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60 焼きそばを食べている最中に

60話の投稿です。お話の舞台は富士宮に移ります。そこで美味しく焼きそばを食べているさくらの元に・・・・・・

 富士宮市の街中では・・・・・・


 いやいや、ずいぶん富士宮焼きそばのお店を回ったね。残りは10軒くらいかな? これだけ回ってもまだいくらでも入りそうだよ! 何しろ次のお店に向かって走っているうちにお腹の中ですっかり消化されちゃうからね。さくらちゃんのお腹はまるでマジックバッグのようになんでも詰め込めるのだ! ああ、だからといってピーマンだけは絶対に食べないよ! あれは人間が口にしてはならない悪魔の食べ物だからね。口の中全体が苦くなって嫌なんだよ!


 さーて、もうすぐ次のお店が見えてくるね。おお! あったよ! なるほど、このお店はお持ち帰り専門みたいだね。でも横にベンチが置いてあるから座って食べられるよ。



「焼きそば1つください」


「ありがとうございました、500円です」


 お店の人からパックに入った焼きそばを受け取って早速ベンチで食べ始めるよ。ふむふむ、この店はソースが控えめで塩コショウが効いているね。この味も中々気に入ったよ! すでに30軒以上回っているのに私を全く飽きさせないとは富士宮焼きそば恐るべしだね。もう諭吉さんがお財布の中から2人も旅立っているけど、この味ならば納得できるよ。『我が買い食いに一片の悔いなし!』だね。



 ”バサバサバサ”


 おや、私の足元にカラスが降りてきたね。普通のカラスよりも一回り大きいよ。それによく見ると足が3本あるね。なんだかとっても珍しいカラスだよ。



「ヤキソバ食ベタイ!」


 むむむ、カラスがしゃべったよ! 他の鳥とか犬猫なんかは鳴き声で私に何かを伝えるのに、このカラスは頭が良いのかな? ああ、でもインコとかオウムもおしゃべりするし別に気にする話じゃないか。



「ヤキソバ食ベタイ! 面白イ話知ッテル!」


「なんだか馴れ馴れしい態度だけどまあいいか。それじゃあ残りをあげるよ」


「モヤシイラナイ! キャベツト肉欲シイ!」


「わがままなカラスだね。まあいいか、細切りの肉がまだちょっと残っているからこれで我慢するんだよ」


 パックに残った焼きそばを差し出すとカラスは嬉しそうに食べているよ。何だろうねこのカラスは? カラスのくせに変なやつだよ!



「面白イ話アル! 喧嘩シテイル!」


「喧嘩? どこかで喧嘩をしているのかな?」


 ヤキソバを食べ終わったカラスがお礼に話を始めたよ。それにしても喧嘩って・・・・・・ 私には焼きそば全店制覇という大事な使命が懸かっているのをわかっているのかな。



「魔力感ジル! 喧嘩シテイル!」


「なになに、魔力を感じるって。うーん、さすがにそれは放っておけないよね。全店制覇とどっちが大事かなぁ」


 さくらちゃんはとっても迷っているんだよ。私にも意地があるからね、なんとしても今日中に全店回りたいんだよ。かといって魔力が絡んでいる喧嘩なんて放置できないしね。うーん・・・・・・ 


 ピコーン! そうだよ! 今日は下見ということにして焼きそばはまた今度チャレンジすればいいんだよ! そうすれば再び美味しい焼きそばを心行くまで味わえるからね! こんなナイスなアイデアを考えつくなんて私は天才に違いないよ! そうと決まれば喧嘩の現場に急ぐ必要があるね。



「よし、それじゃあ喧嘩をしている現場に案内するんだよ!」


「コッチダ! ツイテクル!」


 バサバサと羽ばたいたカラスが西の方向に飛び始めるから、私は走ってその後をついていくよ。なんだか楽しみになってきたね。どうせなら夕ご飯の前に腹ごなしで派手に暴れてもいいよ。それにしても魔力を発しているのは一体何者なんだろうね。まあいいか、現場に到着すればわかることだし。よーし、それじゃあ景気良く頑張っちゃおうかな!








