し返すんだ!」
「真壁少尉! 左側に接近してきました!」
「弾幕を厚くしろ! 魔法弾が予想以上に効果を発揮しているぞ! 射線を集中して爆裂の勢いで吹き飛ばせ!」
指揮する自分の声に合わせて結界の出入り口の左右に展開する小隊の隊員たちが陣形を変えながらバンパイアに対抗している。小隊を率いる私の声に合わせて巧みに連携を取りながら今のところは何とかバンパイアの接近を許さずに戦闘を進めている。まるでラグビーやサッカーの試合のようだな。魔法銃で遠距離から仕掛けられる利点を生かしながら、突進してくる敵を押し返しつつ何とか戦線を保っている。ちょっとした油断が文字通り命取りに繋がる本当の負けられない戦いだ。
相手が強大な力を持つバンパイアならばこちらは人間の英知を結集したチームプレイで対抗してやるさ。幸い妖怪相手に日夜戦いを繰り返している小隊の隊員たちは全く臆することなくバンパイア魔法弾を叩き込んでいる。着弾すると携帯ミサイル並みの規模の爆発をするから、そのたびにバンパイアの体は木の葉のように爆風に翻弄されている。
”ドカーン”
立て続けに敵の頭部に着弾した魔力弾が爆発を引き起こしてバンパイアの頭が半分もぎ取られてやつは地面に倒れていく。さすがにこれは効いただろう。体中から血を流して、その流れ出た血が地面に大きく広がっていく。
「少尉、ついに倒しました!」
「油断するな! たとえ頭を吹っ飛ばされても復活してしまうのがバンパイアの厄介なところだ! 弾薬には限りがあるから無駄弾を撃つなよ! 魔石のカートリッジを今のうちに交換しておくんだ!」
矢継ぎ早に指示を出しながらバンパイアの様子を見ていると依然として血を流したままで地面に倒れて動かないでいる。体中から流れた鮮血が先程よりもより大きく広がっているな。なんだ、待てよ・・・・・・
「立石! その血から距離をとれ! 三杉、山野! 流れている血に向かって全弾撃ち込め!」
「「「了解!」」」
地面に流れているバンパイアの血が不自然に一番近くにいた立石兵曹の方向に向かっていると直感した私は慌てて指示を出す。飛びのいて後退した立石兵曹の横から2人がその血に向かって魔力弾を全力で撃ち出していくと、立て続けに地面で爆発しながらその熱と爆風で血を飛び散らせていく。
やがて飛び散った血が真っ赤な霧のようにバンパイアの体を包み込んだと思ったら、次の瞬間まるで何事もなったかのようにやつはムクリと起き上がって我々を睨み付けるのだった。
「小癪な連中だ! この血で絡め捕ってやろうかと思ったが見破られたか」
憎々しげに我々小隊を見回すバンパイア、それにしてもどれだけ体の部位が吹き飛ばされても新品同様に復活してしまうのは非常に厄介だ。しかも流れた血まで利用して攻撃を加えてくるとは思ってもみなかった。今まで対峙してきた国内の妖怪とは対処法が全く違うと頭を切り替えていかないと不味いな。それにしても咄嗟の機転が間に合って良かった。危うく小隊から犠牲者を出すところだったぞ。
「こうなったら持久戦だ! 応援が来るまでこの持ち場を死守しろ! バンパイアを釘付けにするんだ!」
「「「「「了解しました!」」」」」
こうして我々陰陽師小隊は再びバンパイア相手に魔力弾を叩き付けていくのだった。
陰陽師たちが戦っている場所から100メートル程建物に接近した地点では・・・・・・
「どうやら2名のバンパイアが弾幕を突破してこちらに向かってきているようですね」
「さすがに一度に2人を相手にするのはちょっと厳しいかもしれないな」
「勇者さん、無理をしないで1人は美鈴さんたちに任せましょう」
「そうするか、ともかく1人はここで足止めをして、何とか隙を見つけて叩くぞ! タンク、オーケーか?」
「ああ、心配するな」
「来ました!」
こちらに向かってダッシュする2人のバンパイアの影があっという間に大きくなって私たちに近づいてきます。当初の打ち合わせ通りにまずは勇者さんの魔法で迎え撃つ手筈が完了しています。
