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6 徹底的な報復

某国の大使館にやって来た主人公たちはこれから侵入を開始するようです。

 これから侵入しようという大使館の壁際を進む俺たち、美鈴が張った結界は、この地点から入り口までは壁から1メートル舗道にはみ出している。もう今居る場所は大使館をスッポリと包み込んでいる結界の内側だ。


 正門前には、番をしている警官が左右に立って、通行する人々に目を光らせている。彼らも位置的には結界の内部に入り込んでいる。



「眠りの風よ」


 そっと美鈴が囁くと二人の警官はゆっくりと体を沈めて路上に突っ伏している。職業意識から何とか襲ってくる眠気に抗おうとしたようだが、美鈴の魔法の前には無駄な抵抗だった。彼らは大使館を警備する役目の日本の官憲なので、美鈴は危害が及ばぬように優しく寝かし付けている。それから俺は彼女に命じられるままに、二人の警官を結界の外に運び出した。


 

「さて、ずいぶん頑丈そうな扉があるけど、どうするんだ?」


 入り口には、建物内部からのリモコンで開閉するスライド式の扉が設置されている。鉄製で厚さは5センチではきかないだろうな。



「適当に破っちゃえばいいのよ」


「いやいや美鈴さん、適当って言ってもだな」


「テヤーー!」


 ガコッ!


 俺が美鈴に反論している間に、妹が扉を蹴破っていた。お前、いきなりなんて乱暴な! 頑丈そうな金属の扉は、ダンプカーが衝突したかのように折れ曲がって、敷地の20メートル奥に吹き飛んでいる。妹の攻撃力をまざまざと見せ付けるかのような破壊の痕跡だ。



「美鈴ちゃん、適当に蹴破ったよ!」


「オーケー! さくらちゃんグッドジョブよ!」


 ええ! これでオーケーなのか?! 監視カメラとか警報装置とかどうするんだよ?!



 そして俺の予想通りに、建物から門の方向に駆け付ける数人の警備隊の姿が視界に入ってくる。どうやら銃は持っていないようだが、特殊警棒と強化プラスチックの盾をご持参しているよ! どう見てもあっちの国の軍隊だよね。間違っても警備会社の人たちじゃないぞ! 身に纏う雰囲気がどう見ても玄人なんだよな。



「何をしているんだ! ここは中華大陸連合の大使館だぞ! すぐに退去しないと、不法侵入者として拘束する!」


 しゃべっている言語は日本語じゃないけど、異世界で得たスキルのおかげで、英語だろうとフランス語だろうと何を言っているのかわかるんだ。もちろん俺たちが何を言っているのかも、相手にちゃんと伝わっている。



「さくらちゃん、死んでもいいくらいに暴れてきて!」


「うほほー! いただきまーす!」


 俺たちの前に出て来たのは、指揮官1人と隊員8人の合計9人だ。ここに連絡役が1人加われば、ちょうど1個小隊の人数だな。あーあ、美鈴の許可を得た妹が飛び出して行っちゃったよ。



「なにっ!」


 向かって右の隊員が声を上げた時には、オリハルコンの篭手に包まれた妹の拳がその鳩尾に迫っている。



 ボスッ! という重たい音を立てて体の真ん中に妹の拳を受けた隊員の体は、そのまま後方に吹っ飛んでいく。たぶん内臓破裂で助からないよな。その勢いのまま、妹が隣の隊員に襲い掛かっていく。わき腹に拳をめり込ませて一丁上がりだ。絶対に腎臓が破裂しているだろうな。呻き声も上げないで、口から血が混じった泡を吹き出しているよ。


 2人の隊員が妹の手によって簡単に倒されるまで1秒掛かっていない。人智を越える素早さこそが俺の妹の持ち味だ。そしてその打撃は計り知れないくらいに重たい。150センチという小柄な体のどこにこんなパワーが隠されているのか不思議なくらいだ。あっちの世界に居る時は、Sランクの魔物のベヒモスを一撃で吹っ飛ばしていたからな。ちなみにベヒモスは大型トレーラーくらいの大きさがあるんだぞ。



「美鈴ちゃん、全部片付けたよ!」


 9人が瀕死の状態で地面に転がされるまで、僅か5秒足らずだった。全員気が付いたら拳が体のどこかにめり込んで、防戦する暇も無かった。はー、昔から暴力的な子供だったけど、兄はお前をこんな風に育てた覚えは無いぞ! 本物の兵隊さんを倒しておいてそんなドヤ顔するんじゃありません!



