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64 バンパイアの襲撃

予定よりも投稿が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした。

 深夜の富士駐屯地、中華大陸連合と実質戦闘状態にあるため普段よりも多くの警備要員がゲート周辺を固め、4人一組のパトロール小隊が小銃を手に敷地内を巡回している。だが彼らはあくまでも一般の隊員で、闇に紛れてコウモリに姿を変えて入り込んでくる怪異に対して誰も気がつく者は居なかった。




 特殊能力者部隊、宿舎の一室では・・・・・・



「どうやらやって来たようだな」


 俺の探知アラームが警報を発している。半径200メートル以内に魔力を持った存在が侵入して来た気配を捉えている。俺は打ち合わせ通りに司令官にスマホで報告を終えると、ちょうどその時にドアをノックする音が響いて美鈴が室内に入ってくる。



「探査結界に侵入者の反応があったわ。どうやら真っ直ぐにこの建物に向かっているようね」


「俺も気配を察知して司令に報告を終えたところだ。打ち合わせ通りの配置で頼んだぞ。フィオはもう起きているのか?」


 俺が探査用のスキルを発動していたのと同様に美鈴も駐屯地全域を探査用の結界で覆っていた。彼女は移動しながら索敵をするスキルはないが、こうして広範囲を自らの結界で覆うことで侵入者を発見できる。


「ええ、いつでも動けるようにスタンバイしているわ。さくらちゃんも今夜は参加すると張り切っていたけど、本当に目を覚ますかどうかは今のところ不明ね」


「さくらは目を覚ましたらラッキーぐらいに考えておこう。司令官はアイシャたちの指揮を美鈴に任せるそうだ」


「それは責任重大ね。精々他の帰還者たちにも頑張ってもらいましょう。聡史君はカレンとあの姉妹をしっかりと守ってね」


「大丈夫だ。指一本触れさせないから安心していい」


 美鈴はまだ訓練生の立場ながらあの済州島攻略戦以降司令官から絶大な信頼を得ている。大魔王という異世界の数百万の魔族の頂点に立つ存在なので自ずと人の上に立つ気構えや威厳があるから、帰還者たちを指揮するにはピッタリの人材だ。いや、これ以上のはまり役はないだろうな。


 俺はカレンとリディア、ナディア姉妹を守る最後の砦として彼女たちの傍に居る役割を申し付けられている。ちょっとでも魔力のコントロールを間違うと大惨事を引き起こす可能性があるから、よほどの事態が起こらない限り直接戦闘に参加しない方針だ。まあ普通に考えれば美鈴とフィオが待ち構えている難関を突破出来るバンパイアが居るとは考え難いしな。ただもし搦め手から直接やって来る敵が居たらその時は俺の出番だろう。



「それじゃあ行ってくるわね」


「外は任せるぞ」


 美鈴はそのまま建物の外に向かい、俺はカレンと姉妹が待機する建物の一番奥の部屋に向かうのだった。








 その直後の建物の外では・・・・・・



「あら、フィオはずいぶん手回しがいいのね」


「美鈴こそ時間が掛かりすぎよ! こちらは準備は万端、侵入者は今のところ3人ね。予定の地点に他の帰還者たちもスタンバイを終えているわ」


「フィオがすっかり建物の周囲は結界に覆っているのね。これならバンパイアも罠に掛かるでしょう」


「結界自体は夕食後に展開してけど、ついさっき強度を高めておいたばかりよ。入ってこれるのは打ち合わせ通りに1箇所に限定しておいたわ」


 フィオの話を聞く限り体制が整ったと判断して良さそうね。陰陽師の小隊10人は警戒のため夕食後から魔法銃を手にして建物の前方にある結界の入り口に配置されているわ。それに加えてアイシャ、勇者、タンクの3人もその後方の位置で待ち構えているわね。3人は大嶽丸を相手にして何もできなかった悔しさを挽回しようと今回は張り切っているの。この大魔王がいる限り危険な場面には晒さないから、精一杯自分たちの力を発揮しなさい。


