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39 守りたいもの

新たなミサイルに対応する主人公たちにトラブルの予感が・・・・・・

 昼過ぎに弾道ミサイルの第2射発射が報告されて俺は急いで対空魔力砲が設置してある場所に向かうと、そこにはすでに司令官さんが待っていた。



「楢崎訓練生、今度のミサイルは核弾頭を搭載している可能性が高い。最初は空撃ちをしておいて日本の防空ミサイルを消費させてから本命を撃ち込むのが有効なことくらいは相手も考え付くだろう。したがって今回貴官に課せられた任務は非常に重要だと心してくれ」


「了解しました」


 とは言ったものの核ミサイルだって! これは丸っきりシャレにならないよな。そんな物が日本のどこかに落ちてしまったら、大変な被害どころでは済まなくなるぞ。責任がズッシリと俺の両肩に圧し掛かったようなプレッシャーを感じる。でも対空魔力砲は俺が持っているアホみたいな量の魔力じゃないと発射できないんだよな。



「敵ミサイルの軌道が判明しました。半数は札幌に向かっていて、残りの半数が目指すのは東京です! 札幌には20分後、東京には40分後に到達します!」


 ますます大変だぞ! 特に東京なんかに着弾したらとんでもない規模の被害が出てしまう。俺の周囲に集まっている魔力砲の技術者たちはモニターを見つめるオペレーターの報告に凍り付いているよ。表情を変えないのは司令官さんだけだ。この人は指揮官が動揺する様子を見せてはならないと、骨の髄までわかっているんだろうな。



「秋田沖とオホーツク海に展開しているイージス艦がSU-3を全弾発射しました」


「千歳のイージスアショアもSU-3を発射しました」


 迎撃のためにスタンダードミサイルが発射される。俺は心の中で『当たってくれ!』と真剣に祈っている。周囲の人たちも多分俺と同じ心境だろうな。



「札幌に向かう10基のミサイルのうち4基の消滅を確認! 6基はいまだ健在! どうやらロシアが開発していた新型ミサイルのようです」


 ロシアはアメリカと並ぶ核ミサイル大国だ。一時は両国の間で中距離弾道ミサイルの開発を制限する条約が結ばれていたが、その間にも密かに開発を進めているとささやかれていた。その新型ミサイルを中華大陸連合に奪われて、撃ち込まれる先が日本とはとんでもない迷惑な話だ! ロシアよ、謝れ! 日本に土下座して謝れ!



「楢崎訓練生、準備を開始してくれ」


「了解しました」


 司令官さんの指示に我に帰って、俺は対空魔力砲の操作席に座る。弾道ミサイルを迎撃するタイミングはほんの短い時間しかないから失敗は絶対に許されないぞ。



「照準設定開始」


 オペレーターさんがパソコンの操作を開始すると、車両に載せられた砲身がゆっくりと右回りに回頭して角度を調整する。俺の正面にあるモニターには成層圏で落下を開始した弾道ミサイルの軌道が赤い線で示されている。



「20秒後に発射します。カウントダウン開始!」


 オペレーターさんの声に合わせてモニターに20の数字が表示されて、19,18,17と1つずつ減っていく。エンターキーの上に置いている俺の人差し指が微かに震えているよ。こんな重圧はさすがに異世界でも経験した記憶がないからな。



「4,3,2,1、発射!」


 俺はタイミングだけに集中してキーを押す。大丈夫だ、試験で発射した時と同様に上手くタイミングを合わせたぞ。



 ゴゴゴゴゴーーーー! キーーン!


 砲身から巨大な魔力弾が飛び出していく。大気をプラズマに変える光の帯を引きながら一直線に上昇していくよ。



「第2射、発射準備!」


 おっと、見とれている場合じゃなかったな。まだミサイルがたくさん残っているんだった。俺はバッテリーに魔力をチャージして次の発射に備える。



「初弾命中! 弾道ミサイル消滅を確認しました」


 別のオペレーターさんが報告の声を上げる。良かったよ! 無事に命中したんだな。1発目が成功したのでちょっと肩の力が抜けてきたぞ。相当緊張していたんだな。



「第2射、発射20秒前!」


 今度はさっきよりも余裕を持ってカウントダウンを待っていられるな。3,2,1、それっ!



 ゴゴゴゴゴゴーーー! キーーン!


