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48 蹂躙される戦場と大魔王

お待たせしました、48話の投稿です。大妖怪討伐は一段落して、お話は再び済州島に出撃している3人に戻ります。

 日本で妖怪騒動が起きていたことなど何も知らない済州島では・・・・・・



「うほほー! 戦車と戦うのは初めてだから張り切ってバンバン片付けちゃうよー!」


 なんだか登場するのが久し振りのような気がするね。忘れられていると困るから自己紹介するけど私はいつも明るく元気で超チャーミングなさくらちゃんだよ! 余計なことは言わなくていいと思ったやつはあとで屋上に呼び出すからね!


 今私が何をしているかって? 敵の基地に向かって移動していたら戦車がこっちに向かってくる音が聞こえてきたんだよ! だから迎え撃つために大急ぎでで車を飛び出してきたところだよ。せっかくの獲物を司令官ちゃんに取られるわけにはいかないからね!


 戦車にビビッていないかって? あんな動きの鈍い箱は私の目から見ればちょっと頑丈なまとみたいなもんだよ。攻撃力は高そうだけど私の敵ではないね。


 それにしても今日は朝からいい感じに動き回っているよ! なんだか異世界にいた頃を思い出すね。あの頃は毎日が魔物や人との戦いの連続だったから目を覚ますと体力全開で動き回っていたんだよ。ここ最近は訓練が多くて退屈だったからこんな機会は気晴らしにはちょうどいいね。遠足気分で思いっきり羽を伸ばしているよ!


 あーあ、早くお昼ご飯の時間にならないかな。でもこうしてご飯の前に軽く運動しておくと美味しくいただけるからね。いっぱい体を動かして今日のお昼も美味しく食べるよ! もちろん戦車も美味しくいただくつもりだからね!



 キャタピラーがアスファルトを削るガラガラという音がずいぶん近付いて来たね。敵がどのくらいの規模で向かってきているのか確認しておこうかな。それっ!


 ホップで地面を蹴り付けて、ステップで近くの家の屋根に飛び乗って、ジャンプで5階建てのビルの屋上に華麗に着地を決めたよ! この程度は私の動きからすると本当の初歩だからね。でも良い子は決してマネをしちゃだめだよ! 大概の人は家の屋根にジャンプしようとして壁にぶち当たるのがオチだからね。獣神の動きをマネようなんて怪我の元だよ!



 ビルのフェンス越しに下を覗くと・・・・・・ うほほー! こりゃ大漁だね! 


 戦車を先頭にして装甲車と兵員を乗せた輸送トラックが合計50台くらい無人の道路を走っているよ! でも先頭の戦車の足が遅いから50キロくらいしか出ていないみたいだね。一番防御力が高い車両を前面に押し出して進もうという気持ちはわかるけど、どっち道きれいに片付けられるんだから順番なんて関係ないのにね。


 ああそうだった! 兄ちゃんから教えてもらったから私も一通りの現代兵器の知識は持っているんだよ。あのアンテナがいっぱいくっついている小型の車両が戦闘指揮車だよね。本当は頭を真っ先に潰すのが鉄則だけど今は後回しだね。私が狙いをつけているのは兵員輸送車両の群れだよ。ホロ付のトラックが全部で30台くらいあるのかな?


 だって中から歩兵が出てきたらいちいち掃討するのが面倒になるでしょう。せっかくひとまとめで車両に乗り込んでいるんだから、そのまま片付けるのが一番手っ取り早いんだよ。ハチを捕まえるんじゃなくって巣を丸ごと駆除した方が楽でしょう。こう見えても私はとっても賢いんだよ!



