47 鬼神魔神
お待たせしました、47話の投稿です。現れた大妖怪との決着はどうなるか・・・・・・
俺は約30メートルの距離を間に置いて大嶽丸と対峙している。伝説では『妖力を振るって怪異を引き起こした』と伝えられているそうだけど、こいつの体から溢れ出てくるのは紛れもない魔力だよな。さて、どうやって倒そうか・・・・・・ そうだ、その前に俺がこの場にやってきた経緯を話しておかないとな。
数時間前、駐屯地の地下通路でのやり取り・・・・・・
「なあ天狐、俺と一緒に百鬼夜行の現場に行ってもらえないか?」
「断る! 我はこの地で主殿を出迎えるのが務めなり」
「稲荷ずし50個用意するぞ」
「ピクッ!」
天狐の耳がピンと立って尻尾がブルンブルン左右に振れているぞ。この調子ならもう一押しだな。
「100個用意しようか?」
「兄殿、我はどこに向かえばよいのか?」
ほら引っ掛かったよ! 単純なやつで良かったな。ここは更にもう一押ししておこうか。
「現れた妖怪は俺が始末する。天狐はアイシャや部隊の人たちを守ってくれ。キツネうどんも5杯おまけするぞ」
「容易きことなり。我に全て任せるが良いぞ」
ほーら、ヨダレを垂らさんばかりの食い付きぶりだよ。俺が無闇に力を振るうと危険だから天狐は結界を張る要員だ。美鈴が妹と一緒に出撃中だから臨時で雇ったんだよ。稲荷ずし100個とキツネうどん5杯なら報酬は安いもんだな。
本当はフィオを連れて行くのが一番確実なんだけど、彼女は連日の術式の解析作業のため疲労困憊でたぶんぐっすりと眠っているからな。色々と頑張ってくれたから今日くらいはゆっくりと寝かしてやりたいよ。
俺と天狐は地下通路を出るとその足で副官さんの執務室に向かう。そこで百鬼夜行の危険性を話して、集落の人たちや隊員に被害が及ぶ可能性を説明した。幸い中華大陸連合がミサイルを発射する兆候が全くなかったおかげで、俺はすんなりと十津川村に向かうことができた訳だ。
ヘリに乗り込んで3時間後に天狐が百鬼夜行の気配を感知すると、時間の節約のために付近の山中で天狐と一緒にヘリから飛び降りて、そこから走って現場に向かった。間一髪間に合って良かったよ! アイシャはずいぶん怪我が酷いようで心配だな。早くこいつを片付けて病院に運んでやらないといけないな。
さて、話を現在に戻そうか。
天狐の話では大嶽丸は日本の3大妖怪とも言える存在らしい。悔しそうにしていた表情からも伺える通り自分よりも格上の大妖怪だと走りながら語っていたな。なんでもまだ天狐が駆け出しの妖力を手にしたばかりの頃に、鈴鹿山の魔神として大暴れしていたのが大嶽丸だそうだ。もしかしたら各地に残る巨人『ダイダラポッチ』伝説の元になったやつかもしれないな。
丹波の鬼の王『酒呑童子』や宮中を混乱に陥れた『玉藻の前』と同格に上げられるとは相当な実力を持った妖怪だと考えていいな。というよりもこいつは魂が闇に染まった帰還者だ。元々は人間が妖怪になった例といえる。となると人間と妖怪の線引きってどこになるのか良くわからないな。まあいいか、異世界の魔王だと考えれば討伐するのは吝かではない。
ところで俺が何で大嶽丸を帰還者だと見破ったのか教えようか。アイシャたちや陰陽師の皆さん方は迎撃で余裕がなくって気がつかなかったのかもしれないけど、それは目の前に立っている大嶽丸の姿にあった。平安時代に初めて現れた妖怪なのに西洋風の鎧と剣に身を包んでいるんだよ。年代はちょっと違うけど絵巻物などに描かれている平安時代後期の北面の武士の姿は武者鎧の原型のような姿で描かれている。
だから大嶽丸が身に着けている西洋風の鎧は平安時代の日本にあってはならない『オーパーツ』とも言えるだろうな。これこそがやつが帰還者だという動かない証拠だ。
俺が召喚された異世界は2000年くらいずっと同じような歴史の繰り返しで文明の発展が停滞した世界だった。それは各地の流通を阻む魔物の存在だったり、天地がひっくり返るような自然災害や魔王の出現といった出来事がたびたび繰り返されて、その度に人々の生活が1からやり直しになるからだった。それでも平安時代初期の日本から見ると異世界というのは進んだ社会だったのではないだろうか。だからこそ大嶽丸は彼が召喚された世界を当時の理想郷である『常世の国』と呼んでいたのだろうな。
ずいぶん前置きが長くなったけど、大嶽丸を本来居るべき場所に帰してやるか。せめて帰還者として人間らしく葬ってやるから安心して逝け!
