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4 封印された通路

「僕はこう見えても陰陽師だ。僕には構わなくていいから、君たちは自分の身を守ることに専念してくれ。それじゃあ、扉を開くよ」


 少尉さんも実は特殊な能力を持っていたんだ。物腰が柔らかいから実戦部隊に所属しているとは思わなかったよ。


 陰陽師か…… 聞いた事はあるぞ! 呪符とか式神とかを使って妖怪を倒すんだっけ。話し振りからすると腕にもかなり自信があるんだろうな。



 少尉さんが最後の金属扉にカードキーを差し込むと……




 そこは全くの別世界だった。いや、違うな。これは以前に見た景色だ。異世界のダンジョンとよく似ているぞ。



「兄ちゃん、面白くなってきたよ! ダンジョンは血が騒ぐね!」


「さくらちゃん、私にもちょっとは残しておいてね」


 しきりに心配をする少尉さんを向こうに回して、妹と美鈴はヤル気満々だ。逆に俺の方が心配になってくる。この二人は何でこうも好戦的なんだろう。



「この先に何か居るぞ!」


 俺の探知スキルに反応がある。だがその警告を発する前にすでに妹が動き出している。あいつの野生の勘がすでに気配を捉えているのだろう。



「入り口周辺に居るのはたぶん小鬼だね。この結界の内部に出る妖怪の中では一番弱いやつだよ」



 少尉さんの解説にあるように、薄暗い通路の先に立ってこちらを見ているのは確かに小鬼だった。子供のような体付きと頭に1本突き出す角が外見の特徴だ。あっちの世界で言えばゴブリンのようなものかもしれない。



「それじゃあ景気付けに1発行ってみようか!」


 妹が無造作に見える動きで小鬼に近づいていく。異世界に居た頃はゴブリン如きは素通りして相手にもしなかった妹だが、日本に戻って久しぶりに思いっきりぶっ飛ばしても構わない相手に出会たおかげで、その表情は満面の笑みに包まれている。



「それー! ご臨終パーンチ!」


 ゴボッ!


 妹が最後の5歩を急加速したせいで、小鬼は反応が遅れる。そこを見透かしたようにその顔面にオリハリコンに包まれた妹の拳がめり込む。そして小鬼の頭はパンチの衝撃に耐え切れずに爆発するように周囲に飛び散っていく。



「な、なんだと……」


 少尉さんが口を開いて呆然としている。一番弱いとは言っても相手は妖怪だ。それをたった1発のパンチで粉砕する妹の力がどうにも信じられないらしい。だってプチュンと頭が弾けちゃったんだから。



「こ、これは司令官並み、いや、それ以上かもしれない!」


 少尉さんはようやくそれだけの言葉を口から搾り出した。ずいぶん大袈裟な人だな、ゴブリン程度ならあのくらいは当たり前だろうに。



「兄ちゃん、軽く当てただけなのに倒れちゃったよ!」


 妹が俺の所に戻ってくる。せっかく現れた獲物があまりも弱かったせいでガッカリしている様子が、その表情からありありだ。張り切って飛び出したものの、一撃で終わったら物足りないだろうな。



「あのー、少尉さん。あんな小鬼がどうかしたんですか?」


「いやいや、小鬼だからといってバカにはできないんだよ! 鬼族の皮膚は頑丈でね、小銃の銃弾を撥ね返すんだ。それをパンチで一撃とは……」


 ふーん、そうだったんだ! 弱そうに見えたけど銃が効かない相手だったんだね。それをワンパンで倒しちゃったら、少尉さんはビックリだろうな。それも頭が盛大に弾けちゃったし。



「普通ならあの小鬼を相手にして、熟練した陰陽師が二人か、不慣れな者だと五人掛りで退治するものなんだ。それを君たちはだな…… どうやら君たちは相当な経験を積んできた帰還者のようだね」