 ひとまずはアイシャと連絡を取ってみようかしら。魔力の通信回路を接続するとアイシャから反応が返ってくる。ヘルメットに仕込んだ魔石を利用して無線よりも感度がいい通信システムを研究課の人が開発してくれたのよ。



「こちらアイシャです。すでに前方ではバンパイアの姿を捉えているようです。私たちも前進しますか?」


「そのまま待機していなさい。陰陽師たちの警戒ラインを突破した敵に攻撃を加えるのよ」


「了解しました。もし私たちが突破されたら対応をお願いします」


「ええ、フィオと2人で歓迎してあげるわ。無理はしないでこちらに追い込んで来ればいいから」


「わかりました、通信終了!」


 アイシャの声にはそれほど切迫した感じはないみたいね。一戦を前にして平常心を保つのは中々できないわ。それこそさくらちゃんレベルでもない限りはね。とは言ってもアイシャだって帰還者の一員、異世界で魔物と対峙した経験は豊富よ。自分の役割をしっかりと心得ているわね。


 ところでさくらちゃんはあんなに張り切っていたのにまだ目を覚まさないのかしら? 天狐が気配を掴んで起こそうとしているとは思うんだけど、あの子は本当に夜が苦手なのよね。どうしても眠くなっちゃうのよ! 夕食後すぐに自分の部屋に戻って寝ているらしいけど、本当に起き出すかどうかは私にもわからないわ。こうなることを見越してさくらちゃんが居ないのを前提にして作戦を立てておいて良かったわね。



「美鈴、そろそろ始まりそうよ」


「わかったわ。フィオ、暗いままではこちらが不利だから周辺を明るくしてくれるかしら」


「いいのかしら? こちらに備えがあると敵に知られてしまうわよ」


「大丈夫よ、バンパイアが銃を恐れるはずがないでしょう。そこを逆手に取るのよ」


「ああ、なるほどね。そういう訳なのね。それでは昼間のように明るくして差し上げましょうか。闇を追い払う光球よ出でよ!」


 さすがは大賢者、フィオの手から巨大な光の玉が夜空に打ち出されて、まるで新たな太陽が生み出されたように周囲を照らしていくわ。照明弾の20倍くらいの光が真昼のように暗闇を浸食して、闇の者が隠れる余地を奪い去っていく。さあ、こちらの準備は整ったわね、今から本格的に攻撃開始の時間よ!







 侵入してきたバンパイアたちは・・・・・・



 私はサン・ジェルマン様の命を受けて日本の基地の偵察のために侵入してきたバンパイアのイシス、仲間のアンドレア、ダリウスと共にコウモリの姿になって易々と敷地内に潜入を果たした。闇の種族である我々が夜の闇を味方につければ、どのような警戒態勢を敷こうとも侵入を阻む術はない。



「アンドレア、ダリウス、どうやら奥の建物の方向から魔力を感じる。魔女様が探している天使と我々の裏切り者はそこに居ると思って間違いはなかろう」


「確かにその通りだ。全く警戒する様子もないし、上手くいけば両方の目的を一度に達成できるかもしれないな」


「アンドレア、見通しが楽観的過ぎるぞ! この基地には魔女様を破ったという『神殺し』が居るんだ。そんなに簡単にいくとは考えるな」


「その通りだ、それにバチカンの守護聖人を一まとめに片付けた少女も居る。警戒するに越したことはないだろう」


 我々は自分たちを戒めながら基地の上空から全体を見渡して、そこだけ他と明らかに違う内部から魔力を感じる建物を発見した。そのまま建物の屋上に着地して侵入しようと試みるが、見えない壁に撥ね返されるが如くに我々の侵入は拒まれる。よくよく観察するとそこには強固な結界が築かれているのだった。殆ど外部に魔力を発することなくこれほど強固な結界を築くとは一体何者の仕業だろうかと3人で宙に浮いたままで考え込むが、全く回答は得られない。



「周囲を探ってどこか入れそうな箇所を探すしかないであろう」


「それしかなさそうだ」


 建物の上にドーム状に広がる結界の周囲を飛び回ること20分あまり、我々はついに進入できそうな箇所を発見する。建物の入り口の正面300メートル付近に小さな入り口が設けられているのを発見したのだ。