「どうした、さっきから攻撃を仕掛けてこないけど俺の魔力に圧倒されているのか?」
「まったくもって哀れなるかな。そなた我前に立つるは天命の理なり。黄泉こそそなたを待ちうけるべき」
俺の魔力にビビッているのかと思ったらどうやらそうでもなさそうだ。両手に大剣を構えてこちらを睨み付けている。さて、ひとまずは出方を伺うとするか。
「その身欠片も残さず灰とせん。雷よ、倦来するべし!」
”ドドドドーーン” と雷鳴を轟かせて俺の頭の上に幾筋もの落雷が落ちてくる。それは雷魔法と称するのがばかばかしくなる威力だ。美鈴の魔法に匹敵するかもしれないな。だが俺は涼しい顔で全くの平常運転だ。魔力の壁が落雷を阻んで高圧電流は全て地面に流れていく。さっき威圧を与える意味で体を包む魔力を5千万まで引き上げておいたから防御は万全だな。この反則級の防御力があるから俺は安心して戦えるのだ。
「そこそこ威力がありそうな魔法だな。だが俺には通用しないぞ。これで終わりか?」
「わが妖術撥ね返す者を得たり。数多の戦をまみえし我も彼様な兵は初めてなり!」
大嶽丸がビックリしているぞ。そりゃそうだろうって! 異世界の魔王や邪神も全く同じ表情をしていたからな。日本に戻ってきて戦った中華大陸連合のセカンドやドイツの帰還者も同様だった。唯一の例外は新潟で戦ったファーストだよな。あいつの訳のわからない魔力は俺の魔力の壁を易々と突き抜けてきた。そういう例外はあるけど、難攻不落の俺の魔力の壁をどう攻略するつもりだ?
「奇怪なり。我の次なる術を受けるべし」
大嶽丸は手近な地面に顔を出している巨大な岩を右手で掴むと力をこめて一気に引き抜く。全身の筋肉が隆起して凄まじいパワーを発揮しているよ。引き抜いた10トン以上ありそうな岩を右手1本で掴み上げて魔力をこめ始める。
「我の妖力を火の力に変えるべし。燃ゆる石なり」
大嶽丸の魔力で熱せられて灼熱の溶岩のようになった岩をその豪腕で俺目掛けて投げ付けてきやがったぞ! これは簡易版のメテオだな。美鈴が一度だけ天から降らしたっけ。唸りを上げて灼熱の溶岩が俺に剛速球並みの速度で迫ってくる。
だが俺は自身の身の丈よりも巨大な岩を拳で迎撃する。バキバキバキと音を立てて岩が四方に飛び散っていく。この程度の攻撃は異世界で何度も経験済みだから余裕だな。
あっ、しまった! 飛び散った溶岩が周辺の木々を蒸発させながら燃え広がっていくよ! このままじゃ大規模な山火事確定だ! 俺は自分を包む魔力を一気に広げて上から炎自体を押し潰していく。更に魔力を注ぎ込んで物理的な魔力の圧力で押し潰す。俺には魔力を使った力技しかない。使用可能な初級魔法のアイスボールくらいじゃ対処できないからな。この魔法は家で妹が『兄ちゃん、カキ氷が食べたいよ!』という時に専ら使用している。魔力を5万くらい使用した贅沢な直径20センチの氷の塊だよ。事象変換する際の効率が悪すぎだろう。
美鈴が居てくれれば指先一本動かすだけで終わるんだが、魔力だけべらぼうにあって肝心の魔法が満足に使えないというのは全く不便なもんだな。
山火事の鎮火に使用している魔力はすでに一億を軽く超えているぞ。俺がここまで魔力を大量に使用したのは邪神との戦い以来だな。それにしても軽くステータスの表示上の限界を超えて発動されている俺の魔力ってどんだけあるんだ?
