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57 偶然の出会い 1

57話です。今回もあちこちにお話が飛びますのでご注意ください。

 10年ぶりに美鈴とキスができるのか・・・・・・ なんだか今度は逆に緊張してきたぞ。しっかりしろ、俺! 今から緊張してどうするんだ!


 そういえば10歳の頃にキスをしたあの時のことを思い出していたら、更に色んな記憶が蘇ってきたぞ。あの頃は恥ずかしいともなんとも感じなくって、美鈴と一緒に風呂に入ったりしていたんだよな。男女の体の違いに気がついたのもその時だった。


 俺が『何で女の子にはおチンチ○がついていないんだろう?』と疑問を感じたのに対して、美鈴は『聡史君に変な物がついている!』と不思議そうな顔をしていたっけな。2人とも子供だったからそれ以上は深い意味なんか知らなかった。今は笑い話だけど、あの頃は純粋だったな。小学校の高学年になると美鈴の胸が膨らみだして、その頃から互いに気恥ずかしさを感じるようになったせいで2人で風呂には入らなくなったような気がする。


 それでも5年生くらいまで美鈴はしょっちゅう俺のベッドで一緒に寝ていたっけ。もちろん2人とも寝付きがいいから朝までぐっすりと寝ていたな。今考えると何もしなかったのはちょっと勿体なかった気がするぞ。



 その話はどうでもいいとして、お互いに幼稚園の頃から知っているからこういう気恥ずかしい記憶が残っているんだよな。あれから10年か、もう実年齢でいったら2人とも20歳だし立派な成人だ。子供の頃と違ってへんな場所でキスなんかできないよな。しかも美鈴に『ムード作りは任せる』と言われているし・・・・・・ 場所等を含めて今から真剣に考えておこう。



「聡史君、なんだかボーっとしているけどこの服はどうかしら?」


「お、おう、ちょっと大人っぽくていいんじゃないか。俺たちも一応社会人だしな」


「そうよね、少しはこんな感じの服があってもいいわよね。聡史君もGパンとジャージだけじゃダメよ! この際だからスーツの1着くらい用意しておかないと」


「制服があるからいいだろう」


 国防軍の一員として迷彩柄の戦闘服とは別に公の場で着る階級章入りの制服も支給されているんだぞ。軍オタ時代に仕入れた知識によると、国防官同士の結婚式は来客の大半が制服着用で出席するそうだ。


「本当に服に無頓着よね。もう少し大人としての自覚を持ちなさい。それじゃあ今日は私が聡史君のスーツを選んであげるわね」


 こうして俺は美鈴の言うがままに何軒も店を引っ張り回されるのだった。





 その頃富士宮市のとある場所では・・・・・・



「うほほー! 富士宮に到着したよー!」


 駐屯地は富士山の東側で富士宮は西側なんだよね。普通の道路を通ると大回りになるから地図を見ながら愛宕山の麓を突っ切ってきちゃったよ! 富士山の樹海が広がる一帯だったから、どこにも人の姿がなくて思いっきり飛ばして走ったんだよ! おかげでいい感じにお腹が空いてきて『富士宮焼きそば全店制覇』に向けて体調は絶好調だね!


 さあてどこの店から開始しようかな? スマホの画面を見るとお店の表示がいっぱいあるねぇ。楽しみになってきたよ! えーと最寄のお店はと・・・・・・ ふむふむ、『平ゆう』が一番近いみたいだね。よーし早速行ってみよう! どんな味なのか楽しみだよー!



「お待たせしました」


「おお! これが初めて目にする富士宮焼きそばだね! それではいただきます」


 うんうん、さすがはB級グルメのグランプリを何度も受賞しているだけのことはあるね! 特に振り掛けてある『ダシ粉』がいい味を引き出しているよ! これなら安心して何杯でもいけちゃうね。ただ残念なのは1杯じゃ物足りない点だよ。本当はお代わりをしたいんだけどこれから40軒以上回らないといけないから涙を呑んで次のお店に行こうか。午前中のうちに最低でも15軒は回っておきたいよね。


 こうしてさくらちゃんは美味しい富士宮焼きそばを求めて走り出していくんだよ! 必ず今日中に全店制覇するから待っているんだよー!








 その日の午後3時頃・・・・・・


 アウトレットでの買い物を終えた俺と美鈴はバスに乗って御殿場駅に向かう。市内のホテルでちょっと豪華に遅めの昼食を取ろうとやって来たのだ。アウトレットで散々買い物をした品々はアイテムボックスに放り込んであるので手にする荷物は何もない。本当に便利だよな、もうアイテムボックスなしの生活なんて考えられないな。



「あら、結構立派なホテルね」


「富士山を一望できる観光地だからそれなりの建物を用意してあるんだろう」


 2人で最上階のレストランに入っていく。美鈴なんかすっかりデート気分で俺の右腕に掴まって離れる気はないようだ。


 ギリギリでランチの時間に間に合ったので2人で同じメニューを注文する。ちょっと前までの高校生の時だったら手が届かない値段だけど、今の俺たちなら割と気軽に利用できる価格だ。もっとも異世界ではいつも金貨が何枚も必要な街一番の高級な宿に宿泊していたから今更なんとも思わないけど。



