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44 もたらされた依頼

44話をお届けします。出撃した3人の留守を守る駐屯地に依頼を行う人物が現れるようです。果たしてその依頼の中身とは・・・・・・

 司令官に率いられたさくらと美鈴が済州島で大暴れをしている頃の富士駐屯地では・・・・・・



「帰還者は図面演習室に集合せよ」


 朝礼の伝達でまたまた俺たちに招集が掛かったよ。今度はなんだろうな? もしかして妹と美鈴が苦戦していて、その応援に出撃しろなんて話じゃないよな。おそらくあの2人に司令官さんまで居るんだから、5個師団くらい待ち構えていたとしても問題はないはずだけど・・・・・・ ともかく話を聞いてみようか。


 それにしても俺たちは一度も図面上で演習などした記憶がないぞ。図面演習室というのはこの部隊ではただの会議室扱いされているようだ。俺は一緒に朝食を取っていたフィオとアイシャとともに図面演習室に向かう。



「失礼します」


 3人揃って演習室のドアを開くと勇者とタンクはすでに着席していた。窓側の席には俺たちを地下の通路に案内した陰陽師の少尉さんとその仲間の人たちが数人と、あとスーツを着た年配の男性が座っている。雰囲気からすると民間人ではないような気がするけど、一体誰なんだろうな? 更に俺たちの後から副官さんが部屋に入って上座に着席すると、視線で合図を受けた少尉さんが話を開始する。



「全員集まったようだね。今日は中華大陸連合とは全く関係がない動きがあるので、こうして君たちに集まってもらったんだ」


 少尉さんは俺たちをここに集めた目的を話し出す。中華大陸連合とは全く関係のない動き? 一体なんだろうな、全然見当がつかないぞ。



「この国防軍特殊能力者部隊の歴史について少々語らせてもらうよ。君たちにとっては知っておくべき話だからね。この部隊が設立されたのは帝国陸軍の時代まで遡る。明治時代に日本に初めて近代陸軍が設立された当時から、歴史の表舞台には絶対に出ない陰陽師や忍者の部隊が陸軍の内部には存在していたんだよ」


 そうだったんですか! ゼンゼンシラナカッタヨ! そもそも明治時代ってもう150年以上前の話じゃないのか。この部隊ってそんなに昔からあったんだ。



「第2次世界大戦後に自衛隊が創設されると、再びその内部に特殊能力者の部隊が設立されたんだ。主な任務はこの建物の地下に現るような妖怪への対処と、普通の人間にはあり得ない力を用いて侵略を試みる外国勢力との暗闘だね。」


 なるほど、妖怪の対処ね・・・・・・ 異世界に行く前だったら絶対に信じないけど、日本の長い歴史の中でその闇に埋もれた戦いがあったんだな。妖怪自体も地下通路で実際に戦っているし、妹なんか封印されていた大妖怪を飼い犬同然にしているからな。


 それから外国勢力との戦いと聞くと、真っ先に思いつくのは歴史で習った江戸時代の鎖国かな。これはカトリック勢力を国内から一掃するための政策だったらしいな。多分その延長線上で開国した明治時代の初期から外国勢力との暗闘が再開されたんだろう。



「そして現在はそこに君たちのような帰還者が組み込まれている。この部隊の大体のあらましは理解してもらえたかな?」


 少尉さんは俺たちの顔を見回している。アイシャを含めて全員がここまでは話がわかっている。アホの子は出撃中なので良かったよ! 難しい話なんか全く聞いていない上に、初対面の人の前で堂々と居眠りを始めたら色々と不味いだろうしな。



「今日ここにいらっしゃっているのは陰陽師の総本家、安部家のご当主の安部 行長ゆきなが様だ。我々の協力を仰ぎたいとわざわざ京都からお越しいただいている」


 安部家っていうとあれか! 安部清明の子孫ってことなのか? たぶん陰陽師の世界ではとっても偉い人なんだろうな。どおりでただの民間人には見えないわけだよ。



「真壁君、帰還者というのはずいぶん若い顔触れだね。これで本当に技量の方は大丈夫なのかね?」


「ご当主様、お言葉ですが全員が土蜘蛛を一蹴できるだけの技量を示しております。それにこちらに居ります彼の妹は例の結界の奥に封印されていた天狐を使役している人物です」


「それが信用できないのだよ。相手は天狐だぞ! それを容易く使役するとはどういうことなのか私には理解できんのだよ」


 なんだかずいぶん失礼な物の言い方をするジジイだな。ご自分がどれだけ偉いのかは知らないけど、俺たちの実力を疑って掛かっているな。


 ああ、そうだ! すっかり言い忘れていたけどアイシャたちは例の魔力銃のおかげで土蜘蛛くらいなら簡単に片付けられるようになっているんだぞ。



「実力ならばこの部隊の司令官のお墨付きと申し上げるしかございません」


「それなのだよ! 私は『神殺し』の力を借りようと思ってわざわざここまでやってきたのだよ。肝心の彼女が不在とはどういう訳なのだね?」


「極秘の任務についております。国防軍関係者以外はご当主といえども内容についてはお答えできません」


 なるほどね、司令官をアテにしてここに来たんだね。残念でした、今頃はきっと羽を伸ばして大暴れしている最中だろう。今回の作戦は聞いたところによると司令官さんの発案らしいな。きっと書類仕事の鬱憤が溜まっていたんだろう。俺の妹と考え方が殆ど一緒だから、ストレス発散の意味で思いっきり暴れ回っているんだろうな。通信の傍受を警戒して何も連絡が入っていないけど、あの3人が揃っていれば大丈夫だろう。