「さくらちゃんは相変わらず胸がスッキリする倒しっぷりね! この調子でお願いよ!」


「全部このさくらちゃんに任せなさい!」


 あーあ、元々褒められて伸びるタイプの妹だけど、美鈴に煽てられてすっかり天狗になっているよ。このお調子者が!



 外に出て来た兵士が居なくなったので、遠慮なく建物に入っていく。内部に入ってすぐの場所には案内カウンターがあって、そこに座っていた女性職員が立ち上がって、じっとこちらを見ている。その手には小型の拳銃が握り締められており、彼女は躊躇い無く引き金を引く。



 パーン、パン、パーン!


 乾いた音が建物の内部に反響する。それにしても俺たちを見掛けて躊躇無く引き金を引くとは、案内嬢に見せ掛けた女兵士だろうか? そして彼女が放った銃弾は…… 全部妹が右手でキャッチしていた。


 いや、俺も銃弾の軌道くらいちゃんと見えていたよ! 本当だからね! 本当だよ! 大切なことなので2度言いました!



「まったく、こんな物を撃ったら危ないよ! はい、返しておくからね!」


 そして信じられない光景を見て目を丸くしているカウンター嬢に、妹が銃弾を投げつける。銃から発射されたのと同じくらいの速度で飛翔した3発の銃弾は、彼女の額に命中して頭蓋骨を貫通している。


 妹よ、ちょっと容赦が無さ過ぎるんじゃないのか? まあ先に手を出したのはあっちだし、しょうがないかな。これはきっと正当防衛だ! この場はそういうことにしておこうか。



 チーン!


 今度はエレベーターが1階に到着した音が響く。扉が開くと、迷彩服を着た男たちがワラワラと出てくる。今度は全員自動小銃を手にしているよ。



「相手は帰還者だ! 撃て! 撃ち捲くれ!」


「シールド展開!」


 指揮官の声と美鈴の声が同時に響く。どうやら俺たちを帰還者だと知っているようだ。俺の家に侵入した犯罪行為を自白しているのも同然だな。それにしてもこの国や日本政府の情報網って結構侮れないんじゃないのか? 具体的な証拠が無いのに俺たちを帰還者だと断定しているぞ。ああ、この暴れっぷりが動かない証拠になるのか。



 タタタッタッタタタタッタタタタタタタタタタタタタタタタタタタン!


 合計8丁の小銃から軽快な音を響かせて銃弾が発射されていく。だが大魔王様が展開するシールドによって、全ての弾が俺たちの手前で弾き落とされる。途中から階段を下りてきた部隊も合流して、20丁近い小銃による乱射が行われるが、美鈴のシールドは全くの無傷だ。



「化け物が! 撃つ手を休めるな! 弾丸をすぐに補給しろ! やつらをこの場に釘付けにするんだ!」


 必死の形相で指揮官が叫んでいる。それに呼応するように兵士が引き金を引き続ける。


 あーあ、そんなに無茶な使い方をすると…… ほーら、言わんこっちゃ無いよ! ジャムを起こしちゃった。相変わらず武器の工作精度が低過ぎるよね。小銃くらいちゃんと作れって! 


 薬莢が詰まって次々に動きを停止する小銃を、青い顔で見つめる兵士たち。まだ稼動しているのは5丁しかない。小銃の4分の3がこの程度の銃撃でジャムるって…… こいつらは一体どんな軍隊なんだ? お粗末過ぎるだろう!



