表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/229

41 突然の出撃

タイトルどおりにどこかに出撃するようですが、果たしてどこに・・・・・・

「帰還者は図面演習室に集合せよ」


 朝礼後に俺たちに招集がかかる。今まであの部屋に呼ばれて碌な目に遭っていないから、今回も嫌な予感がするぞ。いや、むしろ嫌な予感しかしないな。



「兄ちゃん、今度は何だろうね? またどっかに出掛けて美味しい物が食べ放題だといいよね!」


「さくらちゃん、世の中ってそんなに甘くはできていないのよ」


「そうだぞ、美鈴が言うとおりだからな。俺もある程度の覚悟はしておくか」


 俺たちは連れ立って図面演習室に向かう。ドアを開くとそこには・・・・・・ 司令官さんが待ち構えているよ! これはもう嫌な予感的中が確定だな。



「大事な話がある。席に着け」


 司令官さんにせっつかれて俺たちは会議机を取り囲むように座っていく。うん? なんだか今日の司令官さんの表情は心なしか楽しそうだぞ。一体何を企んでいるんだ?



「喜べ! 出撃が決まったぞ!」


 もしもし司令官さん、いくらなんでも単刀直入すぎるでしょう! 出撃って、一体どこに出向いていくんですか?


 俺同様に他のメンバーたちも訳がわからないという表情をしている。この司令官さんは色々と端折りすぎだよな。



「この前の中華大陸連合のミサイル攻撃の報復に打って出る。どこを攻略するか全員で考えてみろ」


 なんだって! 報復のためにこちらから打って出るのか・・・・・・ ということはつまり中華大陸連合のどこかに攻め込むということだよな。といってもその勢力範囲は大きく広がっているから、どこかなんて急に言われても中々考え付かないぞ。



「楢崎訓練生、お前の意見を聞こうか」


「えっ、俺ですか?」


 そんな急に振られても何も思いつかないぞ。うーん、冷静に考えてみよう。今の日本の装備や人員では大陸の広範囲を攻撃するには不十分だろうな。そうなると可能性があるのは島だな。となると可能性が高いのは・・・・・・



「海南島ですか? あそこは原潜の基地があるし」


「発想は良いが不正解だな。西川訓練生の意見はどうだ?」


「はい、済州島か巨済島だと考えます。済州島は黄海をマーレノストラ(内海)化したい中華大陸連合に海から圧力を掛けられます。巨済島は鎮海軍港があって艦隊の出撃基地になっています。何よりも釜山の近くなので半島攻略の足掛かりになります」


 さすがは美鈴さんだよな。俺の頭ではそこまで考え付かなかったよ。もう軍オタの看板を降ろそうかな。これでも色々と勉強しているんだけど、頭のつくりがどう足掻いても追いつかないらしい。仕方がないさ、あの妹の兄なんだから遺伝的に多少のアホな部分を両親から受け継いでいても納得するしかない。



「大体そのとおり、今回の攻略目標は済州島だ。少数の帰還者で暗闇に乗じて乗り込んで敵の基地機能を潰してから、後続の部隊が上陸する作戦だ」


 はー、さいですか。これっ、妹よ! 早速腕捲りして気合を漲らせるんじゃないぞ! 俺たちが出撃するととんでもない被害が予想されるんだからな。



「現在攻撃目標の済州島は中華大陸連合の政策で住民たちは全員退去させられて、要塞が建設されているらしい。ここにそんな物騒な物が完成すると日本にとっては脅威になる」


 おや、風向きが変わってきたな。民間人が居ないんだったら妹や美鈴が派手に力を使っても問題にならないんじゃないのか?



「我々がここを占領した後にアメリカと合同で飛行場とミサイル基地を整備する。これが完成すれば黄海の対岸から中華大陸連合の都市を直接狙えることになるな。その結果日本へミサイルを放つとどうなるかという抑止力になるはずだ。先々の日本の安全を考えると重要な作戦になると心しておくんだ」


 なるほどね、ちょっと地図を見て見ようか。へー、済州島って九州よりもずいぶん西側にあるんだな。確かにこれは黄海の対岸といっても差し支えないな。上海までは1000キロとちょっとかな。地図上では東京と大阪くらいの距離だな。北京までは2000キロ以上あるのかな? いずれにしても日本の国内から比べるとずいぶん距離が近いな。



「今回の出撃に参加するのは西川訓練生とさくら訓練生の2人だ。私が直接指揮を執る。他の帰還者は駐屯地でそれぞれの任務に当たってくれ」


「了解しました」


「うほほー! ついに出番が来たよー! 思いっきり暴れるからね!」


 えーと、司令官さん! 本当にそれでいいんですか? この限度を知らない2人の組み合わせっていうのは俺から見れば最悪の人選って思えるのは気のせいですか?



