表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/229

46 現れた大妖怪

お待たせしました、46話の投稿です。百鬼夜行に立ち向かうアイシャたちの前に出現した大妖怪とは・・・・・・

 必死で百鬼夜行の妖怪たちと戦うアイシャの目の前に巨大な落雷が発生して、大木が真っ二つに裂けています。更に次々に落雷が発生して周辺の木を薙ぎ倒していきます。その落雷の一瞬の閃光の中に人影のような真っ黒な姿が浮かんでは消えるように私の目には映りました。


 そして落雷が治まると山の斜面から『ズシン』という大きな地響きが・・・・・・ その地響きは次第に私たちがいる場所に近づいてきます。そして足音の主が投光機の照らす範囲に入ってくると、そこに浮かび上がったのは・・・・・・



「まさか! あれは大嶽丸おおたけまるなのか!」


「少尉、大嶽丸とは何者ですか?」


 迫り来る大鬼を魔法銃で食い止めながら私は声を上げた真壁少尉に問い掛けます。あの巨大な妖怪の正体を知っておかないと討伐のしようがありませんから。



「伝説では今から1300年前に討伐された鬼神魔王という言い伝えが残っている。妖術を操り鈴鹿山を根城にして暴れ回っていたが、坂上田村麻呂に奇計を以って討伐された。その後復活して東北に出現してその地を荒らしたが、またもや討伐をされて姿を消した。その大妖怪がなぜか今ここに復活を遂げたようだ」


「ということは昔の魔王みたいなものですか?」


「君たち帰還者の認識だとそう考える方がわかり易いかもしれないな。いずれにしても天狐に匹敵するかそれ以上の力を持つ恐ろしい妖怪だよ」


 少尉の話を聞きながら大嶽丸を見上げると背丈は5メートルを超え、真っ黒な鎧に身を包み腰と背中には3本の大剣を差しています。私が召喚された異世界にも魔王が存在していましたが、私自身は出会わないうちに地球に戻ってきました。もしかしたら異世界の魔王というのもこんな姿をしているのかもしれません。



「これは確かに魔王だな」


「勇者さんは魔王を倒したんですよね」


「ああ、多くの犠牲を払ってようやく倒した。だがこいつはあの時の魔王に引けをとらない程の恐ろしい妖気を漂わせているぞ」


 確かに大嶽丸の体から発散される妖気はそこいらの妖怪とは桁が違います。でも大丈夫です! こんなのさくらちゃんの闘気に比べたら可愛い物です。毎日あの闘気に晒されている私の感覚が麻痺しているのでしょうか?



「大鬼たちは我々が食い止める! 帰還者は全員で大嶽丸に当たってくれ!」


 少尉の指示で私たち3人は大妖怪の前に立ちはだかります。勇者さんはいつの間にか迷彩服から白金の鎧に装備を変更して、手には聖剣『エクスカリバー』を握り締めています。きっとこの姿こそが勇者本来の力を発揮するんでしょう。



「最前線に立つのは俺の役目だ。俺がやつの攻撃を食い止めている間に攻撃を仕掛けてくれ!」


 漢気に溢れるセリフを残してタンクさんはタワーシールドを構えて前進を開始します。いくら鍛えているとは言っても体の大きさがあまりにも違いすぎます。大丈夫なんでしょうか?



「スキル『不動』発動!」


 タンクさんは大嶽丸の剣が届く位置にドッシリと構えて体中の魔力を防御に回しているようです。まるでそこには人の形をした岩が仁王立ちしているかのようです。



「グワッシャーーン!」


 タンクさんが盾を構えて立っている正面から大嶽丸の大剣が振り下ろされます。物凄い音が周囲に響いて火花が飛び散りますが、タンクさんはその一撃を真っ向から受け止めています。凄いですね、今度は是非さくらちゃんの一撃を受け止めてみてください。



「いくぞ!」


 私の右側から聖剣を振りかぶった勇者さんが大嶽丸の足元を目掛けて突進していきます。『大きな相手にはまずは足元から攻めよ』、戦いの鉄則だとさくらちゃんが言っていました。



「カキン!」


 勇者さんが振り下ろした剣は軽い音を立てて大嶽丸の足まで被う鎧に撥ね返されて、まるっきりダメージを与えてはいないみたいです。どうやら防御力が予想以上に高いようで相当不味い展開ですね。私は今魔力で身体強化レベル3まで戦闘力のアップを完了しました。これでどこまで通用するかまずは一撃試してみましょう。



「てやーー!」


 両手に持った細身の剣には真空波を生じる風魔法を掛けてあります。これは美鈴から教えてもらった魔法で、以前よりも剣の切れ味がバージョンアップしているんです。勇者さんとは反対側の足元目掛けて突進すると、2本の剣を振り下ろしていきます。



「カキンカキン!」


 結果は勇者さんと同じです。火花を散らして鎧に当たるものの、小さな傷1つ付けられませんでした。そのまま大嶽丸の横を駆け抜けて私は後ろ側に回りこみます。その時・・・・・・



「所詮人の力などそれ程のものとなりけるか。我に向かいける勇気に免じてその様を見つるなれば、あまりの不甲斐無さに落胆の念を生じけり」


 周囲に轟くような大音声だいおんじょうで大嶽丸がかぶりを振りながら落胆した声を上げています。ちょっと待ってください! 今の攻防は私たちの動きをわざと見逃したって言うのでしょうか? なんだか馬鹿にされているみたいで腹が立ってきましたよ!