「せっかくこういう場所に来るんだったら今日買った服を着て来れば良かったわ」


「美鈴の今日の服も十分オシャレだと思うけどな」


「聡史君の服のセンスはアレだから褒められてもあまり嬉しくないわよ」


 そう言いながらも美鈴はちょっと嬉しそうな顔をしている。本当に嬉しい時彼女の口角が微妙に下がるのだ。長年の付き合いだからこそわかるんだよ。



 遅めのランチを終えるとエレベーターに乗って1階のロビーまで降りていく。そしてロビーの前を通りかかった俺たちがお互いに目を合わせて小声を交わす。



「魔力を感じるぞ」


「ええ、本当に小さいけど確かにこれは魔力よね」


 何か他の用事に気を取られていると見逃してしまうくらいの小さな魔力を2人して感じ取っているのだった。そしてその魔力を発する方向に目を遣ると・・・・・・ そこにはロビーのソファーにぬいぐるみを抱えてチョコンと座っている少女の姿がある。カレンとよく似たプラチナの髪をツインテールにして赤いリボンで結わえてあるのが特徴だ。



「美鈴、どうやらあの女の子が魔力を発しているようだな」


「ええ、間違いないわね。一体何者かしら?」


「声を掛けてみようか? 話をすれば何かわかるかもしれないぞ」


「そうしましょうか、私が話してみるわ」


 美鈴はそう言って女の子に近づいていく。感じられる魔力の量からいってそれ程警戒する必要はなさそうだ。



「こんにちは、こんな所に1人でどうしたのかしら?」


「ひっ!」


 美鈴は努めて優しい声を掛けたつもりなんだろうが何しろ大元が大魔王様だ、女の子は怯えた表情で引き攣った声を上げている。小さな女の子を怯えさせているこの状況に、美鈴自身が精神的に大ダメージを受けたようだ。背景に『ガーン』という効果音を鳴らしながら青褪めた表情のスタンドを浮かび上がらせているぞ。仕方がない、ここは俺の出番だろう。



「安心していいよ、この人は顔は怖いけどとっても優しいからね。それよりもこんな所で1人でどうしたの?」


「お姉ちゃんが帰ってくるのを待っているの」


 俺が笑顔を見せながら声を掛けると女の子はちょっと安心したような表情に変わる。俺の隣の美鈴は心から『解せぬ』という不満な顔をしている。仕方がないから諦めるんだ、小さな女の子から見れば大魔王はそれはそれは怖いだろうからな。



「そうか、お姉ちゃんはどこに行ったのかな?」


「人を探しに朝出掛けていって全然帰ってこないの」


「そうなんだ、ずっとここで待っていたのかな?」


「ちょっと前にお部屋から降りてきたの」


「寂しい?」


「うん、知らない所だから寂しい」


 そりゃあそうだろうな、見知らぬ場所に1人で取り残されたら誰でも心細くなる。まして10歳くらいの女の子だったら猶更だろうな。それにしても彼女の姉というのはいつ戻ってくるんだろう?



「それじゃあ寂しくないようにこのお兄ちゃんとお姉ちゃんがしばらく一緒に待っていてあげよう。色々お話を聞かせてもらえるかい?」


「うん」


 よほど心細かったんだろう、女の子は俺の提案を素直に受け入れてくれた。チラリと美鈴を見て本当に大丈夫かどうか確認してからだったけど。



「それじゃあお隣に座ってもいいかな? 俺は聡史でこっちのお姉ちゃんは美鈴だよ」


「聡と美鈴・・・・・・ 私はナディア」


 そう答えた女の子は気が緩んだのかその可愛いお腹がグーという音を漏らす。



「あら、ナディアはお腹が空いているのね。ちょっと待っていてね」


 このホテルのロビーには軽食を取れるコーナーが設けられている。美鈴はカウンターに待機している係の女性に何か話してから戻ってくる。



「玉子サンドとオレンジジュースを注文してきたからテーブルがある席に移動しましょう。さあこっちよ!」


 さすが気が利く美鈴さんだ。伊達に異世界で妹の食事の世話を続けてきてはいないな。ということで俺たちは小さなテーブルが間に置いてある向かい合わせのソファーに移動すると、直後にホテルの係員が注文した品々を運んでくる。ナディアの分とは別に俺のコーヒーと美鈴の紅茶もテーブルに置かれた。



「ナディア、遠慮しないで食べてね。お姉さんの奢りよ」


「食べていいの?」


「ええ、ナディアが食べてくれないとお姉さんは悲しいわよ」


「それじゃあいただきます」


 礼儀正しい子だな。でも空腹には勝てなかったようで玉子サンドをパクパク食べているよ。もう少しお腹が落ち着いたら話を聞いてみるかな。


 






 聡と美鈴がナディアと出会う2時間前の御殿場駅付近・・・・・・



「困ったわね、富士山が見える場所に何とかやって来たけど『神殺し』の手掛かりなんかまったくわからないわ。」


 私リディア、朝から周辺を回って手掛かりになりそうな物がないかずっと探しているんだけど、言葉が通じないから人に聞けないしどうしたら良いのかわからなくなってきたところ。だいぶ長くナディアをホテルに1人で置いているからそろそろ戻ってあげないと。