 その頃、富士宮市、白糸の滝駐車場ではナディアの姉とバチカンの殲滅騎士団の間で戦闘が開始されていた・・・・・・


 

「神を欺く穢れた存在よ! この世から消えうせろ! この守護聖人・マルスが塵1つ残さずに滅ぼしてくれるぞ!」


 剣を抜いたマルスが上段に振り被った剣を力の限り振り下ろしてくる。リディアは咄嗟に体を引いて何とかかわしたけど、剣が巻き起こす強風に煽られて体が大きく右側に持っていかれたわ。バランスを崩し掛けた私に対してマルスが嵩に掛かって心臓目掛けて剣を突いてくる。私はそのまま倒れこみながら右手を地面に付いてそこを支点にしながら体を回転させて足払いを放つ。



「小癪なやつめ、無駄な足掻きは悪戯に苦しみを引き伸ばすだけだぞ」


 マルスはその気配を察知して一旦下がってから体勢を立て直す。その間に私も立ち上がって再び睨み合うわ。


 その時、左側から炎が私に向かって飛んでくる。ゴーという燃焼音を立てながら私の体を直撃するコースで飛んでくる炎の塊を右に横っ飛びに避けながら何とか回避に成功する。熱せられた高温の空気がブワーという感じで広がって顔を掠めていく。ほんの僅かでも行動が遅れたら危ないところだったわ。


 ゴロゴロと地面を転がりながら何とか立ち上がると、今度は氷の槍がまとめて20本私の逃げ場をなくすように広範囲に飛んでくる。タイミング的にはもう回避は間に合わない! 咄嗟に私は魔力を体の前に集めて防御陣を築く。お願い、何とか保って!


 バリンと音を立てて氷の槍は私の防御陣に突き刺さるけど、ギリギリで体には届かない位置で受け止めてくれたわ。でもおかげでなけなしの魔力をゴッソリと持っていかれてしまったわね。あと2回くらいしか使えそうもないわ。



「しぶとい吸血鬼だな。守護聖人・ヤコブの魔法を防ぐとはどうやらそれなりの力を持っているらしい。アンブロジウス、フランチェスコ! 力を合わせよ!」


「「任せろ!」」


 今度は3人掛りで魔法を放ってきた。風の刃と炎と氷の槍が一斉に私に襲い掛かってくる。これではどうにも避けようがないから、仕方なくもう一度魔力で防御陣を築く。もう半分以上魔力を消費していよいよ追い込まれてきたわ。でも私はナディアを守るために絶対に戻らないといけない。こんな所で弱音を吐いている場合ではないと、自分を励ましながら殲滅騎士団と再び対峙する。



「往生際が悪いな。今頃お前の妹も我らの仲間に捕まっている頃だろう。御殿場に残ったウルスラはどんな小さな魔力も見逃さない優秀な探査スキルを持っているからな」


 マルスの口から出てきたセリフに私の心は絶望に閉ざされそうになる。ナディア、どうか無事でいて! どうかお願い、そのためなら私の命を捧げてもいいわ。



「どうした、いよいよ観念したのか! 我々は吸血鬼如きに遠慮などしないぞ!」


 再びマルスが剣を振り下ろしてくる。その間にも残りの3人が魔法を放ってくるわ。剣を避けるとそこには次々に魔法が飛んできて肩や膝を掠めていく。ギリギリで致命傷を受けないようにかわしてはいるものの、そのたびに体中から痛みが走り血が噴き出す。でも今はそんなことを気にしている場合じゃない。何とかこいつらの包囲を抜け出す方法を探さないと。


 ヤコブを中心にして他の2人がまた新たな魔法を放つ気配を見せている。何とか体に残っている魔力を掻き集めるようにして私は防御陣を築こうとする。



 そして、その時・・・・・・



「まったく困ったもんだね! こんな場所で魔法まで使って暴れているよ。一体どこの誰なのかな?」


 駐車場に大きな声が響き渡ったわ。私だけではなくて殲滅騎士団の連中も突然響いたその声にハッとした様子で振り返る。そしてそこには妹のナディアよりも少しだけ背が高い女の子が立っているわ。こんな場所に来たら危ないからどうか早く立ち去って!