「身体強化レベルMAX!」


 一気に最大戦闘力まで引き上げて勝負を挑みます。どっち道長引けばこちらが不利になるのは明白ですから、出し惜しみしないでこの一撃で決めるつもりです。勇者さんも神聖魔法を剣から放つ準備をしています。その魔法に合わせて私は踏み込んでいく準備を整えます。



「ホーリーアロー!」


「今だ!」


 勇者さんの魔法は大嶽丸の体の真正面に向かっていきます。私は背後から思いっ切りジャンプして狙うのは首元一点! 2本の剣を突き刺すイメージで空中に弧を描いて私の体が大嶽丸に迫っていきます。



「ガキン!」


 気配を察知した大嶽丸は背中の剣を左手で引き抜いて飛び込んで来る私に向かって振り向き様に大上段から斬り下ろしてきます。空中で軌道を変えられない私は咄嗟に2本の剣を交差させて何とか受け止めようとします。



「ドサッ!」


 ですが足場が無い位置で不利な体勢で大剣を受けた私の体は地面に叩き付けられました。幸いダメージは大したこと無かったので、すぐに起き上がって剣を構えます。どうやら勇者さんの魔法も鎧に阻まれて効果を発揮していないようですね。これは笑い事では済まされない状況に追い込まれてきたようです。



「我に三明の剣がある限り数多あまたの攻撃は全て無駄なりける。そなたたちは揃いてこの場で死するべきなり」


 両手に剣を構えた大嶽丸が一気に攻勢に出てきました。私たちは3人掛りで何とかその猛攻を凌いでいますが丸っきり歯が立たずに防戦一方です。



「アイシャ、タンク! このままではジリ貧だ! 1分だけ時間を作ってくれ!」


 勇者さんに何か手があるようです。私とタンクは勇者さんを庇うように前に出ると、2人で大嶽丸の大剣をかろうじて受け止めます。唸りを上げて迫る剣をかわして、ズラして、受け止めようとして撥ね飛ばされて。さくらちゃんとの訓練が無かったらとうに命を落としているでしょうね。ちょっとだけ感謝しています。



「2人とも離れるんだ! 大嶽丸、受けてみろ! かつて異世界の魔王を倒した俺の最強魔法、ホーリークロス!」


 勇者さんの体から十字架の形をした白銀の光が飛び出して大嶽丸に襲い掛かります。聖なる光が邪悪な存在を滅してくれる、その期待を背負った最強魔法が大嶽丸を包み込みます。



「グガーー!」


 ですが『倒した!』と安心したのも束の間のお話でした。巨大な雄叫びを上げながら全身に力を込めると大嶽丸は一瞬で聖なる光を吹き飛ばしました。一方の勇者さんはこの魔法に残っている魔力の大半を費やしたのでしょう。地面に膝を付いて肩で息をしています。タンクが勇者を庇うようにその前に立って防御の姿勢を固めています。


 その時私の視界に大鬼を相手にしている陰陽師の皆さんの姿が映りました。私たち3人が大嶽丸を相手にしているので、少なくなった人数で必死に応戦しています。ですが魔法銃の残弾が少なくなっていて、さっきよりも大鬼たちの包囲網がぐっと狭まっています。1人の隊員は大鬼が投げた石にでも当たったのか、足から血を流して座り込んだ姿勢で必死に銃を放っています。あちらの方も何とかしないとどうやら時間の問題のようです。



「ザシュッ!」


 急に私の左側から大嶽丸の剣が振り下ろされてきました。陰陽師たちの様子に気を取られていた私の回避が半歩遅れて、左の肩口を剣先が掠めていきます。痛みよりも『熱い』という感覚が広がって剣を受けた肩口から鮮血がダラダラと流れ落ちてきます。それでも動きが悪くなった左手に何とか力を込めて、2本の剣を構えようとします。その時・・・・・・



「ガクッ」


 急に体から力が抜けるような感覚が私を包みました。そうでした、身体強化レベルMAXをずっと掛けっぱなしでしたね。もう魔力の残りが少なくなって、どうやら維持できなくなってきたようです。重たくなった体を引き摺るようにして大嶽丸の前に立ちます。たぶんこちらから攻撃は仕掛けられないでしょう。せめてカウンターで小さな傷を付けられれば大成功かもしれません。