「楢崎訓練生も本来は同行してもらいたかったが、ミサイル迎撃の重要任務があるからな。今回はここに残ってそちらの任務に専念してくれ」


「お言葉ですが司令官、本当にその2人でいいんですか? 美鈴はともかくとしてもう1人は『アホの子』ですよ」


「兄ちゃん、失礼だな! 私はいつでもやればできる子なんだよ!」


「本人が自信ありげだから構わないだろう。出撃は2日後の昼になるから2人は準備をしておけ」


 不安すぎるぞ! 妹が張り切ると俺の過去の経験上碌な事態にならないからな。大成功か大失敗の危険な賭けのように感じるのは俺だけだろうか?


 ともあれ司令官さんの決定には逆らえないからな。俺にできることは今回何もない。唯一出撃する3人の無事を祈るしかない。






 2日後・・・・・・



「それじゃあ兄ちゃん、行ってくるよ! ああそうだ! 私がいない間ポチに稲荷ずしを差し入れてあげてよ! 頼んだからね!」


「聡史君、行ってきます。そうだ! 今回の任務が無事に終わったら何かご褒美がほしいんだけど」


「俺にできることだったら何でもいいぞ」


「本当! これで楽しみができたからチャッチャと片付けて帰ってくるわね」


 2人はそう言い残してチヌークに乗り込んでいく。一旦敦賀まで飛んでそこから船に乗り込むそうだ。詳しい予定はこれ以上は俺も聞いていない。待てよ・・・・・・ 美鈴が言い残したのはもしかしてあの有名なフラグじゃないのか?



『俺、この戦いが無事に終わったらあの子に気持ちを伝えるんだ』


 みたいなやつ・・・・・・ まあ、あの大魔王様に限ってはそんな心配はないか。フラグだろうと何だろうと圧し折ってでも突き進むのが美鈴だからな。それに司令官さんがついていれば問題はないだろう。


 俺は手を振りながら飛び立つチヌークを見送るのだった。








 ヘリの中では・・・・・・



「美鈴ちゃん、なんだか待ちきれないよ! 今回は遠慮なく暴れちゃうよ!」


「さくらちゃん、ちょっとは落ち着いてね。まだ目的地に到着するまで時間があるから、今からそんな調子だと疲れるわよ」


「ふふん、このさくらちゃんには疲れなど無用だからね! ああそうだ、美鈴ちゃんお菓子食べる?」


 さくらちゃんはアイテムボックスからスナック菓子を取り出して食べ始めているわ。輸送ヘリの中で遠足気分でお菓子を食べ始めるなんて・・・・・・ まあさくらちゃんだから仕方がないわね。こんな光景は異世界で嫌という程見てきたから、いまさらどうこう言っても仕方がないもの。



「西川訓練生、緊張とか恐怖を感じていないか?」


「特に感じていません。こんな経験は何度も繰り返していますから」


「そうか、さすがだな。その方が私としても頼もしいから歓迎するぞ」


 司令官の質問に答えたとおりに、今の私の心の中には緊張も不安も存在していない。むしろ自分の中での大魔王としての部分が破壊と殺戮の未来を楽しみにしているわ。隣の席でお菓子を食べているさくらちゃん程ではないけれど、多くの血が流れる光景は大魔王としては歓迎すべき事態なの。




 ヘリが着陸した敦賀港には輸送艦の『ひゅうが』が私たちを待ち受けていたわ。こんな大きな船でたった3人を済州島まで送るの? その他に護衛の船が2艦付き添うらしいし、もしかして私たちはVIP待遇なの?


 そうじゃなかったみたいね。司令官に聞いたら、この船には戦車とか自走砲とかが満載してあって、私たちが敵の基地を殲滅したらすぐに揚陸を開始するそうよ。



 夕方に港を出港して翌々日の明け方には済州島の近海に到着しているわ。寝ぼけ眼のさくらちゃんを司令官が起こして私が着替えさせたの。3人ともダイビング用のドライスーツに身を包んで艦内の下層に集まっているわ。ここはこれから揚陸する戦車の他にホバークラフトや小型の船なども格納されているのよ。初めて見たけどこうして船倉にしまって運ぶようになっているのね。


 ああ、そうか! だから輸送艦なんだ!