 同じように魔力弾が砲身から飛び出していく。それにしても我ながらとんでもない威力だと思うよ。あんな魔力弾が直撃したら都市が1つ完全に消えてなくなるだろうな。でも残念ながら魔力弾は普通の砲弾のように大砲から撃ち出す攻撃兵器には使えないんだよな。


 司令官さんが持っている小銃や妹の魔力擲弾筒のように射程が短かったら使用可能だけど、魔力は重力の影響を殆ど受けないで真っ直ぐに進むから、地表を攻撃するには高い場所から撃ち下ろさないとダメなんだ。だから俺の魔力を使用した武装は今のところこのミサイル迎撃用の対空魔力砲に限定されている。将来は何か別の物が開発されるかもしれないけど。



「命中を確認! 第3射の準備開始!」


 とまあこんな感じで札幌に向かって大気圏外から落下してくる弾道ミサイルは全て撃ち落すことに成功した。残るは東京に向かって飛んでいるミサイルだけど、残りは何発あるんだろう?



「各駐屯地から発射されたSU-3が5発のミサイルを迎撃しました! 残存数は5発です!」


 レーダー担当のオペレーターさんが報告をしてくる。あと5発か、まだ気を緩められないな。



「90秒後に発射します。照準調整終了!」


 砲身はさっきよりも少し東の方向を向いている。撃ち落しやすいポイントになるまでちょっとの間待機時間が生じる。気付かないうちに口の中が乾き切っていたから、ペットボトルの飲み物を口に含んで俺はモニターを見つめる。



 3,2,1、発射!


 これも上手くいったぞ。この調子なら全部撃ち落せそうだな・・・・・・



 だがここで魔力砲に異変が発生する。



「左側砲身にクラック発生を確認! 使用不能です!」


 魔力砲はレールガンに使用していた砲身を2門搭載して一度に2発の魔力弾を発射していた。1発よりも2発の方が命中確率が高いから当然だろう。だが、そのうちの片側の砲身にヒビが入って使用不能になってしまった。電磁力に耐えられるように特殊な加工がしてある砲身でも、俺の魔力の圧力に対して耐え切れなかったらしい。



「右側だけで迎撃を行え!」


 司令官さんの指示で右側のバッテリーだけに魔力を注入して、片側の砲身だけで魔力弾を発射する。まさかここまで耐久寿命が短いとは想定していなかった技術者たちが慌てている。



「3,2,1、発射!」


 今まで2発で撃ち出していたのが急に1発になってなんとも頼りない気持ちがしてくる。だが、何とか命中してくれた。残りは4発!



「3,2,1、発射!」


 当たってくれと祈るような気持ちで魔力弾が飛び去った宙を見つめる。だが今度は無情にも外してしまった。照準担当のオペレーターさんの額に汗が滲んでいる。



「もう一度照準をつけろ!」


 司令官さんの命令で気を取り直してもう一度試みる。だがこれも外してしまう。更に最悪なことに・・・・・・



「右側砲身にクラック発生! 使用不能です!」


「クソッ! なんてこった!」


 俺は自分のコブシを膝に叩き付ける。あと一息なのにこれ以上何もできないなんて・・・・・・


 


 操作用のシートを飛び出した俺はその場から離れた位置に立って空に向けて魔力をまとった拳を撃ち出す。どこを飛んでいるかもわからないミサイルに向かって、ただただ『当たれ、当たってくれ!』という思いだけで無心に拳を撃ち出していく。



「当たってくれ! 俺にも守りたい物がたくさんあるんだ!」


 いつの間にか俺は空に向かって叫んでいた。そして立て続けに拳を振るう、魔力弾は砲身から飛び出したのとは比較にならない程ゆっくりとした速度で大空に向かって飛んでいく。こんな方法でミサイルを迎撃できるとは俺自身も思っていない。でも何かしないと奇跡は起こらないんだ。待っているだけじゃダメなんだ!


 必死の形相で空に向かって拳を撃ち出している俺の肩を叩く者がいる。邪魔するな! と思いながら振り返ると、そこには呆れた表情の美鈴が立っている。



「聡史君、もうちょっと頭を冷やしてちょうだい。こんな方法でミサイルが撃ち落せるんだったら誰も苦労はしないわ。私にプランがあるから聞いてほしいの」


「方法があるのか?」


「ええ、でも聡史君にとってはかなり危険よ」


「何でもいい! 早く教えてくれ」


「まずはみんながいる所に戻りましょう。まだ10分くらい余裕があるから」


 俺は美鈴に伴われて対空魔力砲が設置されている場所に向かう。そこにいる面々はさすがに俯きがちな表情をしている。あの司令官さんでさえ顔が曇っているのだった。この人でもこんな姿を見せるのかというちょっとした驚きを感じている。