 それでも私は戦います。それは生き残るため、そして誰かを守るため。どんなに体に傷を負っても絶対に生き残るという強い意志だけが今の私を支えています。


 それから何度も大嶽丸の大剣を受けました。もう何回弾き飛ばされたか覚えていません。やつは私が弱っていく様子を楽しむかのようにして嬲り殺しにするつもりなのでしょう。体のあちこちに傷を受けて出血が酷くて目が霞んできます。あと一撃か二撃攻撃を受けたらもう力尽きるかもしれません。





 そんな絶望的な時間が迫ってきたその時・・・・・・




「ドドーーーン!」


 周辺の空気をビリビリと震わせるような巨大な魔力が一帯に広がりました。


 稲妻よりも鋭くて、氷雪よりも凍て付いて、燃え盛る炎よりも熱くて、嵐よりも激しい魔力の波動、でもそれは私にとってはとても馴染み深いもの。



「やっと来てくれた」


 その言葉とともに魔力が広がる中心方向に振り向くと、ちょうど雲の切れ目から姿を現した月光に照らされた人影が浮かび上がります。手にしたスコップを肩にトントンする姿は、紛れもなく聡史です。周囲はまるで時間が止まったように凍り付いています。あれだけ猛威を振るっていた大嶽丸や大鬼たちも動きを止めてその人影を見つめています。



「待たせてすまなかったな。ここから先は全部俺のターンだから安心しろ」


 リミッターを外して周囲に撒き散らしている魔力とともに、その口から出たセリフはこの場の支配者が誰なのかを雄弁に物語っています。その姿は破壊を撒き散らす神そのものに見えてきます。




  

「それじゃあ蹂躙を開始するか。あっちの陰陽師の皆さんが大鬼に囲まれてピンチみたいだから先に雑魚を始末しようか」


 さとしは右手にスコップを握ってダッシュを開始する。俺の魔力に呑まれて妖怪たちが硬直しているこの一瞬こそが救出のチャンスだ。妹には及ばないものの約200メートルの距離を5秒掛からずに走り切ると、こちらを向いて惚けた顔をしている大鬼目掛けてスコップを叩き込んでいく。



「バコーーーン!」


 はい、一丁上がり! ちょっと力を込めすぎて大鬼の体が砲弾を食らったように爆発したよ。俺は返り血を浴びて一瞬で血塗れになっている。この方が迫力があっていいんじゃないか。蹂躙には相応しいよな。立て続けにスコップを振るった結果、20体以上で陰陽師の皆さんを取り囲んでいた大鬼が全滅するまで10秒掛からなかったな。戦闘技術では妹に引けをとるが馬力では負けていないんだぜ。


 あれっ? 地面に倒れている人たちが大勢居るぞ。もしやこの人たちは大鬼にやられたのか?



「少尉さん、この人たちはどうしたんですか?」


「ああ、通信担当で同行した一般隊員と安部家が派遣した陰陽師だよ。君の魔力に当てられて意識を失っただけだから心配するな。それよりも帰還者たちを速く助けてくれ」


 なんだ俺のせいだったのか。心配して損した気分だ。まあいいか、それよりもアイシャたちを助けるのが先だな。



「少尉さん、あそこに狐火が見えますか。天狐が居ますから全員あの位置まで退避してください。結界を張って守ってくれます」


「わかった、後は任せるぞ」


 少尉さんは気を失っている者を叩き起こして一足先に退避を始める。それを見届ける間もなく俺はタンクが立っている前に立ち塞がる。



「タンク、勇者を連れて少尉さんたちの後に続け。アイシャ、聞こえるか! あっちの方向に逃げるんだ!」


 俺の呼び掛けに反応したアイシャがタンクと合流して退避を開始する。さーて、これで心置きなく討伐を開始できるな。そうだ、その前に聞きたいことがあったんだ。



「お前が大嶽丸か。1つ聞きたい。お前はこの国とは別の世界に行ったことがあるか?」


「急に現れたと思うたら、おかしなことを聞く者なり。我はかつて常世の国に赴いたことぞありける」


 やはりな、常世の国というのはおそらくは異世界を指しているんだろう。天狐に事前にこいつの伝説を聞いてピンと来たんだ。大昔に異世界に召喚された帰還者の成れの果ての姿がこの大妖怪だった。



「そうか、大方戻ってきて周囲から受け入れられなくて心が闇に染まったんだろうな。だがそれはお前の心の弱さが原因だ。同情はしないぞ。この場で滅べ!」


「人に我の何がわかることぞ。まこと哀れなる存在は我がこの手で等しく滅ぼし給うなり」


 こうして古の帰還者との戦いが幕を開けるのだった。



最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は今週の中頃を予定しています。主人公と大妖怪の決着の行方は・・・・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