 それにしてもこの陰陽師の当主はずいぶん横柄な態度だよな。少尉さんは立場上逆らえないんだろうけど、俺には全く関係ない初対面の人物だからそれほど気を使う必要もないだろうけど。たださすがに話を聞いているうちに段々腹が立ってきたな。こんな無駄話をしている暇があったら早く本題に入れよ・・・・・・ ピコーン! そうだ、いい手があるぞ!



「陰陽師のご当主さんですか、どうもはじめまして。なんだか俺たちの力を信じていないようなので、良かったら天狐をここに連れて来ましょうか? 実際にその姿を見れば納得してもらえるんじゃないですか?」


 天狐はいなり寿司を目の前にぶら下げると妹が居なくても言いなりになるからな。したがって祠から連れ出すのは簡単だ。ただしさすがは大妖怪だけあって周囲に振りまく妖気はかなり強烈だ。果たしてこのジイさんの心臓が保つかなんて保証はないかもな。


 俺の腹黒い考えがどうやら効果を上げたようだ。ジジイは急に挙動不審な態度を見せる。陰陽師本家の当主なら天狐と聞いてももっと大きく構えていてほしいものだ。 



「そ、それには及ばない。わしもあのような大妖怪を目の当たりにする肝は据わっておらん。まあ良いだろう、真壁君、本題に入ってくれ」


 そういえば少尉さんって真壁さんだったんだ。ジジイからの許可を得た真壁少尉は具体的な話を切り出し始める。



「実は奈良県の十津川村の集落で多数の鬼火の目撃例が相次いでいるんだ。鬼火っていうのは火の玉と同じようなものだ。稀に妖怪が現れる前兆となるんだよ。ここ数日毎日住民に目撃されていて、日に日にその数が増えて100近い鬼火が漂う夜もあるそうだ。この件に関しての調査協力がご当主様からの依頼だ」


 ふーん、依頼なのか。異世界だったら『冒険者ギルドを通してくれ』って答えるけど、日本にはそんな物はないからな。部隊としての対応はどうするんだろう?



 しばらく色々な遣り取りのあと・・・・・・



「わかりました、当部隊に所属する帰還者3人と陰陽師を5人を調査に派遣しましょう」


 最終的に副官さんが結論を出す。司令官が不在の間は部隊の指揮権を一任されているのだ。それだけじゃなくって書類仕事もまとめて押し付けられて、目の下にクマをつくっているよ。本当にお気の毒です。


 副官さんの決断でアイシャ、タンク、勇者の3人とこの部屋に集まっている陰陽師が5人派遣されることとなった。俺は先日のミサイル攻撃を迎撃して砲身が壊れた魔力砲のテストでここに残る。同様にフィオも美鈴の代役で砲身に組み込む術式の構築と、簡単に壊れないように砲身の内側をシールドでコーティングする作業の途中なので、駐屯地を離れられない事情があった。



 鬼火の件が万が一妖怪に繋がると不味いので、大急ぎで出動の支度を終えたアイシャたちはヘリに乗り込んでいく。



「アイシャ、気を付けて行くんだぞ。何かあったらすぐに連絡してくれ」


「聡史、大丈夫です! いってきます!」


 元気に手を振ってヘリに乗り込むアイシャを見送ってから、俺とフィオはすぐに魔力砲の改修現場に向かう。こちらも次にいつ中華大陸連合のミサイルが撃ち込まれるかわからないので、取り急ぎ使えるようにしておかないとならないのだ。3日後の性能テストに向かって今は最後の仕上げの段階に入っている。



「何とか術式の組み込みが終わったわよ」


「俺は見ているだけだったが、ずいぶん細かい作業みたいだったな」


「ええ、米粒に千文字分の魔法言語を描いていくような気が遠くなる仕事だったわ。よくこれだけの大魔法を美鈴は構築したものね。私にも大賢者としての意地があるから何とか成し遂げたけど、途中でほっぽり出したかったわ」


「そんな大変な作業だったんだ。俺には術式の意味とか全然分からないから何にも手伝えなくてすまなかったな」


「いいのよ、こうして活躍の場を私や美鈴が提供するから、あとは聡史君が頑張ってミサイルを撃ち落としてね、日本の安全は聡史君に懸かっているんだから」


 わかりました、頑張ります! ここまでやってもらえたからにはあとは俺が任務を全うする番だ。でもできればミサイルなんか飛んできてほしくないけど・・・・・・



 何とかこの日の夕方までにはシールドを含めた全ての術式の組み込みが完了して、魔力砲は研究課の皆さんに引き渡される。照準設定のプログラム等を新たに開発したバージョンに変更するらしい。この辺の中身については説明されても全く理解できなかったよ。技術屋さんたちの頭の中身は一体どうなっているんだろうな?




