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53 退院と新しい仲間

お待たせしました、53話の投稿です。今回はアクション的な見せ場はありません。能力者部隊のマッタリとした日常風景です。ゆる~~い気持ちでお読みください。

 出撃していた妹と美鈴が帰ってきた翌日の朝食の席で、俺は大魔王様と5日ぶりの再会を果たす。昨夜は司令官さんに呼び出されて彼女とは入れ違いになって顔を合わせなかったんだ。



「美鈴、おかえり! 大活躍だったそうだな」


「さくらちゃんに比べれば大したことはしていないわ。それよりも聡史君と約束したご褒美が楽しみなんですけど」


「お手柔らかに頼む」


「そうねぇ、今度のお休みの日は予定を空けておいてね」


「うーん、それはどうだろうな。副官さんに『ミサイル防衛の目処が立つまで休暇はなし!』と言われているんだ」


「何ですって! いつまで休みがないのよ?」


「それは司令官に聞いてくれ」


 美鈴がガックリと肩を落としているところにまだ眠そうな表情のフィオがやって来る。昨日魔力砲の最終実験を終えて相当疲れた様子だったな。



「あら、美鈴! お帰りなさい。どうしたの? そんな不機嫌そうな顔をして」


「聡史君がしばらく休みをもらえないって聞いたのよ。どういうことなのかしら?」


「ああ、その件なら大丈夫よ。私と美鈴ももうちょっとしたら休暇返上で魔力砲の2号機の作製に取り掛かるから」


「なんですって! そんな話は聞いていないわよ!」


「昨日決まったから諦めなさい。私1人じゃこれ以上は限界なんだから」


 美鈴が再びガックリと肩を落とした脇では妹が一心不乱に朝食を取っている。その更に隣には天狐がキツネうどんにウットリした表情を浮かべる。何でも昨夜は遅くなったので妹の部屋に泊まったそうだ。キツネの姿に戻って妹にモフられて玩具にされたらしい。大妖怪なのに完全に縫いぐるみの代わりだよな。



 そんな日常が戻ってきた俺たちの所に東中尉がやって来る。



「西川訓練生、さくら訓練生、お疲れ様だったね。2人とも済州島攻略では大活躍だと聞いたよ。2人は今日1日休暇扱いで休んでもらうよ。それから午後にはアイシャ訓練生が戻ってくる予定だ」


 そうか! アイシャは歩けるようになったんだな。早く元気な顔を見たいもんだ。それにしても妹と美鈴が羨ましいぞ。俺は大嶽丸を討伐したのに翌日もしっかり働かされたんだからな。


 それだけ伝えると中尉は忙しそうに去っていく。しまった! 俺の休暇の件も中尉に掛け合っておけば良かった! どうせ無駄だろうけど・・・・・・



「ねえ聡史君、アイシャはどこに行ってるの?」


「ああ、美鈴は出撃中で知らなかったんだよな。実は・・・・・・」


 俺は奈良での一件について掻い摘んで美鈴に説明する。留守中にあった大きな事件だったからな。何よりアイシャが怪我を負ったし。



「そうだったの! 日本は平穏無事というわけではなかったのね。でもアイシャが元気になって良かったわ。そうだ! 今日1日私は時間ができたからアイシャの快気祝いをしましょうよ! フィオ、このアイデアはどうかしら?」


「まあ、楽しそうね! 時間は勤務終了後ね」


「そうだな、ささやかなパーティーみたいにできるといいな」


「準備は全部私に任せてくれれば問題は無いわ。さくらちゃん、今夜アイシャの快気祝いをするわよ」


「んん? それって美味しいの?」


「ご馳走をいっぱい用意しておくから」


「うほほー! なんだか楽しみになってきたよー! ポチとその辺を走り回ってお腹を空かせておくよ!」


 妹に付き合わせれる天狐も気の毒だな。でもそれが飼い犬の宿命だと思って頑張ってくれ。それにしても妹の近くに居ると天狐は実に良い表情をしているな。心から嬉しそうだ。これも『獣神』の称号がもたらす効果なんだろうか。異世界の獣人たちも妹の顔を見るだけでテンションがマックスを振り切っていたからな。




 朝食が終わってその場で朝礼が始まり副官さんが全体の前に立つ。いつもは事務的な伝達事項が多いんだけど、今日はプラチナ色の髪の美人が横に立っている。言わずと知れたカレンがそこにいるのだった。



「人員の配置換えを発表する。事務官だった彼女は本日付で特殊能力者の実戦部隊に配置換えとする。コードネームは『エンジェル』だ。当面は帰還者と一緒に活動してもらう」


「エンジェルです。どうぞよろしくお願いします」


 それにしてもコードネームってあんまり役に立っていないよな。部隊の内部では殆ど名前で呼ばれているし。たぶん外部に出る時に名乗るんだろうな。でもやっぱり『スサノウ』とか『ルシファー』って言うのは相当恥ずかしいぞ。ところで『エンジェル』というネーミングもかなりベタだよな。一体誰が考えているんだろう?