 さて、屋上からの様子見はおしまいにしようかな。ここから狙撃してもいいんだけど、それじゃあ運動にならないからね。屋上のフェンスを軽くジャンプして越えるとそのまま地面まで飛び降りていくよ。スタッと着地すると通り過ぎた車両を追いかけ始める。うん、あっという間に射程圏内だね。まさか後ろに回りこまれているとは思っていないみたいだよ。敵はこちらの方向に全く無警戒だね。


 走りながら左手の擲弾筒を砲弾モードに切り替えて1発お見舞いしてみようかな。



”バシューン”


 約200メートルの距離を光の尾を引きながら進んだ魔力弾はトラックのホロを突き抜けて運転席で炸裂しているよ。



 ドーンという音を立てて大きな火柱が上がっているね。運転席を吹き飛ばされたトラックは燃え上がりながら蛇行して道路脇の民家に突っ込んで更にもう一度爆発しているよ。こんな場所でリアルスタントショーが見られるとは思わなかったね。


 そのまま車両を追いかけながら次々に擲弾筒を発砲していくと、面白いようにトラックが爆発していくね。真っ黒な残骸になったトラックはそのまま放置して、火柱を上げながら蛇行する車両を軽く右に左に避けながらどんどん前方に走っていくよ。魔物を追いかけているみたいな爽快感が体中に広がってくるね。


 おや、ようやく私の攻撃に気が付いたみたいで、トラックに乗った歩兵がホロを撥ね上げて銃口を向けようとしているね。でも肝心の標的がどこから攻撃を仕掛けているのかわからないようだね。このさくらちゃんが気配を消している上に高速で動き回っているから、普通の人間の動体視力では捉えきれないんだよ。


 せっかく銃口を向けたのに標的がどこにいるのかもわからないまま”ドーン” という音を立ててそのトラックも爆発していく。爆風と蛇行の勢いでたくさんの兵士が荷台から振り落とされているけど、どうせ怪我をして動けないだろうから放置でいいね。あとで美鈴ちゃんがきれいに燃やしてくれるからね。



 歩兵輸送車両を片付けると今度は装甲車の一群が登場してくるね。何台か急停止してこちらに正面を向けようと方向転換をしてくるけど、そんなに時間が掛かっているようじゃ絶好のカモだよ! 横を向いている装甲車に擲弾筒を連射すると、頑丈に作ってあるはずの車両がボール紙のように爆発するね。うん、美鈴ちゃん、グッドジョブだよ! 擲弾筒の出来栄えに『いい仕事をしていますね』と鑑定団風に褒めてあげたいよ。このさくらちゃんを満足させるんだから、美鈴ちゃんの魔法の腕は超一流だね。


 さて残るは戦車だけだね。おおっと! 突然前方の戦車が爆発したよ! たぶん司令官ちゃんが攻撃を始めたんだね。戦車は後方から迫ってくる私と左側から狙撃している司令官ちゃんにどう対応していいのかわからずに右往左往しているね。こうなるともはや私たちの敵じゃないね。あとはきれいに片付けるだけだよ。司令官ちゃんに負けないようにこちらも擲弾筒をぶっ放してあっという間に戦車を片付け終えたよ。


 あーあ、終わっちゃったね。こんなにあっさりと片付くなんて期待外れも良い所だよ! 次回はもっと歯応えがある兵器を用意してもらいたいね。





 ジープの前で待っている美鈴は・・・・・・


 本当に鉄砲玉よね。さくらちゃんは『戦車の音が聞こえる』と言って車が停車するなり飛び出して行ったわ。司令官も私に『この場を任せる』と言い残してどこかに消えていったし、あの2人は似た者同士よね。本当は血が繋がっているんじゃないかと疑いたくなるわね。


 さて、私の耳にはまだ戦車の音なんか聞こえてこないから頼りになるのは敵の無線ね。味方の動きを知るのに敵の無線を利用するなんて本末転倒のような気もするけど、あの2人が絡むとこうなるのは仕方がないわ。



「指揮車へ、後方のトラックが突然爆発しました!」


「敵襲か?」


「わかりませんがおそらくそうだと思われます!」


「全軍速度を落として停止せよ! 敵は後方にいるぞ! 歩兵、車内から銃撃開始せよ!」


 どうやら始まったみたいね。相当慌てているわ。先に仕掛けたのは時間的に考えるとさくらちゃんでしょうね。あの子の猛攻を果たして凌げるかしら? 異世界の獣神は私でも手を焼くぐらいに強いわよ。