「指令、PAK-3の迎撃成功率はどのくらいになりますか?」


「西川訓練生、言い難い話だが75パーセントだ。しかも新型の弾道ミサイルが相手となるともっと下がるだろうな」


「50パーセント以下と考えて間違いないですか?」


「その通りだろうな」


「私から1つ提案があります。魔力を用いて成層圏に核爆弾に匹敵する威力の物体を打ち上げようと思います。半径400キロを破壊し尽くすような大変危険な代物です」


「そんな物があるのか?」


「まだありませんが、今から作ります」


「間に合いそうか?」


「ギリギリで何とか」


「わかった、やってくれ」


「了解しました。フィオとさくらちゃんはこっちに集まってくれるかしら」


 美鈴は俺たち4人を集めてからアイテムボックスから何かを取り出す。青く輝く魔石のようだな。それもSランクの魔物の体から取り出した直径が30センチくらいあるやつだ。



「この魔石に術式を掛けて空に撃ち出すのよ。こんな感じかしら」


 美鈴が魔石を一撫ですると手を離しても宙にプカプカと浮いている。



「重力魔法でこの魔石は無重力状態にしているのよ。あとは上下の概念を仕込めば準備は完了するわ」


「上下の概念?」


「そうよ、下方向に爆発すると地上に被害が出るから、必ず上と横に破裂するようにしておくの」


 あまりに難しいことを言い出す美鈴に俺はまったくついていけない。フィオだけは美鈴が何をしたいのかわかっているようだ。妹は俺同様にポカンとしている。こやつには余り頭を使わせるべきではないだろう。



「さて、これで準備はできたわ。あとは聡史君がこの魔石に暴走した魔力を流し込んでくれればオーケーよ」


「魔力を流せばいいのか?」


「よく聞いてね。暴走した魔力が必要なのよ。魔力を流し込んで魔石の内部で暴走を引き起こすと、内部に魔力分布のムラができてしまうのよ」


「つまり俺の体の中で魔力の暴走を引き起こして、それを流し込めというわけか?」


「その通りよ、とっても危険だけど聡史君なら可能なはずよ」


「わかったぞ。すぐに準備するから少し離れてくれ」


 体内で魔力を暴走させるのは本当に危険な行為だ。あの中華大陸連合の帰還者セカンドや土蜘蛛が俺に魔力を流し込まれてどうなったかを考えてほしい。それでも敢えて美鈴が俺にやらせようとしているのは、そうする必要があるからだろう。


 俺は体内の魔力を両腕に集めていく。急激に狭い場所に集められた魔力は圧縮されていく。そこに更に大量の魔力を送り込んでやると、魔力が急激な振動を開始し始める。暴走の初期の段階だ。更に魔力を送り込むと両腕が痙攣を起こしてくる。


 いかん! 腕の動脈が千切れそうだ。ブルブルと震えて自分の腕という感覚を失っている。それでも何とか腕を引き上げて、俺は魔石に暴走した魔力を流し込んでいく。体内の魔力の圧力で暴走した魔力を外に押し出していくが、血管を通して微量の暴走魔力が体内に広がっていく。


「ゲホッ!」


 口の中に鉄の味が広がったと思ったら、俺は大量の血を吐き出している。体中が激痛で悲鳴を上げているが、ミサイルを撃ち落すにはこの方法しかないという意志の力で痛みを捻じ伏せてみせるさ。


 だがもう膝がガクガクして立っていられないぞ。視界もなんだかボヤけてきたな。もうだいぶ魔石に魔力を流し込んだだろうとは思うが自信はない。感覚がない両腕にはほんの少しだけ暴走した魔力が残っているみたいだけど、もういいんじゃないかな?


 ヤバい! もう体に力が入らない・・・・・・ 俺は目を閉じてその場にゆっくりと崩れていく。



「兄ちゃん! しっかりして!」


「さくらちゃん、まずはこの魔石を上空300キロに打ち上げるのが先よ! 聡史君の気持ちを無駄にしないで!」


「美鈴ちゃん、分かったよ! それでどうすればいいの?」


「私たち3人でこの魔石を取り囲むようにして手を繋いで」


「私にもお手伝いさせてください!」


「まあ! そうね、打ち上げで使う魔力は多い方がいいからアイシャも加わって!」


「美鈴に魔力を集めればいいのね。私がサポートするわ!」


「フィオ、お願いね。それじゃあ魔力を流して!」


 手を繋いだ4人の輪に魔力が流れ始める。4人の魔力が循環して次第に美鈴の体内に吸収されていく。



「行くわよ! 天空の彼方まで飛んでいきなさい!」


「いっけー!」


「お願いよ!」


「どうかミサイルを!」


 4人の魔力によって無重力状態の魔石は弾かれたような勢いで大空に向かって上昇していく。









 そして5分後・・・・・・



 空にもう1つの太陽が発生して、一瞬の光を放って消え去る。



「ミサイル全弾消失を確認しました」


 レーダーオペレーターのその声を朦朧とした状態で聞いた瞬間、俺は意識を失うのだった。



意識を失った主人公は果たして無事なのか・・・・・・


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