「なんだお前は! ここは子供が遊ぶ場所ではない! さっさと自分の家に帰るんだ!」


 マルスが邪魔なネコを追い払うような声を上げているけど、その女の子は一向に動じる気配がない。まだ12,3歳に見えるんだけど、剣と魔法が飛び交う戦いの場に全く恐怖心を抱かないこの子って何者なの? 



「ここは日本だからね、勝手に戦いを始めるのはダメなんだよ! ちゃんと法律という物を守ってもらわないとね。まあ私は最初から守るつもりなんてないけど!」


「何を訳のわからない話をしているんだ! 我々はバチカンの殲滅騎士団だ! 怪我をしたくないならさっさと帰れ!」


「なんだとー! 誰がバカチンだー!」


 急に女の子が怒り出しているけど、わかっているのかしら? それはあなたの聞き間違いですからね。そんなことよりも早くこの場から立ち去って! お願いよ、無関係の人を巻き込みたくはないの!



「まったく最近の外人は礼儀がなっていないよ! 初対面の私に向かっていきなりバカチンなんて失礼だよ!」


「こいつは何を言っているのかわからないぞ! おい、アンブロジウス! どこか遠くに連れて行ってくれ!」


 マルスは突然登場した女の子の態度に苛立った表情で仲間に指示を出しているわ。どうかその子には手荒な真似はしないで! でも私の願いも虚しく指示を受けたアンブロジウスは警戒した様子もなく無造作に彼女に近づいていく。



「おい、ガキはさっさと帰るんだ」


 乱暴な態度で女の子を突き飛ばそうとして右手を伸ばしたわ。そして次の瞬間・・・・・・



「あーあ、私に向かって先に手を出しちゃったね。本当にしょうがないなぁ」


 残念そうな口振りだけど表情はニコニコとしながら女の子はスッと体を開いてアンブロジウスの右の手首を取ると軽く捻る。それだけでアンブロジウスの体が宙に大きく弧を描いて背中から地面に叩き付けられたのよ! ガシャンと大きな音を立ててアンブロジウスが倒れているわ。一体どうなっているのよ?! 大柄な上に金属鎧を着込んでいるからたぶん100キロ以上はある体を放り投げるなんて! 全く訳がわからないわ!



「なんだと! 我々バチカンの殲滅騎士団があんなガキに手玉に取られるなんて・・・・・・」


「誰がバカチンだーー! 人の悪口は言っちゃいけないってお母さんが教えてくれたんだぞー! だから私は人の悪口は言わないのだ! その分腹の立つやつが現れたらぶっ飛ばすことにしているんだよ! 口で言うよりも手っ取り早いからね!」


 いやいや、ぶっ飛ばす前にもっと冷静にお話合いをしましょう。あなたのお母さんはたぶんそういう意図で『人の悪口を言うな』と教えてくれたんじゃないから。それにしてもこの子は警戒していなかったとはいえ殲滅騎士団を投げ飛ばしてしまったわ。地面に寝転んでいるアンブロジウスは背中を強打して白目を剥いているじゃないの。何がどうなっているのよ?



「さあて、1人は当分使い物にならないねぇ。残りの連中はどうするのかな?」


「マグレで我々を倒すなど有り得ない。かと言ってその体から魔力も発していない。全く不可解な存在としか言いようがないぞ。貴様は何者だ?」


「ほほう、どうやら私の名前を知りたいんだね! よく聞くといいよ、私はとってもプリティーなさくらちゃんだー!」


 ビシッとVサインを出してポーズを決めているのはわかるんだけど、私もバチカンの連中も目が点になっているわ。いきなり『さくらちゃんだー!』って言われましても、どうリアクションしていいのかわからないじゃないの! 拍手でもするべきかしら?