「もうよい、この場で死ね! 雷撃!」


 美鈴さんの右手から、死を呼ぶ稲妻が飛び出す。いや、それは稲妻ではなくて、電気の網と言うのが相応しい。その網は兵士たちを包み込むように広がって、その一部にでも触れた者から順番に、体から黒い煙を上げて倒れていく。落雷と同じ電流が流れるんだから当然即死だよね。大魔王様に逆らった者の末路は大概こうなるか、若しくは焼かれて灰になる。ああ怖い!



「おお、さすがは美鈴ちゃんだね! 私が飛び出す前に全部片が付いちゃったよ!」


「私が言いだしっぺだから、このくらいは仕事をしないとね!」


 もうこの時点で2人はノリノリで仕返しを楽しんでいる。あっちの世界でもこんな光景は何度も見てきたな。こうなると行き着く先まで行かないと終わらないはずだ。



「銃は回収しておきましょう。あとで使い道があるから」


 まだ何もしていない俺はどうやら回収係りのようだ。床に落ちている小銃を片っ端からアイテムボックスにしまいこむ。


 

「怪しいのは地下ね、武器庫とかあるんでしょう」


「兵士たちが小銃を持っていたから、それなりにあるんだろうな」


 3人で階段を下りていく。エレベーターは途中で強制的に止められて閉じ込められる恐れがあるし、扉が開いた瞬間を狙い撃ちされる危険が伴うからだ。地下1階の廊下を歩いてそれらしき箇所を探すが、特に目ぼしいものは無かった。時折散発的に兵士が飛び出してきて銃を向けるが、妹の手に掛かって容赦なく命を刈り取られる。


 地下2階も同様に探索するが、ここにも目に付く物は無かった。再び階段で地下3階に降りていく。



「どう見ても怪しいわよね」


「これだけ厳重に管理しているんだから、何か大事な物をしまっているんだろうな」


「兄ちゃん、ダンジョンのお宝を発見した時みたいだよ!」


 銀行の金庫のような分厚い扉で塞がれたその場所は、どうやらカードキーと人物認証とダイヤルを合わせてはじめて開くようになっているらしい。3重のセキュリティーで守られて、監視カメラや警報装置もてんこ盛りなんだろう。



「それじゃあ破るか」


 やっと俺にお仕事が回ってきましたよ! どんなに厳重にロックしてあっても、扉自体を破壊すればただの入り口だからね。俺は右手に魔力を集めてそのまま分厚い扉に叩き付ける。



 ガシャーーン! ブー、ブー、ブー!


 呆気なく開いちゃった。っていうか、扉が据え付けてある壁ごときれいに無くなっている。緊急事態発生を示すアラームが、けたたましいくらいに鳴り響いているが、さらっと無視して内部に踏み込む。



「ふーん、金塊に白い粉、どう見ても非合法な犯罪の証拠ね」


「おそらくは麻薬だろうな。販売組織の大元締めが大使館だったのか」


「うほほー! あっちの世界でも金の延べ棒をいっぱいゲットしたけど、こんな所にもあるんだね!」


 取り敢えずそこにある物は全部アイテムボックスに回収しておく。そこから更に中に進んでいくと、お目当ての武器庫を発見する。



「ねえ、ここにあるのはミサイルかしら?」


「小型のミサイルだな。弾頭に『B』とか『C』と書いてあるのは、生物兵器や化学兵器を搭載可能ということだろう」


 軍オタなら当然知っている知識を美鈴に披露する。それにしてもこんなミサイルで東京を攻撃したら、シャレにならない規模の被害が出るぞ。都心のど真ん中に、こんな物騒なミサイルを隠し持っているとはけしからん! きっちり全部回収しておこう! 俺個人のコレクションにするにはさすがに荷が重過ぎるから、国防軍に引き渡す方向で考えておこうか。弾頭に中身は…… 入ってないよね、たぶん。



