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56 ご褒美の中身

前日に続いての投稿です。話の舞台がコロコロ変わるのでご注意ください。

 ローマ法王庁の会議室では・・・・・・



「先程担当の修道女から報告があった天使のの異変について諸卿らの意見を聞きたい」


 司会役の枢機卿から話が振られるが、急遽集まったメンバーたちは深刻な表情を浮かべながらもまだ考えがまとまっておらずに誰も意見を述べようとはしなかった。



「改めて確認いたしますが、かつてロウソクの炎が青に変わるなどといった事態は起きていないのですね」


「文献にもまったく記載されてはいないよ。だからこうして我々が頭を抱えているのではないか」


 1人の枢機卿の意見を司会役が不愉快そうな表情で切って捨てる。その話は会議が始まる前に何度も説明しただろうとでも言いたげな表情だ。


 するとそこにドアが開く音とともに1人の枢機卿が若い修道士の格好に身を包んだ男を連れて会議室に入ってくる。



「マリウス枢機卿、ここは限られたメンバーだけが集まる秘密会議だ。それを承知の上で君は部外者を連れてきたのかね? 一緒に居るその者は一体誰だ?」


「リュドミラ枢機卿、彼は断罪騎士団に所属する守護聖人です。わかりやすく言えば異世界からの帰還者ですよ」


 帰還者と聞いて枢機卿は一応の話を聞こうとする判断を下した。バチカンの中枢部でも帰還者が持っている不思議な能力は決して軽くは扱えなかったからだ。


「その帰還者がこの席にどのような用件があるのかね?」


「リュドミラ枢機卿、枢機卿会議の部外者の身ではありますがこの場で発言するのをお許しいただきたい。実はつい先程はるか東方で巨大な魔力の発生を感じました。我々帰還者から見てもその膨大な魔力量は優に1人の天使すらも生み出せる途方もない桁に上ります。この件と天使の間の異変に何かしら関係があるというのが我々帰還者の一致した意見ですが、皆さんのお考えはいかがでしょうか?」


「なるほど、それはこの現象の解明に繋がる有力な手掛かりかもしれない。もう少し情報を集めてから何らかの結論が下るだろう。その時にはもちろん君たちにも活躍してもらうよ」


「お聞き届けいただいてありがとうございます」


 そう言い残して帰還者は退出していく。残されたメンバーは彼が残した意見を慎重に吟味し始める。地球の反対側でも感じられる程の魔力が発生したというのはそれだけでもカトリックの総本山としては放置できる事態ではなかったからだ。



「彼の話をどう思う?」


「帰還者には特別な力がございますから、一概に根拠のない戯言とは片付けられませんぞ」


「その通りでしょうな。はるか東方と言っていましたからアジアでしょうな。各地にある教会を通じて何か異変はないか調べてみればその魔力の発生地点がわかってくるのではないでしょうか?」


「それが良いでしょう。ともかくこの件は情報が少なすぎます。もっと様々な情報を集めるのが先決でしょう」


 こうして会議は終了する。そして思わぬ形で彼らが求めていた情報は法王庁にもたらされるのだった。





「東京の教会から異変の報告です。天使の像に大きなヒビが入ったそうです!」


「横浜の教会では8大天使を描いた絵画のうち1人の肖像が黒焦げになったとの報告です!」


「名古屋の教会の神父の前に1人の天使が立って『我はここを去る』と言い残して消えたそうです!」


 本当かどうか怪しいものもあるが、寄せられた報告は全て日本からのものだった。それも同じような話が10数件寄せられて、続々と増えていく気配を見せている。これだけ色々と教会での異変が起こると、慎重な判断を下そうとしていた法王庁も動かざるを得なくなってくる。



「この件に関する調査隊を日本に派遣する」


 ロウソクの異変が発生してから2日後にはこのような結論が下されるのだった。







 

 舞台は日本に戻る。さくらたちが済州島を攻略して戻ってきてから4日後の成田空港・・・・・・



「お姉ちゃん、ここが日本なの?」


「ナディア、やっと安全な国に辿り着いたのよ」


 私はリディア・ロッシュ、年齢は自称15歳、妹のナディアは10歳、私たち2人は亡くなったお母さんが残してくれた僅かな貯金を手にルーマニアから陸路で隣国のハンガリーを抜けて、さらに隣のオーストリアから飛行機に搭乗してニューヨークを経由してようやく日本にやって来たの。色々と事情があって自分の国に居ると狙われる生活が続いて、そのために大好きだったお母さんを失ってしまったのよ。