「あっちの世界ではこのくらい当たり前にできるようじゃないと生きていけませんからね」


「よーくわかったよ! 君たちの力は我々とは何桁も違っているのだろうな。それじゃあもっと奥に案内しようか」


「うほほー! もっと強い敵のいる場所に行くよー!」




 こうして少尉さんの案内で封印エリアの奥に進んでいく。奥に進むにしたがって鬼や大鬼が現れるが、妹の一撃でどれもこれも簡単に吹き飛んでいく。少尉さんの表情は引き攣る一方だ。もしもし、少尉さん! 本当に大丈夫ですか? 主に精神状態とか?


 鬼エリアを抜けると、ぬらりひょん、ろくろ首、からかさお化け、あぶら清まし、ぬりかべ、といったポピュラーな妖怪が姿を見せる。このゾーンは少尉さんは滅多なことでは一人では歩かないそうだ。それだけ危険な場所らしい。



「灰になりなさい! ヘルファイアー!」


 美鈴の魔法が炸裂している。限度いっぱいまで魔力を絞って放った黒い炎は、妖怪たちを悉く真っ白な灰に変えている。これで最低限の威力なのだから、大魔王様の魔法は恐ろしい限りだ。


 もう一言添えるなら、妖怪を倒す時に『ホホホホホ!』と楽しそうに笑ってヘルファイアーを放つのは止めましょうね、美鈴さん! 大魔王の本性が丸出しですから! この光景を何度も見せ付けられた俺なら断言できる! 美鈴には絶対に口答えするべきではないとね。



 さっきから表情が引き攣りっぱなしで、逆に表情がなくなってしまった少尉さんの案内で、今度は土蜘蛛が出てくるエリアに到着する。少尉さんが案内できるのはここまでだそうだ。


 土蜘蛛か…… 聞いたことがあるな。陰陽師ものの小説とかアニメに良く出てくる妖怪だよな。結構強敵として描かれているから、どんなヤツか興味が湧いてくるぞ。



 ズボッ! ズボズボッ! という音がして、周辺の土が盛り上がったと思ったら、土蜘蛛さんが3体現れたよ! 地面に潜っているから土蜘蛛って言うんだな。シラナカッタヨ!



「うほほー! デッカイねー!」


「いくら大きくても、私の魔法に掛かれば一瞬でも立っていられないレベルね!」


 妹と美鈴が1体ずつ相手にするようだ。残る1体は俺に任せるらしい。土蜘蛛の様子を見ていると10本ある足の後ろの4本で体を支えて立ち上がっている。どうやら残りの6本の足で攻撃してくるつもりらしい。立ち上がった土蜘蛛は通路の天井に着くぐらいの5メートルの高さになっている。


 おっと、左右の足が交互に飛んでくるぞ! 俺は体を捻りながら最初の1本を避けて、次の足を手にするスコップで受け止める。



 カキン! という鋭い金属音が響いて土蜘蛛の足の力と俺の腕力が拮抗する。と言っても、大した力は込めていないけどね! それよりも両側から掛かる力に負けてスコップの柄が曲がっちゃったよ! 前言撤回、国防軍の装備担当の人、もう少し装備品の強度を上げてください!



 俺は一旦距離を取って両腕に力を込めてグニャリと曲がったスコップを元に戻す。このままじゃ使い物にならないから、魔力を込めて『硬化、硬化、硬化』と、こんなもんでいいかな? 俺が強引に魔力を流し込んで物質を強化すると、どんな軟弱なスコップでも凶悪な鈍器に早変わりするんだ。



 ちらりと妹の方を見ると、6本の足を圧し折られた土蜘蛛がフルボッコになっている最中だ。あやつは絶対に面白がって、わざと止めを刺さずに楽しんでいるぞ。さっきとは打って変わって大喜びの表情を浮かべているじゃないか!