 待って! なによこの気配は! 近くに魔力の気配を感じ取った私は周囲を見回す。そこには5人のかつて何度も私たちを付け狙った連中と同じ雰囲気を持った男たちがこちらを見ているわ。日本は安全だと思っていたのにもうここにも追っ手がかかったようね。



「不味い! あれはバチカンの断罪騎士団のやつらだわ。もうこちらに気がついているようだし妹の所には戻れないわね。何とかやつらを少しでも妹から遠ざけないと」


 相手は5人、全員が私よりも明らかに強い力を持っている。それでも妹だけは、あの子だけは私が守ってやらないと。必死で頭を巡らせた私は駅に向かう。どうやら人目が多い場所では手を出してくるつもりがないようね。ともかく行ける所まで行って妹があいつらに発見されないようにしないと。


 駅に入るとちょうどホームに到着した電車に乗り込むわ。やっぱり私を追いかけてきているわね。やつらは少し離れた車両からこちらの様子を伺っているみたい。とにかく遠くに、自分を囮にして連中を妹から引き離さないと。



 いくつか駅を過ぎて電車が終点に到着するわ。ここはどこなの? ホームの表示だと『沼津』となっているわね。ローマ字があるから駅名だけはわかるけど自分がどこにいるのかはさっぱりだわ。終点だから乗り換えないと・・・・・・ この駅には別のホームがあるからあっちに行ってみましょう。



 急ぎ足で隣のホームに移動するとタイミング良くまた電車が来たわ。この電車がどこまで行くのかわからないけど取り敢えず乗りましょう。どうやら方向的には西に向かっているようね。相変わらず殲滅騎士団のやつらは私を追ってくるわね。人数は4人・・・・・・ ちょっと待って! 残った1人はどうしたの?! もしかしてあの場に残って妹を探しているの? 不味いわ、それは絶対に不味いのよ。あの子はまだ何の力も持っていないから全く抵抗できないのよ。どうしよう、私はどうしたら良いの?


 決めた! 次の駅で降りよう! 妹が居る場所に戻って私が守ってあげるしかないわ。ナディア、お願いだから見つからないで待っていて。絶対に部屋の外なんか出ないでいい子にして待っていて。


 次に電車が止まった駅は『富士』だったわ。ここから反対側の電車に乗ればきっと『御殿場』に戻れるわね。しまった! あいつらが私の行く手を遮ろうとして近付いて来るわ。このままでは捕まる! 仕方がないからまた隣のホームまで逃げるようにして移動していく。そして追い込まれるようにしてそこに停車している電車に飛び乗ったわ。このままではどんどん妹が居る場所から遠ざかってしまうけど、何とかやつらの隙を見つけて逆方向に戻らないと。



「次は富士宮です」


 車内のアナウンスが聞こえてくるけどそれってどこなのよ! でもさすがにこれ以上グズグズしていられないわ。この駅で降りると決めて私は電車が発車する寸前にホームに飛び降りたわ。でもダメ! やつらは私の行動を見て、動き出した電車の窓を開けて飛び降りてくるわ。もう周囲の目も気にしていないようね。



 余裕がなくなった私は走って駅を飛び出して、たまたま目の前に止まっていたバスに乗り込んだの。バスは連中が到着する前に出発してくれたからこれで一息つけるわね。一番後ろの席に座って後ろの窓を振り返ると、チッ! 本当にしつこいわね! 4人がタクシーに乗ってバスを追いかけてくるじゃないの。



 どうしよう! このままでは私はどうしようもない。妹が居る場所から離れる一方だし、もう祈るしかないの?


 そのままバスは終点に到着するわ。仕方がないから私は降りて少しでも距離を稼ごうとして走り出す。でもやつらは私の魔力を正確に捉えているようね。いくら走っても追いかけてくる。ここはどこなのかしら、大きな駐車場になっているわね。もう夕方だからすっかり人の姿は消えて、止まっている車も数台しかない。


 走るのを止めた私は駐車場の端っこで立ち止まって男たちに振り返る。



「ようやく諦めたか、我らが神に背く闇の王の娘よ。我らは別の任務でこの国にやって来たが、偶然こうして行き会うとはお前はここで討ち取られる運命だったな」


「バチカンの手先が! 己の頭で考えようともせずにただ教義に従う愚かな犬どもには負けぬ」


 私の体から魔力が吹き上がる。こうして故国を遠く離れたこの日本で、自分と妹の運命を懸けた戦いが火蓋を開けるのだった。



最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は週末を予定していますが、日曜日と月曜日が連休なのでその2日に一話ずつ投稿していきたいと思っています。ちょっとしたクリスマスプレゼント付のお話になると思いますので、どうぞお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[一言] お金も渡さず、見知らぬ外国の地に妹を一人残して、うろうろする気持ちがわからない。妹のことを考えているようで、結局妹のことを何も考えていない気がします。
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