「どうやら人が出入りする箇所があるようだな。あそこから侵入するぞ」


 建物全体を完全に結界で覆ってしまうと人が自由に出入りできなくなる。どうやらそのために1箇所だけ小さな入り口を設けてあるのだろう。おかげで我らは内部に潜り込むことができそうだと自然に笑みが零れる。あとは建物の内部を探って、隙を見てターゲットの人物を捕らえれば目的は達成だ。


 結界の内部にコウモリの姿のまま入り込むと、入り口の両脇に銃を持った兵士が陣を構築して待ち構えている姿が目に入る。



「愚かな、ただの人間に我らの姿が捉えられる訳がなかろう」


「油断するな! ただの兵士ではなさそうだぞ! やつらから僅かな魔力を感じる!」


 アンドレアからの念話が私に伝わるのと、兵士たちが我らに向かって銃を構えるのは殆ど同じタイミングだった。そして銃口が僅かな光を発して何かを撃ち出してくる。



「我らに銃など効果がないぞ」


 そう言いながら私は右側に羽ばたいてひらりと銃弾をかわしていく。だがその1発を皮切りにして銃弾は下から撃ち出されるシャワーの如くに猛烈な勢いで我ら3人に襲い掛かってくる。おかしいぞ、なぜ普通の人間に我らの姿や位置が正確にわかるのだ? もしや、やつらはバンパイアハンターなのか? そんな思いに囚われていたその時、右の羽に1発被弾する。ば、馬鹿な・・・・・・ 普通の銃弾如きは何の効果もないはずの私の羽が簡単に破れるとは!


 羽が破れた私はそのまま錐揉みになって地面に落ちていく。その間にも体の至る所に銃弾が何発も着弾する。こ、これは・・・・・・ 銃弾自体が魔力でできているのか! こんな強力な魔力の弾丸を何発も食らったらさすがに堪った物ではないぞ。止むを得ない、こうなったら本来の姿に戻って鬱陶しいこの連中を蹴散らしてやるか。


 地上に降り立った私は本来の姿を取り戻して兵士たちに襲い掛かろうとする。だが、やつらの抵抗は激烈で容赦なく魔力の弾丸が体中に着弾してあちらこちらが爆発していく。



「アンドレア、ダリウス、この場は私に任せて先に進め! どうやら結界が完全に塞がれて撤退もできないようだ。こうなったら前進するしかあるまい!」


「この場は任せるぞ」


 同じように本来の姿を取り戻した2人は魔力の銃弾が飛び交う中を建物に向かって駆け出していく。さて、私の仕事はこの場の兵士たちを始末して2人の後を追うことだ。いくら強力な武器を持とうとも無限の再生力を持つバンパイアには効かないぞ。覚悟するがいい!


 私が兵士たちに向かって動き出そうとしたその時、まるで急に昼間がこの世界に光臨したかのような眩い光が一帯に広がるのだった。






 その頃宿舎のさくらの部屋では・・・・・・



「主殿、妖魔がやって来ましたぞ! 早く目を覚ましてくだされ!」


「うーん、なんだか眠いんだよ! もうちょっと寝かせておいてよ」


 主殿はそう言いながら再び目を閉じる。快食快眠がモットーの生活を送っていらっしゃる主殿にとっては丑三つ時のこの時間に目を覚ますのは困難を伴うようである。だが我も主殿の従者として申し付けられた使命を果たさなければならない。心を大妖怪にして主殿のお体を揺さぶる。



「主殿、主殿! どうか目を覚ましてくだされ!」


あやかしガ来ル! 早ク起キル!」


 おお、どうやらヤタガラスも我に力を貸そうと肩にとまって声を上げている。主殿、お早く目を覚ましてくだされ!