「この硬さはサンドバッグにちょうど良いねぇ!」


 一撃で仕留めずに、土蜘蛛をパンチの練習代わりに使っている妹の姿の向こう側では、ガチガチと歯を鳴らしている少尉さんの姿が…… 武士の情けだ、ここは見なかったことにしようか。


 

「ホホホホホ!」


 美鈴は燃え尽きる寸前の土蜘蛛を見ながら笑い声を上げている。だから止めなさいってば! 今にその正体がバレるぞ!



 さて、俺も土蜘蛛討伐を再開しようじゃないか! 一歩踏み出してスコップを構えると、土蜘蛛の足がさっきと同じように左右から飛んでくる。



 カキン!


 ありゃ! さっきよりもちょっと力を込めて受け止めようとしたら、なんだか土蜘蛛の足がブラブラしているぞ! 硬化魔法を掛けたスコップは全く無傷だから、ぶつかった力が全部ヤツの足に掛かって、折れてしまったんだな。まったく、これくらいで折れるとは軟弱者めが! まあいいか、それじゃあここから無慈悲なお時間の始まりです!


 今度は自分からスコップを構えて土蜘蛛に突進していく。相手は応戦しようと足を伸ばしてくるが、容赦なくスコップでぶっ叩く。はい、右、左、右、左と!


 これで邪魔な足は残り1本だな。さあ掛かってらっしゃい! もちろん残った足も潰してから、攻撃手段を失った土蜘蛛の胴体に向けてスコップをフルスイング! ホームランを打つ時の無駄のない美しいフォームで、スコップが土蜘蛛の胴体に激突する。



 グワッシャーーーン!


 はい、きれいにバラバラになりました。まるで立体型ジグソーパズルのように体を覆っていた殻が砕けてバラバラになっている。中身がちょっとグロいな。復元はもう不可能だろう。


 丁度その頃には妹のパンチの練習相手を務めていた土蜘蛛も動かなくなっていた。



「まあこんなもんで良いかな」


「兄ちゃん、久しぶりに良い運動ができたよ!」


「魔物を灰にするって本当に楽しいわ!」


 こうして施設見学は終了の時間を迎える。膝がガクガグ音を立てて笑っている少尉さんに俺が肩を貸しながら封印エリアから出ると、窓の外はすでに夕暮れに時間になっている。


 相変わらず一人では立っていられない少尉さんの案内で、再び応接室に通されると、そこには司令官さんが待ち構えていた。少尉さんの役目はここまでらしくて、そのままヨタヨタした足取りでどこかへ消えていく。お役目ご苦労様でした、色々とご迷惑と心労をお掛けしました。今日はどうかゆっくり休んでください。



「早速施設見学に応じてくれて感謝する。それで、三人の感想を聞こうじゃないか」


「すごく楽しかったよ! 今度はもっと奥まで行ってみるよ!」


「魔法のレベル維持にはちょうど良い施設だったわね」


 司令官さんのフリに妹と美鈴が答える。どうやら掴みはオーケーと判断した司令官さんは俺に視線を向ける。



「二人とも気に入ったみたいなので、こちらにお世話になります」


「そうかそうか! その言葉を待っていたよ。これで私の負担が大幅に減るな。今日はもう時間も遅いから泊まっていけ。部屋は用意してある。それからこの書類は入隊届けだ。親御さんの承諾を得た上で、この書類に必要事項を記入して提出してくれ。正式な入隊は1週間後とする」


「はい、わかりました」


 なんだかうまく釣られたような気もするが、とにかくこうして俺たちの特殊能力部隊入隊が決まった瞬間だった。



最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回はいよいよ3人が国防軍に入隊します。危ない性格の妹や、もっと危ない性格の大魔王様がここから色々な騒動を巻き起こしていきます。どうぞお楽しみに!

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[一言] 給料どれ程貰えるか気にならないくらい、異世界から貴重な諸々を持ち帰っているのかな?入社する場合、将来性と初任給気になるでしょうに。
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