「我が妖力よもや態はざりけるとは。しからば此の三明の剣にて斬り捨て与うものなり」
「やれるものならやってみろ! その代わり代償は高くつくぞ」
ようやく鎮火を終えた俺は手にするスコップを構えて大剣を振り上げて迫る大嶽丸を迎える。付近に広範囲に展開していた魔力はすでに回収している。鎮火に消費した魔力を除いても合計で1億以上の魔力が俺を包んでいるぞ。これはもう破壊神の第2形態と呼んでもいいんじゃないか。
大嶽丸の剣と俺が手にするスコップが火花を散らしてぶつかり合う。力自体は今のところ互角かな? 俺と互角ならばそれは本当に名誉なことだぞ。そんな存在はきっとどんな世界を見渡してみてもそうそう居ないはずだからな。唯一あの司令官さんだけは底が知れないけど。
鳴り響く音と火花を散らせて剣とスコップが何度もぶつかり合う。だがそのたびに次第に俺と大嶽丸の優劣がはっきりとしてくる。俺は初撃から徐々にスコップにこめる力を引き上げているが、大嶽丸は最初からパワー全開の模様でこれ以上力を引き上げる余地がないようだ。それでも両手から繰り出す2本の剣で俺に対抗している。
「そろそろお遊びはおしまいの時間だぞ!」
俺は交互に襲い掛かる2本の剣を更に力をこめて強く跳ね上げると、一気にその巨体の内懐に飛び込む。そして振り上げたスコップを鎧に包まれた胴体に力の限り叩きつけた。
「グオーーー!」
ガシャンという轟音を響かせて胴体を直撃したスコップの威力で、大嶽丸の巨体が浮き上がって後方にゴロゴロと転がっていく。手応えからすると相当なダメージを与えたと感じたのだが、大嶽丸は何事も無いように立ち上がって剣を構える。これは相当にしぶといやつだな。
「人にはあるまじき一太刀なり。そなた常世の国で聞き及びし『勇者』なりや?」
「勇者だと?! 俺がそんな弱いやつの訳が無いだろう。俺は破壊神、全ての敵をぶち壊す破壊の化身だ!」
「まこと不可思議なり! そなた神たるとはにわかには信じられぬ。しからば我も鬼神魔神とならむ。三明の剣ある限り不滅なり!」
「ほう、ではその剣が無くなれば不滅ではなくなる訳だな」
自分から弱点をバラすとは馬鹿なやつだな。要はあの剣はマジックアイテムか何かで、物理攻撃無効の効果があるとか、それぞれの能力を引き上げているとかいう代物なんだろう。その剣をぶっ壊せばもう力を発揮できなくなるんだな。こんなのは異世界にはいくらでも転がっていたありふれた話だ。あの邪神でさえも『永劫の指輪』を指ごと俺にもぎ取られたら呆気なく死んだからな。
それじゃあまずはその三明の剣とやらを先に片付よう。破壊神の本領発揮だな、今の俺には壊せない物は存在しないぞ! 大嶽丸、お前が信じる神に祈って待っているがいい。
俺は体を包む魔力をスコップの先端まで広げていく。美鈴謹製の『行軍用スコップ・改』はここまで大嶽丸の剣に対して十分な効果を上げている。だがこのままではその剣を破壊するには至らないので俺の魔力で攻撃力を格段に引き上げる。これで準備は完了だ。さて、行ってみようか。
「覚悟はいいな、次は吹っ飛ぶだけでは済まないぞ」
「我に一太刀当てるとは中々の剛の者なり。数多の敵とまみえし我もはじめて逢うなり。」
