55 女子会の行方
55話の投稿です。今回も前半はゆるい話の続きですが、最後になってお話が変わってきます。
「私の中に眠っていた天使を呼び覚ますためには信じられない程の大量の魔力が必要でした。だから私は聡史さんにお願いしたんです。18歳の誕生日までに天使が目覚めないと私の魂も一緒に消滅してしまうところだったので」
「なんですって! そんな深い事情があったの!」
思わず声を出してしまったけど、カレンが『聡史は命の恩人』と言っていたのは頷ける話よね。聡史が持っている膨大な魔力が役に立ったんだ。何かを生み出すことに役立ったのは初めてじゃないかしら。今までは専ら破壊が専門だったしね。
「そうだったんだ。それにしても魔力を聡史からもらえるのね。今度試してみようかしら。カレン、どうやったの?」
「その・・・・・・ 最初は手を握ってそこから流してもらったんですが全然足りなくって」
「足りなかった?」
「はい、あとから聞いた話だと10億以上の魔力が必要だったそうで、それで・・・・・・」
「それで?」
「そ、その、とっても恥ずかしかったんですけど、く、口移しで魔力をもらいました」
「「「口移しですってーーー!!」」」
私、フィオ、アイシャ3人の声がきれいに揃ったわ。って、それどころじゃないでしょう! 聡史がカレンに口移しで魔力を分け与えたって言うの? この裏切り者め! 私を差し置いてカレンと・・・・・・ いえ、落ち着きましょう。美鈴、いい? 落ち着くのよ。
自分を宥めるように言い聞かせて私は心を何とか平常心を保ったわ。物凄い努力が必要だったけど。それにしても聡史のヤツは、私に何も手を出さないくせにカレンにはホイホイと口移しで魔力を・・・・・・
ダメダメ、考えるだけで心が暗黒に染まっていきそうだから、ここは深呼吸しましょうか。こんな場所で暗黒大魔王爆誕なんてシャレにならないから。
「美鈴、さっきから表情が色々と変化しているけど、カレンの話を聞いて相当動揺しているみたいね」
「フィオは何の話をしているのかしら? この大魔王がこれしきの話で動揺なんかするはずないでしょう!」
フィオ、余計なことを言ったら舌が動かなくなる術式を組み上げるわよ。この大魔王には不可能はないんだから!
「フィオさん、美鈴さんが動揺しているってどういうことですか?」
カレン、そこはツッコんじゃダメでしょう! わかっていても知れないフリをするのがルールのはずよ!
「美鈴はねえ、幼稚園の頃からずっと聡史が好き、ムグムグムグ・・・・・・」
術式を組み上げるのが間に合わないから、大慌てでフィオの口を両手で押さえ込んだわ。これ以上余計なことを言うんじゃありませんからね!
「なによ! フィオだって聡史と出会った時から夢中だった、ムグムグムグ・・・・・・」
今度はフィオの手が私の口を押さえ込んで来たわ。鼻まで一緒に押さえられて息ができないじゃないの! このままでは埒が明かないからアイコンタクトで頷き合う、これで余計な話はしないという合意が形成されたはず。
「「プハー! 苦しかったー!」」
お互いの口に当てていた手を離すと自由に空気が吸えるようになるわ。はー、息が苦しくって死ぬかと思った!
「結局美鈴とフィオは聡史が好きなんですね」
「「アイシャ! 勝手に話をまとめるなー!」」
「いまさら隠してもムダですよ! 2人の態度を見ていればバレバレですからね!」
バレバレですって! これは心外だわ。聡史に対する気持ちは私の心の中だけにひっそりと隠していたはずなのに。私と同じようにフィオも『何でバレたんだろう?』と不思議そうな顔をしているわ。まあフィオに関して言えば態度があからさま過ぎて誰が見ていても気がつくでしょうけどね。
「アイシャさん、美鈴さんとフィオさんは聡史さんとどのようなご関係なんですか?」
「美鈴は幼馴染、フィオは異世界で知り合って聡史を追いかけて日本に来たんですよ」
「そうなんですか、2人とも私よりもずっと長く聡史さんを知っているんですね。とっても羨ましいです」
「そ、そうよ。私なんかファーストキスの相手が聡史なんだから!」
「美鈴、それは9歳の時の話。子供の頃『駆けっこで1位になった』とか『作文コンテストで入賞した』という話を自慢するのと同じレベルのおままごとの延長」
「ぐぬぬぬ」
フィオの指摘にぐうの音も出ない私、そうよ! 確かに私が無理やりつき合わせたままごとの時のお話ですよ。反論の言葉もありません。それにしてもこうして大人になった今、聡史が私に対してどういう感情を抱いているのか本当に知りたいわ。肝心な部分をいつもはぐらかすんだから。戸籍上はまだ17歳だけど、異世界で暮らしていた3年間を含むと立派な成人なんですからね!