「ホーリーレイン!」
「「ぐわーー!」」
初撃で勇者さんの神聖魔法を食らったバンパイアたち、白銀の光が体を貫いてあちこちを焼かれたようで2人して地面を転がり回っています。魔を宿す者にとっては勇者さんの神聖魔法は大きな効果がありますね。この前戦った大嶽丸はあとから聞いた話だと体を覆う鎧が全ての魔法を撥ね返していたそうです。鎧さえなければ私たちももっと優位に戦いを進められたかもしれないですね。
「仕留めたか?」
「まだだろうな」
勇者さんとタンクさんは短い遣り取りでバンパイアたちの様子を確認していますが、私の目から見てもこの程度ではバンパイアを仕留められるとは思えません。事前に聞いた話だと傷を負ってもすぐに再生して復活するらしいですから。やがて体中を焼かれるような煙は次第に燻ぶって小さくなり徐々に収まっていきます。すっかり煙が消えると全く何事もなかったかのようにバンパイアたちは起き上がってきました。
「チクショウ、なんて魔法だ! 体中が焼き切れるかと思ったぜ」
「アンドレア、どうやらこいつらは帰還者のようだ。しかも神聖魔法を使えるところを見ると『勇者』レベルの厄介な敵だ。ここは俺が抑え込むからお前は建物に向かうんだ」
「まったく過酷な指令だな、全然割に合わないぜ。ここは任せるぞ」
アンドレアというバンパイアは私たちを置き去りにして足早に建物に向かっていきますね。私たち3人は打ち合わせ通りに彼に手出しをせずにそのまま建物方向に通します。
それにしても何も知らないとは本当に恐ろしいです。この程度の魔法で『過酷』だと言っているなんて! 大魔王と大賢者が揃って待ち構えている所にノコノコと出て行ったら命がいくつあっても足りないですよ! きっと『早く楽になりたいから殺してくれ!』と自ら願い出るでしょうね。あの2人の魔法は私たちとは異次元のレベルなんですから。
さて、それでは私たちも本格的にバンパイアたちとの戦闘を開始しましょうか!
食堂兼宿舎の建物の正面入り口前では・・・・・・
「フィオ、どうやらアイシャたちは1人こちらに回してくるつもりのようね」
「リスクを避けたんでしょうね。相手の力がわからない段階では賢明な判断ね」
こちらに向かって足早に迫ってくるバンパイアのシルエットを正面に捉えながら私たち2人はノンビリと会話をしているわ。だって、白と黒の大魔法使いがこの場に揃い踏みしているのよ! 一体何を恐れる必要があるのかしら?
それにしてもここまでやって来るのにずいぶん時間が掛かったわね。本気で私たちを倒そうと思っているのなら、このくらいの陣形はあっさりと突破してもらわないと困るんだけど。そして待ちかねた私たちの前にようやく1人のバンパイアが立つわ。本当に待たせすぎなのよ!
「どうやら貴様たちを倒せばターゲットが手に入るようだな。悪いがこの場で死んでもら・・・・・・ な、なんだ! このバンパイアの目を以ってしてもあの女の所持している闇が見渡せないぞ! 一体何者だ?」
「あら、初対面なのに本当に礼儀を知らない人ね。仕方がないから名乗ってもいいけど、聞いたらあなたが絶望に包まれるわよ」
「なんだと! 貴様は何を言っているのだ?」
まるっきり意味がわからないという表情で呆然と立ち竦んでいるわね。仕方がないから哀れなバンパイアに名乗りをあげて差し上げましょうか。私からのささやかなプレゼントだからよく聞くがいいわ。
「真に哀れな小さき者よ、その五感の全てで受け止めるがよいぞ! 我は闇の支配者にして暗黒そのものを司る存在、数多の世界の闇を統べる究極の支配者、大魔王ルシファーこそが我が名である」
いけないわ、ついつい大魔王モードを発動しちゃったじゃないの。フィオ、私の横で笑いを噛み殺しているんじゃないわよ! こっちだって後から思い返すと顔から火が出るような恥ずかしさを感じるんですからね! 絶対にやらないでおこうと思っていても、こういう場面になると大魔王の本性が顔を覗かせるのよ。決して厨2病ではありませんからね!