 そこにあるミサイルは全部アイテムボックス行きだ。発射装置は別の場所に置いてあるんだろうな。あんなデカイ物は地下の金庫みたいな所には置けないだろうし。



 危険な兵器は全て回収したので、俺たちはそのまま一旦外に出る。


 大使館の門の周辺には、敷地から逃げ出そうとする大使館員たちが100人以上ひしめき合っている。美鈴の結界で塞がれて門の外に出られないのだろう。半ばパニックを起こして、懸命に脱出しようと見えない結界に体当たりしている。



「逃げようなどと愚かな真似は止めよ、この大魔王の前にひれ伏すのだ!」


 美鈴の一言で、まるで催眠術に掛かったように入り口から脱出しようとしていた大使館員が、俺たちの前に集まって来る。



「大使館を隠れ蓑に悪事を重ねていたようであるな。等しく罪は償ってもらおうか! その場で等しく死ぬがよい」


 大魔王様、半端ねーっす! そこに集まっている大使館員たちをひとまとめにして雷撃食らわしたよ! 外交官特権? そんなものはイヌにでもくれてやれ! 当然全員死亡確定だよね。体から煙を立ち上らせて地面に横たわっている。動かない、どうやらただの死体のようだ。



「聡史君、あそこの別棟に回収した小銃とミサイルと、白い粉を放り込んでくれるかしら」


 本館とは別棟の建物を指差して美鈴が俺に指示を出す。俺はその建物の入り口に、わざわざ目に付きやすいように回収した武器を並べておく。例の白い粉もこれ見よがしにカウンターの上に載せておけば、捜索が入った段階ですぐに発見されるだろう。



「ご苦労さんでした。あとはこの建物を壊したらおしまいよ。聡史君、頑張ってね!」


「こんなデカイ建物を壊すのか? ヤレヤレだな」


 聳え立つ地上10階以上はある建物を俺は見上げる。壊すのは簡単だ。何しろ俺の称号は〔破壊神〕、異世界の破壊専門の神様だし! あっちで滅ぼしてやった邪神の口を割らせて聞き出したら、戦いの神様も兼任しているらしい。こんな温厚な俺には全然相応しくない称号だと自分では思っているんだぞ。



 建物の内部の人たちは全員外に出てるのかな? もっともその人たちは地面に横たわっているけど。まあいいか、さっさと片付けよう!


 再び俺は魔力を右手に集める。完璧を喫してちょっと多めにいってみようか!



「トリャーー!」


 ズコーーン! ドカーン! バリバリガラガラ!


 右手から打ち出した魔力の塊が、建物にぶつかって大倒壊を引き起こす。鉄筋コンクリートのビルの真ん中に大穴が開いて、上部の構造が完全に崩れ落ちている。その重みに耐え切れなくなって、下部の構造も順番にひしゃげていく。もうもうとした煙が晴れると、そこには瓦礫の山が広がるだけの、無残な光景が広がっているのだった。



「終わったわね、それじゃあ帰りましょうか」


「兄ちゃん、帰ったらお母さんの夕ご飯が待っているよ!」


「お前はそんなにご飯が大切なのか! それにしても派手に暴れたもんだな」


「これでしばらくは私たちに手を出せないでしょうね」


 こうしてひとつの国の大使館を叩き潰して、何事もなかったように俺たちは帰路に着くのだった。




家に侵入された報復として大使館丸ごと破壊するのはやり過ぎのような気もしています。しかし、3人が召喚された異世界では何事も徹底的に片付けておかないと危険が及ぶ場所だったのだとご理解ください。中途半端にしておくと逆に再び命を付け狙われる、そんな世界で過ごしていた3人にはこの程度の破壊は至極当然の一般常識でした。


次回はいよいよ国防軍に3人が入隊します。今回の件の後始末とともに、新たな生活を送り始める3人を応援してください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中途半端は非常に後々たたりますから、徹底的に敵は叩きつぶせるときに叩いておきべきですね。
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