「そ、その・・・・・・ 私は聡史さんに新たな命をいただいたも同然です。あの方を新たな神として一生お仕えするとお伝えしました。この話を母にしたら喜んで認めてくれました」
「カレンに先を越されたわ! 私ももっと積極的に行動するべきなの?!」
「美鈴、そんなに取り乱さないで! ところでカレンのお母さんってどなた?」
「私は神建カレン、母はこの部隊の司令官、神建真奈美です」
「「「なんだってーーー!!!」」」
本日一番の驚愕の発言よね。あの司令官に娘が居たなんて・・・・・・ ちょっと待って! 聡史とカレンの関係はもう司令官公認というわけ? これはグズグズしていられないわね。明日から行動あるのみよ!
「はー、なんだか私たちの秘密が思いっきり暴露されてしまったじゃないの。ところでアイシャはさっきからずっと聞き役だったけど、あなたには気になる男性は居ないの?」
「えーー! なんでそこで急に私に振ってくるんですか!」
フィオ、グッドジョブよ! こうなったらアイシャの話もとことん聞きだしましょう! 秘密は共有してこそ守られるのよ!
「アイシャ、ここには女子しか居ないわ! 私たちだけの秘密にしておくから何でもぶっちゃけなさい」
「とっても恥ずかしいです」
「アイシャ、なんでも聞くから言いなさい」
「そ、その・・・・・・」
私とフィオが2人掛りでアイシャの口を割らせようとしているわ。この感じならあと一息ね。
「さあ」
「さあ」
「えーとですね、この前大妖怪と戦った時に助けてもらって、私の胸がキュンとしました」
ま、まさか! アイシャもそうなの? 確か聡史が救出に行って大妖怪を討伐したのよね。ということは・・・・・・・
「本当に危険な戦いだったんです。魔力の残りが少なくなって身体強化が切れて、敵の剣が何度も振り下ろされてそのたびに吹き飛ばされました。もうだめだと何度も思った私を助けてくれたんです」
ああ、やっぱりそうなのね。乙女の危機に颯爽と現れる白馬の王子様に胸がときめくのは仕方がないわね。
「吹き飛ばされた私の前に立ちはだかって、何度も助け起こしてくれました。本当に素敵ですよね、タンクさん」
「「そっちなのかい!!」」
私とフィオは椅子からズリ落ちそうになりながらも声を揃えてツッコミを入れているわ。最終的に助けた聡史じゃなくって、戦いの最中に何度も危機を救ってくれたタンクだったのね。寡黙でフケ顔だけどアイシャから見れば頼りになる存在かもしれないわね。
「私は小さな頃に父親を亡くしているので、お父さんみたいな感じの人に憧れるんですよね。タンクさんはとっても素敵です!」
タンク、喜びなさい! あなたに春が訪れようとしているのよ! アイシャはこの大魔王が保障するとってもいい子ですからね。跪いて迎えるがいいわ。それにしても良かったわ、もしアイシャの口から『勇者さんが好きです』なんてフレーズが飛び出したら、その場で説教が始まるところよ。アイシャの人を見る目はまあまあ合格点ね。
「それじゃあ、明日も早いから寝ましょうか。片付けは私がやっておくわ」
「みんなでやった方が早いんじゃありませんか?」
あらあら、カレンもなかなか良い子ね。でも心配無用よ! この大魔王が魔法でチョイチョイっと片付けてしまいますからね。
「カレン、美鈴に任せればいいのよ。こういう時のためにわざわざ『お片づけ魔法』を開発したんだから」
「ええ! そんな魔法があるんですか?」
「ええ、簡単よ。それじゃあ見ていなさい。クリーン!」
その場にある食器類が一瞬で元通りピカピカになるわ。これはホテルからの借り物だからあとで宅配便で送ればオーケーよ。一旦アイテムボックスに収納しましょうか。
「これでもうお仕舞いですか?」
「あとはテーブルと椅子を元の場所に戻せばいいわね」
アイシャも初めて目にした魔法にビックリしているわね。大魔王の魔法は便利なのよ。夜も更けた時間にこうして女子会も終了して全員が各自の部屋に戻っていくのでした。
舞台は中部ヨーロッパ、鬱蒼と茂る黒い森の中に人知れず佇む小さな城・・・・・・
私はサン・ジェルマン、中世の時代からこのヨーロッパの歴史を見続けてきた生き証人。現在はこの森に住む『偉大なる魔女』パウリナ・ホーエンハイム様に仕えている。今宵、魔女様からのお呼び出しでお部屋に向かっているところだ。
「パウリナ様、急なお呼び出しとはいかがなされましたか?」
「サン・ジェルマン、東方にて巨大な魔力の迸りを感じた。よもや我がかつて召喚した天使が目覚めたのではあるまいな?」