「なんだと! 貴様が大魔王だというのか! そんな馬鹿な話があるか! 俺も異世界で出会ったが、魔王なんていう代物は異世界独自のものでその世界から出られないはずだぞ! それがなぜ日本にいるんだ?!」
「自らの矮小なる見識によりて物を語る哀れな存在よ、この宇宙にある数多の世界はその世界独自の有り様を保っている。そなたが見た場所と我がかつて存在した場所では世界を動かす理が自ずと違うと知るがよい」
「世界の在り方自体が違うから貴様はこうして大魔王として存在しているという訳か。なるほど、よくわかった。だが残念だがこちらも事情があって引くわけにはいかない。俺の命を懸けてでもこの場を突破するぞ」
「聡明なれど真に愚かなり。闇から生まれ出でた存在はより大きな闇によってただ飲み込まれるだけと知るがよいぞ」
「ぷっ、ダメ・・・・・・ もう我慢ができない!」
せっかくムードを高めるための私の大魔王モードに耐え切れなくなって、フィオがお腹を抱えて爆笑しているわ。まったく台無しよね! ほら見なさい、バンパイアも毒気を抜かれて唖然としているじゃないの! こうなった責任は全部フィオに取ってもらいましょうか。
「大賢者よ、その方に初手を譲るとしようか」
「くくく、まだ笑いが止まらないのよ! お、お願いだからもうちょっとだけ・・・・・・ ま、待って!」
相変わらず笑いが止まらないフィオ、ええどうぞ好きなだけ笑ってください。一度発動するとこの大魔王モードは戦いが終わるまで止まらないのよ。私だって誰かに助けてほしいくらいなんだから!
「はー、今年になって一番の大笑いだったわ! さて、私の腹筋が崩壊した責任は誰に取ってもらいましょうか?」
ようやく笑いが収まったフィオが涙を浮かべた瞳でバンパイアを見ているわ。責任はあいつに取らせてやってちょうだい。あのバンパイアのせいで私の大魔王モードが発動したんだから。もう一度言っておくけどこれはけっして厨2病ではありませんからね。大事なことなので・・・・・・
「大賢者だと! もう1人は魔法使いなのか? 言っておくが我らバンパイアには並みの魔法など効かないぞ!」
「あらそうなの? それでは私の魔法が並みかどうか確かめてもらいましょうか。それでは『スターエクスプロージョン、神聖魔法風味』で!」
フィオの手の平に魔力が集まると上空に千に輝く星のように散っていく。しかもご丁寧に無属性のスターエクスプロージョンに神聖属性を加えているじゃないの。さすがは全ての属性を網羅している大賢者よね。私よりも使用できる魔法の範囲がはるかに広いわ。そして結界の上方に散っていた小さな光が豪雨のようにバンパイアに襲い掛かっていく。
「うぎゃーーー!」
初弾が当たって一声絶叫したバンパイアは滝のように降ってくる光のシャワーを浴びて声も出せないままに体中を焼かれていく。焼かれた側から再生しては再び焼かれるという地獄の無限ループに陥っているわ。体は再生できてもこれは精神的に相当参るでしょうね。
ようやく光のシャワーが収まると、地面に倒れて体中から濛々と煙を上げたままピクピク痙攣しているバンパイアがいる。これだけの目に遭ってもまだ抵抗する意思があるのなら、次はこの大魔王が直々に手を下してあげるわ。
体中から噴き上げていた煙が収まるとバンパイアはフラフラした足取りで立ち上がる。でもその目は虚ろで生まれて此の方感じた記憶がない程の恐怖に怯えているようね。降参するのなら命を助けてもいいのよ。
「まだ抗う気力が残っているかこの大魔王がそなたに問うてやるぞ」
「勇者の魔法など子供騙しに感じる程の恐ろしい魔法だったぞ。だが俺はまだ生きている。こんな魔法ではバンパイアはけっして滅せないんだと覚えておくんだな」
「あら、ずいぶんタフにできているのね。美鈴に仕事を残すために加減したけど、もうちょっと強めにしても良かったのかしら」