「敵の位置がわかりません! 姿を捉えら切れないうちに次々に強力な砲撃の餌食になっています!」


「そんな馬鹿な話があるか! 落ち着いて周囲を良く見るんだ!」


 ほら、やっぱりさくらちゃんが暴れまわっていたわ。落ち着いて見たってあの子の動きなんか捉えられる訳ないでしょう。人間の動体視力の限界を軽く振り切っているんですからね。こうなるともう死神に襟首を掴まれたのと同じようなものでしょうね。



「ダメです! 敵が次々に位置を変えているので、全く照準がつけられません!」


「近付けない様に歩兵を展開して弾幕を張るんだ!」


「もうそんな人数が残っていません! うわーーー!」


「歩兵輸送車両、応答せよ! 応答せよ! ダメです、全滅しました!」


「全軍回頭! 敵は後方にいるぞ!」


「こちら戦車部隊! 左側から攻撃を受けています!」


「なんだと! そちら側の敵に当たれ!」


「すでに6両大破されました! 敵の恐るべき発射速度によって砲塔の回頭が間に合いません!」


「宗山陸軍基地、こちら掃討部隊! 敵の襲撃を受けて壊滅寸前だ! 至急応援を請う!」


「こちら宗山陸軍基地、敵の規模は?」


「全く不明! 二手に分かれて襲撃してくる。恐るべき速さと正確な射撃だ! 一撃で戦車がスクラップになっている!」


「了解、至急増援を送る。竜延航空基地にも戦闘機の発進を要請している。準備が出来次第発進する予定だ」


「どうやらもう間に合わないようだ。うわーーー!」


「掃討部隊、応答せよ、応答せよ! ・・・・・・ 基地指令、どうやら全滅したようです」


「一体敵の正体はなんだ? これが噂に聞く『帰還者』というやつらなのか?」


 通信の様子だとどうやらようやく私たちの正体に気が付いたようね。もうだいぶ遅いと思うけど。それよりも戦闘機がやって来るようね。魔法が届かない位置からミサイルを発射されるのはちょっと厄介よ。どうしようかしらね。少し時間が掛かるけどやってみましょうか。


 頭の中で複雑な術式を組み上げると光の球300個が私の周囲を漂い始めるわ。さあ大空に舞い上がりなさい。両手を広げると光球は一斉に空に舞い上がっていく。周囲30キロくらいの位置に飛び散っていくように上手に範囲の設定もしないとね。


 第2弾の光球も空に打ち出して高度500メートルから8000メートルまでの範囲をカバーするように散らせたら準備完了ね。あとは光球にこめられている術式を発動したらオーケーよ。



「グラビティー・エクスプロージョン!」


 この魔法はフィオが得意としている爆裂系魔法を私なりにアレンジしたものよ。その名の通りに重力爆弾ね。どっちかと言うと重力地雷かしら。半径300メートル以内に物体の接近を感知すると自動的に炸裂して10Gの重力を撒き散らすのよ。飛行している戦闘機にそんな過剰な重力が掛かったらどうなるかしら?


 あとは無線の様子でも聞きながらさくらちゃんと司令官が戻ってくるのを待ちましょうか。 





 10数分後・・・・・・



「ただいま、軽く片付けてきたよ!」


「留守番ご苦労だったな。何か変わったことはなかったか?」


 さくらちゃんと司令官が肩を並べて戻ってきたわ。2人とも通常有り得ないような蹂躙劇を演じてきたとは思えないくらい、その辺のコンビニから帰ってきたようなケロリとした態度ね。



「こちらは全然攻撃の影響はありませんでしたが、航空基地から敵の戦闘機が発進した模様です。対処はしてありますのでご安心ください」


「ほう、それは手回しが良いな。2人がいるおかげで私の戦闘に関する負担が5分の1以下になっているぞ」


「司令官ちゃんは休んでいても良いんだよ! 私が全部片付けちゃうからね!」


「さくら訓練生、私も少しは日頃の鬱憤を晴らしたいんだぞ。こうして久し振りに戦場に出てきたんだから、ちょっとくらいは私にも仕事をさせてくれ」


「仕方がないなぁ、それじゃあ司令官ちゃんにも残しておいてあげるよ! それよりも美鈴ちゃん! そろそろお昼ごはんにしようよ!」


 あの司令官を相手にして何という上から目線の返事でしょう! さくらちゃんの神経の図太さがわからないわ! そしてお約束のフレーズが飛び出したわね。もうお腹が減ってきたのかしら?