 そしてカレンは東中尉に連れられて俺たちの居る場所にやって来る。一瞬目が合うと彼女はニッコリと俺に微笑み掛けてくれたよ。カレンの母親の存在がなければこんな美人と仲良くなれて言うことなしなんだが・・・・・・ 


 例えてとして適切かどうかわからないが『駅近で日当たり良好、間取りは4LDKで家賃3万円、その代わり毎晩幽霊が出ます』と言う物件に手を出すのはさすがに勇気が要るだろう。そして司令官さんは幽霊なんか目じゃない程おっかないんだ。



「帰還者の諸君、こちらが今副官から紹介にあったエンジェルだ。もうこの部隊に勤務して2年目だから君たちよりも先輩だね。ただし訓練施設などは使用経験がないから色々と教えてあげてほしい」


「はじめまして、皆さんどうぞよろしくお願いします。聡史さん、色々と教えてくださいね」


 ちょっと待とうか、カレンさん! なぜいきなりこの場に爆弾を放り込むのかね? ちょっと小1時間お話をしようか。見ろ、美鈴とフィオが不信感いっぱいの目で俺を睨み付けているじゃないか。微妙な沈黙の一瞬が流れてから美鈴がカレンに話し掛ける。



「始めまして、私は美鈴です。ところであなたは聡史君と知り合いなんですか?」


「色々と込み入った事情があってここではお話できません。でも聡史さんは私の命の恩人なんです」


「そうなの・・・・・・ まあ事情があるなら仕方が無いわね。そうだわ! 今夜はアイシャの快気祝いとエンジェルの歓迎会を兼ねて盛大なパーティーにしましょう。もちろん参加してくださいね。主役なんだから」


「お邪魔してよろしいのでしょうか?」


「遠慮する必要はないわ。あなたの話とか聡史君との関係とか色々と聞きたいし」


「はい、それでは遠慮なく参加させてもらいます」


 こうしてカレンが俺たちの仲間入りした。それにしても美鈴が『ルシファー』でカレンが『エンジェル』か。この2人が仲良くやっていけるのか今後がちょっと不安になってくるな。何しろ美鈴には初対面の勇者さんに向かって『ひれ伏しなさい』と言い放った前科がある。 



 こうして朝の用件を済ませた俺たちはそれぞれが本日の予定に従って散っていく。俺とフィオは魔力砲の2号機の車体と砲身が出来上がるまでしばらく時間が掛かるので、今日のところは訓練場に出向いて行く。美鈴は買出しで駐屯地の外に出掛ける支度をするそうだ。妹は天狐を連れてその辺を適当にブラブラするらしい。カレンは今日から宿舎に住むので引越し荷物の準備をしに一旦自宅に戻っていく。










 昼過ぎにヘリに乗ってアイシャが戻ってきた。ローターの音を聞きつけた俺とフィオが出迎えると元気そうな表情で手を振っている。まだ一番傷が深かった左腕には包帯を巻いたままだが、日常生活に支障はなさそうだ。



「元気になって帰ってきました!」


「アイシャ、お帰りなさい。大変な目に遭ったわね」


「アイシャ、退院できて良かったな」


「聡史には本当に危ないところを助けてもらって感謝しています」


「気にするな、仲間なんだから助けるのは当たり前だ」


「アイシャ、傷が治るまでは安静にするのよ。そうだ! 今夜アイシャの快気祝いと新しい仲間が加入した歓迎会を兼ねたパーティーを開くからアイシャも絶対に参加してね」


「わー! 私のためにありがとうございます。喜んで参加します!」


 うん、やっぱりアイシャの元気な声を聞くと安心するな。元々の性格が明るくて活発なキャラだから、アイシャが1人居ると雰囲気がぐっと明るくなるんだよな。俺と一緒になって妹にツッコミを入れる貴重な存在だし。


 アイシャはそのまま東中尉に付き添われて自室に戻っていく。もう1人で普通に歩けるんだけど中尉さんは面倒見が良いからな。こうして俺たちを陰から支えてくれる中尉さんにはいつも感謝しています。





 夕方になると天狐を連れた妹が戻ってくる。なんだか天狐がボロボロになっているぞ。一体何があったんだ?