「うーん、うるさいなー! もうちょっと寝ていたいのに・・・・・・」


「主殿、妖魔が来ましたぞ! 戦のご準備をしてくだされ!」


「おお! そうだったよ! 吸血鬼がやって来るんだったね! よーし、このさくらちゃんがバッチリ片付けるよー! と、その前になんだかお腹が減ってきたよ」


「主殿、そんなこともあろうかと美鈴殿が食事をご用意されておりますぞ。早く食堂に参りましょう!」


「食堂ニ行ク! オニギリ食ベタイ!」


「うほほー! さすがは美鈴ちゃんだね! それじゃあ食堂で腹ごしらえをしてからにしようか」


 腹が減っては戦ができぬとばかりに、こうして我らは主殿に率いられて食堂に向かうのだった。






 食堂では・・・・・・



「うほほー! おにぎりと唐揚げと玉子焼きがいっぱいあるよ! 天狐はこっちの稲荷ずしを食べていいからね。カラスにもおにぎりと唐揚げをあげるよ!」


「主殿、ご相伴に預かります。用意がよいですな、ポットには茶が入っていますぞ」


「よーし、チャッチャと食べて吸血鬼退治に行くよー!」


「大盤振ル舞イ! 唐揚ゲ美味シイ!」


 こうして我らは主殿と共にひと時空腹を満たすのであった。それにしても、いつ食してもいなり寿司は我の心を満足させるものであるな。






 その頃、宿舎の一番奥まった部屋では・・・・・・



「聡史さん、バンパイアたちが本当に来るのでしょうか?」


「ああ、俺の探査スキルがはっきりと魔力を持った存在を捉えているから間違いないだろうな」


 カレンが不安そうな瞳を俺に向けてくるが、俺は敢えて不安を打ち消すような言葉は口にしなかった。こんな襲撃が今後もあるかもしれないから、カレンはこの程度でビビッている場合ではないと判断したからだ。敵襲に慣れないと戦闘なんてままならないからな。それにしてもカレンの性格が彼女の母親と正反対で本当に良かったよ!



「さくらちゃんの強さをこの目にしましたが、本当に目を覚ますのでしょうか? 他の皆さんだけで大丈夫でしょうか?」


「たとえさくらが起きなくても美鈴とフィオがいる限り安心していい。リディアが不安になるとナディアがグッスリと眠れないだろう」


「そうでした、姉の私がもっとしっかりしないといけないんですね」


 思い直したような表情でベッドでグッスリと眠っている妹を見つめるリディア、同じ妹を持つ身の俺にはその気持ちは痛いほどわかるぞ。ナディアを守ってやらないといけないリディアと、何か仕出かさないかとハラハラしながら妹の所業を見守る俺という大きな違いがあるにせよ・・・・・・



「聡史さん、皆さんがこうして戦っているのに全く役に立たない自分が情けないです」


「カレン、まだ力を身に着けたばかりだから気にするな。カレンの天使の力は俺と同様に慎重に制御する必要がある。今の時点ではおいそれとは使用できないからな」


 体内に宿る天使が目覚めた時点でカレンは大きな力を身につけていた。だが天使そのものが操る『天界の術式』は、言ってみれば普通に知られている魔法よりも数ランク上の代物だ。たった1発で究極の大破壊をもたらす可能性すら秘めている。だからこそその使用は慎重を喫するべきで、カレンがもっと天使の魂と融合するのを待つ必要があるのだった。



「そろそろ始まったな。口火を切ったのは予定通り陰陽師の小隊のようだ」


「皆さん大丈夫でしょうか?」


「それなりに武装しているし、ああ見えても妖怪退治の専門家集団だぞ。天狐や大嶽丸並みの大妖怪には敵わないけど、バンパイア相手でも足止めくらいは可能なはずだ」


 俺自身そうは言うもののバンパイアの力がわからないから一抹の不安は残っている。果たしてこの戦いがどうなっていくのか一番気を揉んでいるのは俺自身に他ならない。でもそんなセリフを口にするとカレンとリディアを余計不安にしてしまうからな。だからそれ以上は何もしゃべらないで、探査スキルでそれぞれの動きがどうなっているのかを追うのに専念するのだった。 




最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は月曜日を予定しています。たぶん戦闘が本格的に展開する流れとなる予定です。



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