「さくらちゃんはいつもこれなんだから。でもしばらくここから動かない方が良いから早目のお昼も良いかもしれないですね」


「そうなのか、それでは昼食をとろうか」


 司令官からの許可が出たので簡易式のテーブルをアイテムボックスから取り出してのんびりと昼食を取り始める私たち。半分くらい食べ終わった時、さくらちゃんが音に気が付いたみたい。



「どうやら戦闘機が近付いているみたいだね」


 私の耳には何も聞こえてこないけど、さくらちゃんにはしっかり聞こえているんでしょうね。無線の様子はどうかしら?



「こちら竜延第2飛行隊、上空からの観測では陸軍の掃討部隊は全滅の模様だ。我々はターゲットを発見次第ミサイル攻撃を行う」


「こちら竜延航空基地、了解した。敵は帰還者の疑いがある。慎重に攻撃してくれ」


「帰還者だろうと上空からミサイルを撃ち込まれたら手も足も出ないさ。陸軍の仇は必ず取ってやる」


「ターゲットはまだ発見できないか?」


「レーダーにそれらしき影を発見した。何だ、小さな光が空に浮かんでいるな? 正体はわからないがこのまま突っ切るぞ」


「気をつけろよ。帰還者の攻撃は訳がわからないからな」


「ああ大丈夫だ・・・・・・ なんだ、光が急に弾けたぞ。うわーーーー!」


「竜延第3航空隊、どうした? 何が起こったんだ? 応答せよ!」


 無線は虚しい呼び掛けを繰り返しているけど、返事なんか返ってくるはずないでしょうね。だって彼方に3つの火柱が上がっているもの。どうやらこちらに向かっていた3機共に墜落したようね。無線の様子だと機体が操縦不能になるより先にパイロットの体が保たなかったようね。突然10倍の重力なんかに晒されたら普通の人間は意識を失うわよね。肺が押し潰されて呼吸もできないだろうし。これが大魔王に歯向かって来た憐れな人間の末路ね。



「どうやって戦闘機を落としたんだ?」


「企業秘密です」


 説明が面倒だから司令官の質問を煙に巻いておくことにしましょうか。さくらちゃんはまだ大量のお昼ご飯を食べているわね。トレーごとアイテムボックスに放り込んであるからホカホカのままね。提供してくださった輸送艦『ひゅうが』の厨房の皆さんには感謝しないとね。さくらちゃん1人で予備を含めて120食が準備されたんだから厨房は大忙しだったはずよ。それでもこの量では5日分とちょっとしか賄えないわね。それまでにこの島の攻略を終えないといけないわね。



「空軍基地の動向を見極めてからこの場を動くかどうかを判断しよう」


 司令官が言う通りね。第一陣が撃墜されたにも拘らず、懲りずに次の戦闘機を送ってくるかどうかはまだ判断できないわ。しばらくはこの場で待機しましょう。



「ひと寝入りするからね!」


 さくらちゃんは椅子に凭れ掛かってもう口を開いて昼寝をしているわ。本当に寝付きが良いわね。こうして私たち3人は戦場とは思えないのんびりとした時間を過ごすのでした。 


 


最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は明日を予定しています。お話はたぶん日本に戻ると思います。


それにしてももう12月ですね。年末は仕事がかなり立て込むので投稿のペースが遅くなるかもしれません。詳しい事がわかり次第後書きでお知らせいたしますのでご承知おきください。

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