 聡史君みたいに兵器とかに詳しい訳じゃないから、ここにあるのは私の目から見ると戦車と大砲にしか見えないんだけど。でも聡史君の部屋においてあったプラモデルと同じ形の戦車よね。確か10式とか聡史君が呼んでいたわね。



 そんなことを考えているうちに私たちが乗り込む小型ボートの準備が整うわ。この船でまだ薄暗い海を突っ切って島に上陸するそうよ。操縦は司令官がするらしいわ。凄いわね、何でもできる人なんだ。


 3人が乗り込んだボートはクレーンで海上にゆっくりと下ろされていく。ここからは誰の援護もアテにできないから、無事に上陸するまでは自分たちで身を守らないとね。司令官は操縦に手を取られているし、さくらちゃんはまだうつらうつらしているから、実質的には私1人が船内の交戦担当ね。


 さあどこからでも掛かってきなさい! 


 と気合を漲らせてみたんだけど、全然攻撃を受ける気配がないまま2時間後にボートは砂浜に乗り上げるようにして私たちは上陸を果たしたのよ。こんなあっさりと上陸を許していいのかしら? 色々と大丈夫なの、中華大陸連合の皆さん?


 周辺は司令官の話のとおりに、住民たちの姿はなくて人っ子1人居ないようね。私たちは一旦空き家に入り込んで休息を取っているわ。だって、さくらちゃんが『お腹が空いた!』って、うるさいんですもの。でもいつ戦闘が開始されるかもしれないから、食べられる時にしっかりと食べておくのも必要よね。



「うほほー! やっとお腹がいっぱいになったよ!」


「西川訓練生、小耳には挟んでいたが、さくら訓練生は普段からこんなに大量の食事を取るのか?」


「はい、見てのとおりです」


 あの冷静な司令官がさくらちゃんの食欲を見てドン引きしているわね。話に聞くのと実際目にするのでは大違いなんでしょうね。



「さあて、敵はどこに居るのかな? いつでもこのさくらちゃんに掛かっていらっしゃい!」


 お腹がいっぱいになったら急に元気になっているわね。まあいつものことだからこのまま放置しておきましょう。



 この場で装備の確認をしてから無人の街に3人で入り込んでいくわ。さくらちゃんはすでに魔力擲弾筒を装着して準備万端ね。司令官も例の小銃を手にしているわ。



「私に先頭を任せなさい! どんな敵でもすぐに発見するよ!」


「いいだろう、さくら訓練生が先頭を進んでくれ。何か発見したらすぐに報告するんだぞ。西川訓練生は私の後ろに続け」


「わかりました」


「報告よりも早くこのさくらちゃんが敵を叩き潰すよ!」


 自信満々の態度でさくらちゃんは先頭を進みだすわね。まあいつものことだからいいでしょう。司令官もその後ろで気配を探っているわね。でもさくらちゃんの野生の勘は本当に鋭いから、司令官でも先を越されるでしょうね。私は索敵のスキルは持っていないから、2人にお任せで後をついていく。



「この先に人の気配がするね! 誰も居ないから気配が掴みやすいよ! どうやら4人一組でパトロールをしているみたいだね!」


「さくら訓練生、任せるぞ」


「よーし、行ってくるよー!」


 さくらちゃんは擲弾筒を構えて1人で先に進んでいくわ。相手が4人くらいなら秒殺して終わりよね。



 バシッ、バシッ、バシッ、バシッ!


 離れた場所から敵弾砲を発射する音が聞こえてくるわね。さくらちゃんの射撃の腕なら全員揃って同じ箇所を吹き飛ばされているんでしょうね。



「パトロールしている敵は全滅したよ! こっちに来て大丈夫だよ!」


 耳に取り付けてあるイヤホンから通信が入ってくるわ。予想通りに簡単に片付けたみたいね。



「さくら訓練生、相変わらず見事な腕だな。この調子で頼んだぞ!」


「ドンと任せていいよ! 敵は全部私が片付けるからね!」


 こうなったらさくらちゃんはもう止まらないわね。マップで確認すると中華大陸連合の最寄の基地まで約2キロかしら。そこまでは全部さくらちゃんにお任せでよさそうね。



 こうして私たち3人はパトロールしている敵の小隊を排除しつつ、大規模な敵の基地に向かって進むのでした。

 

 


 

最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿はたぶん日曜日辺りになると思います。済州島に上陸した3人が大暴れするお話になります。どうぞご期待ください!


徹底的にやってしまう3人の活躍に期待していただける方は。感想、評価、ブックマークをぜひともお寄せください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