 それよりもこの訳のわからない子の乱入で戦いの雰囲気が変な方向に変わってきているわね。これは私にとってはある意味チャンスかもしれないわ。



 私がこの隙を利用して少しずつ場所を駐車場の出口に向かって移動を開始した時、突然この場に漂っている微妙な空気を打ち破るように女の子のポケットから着信音が響く。彼女はスマホを取り出して着信に応じている。



「なんだ、誰かと思ったら兄ちゃんか! 今結構忙しいんだけどどうしたの? 何々、人を探しているから協力しろって? うーん、こっちもややこしいことになっているんだよね」


 通話に出ながらも女の子は殲滅騎士団と私から目を離していないわ。もしかしたらこの子って強いのかしら? それにしてはマルスが言ったように体から魔力を全く感じないんだけど。



「探しているのはどんな人なの? ふむふむ、外人で15歳、名前はリディアね。んん! なんだかそれらしい人が私の目の前にいるよ! ちょっと待って」


 なんだか通話の中で私の名前が出てきたみたいだけど何がどうなっているの? 女の子はスマホを手にしながら私をじっと見つめているわ。



「そこの怪我をしている人はナディアのお姉さんかな?」


「はい、私はリディアです」


 彼女の口から出てきた妹の名前に私はこの場から逃げ出そうとした足を止めて返事をしたの。だって妹の消息がわかるかもしれないんだから。



「兄ちゃん、ビンゴだね! なになに、この人を保護しろって・・・・・・ ふむふむ、司令官ちゃんのお友達の娘なんだね。兄ちゃん了解だよ! だったら鎧を着た連中は遠慮なくぶっ飛ばしていいね! えっ、うん4人居るよ。リディアと鎧のやつらが喧嘩をしている所に私が乱入したからね!」


 どうやら話の様子だと妹を保護しているのが彼女のお兄さんみたいね。良かった! ナディアは無事だったんだ。本当にありがとうございます。



「よーし、話はまとまったよ! 今からそこの鎧のやつらはぶっ飛ばすからね。リディアちゃんはあとで司令官ちゃんに会わせてあげるよ!」


「司令官って誰のことですか?」


「リディアちゃんが探している『神殺し』が私たちの司令官なんだよ! 私は国防軍特殊能力者部隊の一員だからね!」


「本当なんですか?」


「本当だよ! あと1時間くらいしたら兄ちゃんたちが妹ちゃんを連れてここに来るから安心していいよ」


「でも殲滅騎士団が・・・・・・」


「こんなのチョロイ相手だからね。どうってことないよ! さあて、それじゃあ始めますか!」


 さくらと名乗った国防軍の戦士はどこからか取り出した金属製の篭手を両腕に嵌めて殲滅騎士団を迎え撃つ気満々の様子ね。対するバチカンの連中はさくらちゃんと私の遣り取りを聞いて戸惑っているみたいね。



「お前は日本の国防軍の人間か?」


「うーん、『人間か?』と聞かれると最近ちょっと自信がないけど一応はそうだよ!」


 さくらちゃん、マルスはそういう意味で聞いたんじゃありませんよ。国防軍の能力者なのかという意味ですからね。もうツッコミ所が多すぎて、私もいちいち相手をするのが疲れてきたわ。



「ならばお前に問いたい。最近この富士を中心にして天使に関する異変が相次いで報告されている。お前は何か知っているか?」


「天使? ああ、カレンちゃんのことだね。駐屯地に居るよ! 本物の天使がね」


「なんだと! それはどのような意味だ?」


「難しい話はわからないけど、カレンちゃんが天使なのは間違いないよ! この目でちゃんと見たからね!」


「そうか、よもやとは思っていたが天使が降臨したというのだな。ならば我らは日本軍と一戦交えてもその天使を奪還せねばなるまいな。悪いがこの場で死んでもらうぞ」


「ほほう、どっちが死ぬのかまだわかっていないんだね。覚悟してこのさくらちゃんに挑んでくるんだよ!」


 挑発するさくらちゃんに対して殲滅騎士団の残った3人は『天使の奪還』に気を取られてすっかり私の存在を忘れているわ。それはそれでありがたい話だけどさくらちゃんは本当に大丈夫なのかしら? 不安は尽きないけど私はこの両者の戦いを見守るしかできないわ。どうかさくらちゃん、勝ってください!


 私の祈るような呟きとともに両者の決戦の火蓋場切られるのでした。





最後までお付き合いいただいてありがとうございました。


次回の投稿は日曜日の予定です。さくらとバチカンの守護聖人の戦いの行方は・・・・・・

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