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52 母との対面

お待たせいたしました、52話の投稿です。駐屯地に戻ってきた司令官に呼び出される聡史、そこで語られる真実とは・・・・・・

「主殿! お帰りをお待ち申し上げておりましたぞ!」


 キツネうどんを食べ終わってソワソワしながら待っていた天狐が椅子からガバッと立ち上がって妹に駆け寄ろうとする。喜色満面とはこんな様子を指す言葉なんだろうな。でも止めておけって! 腹ペコの妹は見境がなくなっているから危険だぞー。



「主殿ーーー!」


「ご飯を寄越すのだーー!」


 2つの声が交錯した結果、天狐は妹がダッシュする勢いに跳ね飛ばされてビタッと天井にへばり付いた。そしてその体が重力に導かれてゆっくりと落下していく。


 ドンガラガッシャーーン! 下にあるテーブルを薙ぎ倒しながら天狐は顔から床に着地しているよ。ここまで足蹴にされると飼い犬とはいえ哀れになってくるな。そして妹はそんな天狐の姿など全く目に入らないようで、カウンターから受け取った2人前の夕食をテーブルに置くと猛然と食べ始めている。



「ふー、いつものように美味しいご飯だねぇ! さあお代わりをしようかな! おや? ポチは私の足元でで何をしているのかな?」


「主殿、お帰りをお待ちしていました」


 天狐は天井に吹き飛ばされてから床を這いずって食事をしている妹の足元まで移動していた。なんという見上げた飼い犬根性だろう。身も心も捧げる忠犬だな。



「なんだそうなんだ。それよりもお代わりしに行くからポチもキツネうどん食べる?」


「これは有難き事! ご相伴に預かりますぞ!」


 今度はガバッと立ち上がっているよ。久しぶりに妹と一緒に食べる今夜のキツネうどんの味はさぞかし格別なんだろうな。それよりも妹よ、最初に天狐が居ることに気付いてやれよ! 夕食に目が眩んで吹き飛ばしたのはお前だからな。






『トゥルルーーーー』


 おや? 電話の着信音がどこかから聞こえてくるぞ。誰かと思ったら俺の隣に座っているカレンのスマホが鳴っている。



「はい、カレンです。あっ、おかえりなさい! えっ、今から・・・・・・ はいそれじゃあ一緒に行きます」


 通話を終えたカレンは俺の顔を見る。



「聡史さん、今から母が話をしたいそうです。一緒に司令官室に行ってください」


「えーと、それは絶対に従わないといけないのかな?」


「はい、司令官命令だそうです」


 何で司令官命令を娘を通して伝えるんだよ! 公私混同もいいところだろうが! いや待ってくれ! カレン、俺の右手を引っ張るな! まだ心の準備が丸っきり出来ていないんだから! せめて遺言だけでも誰かに伝えておかねば・・・・・・


 だが結論から言って俺はカレンの勢いに押されるようにして司令官室に向かう通路を彼女と一緒に歩いている。カレンはスキップをするような軽い足取りなのに、俺は重たい足を引き摺るように向かっているよ。経験はないけど、彼女の妊娠が発覚して両親に初めて挨拶に行く時ってこんな感じなのかもしれないな。彼女の父親から殴られるのを覚悟して・・・・・・ みたいな。いや、それよりも深刻かもしれないぞ。あの司令官が相手となると、俺の場合はリアルに生命が危機に晒されるからな。



「聡史さん、浮かない顔をしていますけど、どうしたんですか?」


「いや、だって俺からすると司令官っておっかないだろう」


「そうですか? 私にとってはとっても優しい母親ですよ」


「そ、そうなのか」


 そりゃあ浮かない表情にもなるって! 娘には優しいってことは口移しなんかやらかした相手に対して鬼のような形相で怒りをぶつけるかもしれないぞ。これは異世界でも経験がないレベルの大ピンチだ。


「大丈夫ですから安心してください。母に私の中で天使が目覚めた話をしたらとっても喜んでいましたから」


「えーと、確認だけど、口移しで魔力を流し込んだなんていう話は?」


「もちろん全部話しました」


 オワターー! 絶対に殺されるに決まっている。カレンは自分の母親だから無邪気にしているけど、俺はもうこの場から国外にでも逃げ出したい気分だぞ。



 


 そしてついに俺は運命が待ち受けるドアの前にやって来てしまった。緊張で体が小刻みに震えているぞ。こんな経験は生まれて初めてだ。



 カレンがドアをノックすると中から『入れ』という声が聞こえてくる。カレンに手を引かれて俺が中に入ると司令官がソファーに座って待っていた。いつも表情を変えない人だけど今日はなんだかいつもに増して厳しい表情に見えてくるな。