「なにぶん遠き地の出来事でありますから俄かにはお答えできませぬ。ご許可がいただけますれば手の者を送り込んで調査いたします」
「あのような巨大な魔力を発する存在が他に居ようとは考えられぬ。調査などと生易しいことは言わずに我の元に取り戻してまいれ」
「しかと承りました。配下の吸血鬼共を数人送り込みましょう。私もあやつらに同行いたします」
「よい、あやつらを使って憎き『神殺し』を血祭りに挙げてまいれ」
「それでは早速手配をいたします」
魔女様からの命令を受けて私は城の地下に降りていく。そこにはバンパイアの王が棺の中で封印されている。我が主のパウリナ様に敗れてこの場に30年間閉じ込められているのだ。封印に変化がないのを確認してから、吸血鬼共が収容されている部屋に向かう。そこには元から吸血鬼だった者や異世界に召喚されて吸血鬼の称号を得た者がまとめて収監されている地下牢も同然だ。
「闇から生まれた者たちよ、魔女様の格別なるご配慮で束の間の自由を与えるぞ。出てくるがよい」
部屋の鍵を開くと吸血鬼共がゾロゾロと姿を現す。全部で20人、そのうち13人は異世界からの帰還者だ。なぜかこの国の帰還者たちは召喚された世界で『吸血鬼』の称号を得て戻ってきた。やつらは政府の捜索の網を逃れて全員がここに隠れるようにして住んでいる。
「サン・ジェルマン様、我らの王はご無事なのだろうか?」
「相変わらず魔女様のお力で封印されている。まだ生きてはいるだろう」
王を人質に取られているためにこやつらは我らの言い成りになるしかない。さもないと王の命が魔女様によって絶たれてしまうのだ。吸血鬼の世界では血脈こそが最重要視されている。何を置いても王の血脈を保つことこそが絶対なのだ。これは帰還者たちも同様の考えらしくて、自らを犠牲にしてでも王に忠誠を尽くす気でいる。
その分私としてはこの者共を操り易い。王の身柄さえ抱えていれば素直に言い成りになるしか残された道はないからだ。
「魔女様の命によって半数は私と共に日本に赴く。魔女様の宿敵『神殺し』を亡き者にして奪われた天使を取り戻すのだ」
「魔女様の命とあらば従いましょう」
こうして私は吸血鬼10人を従えてはるか東方の日本に旅立つのだった。
同じ頃、バチカンのサンピエトロ寺院。信者や観光客が誰も近付かない奥まった地下の部屋では・・・・・・
私はベロニカ・ジュリアーニ、サンピエトロ寺院にお仕えする修道女です。私の仕事は天使の間に1日に2回ロウソクの光を灯すこと。この寺院ができたときからずっとその火は灯っているそうです。今日もお仕事ですから忘れずに決まった時間に天使の間に向かいます。
大きなロウソクが8本入ったカゴを持ってドアを開くと、天使様の名前入りの台座にいつもと変わらずにオレンジ色の光が灯っています。でもちょっと気になることがあるんです。ここ最近何日かミカエル様の炎がずいぶん弱々しくなっているんです。天使様でも元気をなくすことがあるのでしょうか?
「ミカエル様、早く元気になってくださいね」
僭越だとは思いながらもそう言いながら、古いロウソクに灯っている火を新しいロウソクに移します。うーん、やっぱり他の天使様の炎と比べると光が弱いですね。どうしたのでしょうか?
その他の7人の天使様のロウソクも取り替えて、私はしばらくウットリとした気持ちでその炎を見つめます。ここで炎を見ているとなんだか天使様が近くに感じられてその感覚がとっても好きなんです。私にも天使様のご加護があるといいな。
おや、ミカエル様の炎が大きく揺らいでいますね。一体どうしたのでしょうか? もう少し様子を見ていましょうか。それにしてもおかしいですね、この部屋は地下にあって風が入り込む場所なんかないのに、なぜ炎がこんなに揺らいでいるのでしょうか?
そしてしばらくして炎は落ち着きを取り戻しました。でもどうなっているのでしょうか? 他の天使様はオレンジ色の炎を灯しているのに、ミカエル様のロウソクだけは青い炎なんです。何か良くないことでも起こったのでしょうか? なんだか不安になってきました。
こうして私はこの不思議な現象を上司の修道女に報告しました。まさかバチカン中が大騒ぎになるとは知らずに・・・・・・
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は明日の予定です。
魔女の動きが気になるところですね。大騒ぎになるバチカンの方もどうなることでしょうか? 次話はたぶんそんな感じの話になるのかな・・・・・・