 夕食を終えると、俺は売店に立ち寄ってから地下通路に入っていく。妹から頼まれていた天狐への差し入れをすっかり忘れていた。大急ぎで通路に現れてくる鬼や土蜘蛛をスコップで殴り付けて倒して、通路の奥に進んだ先の元々結界が張られていた場所に到着する。ここを抜けると天狐が居る祠があるのだ。



「おーい、天狐は居るか?」


 大声で呼び掛けると祠の扉がゆっくりと開いて天狐が顔を出す。なんだろうな、心なしか天狐の目が落ち窪んでいるように見えるぞ。



「なんだ、誰が来たかと思うたら兄殿か」


「なんだか元気が無さそうだけど、何かあったのか?」


「うむ、昨日からあるじ殿がお姿を見せてくださらん。我は主殿に捨てられたのではなかろうか?」


「ああ、悪い悪い。昨日からさくらは出撃していないんだよ。頼まれていたから稲荷ずしを持ってきたぞ」


「なんだと! なぜそれを先に言わぬか!」


 突如祠の扉がガバッと開いて、天狐は転がるようにして出てくる。俺が稲荷ずしを手渡すとパックを開いて涙ながらに食べているよ。



「ありがたき主殿の心遣いなり。本日の稲荷ずしの味は格別なるぞ!」


「いや、持ってきたのは俺なんだけど」


 どうやら天狐は妹が顔を出さなくて拗ねていたらしい。大妖怪のはずなのに完全に飼い犬じゃないか。もう妖怪としてもプライドとかどこかに置き忘れているようだ。



「して、兄殿。主殿はどちらに攻め入っているのだ? 京の都か、それとも大宰府か?」


「いやいや、国内じゃないよ。隣の国だ」


「なるほど、さすがは我が主殿だ。日ノ本の国では飽き足らずに唐国からくにまで攻め入ったのだな」


「まあそんなところだ」


 豊臣秀吉の朝鮮出兵かよ! どうも天狐の地理感覚は大昔から全く変化がないようだ。こいつに中華大陸連合なんて説明しても面倒なので適当にお茶を濁しておく。


 そうだ! 今朝召集された件を聞いてみようか。何かわかるかもしれないからな。



「天狐は『鬼火』って知っているか?」


「兄殿、勘違いするな。我は主殿に仕える身なれど、兄殿とは直接何の関係もないのだぞ。気安く何でも答えると思われては迷惑なり」


「稲荷ずしがもう一パックあるんだけど食べるか?」


「兄殿、何でも聞くがよいぞ。鬼火であったな。それよりも早く寄越すのだ」


 なんだこいつの変わり身の早さは! 食べ物を目の前にした妹といい勝負だぞ。あの主人があってこの飼い犬なのだろうか? 天狐は俺からホクホクした表情で稲荷ずしのパックを受け取っているよ。



「うむ、鬼火の話だったな。我も出せるぞ。ほれこのような具合だ」


 天狐の手の平から青白い火の玉がスーッと浮かび上がって宙を舞っている。なるほど、確かに一般的に言われる火の玉だな。



「鬼火が現れるのは妖怪が出現する前兆なのか?」


「そうでもあり、そうでもなし。1つや2つならば狐狸こりやムジナの悪戯に過ぎぬ。だが数が多くなると妖怪の出現が考えられるな。特に100や200となると我のような大妖怪が現れる百鬼夜行の前兆となるやもしれぬ」


「百鬼夜行? なんだそれは?」


「そのままの話よ。百の妖怪を率いる大妖怪が現れるのよ。我もその昔は眷属を率いて富士の山周辺の村々を滅ぼしたものよ」


 なんだって! こいつも昔はそんなことをしていたのか! まあ何百年も前の話だから今更仕方がないか。それよりも大妖怪が出現するかもしれないっていう点が問題だな。アイシャたちが心配になってくるぞ。少尉さんの話じゃ鬼火が100近く出現しているらしいからな。



「天狐くらいのレベルの大妖怪が出現するのか。アイシャたちが調査に向かっているんだけど大丈夫かな?」 


「無理であろうな。土蜘蛛を倒せる程度では我の足元にも及ぶまいぞ。我らが恐ろしいからこそ人はそれを伝説として残しておる。我ら大妖怪を倒せるのは主殿や兄殿のようなほんの一握りの限られた者だけよ」


 これは不味いぞ! もし百鬼夜行に巻き込まれたらアイシャたちに大きな危険が迫るのは間違いない。どうしたらいいんだ・・・・・・ それでも何とかするしかない。今から救援に行って間に合うだろうか?


 焦燥感に包まれながら俺は考えを巡らせるのだった。

最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は週の中頃を予定しています。


奈良向かったアイシャたちにどのような運命が待ち受けているのでしょうか・・・・・・


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― 新着の感想 ―
[一言] 「今から救援に行って間に合うだろうか?」 ミサイル防衛の任務が与えられているのだから、任務を放棄して救援には行けませんね。
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