 だから私は妹だけは絶対に守ると決めて、できるだけ遠い場所を目指して旅立ったの。アテなんか全然なくて、ただただ遠くを目指して着いた先がここ日本だったの。最初はアメリカにしようかと思ったんだけど、なるべくキリスト教の影響がない国が良いと思った結果だったわ。ここで落ち着いて生活できると良いんだけど、どうやって生活していこうか今は途方にくれているの。残りのお金ももうほんの僅かだし・・・・・・



「お姉ちゃん、これからどこに行けばいいの?」


「ナディア、心配要らないわよ。全部お姉ちゃんに任せなさい」


 まだ子供の妹には心配を掛けられないわ。ただでさえお母さんを亡くしたショックが癒えていないのに、これ以上危険な目には遭わせられないから。


 日本で唯一の手掛かりはお母さんが亡くなる前に残してくれた『私に何かあったら日本の神殺しを頼りなさい』という言葉だけ。この言葉ももちろん私が日本行きを決めた大きな理由よ。でも『神殺し』ってなんのことかさっぱりわからないわ。たぶん誰かのニックネームだと思うけど想像するだけでも怖そうな人じゃないの! きっと私たちを怖い顔で睨み付けてくるに違いないわ。


 さて、どうしましょうか・・・・・・ こういう時は誰かに聞くのが一番だけど私は日本語なんか全然知らないし。仕方がないから人目につかない場所でちょっと力を使っちゃいましょうか。



「ナディア、ちょっとこっちに来てね」


「うん」

 

 大切なぬいぐるみを抱えた妹の手を引いて空港のターミナルから外に出ると、あら意外ね! 日本って発展した国だって聞いたけどずいぶん田舎じゃないの。これなら眷属たちが集まり易いかもしれないわね。


 5分くらい歩くと人気が全然なくなって私たち2人だけになるわ。ここなら良さそうだからちょっとだけ魔力を解放しましょう。



「我が眷属たちよ、この場に集まるのです」


 私が声を上げると空には続々と黒い点が浮かんでこちらに集まって来る様子が視界に映るわ。私の声を聞いたコウモリたちが群れなすのを2人で待っていると、周囲の空間が真っ黒に染まるくらいの大量のコウモリたちがやって来たわ。もう一度確認するけどここは本当に日本なのよね。なんだか不安になってくるんですけど。でも不安になっていても仕方がないからコウモリたちに手掛かりを聞いてみましょう。



「汝らは『神殺し』を知っているか?」


 コウモリたちは揃って首を振っているわね。知能が低いから理解できないワードだったようね。それじゃあ質問を変えてみましょうか。



「汝たちは多くの魔力が集まる場所を知っているか?」


 ふむふむ・・・・・・ 高い山に魔力が集まるのね。日本で山といえばやっぱり富士山よね。ルーマニアのテレビでも有名な観光地として紹介されていたわ。



「富士山の周辺に強き者は居るか?」


 なになに・・・・・・ とっても強い人間が大勢い居るって、これは有力な情報ね! きっと神殺しもそこに居るに違いないわね。よーし、向かう先は決まったわ! 富士山目指して出発よ!








 その翌日の富士駐屯地・・・・・・


 やったぜ! ついに俺は2週間ぶりの休暇を勝ち取った! 国防省の分析によれば中華大陸連合は冬が来る前にロシア沿海州地方の攻略を終えようとして全力を傾けているそうだ。あの辺は9月の末になるともう氷点下まで気温が下がるらしいから、戦線を優位に進めている中華大陸連合としても残された期間は僅かしかない。氷点下30度の吹雪の中では戦いにならないだろうからな。おかげでその分日本に手を出す余裕はなくなっているので、副官さんがしぶしぶ俺の休みを認めてくれたわけだ。


 おかげで俺は魔力砲の近くで常に待機する日々から今日1日だけは解放されたのだった。今日はなんと清々しい朝だろうか! そして・・・・・・



「聡史君! 仕度はできた?」


「一応はできているけどこんな早くから出掛けるのか? まだ朝の8時だぞ」


「当たり前でしょう! たった1日しかない休みを有効的に活用するんですからね。さあ行くわよ!」


 美鈴は俺の手を取って宿舎から飛び出していく。今日は美鈴と約束した『済州島攻略のご褒美』を果たす日だった。美鈴のリクエストは『丸1日一緒にお出掛け』というとってもシンプルなおねだりだった。