「そうか、俺のような存在を初めて見たのか。だが今回が最初で最後だから安心して地獄に行くがいい」
「死するはそなたなり! 我は不滅! 故に滅ぶにあたわざり!」
距離を取って対峙する俺と大嶽丸が一気に踏み込む。俺は平常運転だが大嶽丸の方は全身に気合を漲らせている。その闘気が体から溢れ出て陽炎のように周囲の大気を揺るがしている。
「最期の打ち合いだ。地獄の土産に持っていけ!」
「滅するべし!」
俺のスコップと大嶽丸の剣が再度火花を散らしてぶつかり合う。そして決着はあっさりと付いた。
「これは異な! わがつるぎ折れ果つりけり!」
魔力をまとって攻撃力が向上したスコップは見事に大嶽丸の左右の剣を叩き割っていた。真ん中から半分になった剣を見て大嶽丸は呆然としている。まだ背中に1本剣を背負っているがそれを抜く余裕すら失っているようだ。
「残念だったな、俺の勝ちだ」
俺はスコップをアイテムボックスにしまうとゆっくりと大嶽丸に近づいていく。そして右手を軽く引いて大嶽丸の胴体にパンチを打ち込む。あっさりと鎧を突き抜けた俺の拳が大嶽丸の腹を突き破っている。更にダメ押しでそこから大量の魔力を流し込むと、許容量を超えた魔力が暴走を開始する。
「ぐおーーー! ついに我が滅びを得るとはーーー!」
こうして大嶽丸の体は魔力暴走が引き起こす白い光に包まれてボロボロに崩れて消え去っていった。こいつは中々強かったな。異世界の魔王よりも上で邪神よりもちょっと下くらいかな? どちらにしても俺の敵ではなかったけどな。さて、せめて人間として死んで逝けるように祈ってやろうか。
俺は地面に転がっている大剣の折れた切っ先を地面に突き刺して墓標の代わりとする。そこで手を合わせて短い時間祈るとその場を離れていった。
「兄殿のお戻りであるぞ」
天狐の言葉に気が付いた勇者やタンク、それに陰陽師の皆さん方が俺が歩いて向かってくる方向に振り向く。
「あの大妖怪を本当に討伐したのか?!」
「お前なら必ずやってくれると思っていたぜ!」
勇者とタンクが声を掛けてくる。だがそれよりも怪我をしたアイシャが心配だ。
「アイシャの具合はどうだ?」
「止血をして容態は安定しているが意識が朦朧としている。急いでどこかに搬送した方が良い」
俺は麓の集落に待機しているヘリと連絡を取る。たぶんこれが一番早い手段だろう。程なくしてヘリは上空にホバーリングして担架に載せられたアイシャを吊り上げていく。このまま近隣の病院に運んでくれるそうだ。命には別状は無いそうなので一安心だな。
「それじゃあ俺たちも撤収しようか」
「兄殿、お約束を忘れないように果たしていただきたい」
そうだった、駐屯地に帰ったら天狐には稲荷ずし100個とキツネうどん5杯の約束だったな。街に入ったらコンビニに寄ってもらって稲荷すしを店にあるだけ買ってやろう。今回協力してくれたお礼だから約束とは別渡しだ。きっと喜ぶに違いないぞ。
こうして百鬼夜行を無事に収拾した俺たちは深夜の山中から車に乗って降りていくのだった。
最期までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は今週末の予定です。たぶん出撃中の妹たちのお話に戻ると思います。