「お母さん、お帰りなさい」


「ああ、今帰ったばかりだ。カレンも無事でよかったな」


「はい、全部聡史さんのおかげです。こうしてまたお母さんと会えて良かったです」


「そうだな。さて楢崎訓練生、今回カレンの体に眠る天使を目覚めさせて、命を救ったことに母親として感謝する」


「はあ、と言われましても俺も訳がわからないうちに結果的にこうなったというだけですから」


「いいえ、本当に聡史さんは私のかけがえのない人です。何しろ私の新しい神様ですから」


 カレン、ここはややこしい問題に触れずに早く退席したいんだ。そんな風に話を思いっきり盛らないでくれ!



「どうやら娘にとってお前はもう無くては為らない存在のようだな。それではこの子が生まれた経緯をざっと説明しておこうか」


「はあ、聞きます」


 下手に逆らえないから大人しく聞くしかないな。それにしても経緯ってなんだろうな?



「今から約19年前の話だ。私は異世界から帰還したばかりで、当時の自衛隊の秘密任務に当たっていた。その時に上官から『ヨーロッパの魔女が天使の魂を降臨する儀式をおこなうから、これを阻止しろ』という命令を受け取ってルーマニアに赴いた」


 なるほどね、カレンが話してくれた魔女のことだな。ちょっと興味が湧いてきたぞ。なんだか歴史の表舞台には絶対に現れない隠された話みたいだ。



「この件の話の出所はCIA辺りだろうな。考えてもみろ、天使の力を個人で所有したら国家権力など簡単に引っくり返るだろう。アメリカはそのような行為を断じて認めないはすだ。だがその魔女というのは米軍も何度も煮え湯を飲まされた相手でとても彼らの手には負えなかった。そこでこの『神殺し』に依頼が回ってきた」


 そうか、米軍でも手に負えないくらいの相手だったんだ。それにしてもこの司令官は当時からその世界では相当な有名人物だったんだな。帰還者だから常識外の戦闘力を持っているのは当然だからだろう。そうだ、帰還者で思い出した! あの件もついでに聞いてみよう!



「司令官、その魔女というのは帰還者という可能性は無いですか? 3人が出撃している間に俺は奈良で『大嶽丸』という大妖怪を討伐したんです。そいつの話を聞いたらどうも平安時代に異世界に召喚された帰還者の成れの果てでした」


「ほう、それは面白い話だな。その魔女、名はパウリナ・ホーエンハイムという。ヨーロッパの著名な錬金術師パラケルススの孫娘と伝えられて、600年を生きる魔女と囁かれている。もしその魔女が帰還者だったら普通の人間には到底考えられないその長い寿命も肯ける話だな」


 確かに異世界のエルフなんか500歳とか当たり前だったな。何らかの寿命に関する秘術でも手に入れたとしたら、地球に帰還しても長命でいられるかもしれないぞ。



「話はどこまで進んだかな? ああそうだ、私が依頼を受けたところまでだな。ルーマニアに潜入した私はパウリナが天使召喚の儀式を行っている最中を強襲して、教団の連中を皆殺しにしてから天使の魂を宿した受精卵を強奪して日本に戻ったんだよ。パウリナにはしこたま魔力弾を撃ち込んでやったが、あいつはしぶといからきっとまだ生きているな」


 えーと、考え方の基本が俺の妹と瓜二つだな。司令官さんの方が先に生まれたから、それをモデルに俺の妹が作られたと言われたら俺は絶対に信じるぞ。いや、これこそが真実に違いない!



「受精卵は専用の保管容器に入っていたから1週間くらい保存が出来た。日本に戻って私は考えたんだ。天使の魂を宿した子供というのはどんなものだろう? ってな。幸い性別でいうと私は女だ。自分の子宮を使ってこの子を受精卵の段階から育てたんだ。当時私は天涯孤独の身だったから家族がほしかったというのもあるがな」


 興味だけで体外受精で妊娠しちゃったんですか! さすがにぶっ魂消るな、この司令官のやることは。でも家族がほしかったというのはちょっと肯ける話だな。俺にも妹がいる・・・・・・ やっぱりいいか、あやつだけで今の俺は手一杯だ。もしもう1人あんなのが側に居たら、俺はツッコミだけで過労死するだろう。