「暇だったからポチとずっと組み手をしていたんだよ!」


「主殿はまことに強きお方なり。我は心底感服いたしました」


 おいおい、天狐! お前は相当タフだな。妹の組み手に付き合わされて自分の足で帰ってくるだけでも大したものだぞ。そういえば体に傷ができても1時間くらいで治っているんだよな。さすがは大妖怪だけのことはあるな。



「兄ちゃん、パーティーは何時頃から始まるの?」


「さっき美鈴が買出しから戻ってきて『7時から始める』と言っていたぞ」


「主殿、我は一度祠に戻って召替えたいですぞ」


「うーん、そうだね。一度ポチの家に戻ろうか」


 どうやら天狐もパーティーに参加するらしい。と言うよりもその気満々だな。妹の側から離れる気がないように映るぞ。でもその分俺にとっては面倒事が減るから大歓迎だ。天狐よ、当分妹のワガママにどうか付き合ってくれ。



 


 7時が近づいているので俺は図面演習室に向かう。美鈴が施設課で手続きをしてこの部屋を借りていた。ドアを開くと部屋の中央にテーブルが置かれて、その上にはピザやサンドイッチ、唐揚げなどのお馴染みのパーティー料理だけでなく、ローストビーフの大きな肉の塊がデンと置かれていたり、夏らしくカルパッチョやトマトとモッツァレラチーズのサラダなどが所狭しと並んでいる。更に妹が食べる量を考慮して物凄い勢いで大量の和食や中華料理なども用意されているのだった。


 こじんまりとしたパーティーを予想していた俺はこの圧巻の光景にしばし言葉を失っている。ようやく再起動してから飲み物用のグラスを並べている美鈴に声を掛ける。



「なんだか凄いパーティーだな! この料理の量だと30人くらい集まる規模だろう」


「1人でたくさん食べる人が居るから用意が大変だったわ」


「休みの日に頑張ってくれてありがとうな」


「気にしないでいいわ。今日は色んなお祝いだから楽しくやりましょう」


「それにしても凄い料理が並んでいるな」


「ネットで探した有名なホテルでテイクアウトの料理を準備してもらったのよ。私はアイテムボックスに入れて運んだだけ。テーブルの上には保温結界が張ってあるから、出来立ての暖かさを保っているわよ」


 さいですか、魔法っていうのは色々と便利だな。美鈴のレベルに達すると魔法でできないことが無さそうだ。そうだ! 有名ホテルっていうことは費用も結構掛かっているよな。



「費用は大丈夫なのか?」


「魔石を売った代金の1億が大して使うアテも無いままに眠っているから今日は私の奢りよ」


「それじゃあ次に何か催しがあったら俺が支払うよ」


「そうしましょう。さあ、早くみんな集まらないかしら」


 2人で待っているとパーティーの参加者が三々五々集まってくる。主役のアイシャとカレンも着席して待っている。勇者さんとタンクも招待されてやって来たよ。最後に着替えを終えた天狐を連れた妹が目を輝かせながら部屋に入ってくる。テーブルの上から視線が離れないぞ。そんなに見ていなくても料理は逃げ出さないから安心しろ!



「それでは東中尉、乾杯の音頭をお願いします」


「私でいいのかい? 呼んでもらった立場でなんだか申し訳ないな」


 美鈴から指名された中尉が頭を掻きながらグラスを持って立ち上がる。中尉には大変申し訳ないが、駐屯地の内部であるのと中尉以外の参加者が未成年という点を踏まえてグラスの中身はソフトドリンクだ。



「それではアイシャ訓練生の退院とカレン特士の加入を祝して乾杯!」


「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」


「うほほー! ご馳走を食べまくるよー!」


「主殿、我もご相伴に預かります」


 妹がテーブルの料理をこれでもかというくらいに大量に皿に載せて自分の前に置いて食べ始める。その隣で天狐は山のように積まれた稲荷ずしを見る目がハートマークになっている。他にもたくさん料理があるのに一切見向きもしないで稲荷ずしを食べている。本当に安上がりだな。



「美鈴ちゃん! お肉がいっぱいほしいよ!」


「はいはい、ちょっと待っていてね」


 妹が目をつけたのはテーブルの中心に置かれたローストビーフの塊、5キロくらいの巨大なやつだ。料理などからっきし出来ない妹は美鈴が切り分けるのを待ちきれない様子だ。



「はいどうぞ、さくらちゃん、お肉だけじゃなくて野菜も食べるのよ」


「うほほー! 待ってました! 私にはまずは肉が必要なんだよ! 野菜はそのあと! でもピーマンだけは絶対に食べないからね!」


 何を偉そうに言い切っているんだよ! 好き嫌いしないでちゃんと食べなさい! 


 こうして和やかに今宵のパーティーが始まるのだった。






最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は週の中頃を予定しています。もう1話今回のゆるゆる話の続きがあって、その次から再び色々と始まる予定です。どうぞお楽しみに!

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