 ちなみに妹も今日は休みになっている。食堂でいつものように大量の朝飯を食べてから『富士宮焼きそば全店制覇してくる!』と言い残して走って出掛けていった。どうやら市内を自分の足で走り回って片っ端から食べていくつもりらしい。それにしてもたった1日で40何軒の制覇を目指すとは、食に関する考え方のスケールが違いすぎて常人には全く理解し難い行動だ。



「さあ張り切っていきましょう!」


「わかりました」


 テンションが高い美鈴の声に返事をしながら俺たちは黒塗りのワゴン車に乗り込んでいく。目的地は御殿場のアウトレットモールで、今日はまずそこでお買い物をする予定だ。駐屯地は交通の便が悪いので帰還者特権を活用してこうして送迎をお願いしている。



 アウトレットモールに到着すると美鈴のテンションはすでに最高潮だったが、オープン時間までまだだいぶ時間があるのでファーストフードの店でコーヒーを飲みながら待っている。



「聡史君、そういえばカレンの体にいる天使を目覚めさせるために魔力をあげたそうね」


「ななな、なんだ急に」


 あの件に関しては悪いことはしていないぞ! と自分に言い聞かせてはいるものの俺の中でどこか後ろめたい気持ちがあるのだろうか、美鈴から話を振られた俺は完全に挙動不審者になっている。



「何をそんなに慌てているのかしら? もしかして私に隠し事でもあるのかな?」


「か、隠し事なんか何もないぞ」


 不味いぞ! 大魔王様の疑いの目が俺を真正面から見つめている。額にはタラリと一筋の汗が・・・・・・・



「正直に言いなさい!」


「すみませんでした。魔力を流す時に口移しをしました」


 今の俺はコーヒーの容器が載ったテーブルに額を擦り付ける姿で美鈴に頭を下げている。周りに人が居なかったら土下座も辞さない状況に追い込まれている。



「そんなに謝らなくていいわよ。カレンの命が懸かっていたんでしょう」


「事情を聞いていたのか?」


「ええ、本人から聞いたわ」


 素直に白状しておいて良かったよ! すっ呆けようとしていたら美鈴が本気で怒り出す悲劇を生み出すかもしれなかったな。



「ところで聡史君」


「えーと・・・・・・ なんでございましょうか?」


 美鈴の表情がイタズラっぽく変わっているぞ。これは長い付き合いからすると怒っている時よりも怖いかもしれない。どうしよう・・・・・・



「なんで急に敬語になるのよ。それよりも聡史君のファーストキスの相手は誰だったか覚えているかしら?」


「はい、小学生の時の美鈴さんでございます」


「あら、ちゃんと覚えていたのね。まあまあ合格よ」


 良かった、美鈴がにっこりしている。でも大魔王様だからな、これが悪魔の微笑じゃないことを祈るしかないな。



「あれからもう10年、私もファーストキスからずいぶん時間が経っちゃったわ。キスがどんな感じだったかすっかり忘れちゃったのよねぇ」


「はい、その点に関しましては全くの同感でございます」


 いくらなんでも10年前の子供の頃の記憶なんて曖昧になるのが当たり前だ。キスの感触とか言われたって思い出せるわけがない。



「本当にすっかり忘れちゃったのよ。あの頃の甘~い記憶を思い出せる良い方法はないかしら?」


「全く思い付きません」


「良い方法はないかしら?」


「どうすればいいのかわかりません」


「割と簡単に思い出せる方法があるような気がするけど」


「まったく思い付きません」


「何かいい方法はないかしら?」


「もう一度キスさせていただきます」


「まあ! 聡史君がとっても嬉しいことを言ってくれたわ。それじゃあお願いね! 良い感じのムード作りもあなたに任せるから」


「善処します」


 これか! これが美鈴の狙いだったのか! でも考えてみろ、俺は美鈴とキスできて何も損はないぞ! というか俺にとっては得しかしないじゃないか! 美鈴と10年ぶりにキスできるって考えたらなんだかテンションが上がってきたぞ! 幼馴染み万歳だな!


 こうして俺たちはオープンの時間になったアウトレットモールにウキウキ気分で入っていくのだった。




最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は週の中頃の予定です。魔女の配下とバチカンの勢力、更には謎の姉妹たちに主人公たちが絡んでいく展開になりそうです。

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