「本当はそのまま消え去る運命だった私をお母さんは生んでくれました。だから遺伝子的には繋がっていなくても私を生んでくれた本当のお母さんなんです!」


 ああそうか、それでカレンは『返しきれない恩がある』と言っていたのか。確かに司令官さんの行動には驚くけど、生んでもらった立場のカレンからすると感謝するよな。



「という訳でカレンは私が自分のお腹で育てた紛れも無い娘だとわかってもらえたか」


「はい、なんだか物凄い裏話が隠されているんだと理解しました」


「この子は外見はまるっきり日本人には見えないから、名前は『カレン』にしたんだ。これなら日本でも外国でも通用するだろう。もっとも本人は一歩も日本から出た経験が無い根っからの日本人だけどな」


「はい、私の国は日本ですから」


 確かのこの外見で『花子』とかじゃ、それはネタですか! ってツッコミたくなるよな。その点カレンという名前は凄くしっくり来るな。



「さあて、その私にとって目に入れても痛くない娘にずいぶん香ばしいことをしてくれたそうじゃないか」


「いえ、あれは命が懸かっている緊急事態ですから、人工呼吸と同じものととらえていただきたくですね」


「ええー! 聡史さんはあれを人工呼吸扱いするんですか! 男の人とあんなことをしたのは初めてでとっても恥ずかしかったのに!」


 カレンさん、待ってください! 事前に何度も『キスじゃないからな!』って念押ししたでしょう! それを今更・・・・・・ ダメだ! いくら弁解したところで司令官さんが睨み付けているよ。



「楢崎訓練生、私の娘に対する責任をどうするつもりかと聞いているんだよ」


「せ、責任と言われましても・・・・・・」


 俺は答えようが無い司令官さんの詰問にしどろもどろになっている。責任を取れって結婚すればいいのか? 待て待て、そんな一生の問題を軽々しく決められないだろうが。



「お母さん、安心してください! 私はもう聡史さんに一生ついていくと心に決めていますから!」


「そうか、ならば楢崎訓練生もカレンの気持ちに応えるべきじゃないのか? どうなんだ?」


 カレンさん、なんだか話が大幅に変更されている気がしますよ! 『新たな神としてお仕えします』という気持ちは受け取ったけど、なんだかもう結婚相手のような言い方じゃないですか! どうかそこまで思い詰めるのは勘弁してください。



「えーとですね、この件に関しましてはもう少し本人同士でよく話し合ってから結論を出したいと思います」


「そうか、まあいいだろう。取り敢えずはお前たちの気持ちに任せるとしよう。それから天使が覚醒した件を嗅ぎ付けた様々な方面がカレンを狙う可能性がある。私が常に一緒にいるのは無理だからお前がカレンを守ってくれ。一生な」


 司令官さん、それってソフトな脅迫ですよね。特に最後の一言は何ですか? 一生面倒を見ないといけないんでしょうか? まるでヤ○ザの車に傷を付けた気が弱いドライバーの立場だよ。



「私は一生聡史さんに守ってもらえるんですか! それはとっても嬉しいです!」


「カレン、一旦落ち着こうか。その件を含めて明日改めて色々と話をしよう」


「はい、聡史さんとのお話ならいつでも大歓迎です!」


 カレンはとっても嬉しそうだが、俺はなんだか重責を背負わされた気分だよ。ああ、断っておくがカレンが嫌いというわけじゃないんだぞ! ただ話の展開が速すぎて俺が及び腰になっているだけだ。まだ出会ってから2日目だし。それにこんな話を軽々しく美鈴やフィオに打ち明けようものなら・・・・・・ 駐屯地が内戦さながらの様相を呈するだろうな。



「そうだ、カレンは後方事務から能力者の部隊に配置を換えておくぞ。明日から以前のように宿舎に寝泊りしてくれ」


「はい、お母さん! 聡史さん、明日から24時間ずっと一緒ですね!」


 カレン、頼むからそんなに心から嬉しそうな顔をしないでくれ。波乱の予感しか感じないだろうが!



「楢崎訓練生、わざわざご苦労だった。明日からカレンをよろしく頼んだ」


「聡史さん、どうぞよろしくお願いします」


 どうしてこうなる! という重たい気持ちを抱えながら一礼して司令官室を出て行く俺だった。


最後までお付き合いいただいてありがとうございました。なんだかカレンの登場とともにこの物語に欠けていたラブコメ要素が漂い始めました。果たしてその行く末は・・・・・・


次回の投稿は明日を予定していますが、執筆の進行具合からいってちょっと厳しいかもしれません。明日が無理な場合は水曜日になりますのでご承知おきください。

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