それなりに強力な魔法ではあったけど、フィオにしてみれば小手調べ程度の威力よね。このバンパイアは大賢者の力を甘く見すぎているんじゃないかしら? でもフィオの口から『美鈴に仕事を残す』というフレーズが出たから次は私の番でいいのかしら? フィオにアイコンタクトをするとコクリと頷いているから私の出番でいいみたいね。
「それではそこなるか弱き者に我自らが引導を渡してやろう。この世に思い残すことなく滅するがよい。闇より更に深きその奥にある物よ、我の命に従いこの場に顕現せよ! 究極の闇からいずる『深淵なる業火』よ!」
次の瞬間目の前のバンパイアの体は暗黒というのも憚られる漆黒の闇に包まれる。闇の底から出現した深淵の業火はバンパイアの再生を許す暇も与えずにその体を焼き尽くしていく。万物を滅する闇の支配者のみに召喚を許された炎は、ほんの一瞬でバンパイアの魂ごと闇の奥底に帰すように燃えていく。
「圧倒的なこの大魔王の力にひれ伏すがよいぞ」
その言葉が終わらないうちに、『深淵なる業火』は影すら残さないでバンパイアを消し去っていた。私がしょっちゅう使用する『ヘルファイアー』の比ではない威力よね。燃えた灰すら残さないいで魂ごと燃やし尽くすのだから。
「美鈴はずいぶん物騒な炎を召喚したわね。地獄の業火そのものじゃないの!」
「あのくらいしないとバンパイアはしぶといでしょう。止むを得ない措置よ」
2人で話をしているちょうどその時、建物の正面入り口にフィオが展開していた結界に異変が伝わる。私たち2人がその方向を振り向くと・・・・・・
” バリバリバリバリ”
「まったくこんな所に結界が張っているよ! 本当に邪魔だね!」
大賢者謹製の結界を簡単に破壊してムシャムシャとおにぎりを食べながらさくらちゃんが現れたわ。あんまりあっさりと物理的に結界が破られて、フィオがちょっと自信を失っているじゃないの。
「さ、さくらちゃん、目を覚ましたのね」
「そうそう、吸血鬼が現れたと聞いて起きだしてきたんだよ! それでお腹が減って食堂で腹ごしらえしていたら、大きな魔力の気配を感じて急いで来たんだよ!」
「ああ、それでまだ色々と食べ掛けなのね」
さくらちゃんの後ろにつき従う天狐は玉子焼きと唐揚げが載せてある大きなお皿を持って待機しているじゃないの。さくらちゃんは事情を説明しながらしきりにそのお皿に手を伸ばして手掴みで食べているわ。お行儀にはもう少し気をつけるべきじゃないかしら? お皿の料理を全部食べ終わってからさくらちゃんはようやく口を開くわ。どんな時でも食べ物が最優先なのね。ええ、それがさくらちゃんだって知っていましたとも。
「ところで私の分け前の吸血鬼はまだ残っているのかな?」
「そうね、3体侵入してきて私が1体片付けたけど、まだ向こう側でアイシャたちと陰陽師の小隊が交戦中みたいね。さくらちゃんが良かったら手を貸してくれるかしら?」
「うほほー! 良かったよ! まだ残っていたんだね! それじゃあ片付けてこようかな」
「あっ、ちょっと待って! 今から退避命令を出すからみんなが無事に・・・・・・ あーあ、話を聞かないうちにもう行っちゃったわ。本当にセッカチで落ち着きがないんだから」
今までそこにいたはずのさくらちゃんの姿は消えているわ。天狐まで一緒にいなくなっているわね。いつの間にかすっかり空っぽになったお皿を手渡されていたフィオが呆然とした表情で突っ立っているわ。
そうそう、こうしている場合ではないでしょう! 大急ぎで退避命令を出さないと被害が出る恐れがあるわ。もっぱらさくらちゃんが暴れる余波が原因だけど・・・・・・
こうして私は大急ぎでアイシャたちや陰陽師の小隊に魔力通信で呼び掛けるのでした。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は週の中頃の予定です。次回はいよいよ眠りから覚めたあの人物が大暴れする予定です。どうぞお楽しみに!
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